王都ゼリアへの道 〜過保護なハーレム馬車〜
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
アルメニアの街を出発してから数時間。
ギデオンとゴルドー商会が手配してくれた「最上級貴族用馬車」は、滑るように街道を南下していた。
外見こそ目立たないようにシックな黒塗りだが、内部は驚くほど広い。
座席には最高級の魔獣の革が使われ、魔導サスペンションが路面の凹凸を完全に吸収する。その乗り心地は、まるで高級ホテルのラウンジにいるかのようだ。
だが、その極上の快適空間で、ポンタは冷や汗を流していた。
「ポンタさん、クッションの位置は大丈夫ですか? 腰、痛くないですか?」
「主殿、果実水をどうぞ。よく冷えておりますぞ」
「あ、師匠! ちょっとこっち向いて! 今のアンニュイな表情、すっごく可愛い!」
問題は、座席の配置にあった。
向かい側には、楽しそうにスケッチブックを広げるルルと、地図を確認しているミリーナ。
そしてこちらの座席は、中央にポンタ(少年)。その右をエリス、左をヒルデがガッチリとガードする、いわゆる「サンドイッチ状態」となっていた。
「(おいソフィア。これ、どうにかならんのか? 物理的に狭すぎるんだが)」
ポンタは現実逃避するように、脳内の相棒に助けを求めた。
即座に、冷徹かつ機械的な女性の声が脳裏に響く。
『回答:不可能です。現在、マスターは左右からSランク相当の物理的圧力によって固定されています。脱出成功率は0・02%以下。推奨される行動は――』
「(推奨される行動は?)」
『抵抗を放棄し、女性特有の軟部組織の感触を享受すること。なお、マスターの心拍数は平常時より20%上昇中。記録します』
「(余計なログを取るな! 楽しんでるだろお前!)」
人間の、しかも12歳ほどの少年の体になった今、ダルマ時代のような「指定席(膝の上)」という言い訳は通用しない。
待ち受けていたのは、左右から二人の美女に密着されるという、男にとっては天国、あるいは拷問のような状況だった。
馬車が揺れるたびに、エリスの柔らかな肩や、ヒルデの引き締まった太腿が触れる。
鼻孔をくすぐる甘い香りに、ポンタは身を硬くして石になるしかなかった。
「……なぁ、俺は子供扱いされるのが一番嫌なんだが。もう少し離れて座れないか?」
「あら? でもポンタさん、今は育ち盛りですから。馬車の揺れで転んだら大変です」
エリスが聖母のような微笑みで、ポンタの口元に剥いた果実を差し出す。
「あーん」の構えだ。
「ほら、お口を開けてください」
「……自分で食える」
「ダメです。手が汚れちゃいますから」
断固として譲らないエリスの押しに負け、ポンタは渋々果実を口に含む。
甘酸っぱい果汁が広がるが、それ以上に顔が熱い。
その時、エリスの傍らに立てかけてあった『聖樹の枝杖』の青い宝石が、チカチカと意地悪く明滅した。
『おやおや。かつての最強のダルマも、随分と可愛らしい扱いになったものだねぇ』
杖から直接響く、からかうような少年の声。精霊のユーグだ。
「……ユーグ、起きてたのか」
『起きてたとも。特等席で面白い見世物が見られそうだったからね。どうだいポンタ? エリスの手ずから果物を食べさせてもらう味は』
「うっさい。黙ってないと杖ごと窓から投げるぞ」
『怖い怖い。嫉妬深い男はモテないよ?』
ケラケラと笑うユーグの声に、ポンタはこめかみをピキりとさせた。
さらに、反対側からも追撃が来る。
「主殿、足はお疲れではありませんか? 我流のマッサージを……」
「いらん! 俺は怪我人でも病人でもないぞ!」
過保護すぎるヒロインたちに加え、杖からの野次馬。
ポンタが悲鳴を上げていると、向かいの席からクスクスと笑い声が聞こえた。
「ふふっ、師匠も大変だねぇ。でも、その姿だと何を言っても『背伸びしてる弟』みたいで可愛いよ?」
ルルが鉛筆を走らせながら、完成したスケッチをヒラヒラと見せる。そこには、美少年が美女二人に囲まれて困惑する図が、やけに美化されて描かれていた。
◇ ◇ ◇
逃げ場のない空気を変えるため、ポンタは咳払いをして話題を振った。
「そ、そういや! これから向かう『王都』ってのは、どんな場所なんだ? 俺は行ったことがないんだが」
その問いに反応したのは、元冒険者ギルドの受付嬢であるミリーナだ。
彼女は待ってましたとばかりに、鞄から大きな地図をテーブルに広げた。
「はいはい! それなら元受付嬢の私が説明しますぅ!」
ミリーナが指示棒(どこから出した?)で、地図の中央をビシッと指し示す。
「私たちが向かっているのは、グランゼリア王国の首都。正式名称は『王都ゼリア』。ですが、そのあまりの巨大さと繁栄ぶりから、人々は敬意と畏怖を込めて『グランド・ロイヤル』と呼んでいます」
「グランド・ロイヤル……大層な呼び名だな」
「名前負けしてませんよ。大陸最大級の城塞都市ですから」
ミリーナの解説によれば、王都は巨大な三重の城壁に囲まれた円形都市だという。
「まず中心にあるのが、王城『白亜宮』と、上級貴族たちが住む『貴族街』。ここは一般市民は許可証がないと入れません。私たちも男爵位の叙勲式のために、ここへ向かうことになります」
「ふむ」
「その外側に広がるのが、一般市民や商人が暮らす『市街区』。冒険者ギルドの本部や、ゴルドー商会の本店もここにあります。世界中の食材が集まる市場や、美味しいレストランもたくさんありますよ〜!」
「へえ、美味い飯か。そいつは楽しみだ」
ポンタが頷いていると、再び杖の宝石がボゥと光った。
『補足情報をあげようか、マスター。飯の話もいいけど、もっと重要なことがある』
ユーグの声が、先ほどまでの茶化すようなトーンから、少し真面目な響きに変わる。
『王都ゼリアはね、大陸最大級の「龍脈」が交差する特異点なんだ。大地の魔力が噴き出す場所……つまり、王都全体が巨大な「結界魔方陣」の上に成り立っている』
「龍脈、か」
『そう。だからこそ、光が強ければ影も濃くなる。王都の地下には、古代の下水道や、さらに古い時代の遺跡を利用した広大な『地下街』が広がっているんだ。そこには地上の光が届かない、魔力の澱みのような場所さ』
「地下……」
その言葉に、ポンタの脳裏にFPSにおける「複雑に入り組んだ地下マップ」や「メトロ(地下鉄)ステージ」の光景が過ぎる。
同時に、脳内のソフィアが冷淡な分析を被せてきた。
『警告:地下空間における戦闘は、視界不良および閉所でのCQC(近接戦闘)が多発します。広範囲魔法の使用は崩落の危険があるため制限され、難易度は地上戦闘比で300%上昇と予測』
「(ああ、わかってる。待ち伏せ(キャンプ)するには最高の環境ってわけだ)」
帝国の工作員が潜伏したり、何らかの実験を行うには、うってつけの場所だ。
今回の任務、一筋縄ではいかない予感がする。
「まあ、難しい話は置いといて! とにかく物価が高いので、ボッタクリには注意ですぅ。田舎から来たお上りさんだと思って、法外な値段をふっかけてくるお店もありますから!」
ミリーナが力説すると、ポンタはジト目を向けた。
「……お前、経験者か?」
「そ、そんなことありませんよぉ〜だ! ……たぶん」
目を泳がせるミリーナを見て、車内にどっと笑いが起きた。
◇ ◇ ◇
そんな賑やかな会話を楽しんでいるうちに、太陽は頭上高く昇っていた。
正午を過ぎた頃、一行は街道沿いの開けた森で休憩をとることにした。
「そろそろお昼にしましょうか。皆さん、少し体を伸ばして休憩ですよ」
エリスの提案で馬車を止め、広場に降り立つ。
アルメニアのピリッとした寒気とは違い、南下したこの辺りの空気は柔らかく暖かい。
ルルとミリーナが手際よく簡易テーブルや椅子を展開し、昼食の準備を始める。
「じゃあ私はスープを温めますね」
「あ、私はパンを切るよ!」
「では我は周囲の警戒を……」
「いや、ヒルデは休んでてくれ。たまには俺が動く」
ポンタは準備体操をするように腕を回しながら、森の奥へと視線を向けた。
「ちょっと体がなまってるんだ。食材の足しに、獲物でも狩ってくるよ」
「えっ、ポンタさんがですか? でも……」
心配そうなエリスに、ポンタは少年の姿でニカッと笑って見せた。
「大丈夫だ。これでもSランク冒険者だぞ? それに……この新しい身体で、どこまで動けるか試しておきたいんだ」
『了解:身体スペックの再計測および、実戦データの収集モードへ移行します』
脳内で起動するソフィアの声をBGMに、ポンタは一人、静寂に包まれた森の奥へと足を踏み入れた。
それが、この世界での「人間・ポンタ」としての初陣になるとも知らずに。
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