少年ポンタの星空レストラン
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
盗賊団を護衛隊に引き渡した後、ポンタたちを乗せた馬車はさらに街道を進み、日が傾きかけた頃に眺めの良い平原で停止した。
今日の宿営地だ。
「ふぅ……。そろそろ日も暮れるな。野営の準備をするか」
馬車から降りたポンタが背伸びをする。
空は茜色に染まり、夜の帳が降りようとしていた。
通常、冒険者の野営といえば、石を並べてかまどを作り、薪を拾い、硬い地面に寝袋を敷く……という重労働が待っている。
だが、ポンタがいるパーティにおいて、その常識は通用しない。
「よし、少し離れててくれ。……展開!」
ポンタが何もない空間に向けて右手をかざし、スキルを発動する。
戦術野営キット(タクティカル・キャンプセット)!
ボンッ!
小気味よい音と共に白煙が上がり、それが晴れると――そこには、異世界には似つかわしくない「高度な文明の利器」が一瞬にして展開されていた。
OD色の迷彩柄が施された、巨大なドーム型テント。
その周囲には、軽量合金のフレームで組まれた折りたたみ式のチェアとテーブル。
そして、四隅には青白い光を放つポール型の照明器具が設置されている。
「な、なんと……! 一瞬で砦が築かれるとは……!」
初めてこれを見るヒルデが、目を丸くして絶句している。
無理もない。彼女にとって野営とは、泥臭く過酷な軍事行動の一環だったはずだ。それが一瞬で、王侯貴族の別荘のような空間が出現したのだから。
「ふふっ、凄いでしょ? ポンタさんの魔法にかかれば、お家なんて一瞬なんですよ」
エリスがいつものように、我が事のようにドヤ顔を決めている。
その鼻高々な表情が愛らしい。
「この布、いつ見てもすごい! 軽くて丈夫で、水も弾くし! ねえ師匠、これ帝国の技術より進んでるんじゃない?」
ルルがテントの生地をペタペタと触りながら興奮している。
「はぁ〜、極楽ですぅ〜! この椅子、お尻が沈み込んで包まれるみたい……。一度ポンタ様の野営を知ってしまったら、もう普通の野営には戻れませんねぇ」
ミリーナは慣れた様子で早々にタクティカルチェアに沈み込み、ダメ人間になりかけていた。
「よし、ヒルデも座ってくれ。飯の準備に取り掛かる」
「は、はい! ……む、おおっ? こ、これは……なんと快適な……」
恐る恐る椅子に座ったヒルデも、その座り心地の虜になったようだ。
◇ ◇ ◇
居住スペースが確保されたところで、ルルが興味津々といった様子で照明器具に近づいた。
「ねえ師匠! この明かり、魔石が入ってないのにどうして光ってるの!? 熱くもないし、不思議!」
「ああ、そいつは『LEDランタン』だ。魔力じゃなくて『電池』っていう科学の力で光ってるんだ」
「デンチ……? 科学……? うーん、師匠の道具は謎だらけだなぁ」
ルルが首を傾げている間に、ポンタは調理器具を展開する。
ツーバーナーコンロの栓を捻り、点火スイッチを押す。
カチッ、ボッ。
青い炎が勢いよく立ち上がった。
それを見たルルが、感慨深く呟く。
「いつ見ても不思議。詠唱なしで火がついて、しかも、ずっと同じ火力を維持してる……! これ、魔導コンロより凄いよね」
「ガスを燃料にしてるからな。火力調整も自由自在だ」
ポンタは苦笑しながら、コンロの上に厚手の鉄板をセットした。
そして、アイテムボックスから先ほどの森で(ついでに)仕留めておいた獲物を取り出した。
ドサッ!
テーブルの上に置かれたのは、巨大な猪――オークボアのロース肉だ。
脂が乗っており、見るからに美味そうだ。
「今日のメインディッシュはこいつだ。……やっぱり、野営といったらステーキだよな」
その時だった。
『グゥゥ〜〜〜ッ……。』
静かな平原に、間抜けな音が盛大に響き渡った。
音の出処は、ポンタの腹だ。
「あっ……」
「ふふっ、ポンタさん、お腹ペコペコなんですね」
「可愛い〜! やっぱり育ち盛りなんだね、師匠!」
女性陣が一斉にクスクスと笑う。
ポンタは顔を真っ赤にして腹を押さえた。
「(……ダルマの時は『エネルギー残量低下』の警告表示が出るだけだった。空腹という感覚すら希薄だったのに……)」
腹が減って力が出ない。唾液が溢れて止まらない。
この生物として当たり前の生理現象すら、今のポンタには新鮮で、どこか嬉しかった。
俺は今、生きているのだと実感できるからだ。
「わ、笑うな! 今すぐ焼いてやるから待ってろ!」
ポンタは照れ隠しのように、手際よく肉を分厚く切り分けていく。
岩塩を振る。ブラックペッパーをまぶす。
そして、薄くスライスしたニンニクチップを用意する。
鉄板が十分に熱せられ、白い煙が立ち上ったところで――牛脂を塗りたくり、肉を投入する。
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
暴力的なまでの焼き音が響き渡った。
同時に、脂の焼ける香ばしい匂いと、ニンニクの食欲をそそる香りが爆発的に広がる。
「んん〜っ! い、いい匂い……!」
「これは……反則ですぞ……! 我慢できん!」
エリスとヒルデが喉を鳴らす。
ポンタは真剣な眼差しで肉を見つめる。表面はカリッと、中はジューシーに。
頃合いを見てひっくり返す。
ジュワァァァッ!!
完璧な焼き色(メイラード反応)。
仕上げに醤油をひと回しし、バターをひとかけら落とす。
醤油の焦げる香りが鼻孔を直撃し、視覚、聴覚、嗅覚の全てを蹂躙する。
「完成だ! ……っと、その前に」
ポンタはアイテムボックスから、黒い液体の入った瓶を数本取り出した。
よく冷えており、表面に水滴がついている。
「肉にはやっぱりこいつが必要だろ」
「なんですかこれ? 真っ黒ですけど……毒薬?」
「失礼な。とっておきの炭酸ジュース、その名も『コーラ』だ」
ポンタが栓を抜くと、プシュッという軽快な音がした。
グラスに注ぐと、シュワシュワと黒い泡が立つ。
「さあ、まずは乾杯だ。王都への旅の無事を祈って!」
「「「かんぱーい!」」」
全員でグラスを合わせ、未知の黒い飲み物を口にする。
「んっ!? 舌がパチパチします!」
「甘い……けど、なんか薬草みたいな香りがして……これ、癖になる味だね!」
「シュワシュワして喉越しが最高ですぅ〜!」
初めての炭酸に驚きつつも、好評のようだ。
喉を潤したところで、いよいよ本番だ。
LEDランタンの明るい光の下、ハイテクテーブルに並べられた極上のステーキ。
付け合わせは、アルミホイルで包んで炭火に放り込んでおいたホクホクのジャガバターだ。
「「「いただきまーす!」」」
女性陣の声が重なる。
そして、ポンタもまた、自分の顔ほどもある巨大な肉塊にフォークを突き立てた。
「(……ダルマの時は、味も匂いも感じることはなかった。だが今は……)」
大きく口を開け、ガブリとかぶりつく。
「…………ッ!!」
カリッとした表面の食感。
そこから溢れ出す、熱々の肉汁。
噛み締めるたびに広がる、オークボア特有の野性味溢れる旨味と脂の甘み。
ニンニク醤油のパンチと、バターのコクが渾然一体となって舌の上で踊る。
「う、うめぇ……! マジでうめぇぇぇ!!」
ポンタの目から、自然と涙が滲んだ。
生きている。俺は今、生きている。
ただ肉を食う。それだけの行為が、これほどまでに魂を震わせるとは。
「んん〜っ! お肉、柔らかいですぅ! 噛むと脂が甘くて……最高です!」
エリスが幸せそうに頬を押さえる。
「野営飯といえば干し肉と固いパンが相場ですが……これは王宮料理に匹敵しますぞ。主殿、貴方は天才か!」
ヒルデも豪快に肉を頬張り、コーラをあおる。
「師匠、このお芋も美味しい! 皮がパリパリで中がトロトロ!」
「はふはふ……幸せですぅ……。こんな贅沢、バチが当たりそうですぅ」
仲間たちの笑顔と、焚き火の温かさ。
そして何より、腹の底から湧き上がる「満腹感」という幸福。
ポンタは夢中で肉を平らげ、冷えたコーラで流し込んだ。
ゲフッ、と小さくげっぷが出る。それすらも愛おしい。
少年の姿をした元・ダルマは、人間としての「生」を、胃袋で噛み締めていた。
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