城内の混浴と、王都への招待状
【第2章・王都編開幕!】
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カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!
※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!
朝食を終えた一行は、中庭へと移動していた。
目的は、人間の体になったポンタの「能力検証」だ。
「……よし、いくぞ!」
タタタッ! と軽い足音を立てて助走をつけると、ポンタは中庭の壁を三角飛びで駆け上がり、空中で鮮やかな一回転を決めて着地した。
「身体能力は問題ないな。むしろダルマの時よりキレがいい」
浮遊スキルが無くなったのは痛いが、慣れ親しんだFPSのムーブは生身の肉体でも自由に出来る。
システム補正は健在だ。
だが、問題は「火力」だ。
「師匠、やっぱりあの『ダルマ』にはもうなれないの? 今のままだとガトリングが撃てないよ?」
「……今のところ、呼び出し方が分からん。あれがないと、重火器の反動に耐えきれん」
ポンタが腕を組んで唸る。
すると、ルルがポンと手を叩いた。
「ねえ、昨日の戦いを思い出してみて。師匠が変身した時、エリスの魔力がすごかったでしょ? もしかして、エリスが『鍵』なんじゃない?」
「エリスが鍵……?」
ポンタが呟くと、脳内でソフィアが即座に応答した。
『肯定。マスターの現在の器は、外部からの高出力エネルギー供給による拡張を前提としています。接続者の関与は必須条件です』
「確かにな。よし、試してみるか。エリス、手を出してくれ」
「は、はい!」
ポンタが右手を差し出す。
エリスは少し顔を赤らめながら、少年の小さな手を両手で包み込んだ。
意識するのは、昨日のあの感覚。
「……ふぅ……」
エリスが目を閉じ、深く集中する。
彼女の周囲の大気が震え、金色の粒子が渦を巻き始めた。
「いきます……『接続』!」
カッ!
エリスの手から膨大な黄金の魔力が吹き荒れ、刹那、何も無い空間へと流れ込む。
空間が歪み、世界に黒い穴が穿たれる。
《Titan Standby》
脳内に響くシステム音と共に、虚空の穴から、ゆっくりと「それ」は姿を現した。
ズゥゥゥゥゥゥン!!
地響きと共に中庭に鎮座したのは、直径2.5メートルを超える、巨大な深紅の球体。
手足はない。ただ圧倒的な質量と威圧感を放つ、ヒヒイロカネの塊。
かつてのダルマボディが、そのまま巨大化したような姿だ。
「で、でかい……! これが俺のボディか?」
ポンタが呆気にとられて見上げる。
「でも、ハッチも取っ手もないぞ? どうやって乗るんだ?」
ポンタがペタペタと装甲に触れた、その時だった。
ヒュン、とポンタの身体が光の粒子となって分解された。
「えっ、ポンタさん!?」
エリスが驚く間もなく、光は巨大ダルマの中へと吸い込まれ――消失した。
――視界が切り替わる。
ポンタが気づくと、そこは暗い空間の中だった。
座り心地の良いシートに身体が収まっている。
直後、周囲360度が起動し、外部の映像が鮮明に投影された。
「うおっ、すげぇ……!」
まるで空中に浮かんでいるかのような全天周囲モニター。
目の前に物理的なレバーやボタンはない。
あるのは、シートの肘掛けの先――左右の手元に浮かぶ「半球状のクリスタル」のみ。
ポンタがおそるおそる、そのクリスタルに両手を乗せると――ブゥン、と重低音が響き、機体と神経がリンクした。
その時、脳内ではなく、コックピット内のスピーカーから、無機質で重厚な男性のアナウンスが響いた。
『認証完了。パイロット登録、個体名ポンタ。――おかえりなさいませ、マスター』
『本機は次元渡航船の「航行モジュール」です。これまでの小型形態は省エネモードでしたが、魔力供給により本来の「戦闘航行形態」へと拡張されました』
「これが、このボディの本来の声……! ソフィアとは違うのか?」
『肯定。私は次元干渉とナビゲートを行うAIであり、機体制御OSとは別個体です。目の前のクリスタルに魔力を流し、イメージすることで機体は稼働します』
「なるほどな……!」
ポンタはクリスタルを握り込み、念じる。「動け」。
すると、手足のない巨大な球体が、重力を無視してフワリと浮き上がった。
思考に呼応し、ダルマの周囲に魔力光が集束。数丁のアサルトライフルがファンネルのように実体化し、浮遊する。
「やることは今までと同じだ。ただ、出力が桁違いだ!」
空へ向けて空砲を放つと、衝撃波だけで雲が裂け、中庭の木々が嵐のように揺れた。
圧倒的な火力と防御力。まさに「移動要塞」だ。
「これなら……いけるッ!」
そう確信した瞬間だった。
「あ、くっ……!」
外部にいるエリスが、苦しげに膝をついた。
同時に魔力供給が途切れる。
「うわっ!?」
コックピット内の照明が赤く点滅し、ポンタの視界が歪んだ。
次の瞬間、彼は光の粒子となって強制的に機体から排出された。
「ハァ、ハァ……す、すみません……もう、限界です……」
エリスが肩で息をしている。
主を失った巨大ダルマは、音もなく光の粒子となって分解され、虚空へと消えていった。
「大丈夫か、エリス!?」
「はい……でも、すごい消費量でした。今の私じゃ、数分維持するのがやっとです……」
ポンタはエリスの背中を支えながら、確信した。
あの形態は強力だが、エリスの負担が大きすぎる。
常時発動できるものではない。
「分かった。アレはここ一番の『切り札』だ。普段はこの人間の姿で戦う」
「はい……私も、もっと修行して、長く維持できるように頑張ります!」
結論は出た。
普段は燃費の良い「ヒトガタ」で活動し、短期決戦時にのみエリスのコネクトを介して「ダルマ(戦闘形態)」となる。
最強の戦術が確立された瞬間だった。
◇ ◇ ◇
一汗かいたポンタは、城の大浴場へと向かった。
もちろん、一人で。
「ふぅ……。さっきは興奮してて気づかなかったが、生身ってのはやっぱり疲れるな」
広い石造りの浴槽には、透明な水が張られているだけだった。
ポンタは困ったように頭を掻いた。
「ダルマの時は魔力炉の排熱でお湯を沸かせたが……この身体じゃ流石に無理か……」
『否定。可能です、マスター』
「えっ?」
『マスターの現在の肉体は、高密度の魔力で構成された精霊に近い存在です。熱伝導による加熱は可能です。スキルツリーに【瞬間湯沸かし】を追加しました。手をかざせば発動可能です』
「まじか! やってみる!」
ポンタが水面に手をかざし、念じる。
ボコボコボコッ……!
手から魔力が熱となって伝わり、瞬く間に浴槽が適温のお湯で満たされていく。湯気が立ち込め、極上の温泉が出来上がった。
「すげぇ……地味だけど一番嬉しいスキルかもしれん」
ザブン、とお湯に浸かり、大きく息を吐く。
「極楽極楽……」
「失礼しま〜す。ポンタさ〜ん、背中流しますね〜」
「主殿! 警護も兼ねてご一緒します!」
ガララッ! と扉が開き、タオル一枚のエリスとヒルデが入ってきた。
さらにその後ろから、ルル、ミリーナ、そしてシルフィとマリーまで当然のような顔で続いてくる。
「ブッッ!!」
ポンタはお湯を吹き出した。
「こここ、ここは男湯だぞ! 第一エリス、朝にはヒルデから俺の裸を隠そうとしてただろ!?」
顔を真っ赤にして叫ぶポンタに、エリスはキョトンとして首を傾げた。
「え? でもよくよく考えてみたら、ポンタさんは子供ですし、問題ないかなと。恥ずかしがる必要ありませんよ?」
悪気のない、聖母のような微笑み。
皆、知識としては「ポンタの中身は大人」だと理解している。だが、目の前にいる圧倒的な「美少年」のビジュアルが、彼女たちの理性を上書きしていた。
母性本能が、羞恥心を凌駕してしまったのだ。
「ふふっ、師匠の背中、小さくて可愛い〜! 私が洗ってあげる!」
ルルがスポンジを持って迫ってくる。
「あらあら、のぼせないように冷たいお水も用意しておきますわね」
マリーがガラスの容器に入った冷水を持って、甲斐甲斐しく世話を焼く。
「ちょっと! あんまり暴れてお湯を跳ねさせないでよね。……ま、たまには一緒に入ってあげてもいいけど」
シルフィがそっぽを向きながらも、しっかりお湯に浸かる。
「ちょ、待て、やめろ! 寄るな! 肌が当たる! やわらかいのが当たるぅぅぅ!!」
少年の姿ゆえに「無害」判定されたポンタの悲劇。
中身はアラサーの男性である彼にとって、美女たちとの混浴は刺激が強すぎた。
結局、のぼせて目を回すまで解放されることはなかった。
◇ ◇ ◇
湯上がり。
テラスで夜風に当たっているポンタの横に、エリスが並んだ。
彼女の手には、冷えた果実水がある。
「ポンタさんが人間になれて、本当によかったです」
エリスが夜空を見上げながら、しみじみと呟く。
「まあな。……でも、見た目が変わっても、俺は俺だぞ? 中身はなんも変わってない」
「ふふ、わかってます。……私の、一番頼れるヒーローですから」
エリスは優しく微笑み、ポンタの頭を撫でた。
その扱いが少し不満で、でも心地よくて、ポンタが口を尖らせた時だった。
「失礼いたします。ポンタ様、エリス様でいらっしゃいますか?」
中庭の入り口に、一人の男が立っていた。
アルメニア正規兵の紋章が入った革鎧を身にまとった兵士――ギデオンの配下だ。
彼は恭しく一礼すると、口を開いた。
「辺境伯・ギデオン様より使いに参りました。お二人に、至急領主城本館の会議室までご足労願いたいと」
使者の言葉に、ポンタとエリスは顔を見合わせる。
「……王都から、国王陛下直々の招聘状が届いたとのことです。Sランク昇格の件、及び『北の異変』に関する重要会議への参加要請です」
新たな冒険の予感が、風と共に舞い込んだ。
ポンタはニヤリと笑い、少年の姿には似つかわしくない不敵な笑みを浮かべた。
「上等だ。……行ってやろうじゃねぇか、王都へ!」
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