通りすがりの男爵様 〜少年の夜戦会議〜
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
食後の片付けを終え、一行は夜空の下でコーヒー(ポンタはエリスに強制されたホットミルク)を飲んでくつろいでいた。
満天の星空が広がり、焚き火の爆ぜる音が心地よい。
話題は自然と、昼間の「盗賊戦」のことになった。
「それにしても、ポンタさんが一人で盗賊団を壊滅させるなんて……。私たち、事後処理で縛られてる彼らを見て本当に驚きました」
エリスがホッとしたように胸を撫で下ろす。
彼女たちは戦闘を見ていない。銃声を聞いて駆けつけたら、既に全員が伸びていたのだ。
「ああ。こいつのテストも兼ねてな」
ポンタは手のひらに魔力を集中させて『SOCOM Mk23』を取り出し、テーブルに置いた。
ルルが即座に身を乗り出す。
「へぇ〜! これが師匠の新しい武器? ダルマの時のガトリングとは全然違うね。……ふむふむ、今までとベースは一緒だね?魔力を爆発させて利用して、この小さな筒から魔弾を飛ばすの?」
「ああ。威力はガトリングに劣るが、取り回しと静音性は段違いだ。……ま、俺が一番得意な獲物だな」
「主殿の体術も見事でしたぞ」
ヒルデが感嘆の声を上げる。
「倒れていた盗賊たちの痕跡を見ましたが、全員が一撃で急所を突かれておりました。あれほどの『柔』の体術(CQC)、我が国の騎士団でも使い手はおらぬでしょう」
「ま、護身術みたいなもんだよ」
ポンタが謙遜すると、ふとミリーナが首を傾げた。
「でもぉ、ポンタ様。今回はお一人で大丈夫でしたけど、もしもっと強い敵が出たらどうするんですかぁ? 今回はマリーとシルフィはお留守番ですし……」
ミリーナは精霊術師として、契約精霊である二人がいない状態での戦力低下を心配しているようだ。
その疑問に答えたのは、エリスの杖からひょっこりと現れたユーグだった。
『チッチッチッ。甘いよミリーナちゃん。君と彼女たちの契約は、距離なんかじゃ切れないのさ』
「わっ、ユーグ様!」
『基本的に、召喚しなくても魔力のパスは繋がっているんだ。だから、ミリーナがその気になれば、遠距離からでも彼女たちの力を借りて「精霊魔法の矢」くらいなら撃てるよ』
「へぇ〜、そうなんですか!」
ユーグが得意げに解説を続ける。
『ただし、アルメニア攻防戦の時みたいな「災害クラスの大魔法」を使いたい時は、やっぱり「召喚」が必要だね。でも、それには時間と集中力が必要だから、咄嗟の戦闘には向かない。あくまで「準備万端で撃つ大砲」って感じかな』
「なるほど……。じゃあ、いざという時の最大火力はポンタ様とエリス様頼みですね?」
ミリーナの言葉に、ポンタが頷く。
「そうだな。俺が『アヴェンジャー(ガトリング)』や『パイルバンカー』を使うには、エリスのコネクター能力で『異次元からあのダルマ』を召喚し、それに乗り込む必要がある」
「はい! 私も、いつでもお繋ぎできるように準備しています!」
エリスが拳を握る。
「でも、それも時間がかかるから……急な襲撃には、やっぱり通常戦力での対応がメインになるな」
すると、ルルがニカッと笑って、立ち上がった。
「それなら任せてよ! 私も新しいスキル、使えるようになったんだから!」
ルルが両手を広げると、その背後の空間が歪み、ガシャガシャと重厚な金属音が鳴り響く。
次の瞬間、彼女の両肩越しに浮遊する、二つの巨大なオリハルコン鋼の腕が出現した。
ユニークスキル『機工の真髄』――【ゴーレムハンド】
「おおっ! ルル、訓練の時のアレか?」
「へへっそうだよー、アルメニア防衛戦では中距離からのサポートで手一杯で使う機会がなかったんだよね。これなら私の意思で自由に動かせるし、パンチで岩だって砕けるよ! もちろん防御にも使えるし!」
ルルが得意げにオリハルコン鋼の指をワキワキと動かしてみせる。
さらに彼女は、腰から無骨な発射機を取り出した。
「それに、この『錬金グレネードランチャー』もあるしね! 爆発、氷結、粘着……色んな弾を作っておいたから、後方支援はバッチリだよ!」
「頼もしいな。ルルがいれば中距離は安心だ」
ポンタが感心すると、ヒルデも胸を張った。
「うむ。近接戦闘ならば我に任せよ。【震脚】で敵陣を崩し、中距離ならば【土槍】で串刺しにする。主殿のと姫様の盾役は、このヒルデが務めてみせよう」
頼もしい仲間たち。
それぞれの能力を確認し合い、ポンタは満足げにホットミルクを飲み干した。
「(ソフィア、戦力評価はどうだ?)」
『分析完了。高火力魔法のミリーナ様、重兵器運用の鍵となるエリス様、物理・テクニカル支援のルル様、鉄壁のタンクであるヒルデ様。そして遊撃・隠密行動のマスター。……バランスの取れた、非常に優秀なパーティ構成と判断します』
「よし。これなら王都で何が起きても対応できそうだな」
◇ ◇ ◇
夜も更け、そろそろ就寝の時間となった。
迷彩柄の巨大なコンテナ――『野営用多目的居住モジュール(タクティカル・テント)』。
外見は無骨な軍用テントだが、中に入ればその真価が分かる。
内部は空間拡張されており、空調完備のリビングに加え、フカフカのコット(簡易ベッド)や簡易シャワーブースまで備え付けられているのだ。
「まずは旅の汚れを落としましょうか。……《洗浄》」
エリスが魔法を唱えると、心地よい風が体を包み込み、服や肌についた砂埃や汗が一瞬で消え去った。
女性陣から、ふわっと石鹸のような良い香りが漂う。
「さて、ポンタさんは私がしっかりお拭きしますね」
エリスが手ぬぐいを手に、ニコニコと近づいてくる。
かつてダルマボディを磨いていた名残で、彼女にとってポンタの世話を焼くのは変わらず至福の時間のようだ。
「ちょ、待てエリス! 自分で拭けるって!」
「ダメです! メンテナンスは重要なんですから。サビ……じゃなくて、汚れをしっかり落とさないと!」
「俺はもう金属じゃないんだぞ!? それに、男の体をまじまじと見るな!」
ジリジリと後ずさるポンタだが、エリスは聖母のような慈愛に満ちた(そして少し興奮した)瞳で逃さない。
「何を言ってるんですか。ポンタさんの体の構造なら、ネジの一本まで把握していますよ?」
「それはダルマの時の話だろ! 今の俺は生身の……うわっ!?」
抵抗も虚しく、ポンタはエリスに捕獲された。
温かい手ぬぐいが、背中を優しく撫でる。
「んふふ、やっぱりスベスベですねぇ……。金属の冷たい感触も好きでしたけど、この温かい肌も……磨き甲斐があります♡」
「み、磨くな! 拭くだけにしてくれ! ……くっ、前はやめろ!自分で出来る」
エリスの手つきは、まさに熟練の職人。
恥ずかしさで爆発しそうなポンタとは対照的に、エリスは恍惚の表情で「メンテナンス」に没頭していた。
一通りの世話が終わると、いよいよ就寝タイムだ。
「それでは……ポンタさん。一緒のテントで寝ましょうか」
「……は? いや、俺は外で寝袋で……」
「ダメです。夜は冷えますし、ポンタさんは子供なんですから風邪を引いたら大変です」
「主殿、我も警護のために同室を希望する。……というか、あのテントのベッド以外ではもう眠れぬ体になってしまった」
ヒルデが真顔で言う。どうやらタクティカルコットの寝心地に堕ちてしまったらしい。
「うふふ、今日は私がポンタさんの隣ですぅ!」
「うむ! では我は反対側に!」
抵抗する間もなく、ポンタはテントの中へと連行された。
広々とした空間のはずなのに、なぜかベッドをくっつけて並べるという謎の陣形が敷かれる。
中央にポンタ。
右にエリス、左にヒルデ。足元にはルルとミリーナ。
完全なる包囲網だ。
「おやすみなさい、ポンタさん」
「……おやすみ」
灯りを消すと、すぐに寝息が聞こえ始めた。
だが、ポンタだけは目をパッチリと開けていた。
「(……暑い。空調は完璧なはずなのに、なんでこんなに暑いんだ)」
右からはエリスの柔らかい感触と甘い匂い。左からはヒルデの健康的な体温。
寝返りを打つことも許されない。
ダルマの時は気にならなかった「異性」という存在が、人間の体になったことでダイレクトに脳を刺激する。
「(快適なはずのハイテクテントが、一番の試練の場になるとはな……)」
ポンタが心の中で悲鳴を上げていると、脳内でソフィアの冷静な声が響いた。
『警告。マスターの心拍数、および体温が異常上昇中。交感神経が興奮状態にあります。敵襲の可能性を排除できません』
「(違うわ! 分かってるくせに言うな!)」
『推奨。速やかなる入眠のため、ダルマ形態時に使用していた「強制スリープモード」の実行を……あ、失礼。現在の人体構造では「気絶」しか選択肢がありません』
「(物理的に殴って寝かせようとすんな!)」
AIなりのブラックジョークなのか、それとも本気なのか。
天井を見上げながら、ポンタは長い長い夜を過ごすことになった。
王都到着まで、あと数日。
彼の理性が持つかどうか、それが最大の懸念事項であった。
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