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ダルマから少年になった日

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!

挿絵(By みてみん)


(……温かい)


 それは、エリスが見ていた夢の記憶だった。

 暗闇の中、赤く輝く球体が浮かんでいる。

 そこへ、エリス自身の胸から溢れ出した『接続者コネクター』の光が、奔流となって注がれていた。


 光は球体を壊すのではなく、優しく包み込む。

 やがて、その赤き殻の中から「人の形をした光」が分離し、ゆっくりと実体を結んでいく。

 それはまるで、魂が本来あるべき器へと還っていくような――。


「何ぃいいいいいいいいッ!?」


 耳をつんざくような絶叫で、エリスは跳ね起きた。


「えっ、きゃっ!? な、何!?」


 心臓が早鐘を打つ。

 ここはアルメニア領主の館。その中でも来賓用に用意された、離れの客室だ。

 昨晩、急に意識を失ったポンタを心配して、エリスは彼をベッドに乗せ、看病しながらいつの間にか眠ってしまったのだった。


 エリスは慌てて横を見た。

 だが、そこにあるはずの「赤いダルマ」の姿はない。

 代わりに――。


挿絵(By みてみん)


「……うそ」


 ベッドの端に、一人の「少年」が座っていた。

 窓から差し込む朝日に照らされた、ほっそりとした背中。

 燃えるような赤い髪。

 少年は呆然とした様子で、部屋の姿見を見つめている。


「……え、あの……あなたは……?」


 エリスが震える声で尋ねると、少年がビクッと肩を震わせ、恐る恐る振り返った。

 年齢は12歳ほどだろうか。

 整っているが、どこか勝気そうで生意気そうな顔立ち。

 その真紅の瞳が、エリスを捉える。


「……エリス?」

「え……ポ、ポンタ、さん……?」


 目が合った瞬間、数秒の静寂が部屋を支配した。

 そして。


「「えええええええええええっ!?」」


 二人の絶叫が重なった、その直後だった。


「曲者ぉぉぉぉッ!! 姫様に何をする気だァッ!!」


 ドォォォォォン!!


 轟音と共に、部屋の壁が砕け散った。

 粉塵の中から飛び出してきたのは、パジャマ姿のヒルデだ。彼女は瞬時に距離を詰めると、少年の首根っこを掴んで吊り上げた。


「……む?」


 ヒルデは少年の顔を至近距離で凝視し、びっくりした面持ちで尋ねた。


「こ、この覇気……そして魔力……まさか、あるじ殿!? 主殿なのですか!?」

「ちょ、ヒルデ、苦しっ……!」


 ヒルデは掴んでいた胸ぐらの力を緩めた。

 するとふと、自然と彼女の視線が下へと向かう。


「…………」

「…………」


「なんと……! なんと愛らしい……!!」

「ヒルデさん! だ、ダメです見ちゃダメェェ!!」


 エリスが悲鳴を上げて、慌てて少年の前に立ち塞がった。

 そう。

 今のポンタは、生まれたての姿――つまり、全裸だったのだ。


「うわっ、やべぇ! 服! 服ねぇのか!?」


 ポンタが自分の股間を隠して慌てふためく。

 その時、ポンタの脳内に聞き慣れた無機質なアナウンスが響いた。


『警告。マスターの尊厳維持のため、外装防護プロセスを実行します』

「ソフィアか!? 頼む、なんでもいいから着せてくれ!」

『了解。魔力構成による簡易外装を展開』


 シュゥゥゥ……と、ポンタの身体から青い光の粒子が溢れ出す。

 光は瞬く間に繊維状に編み込まれ、一着の衣服を形成した。

 黒のインナーシャツに、防弾仕様のタクティカルベスト。そして動きやすいハーフカーゴパンツ。

 FPSにおける「軽装兵スカウト」のようなスタイルだ。


「ふぅ……助かった……」

「ぽ、ポンタさん……本当に、ポンタさんなんですね?」

「ああ。信じられねぇけど、俺だ。……おはよう、エリス」


 少年の姿で、少しバツが悪そうに微笑むポンタ。

 そのあどけない笑顔を見た瞬間、エリスとヒルデは同時に胸を押さえて崩れ落ちた。


「(か、かわいい……っ!)」


 ◇ ◇ ◇


 その後、一行は朝食をとることにした。

 幸い、この客間は離れになっており、プライベートな空間が確保されている。城内の他の人間にこの騒ぎが知られることはなかった。

 食堂に集まった仲間たちは、突然現れた美少年――ポンタの姿に大騒ぎだった。


「へぇ〜! 師匠、中身はこんな可愛い男の子だったんだね! ほらほら、ほっぺた柔らか〜い!」


 ルルが興味津々でポンタの頬をぷにぷにとつつく。


「やめろって! 俺だって何故こうなったのか全く解らんが、中身は変わってないんだぞ! 子供扱いするな!」


 必死に抗議するが、見た目が12歳なので説得力は皆無だ。むしろその必死さが「背伸びする弟」のようで、女性陣の母性本能を刺激してしまっている。


「ふふ、なんだか弟ができたみたいで新鮮ですぅ。ほらポンタさん、お野菜も食べないと大きくなれませんよ?」


 ミリーナもニコニコと、まるで母親のようにサラダを取り分けようとする。


「ぐぬぬ……可愛い顔だからって調子に乗らないでよね。どうせ中身はあの生意気ダルマなんでしょ……?」


 シルフィは腕を組み、ツンとそっぽを向いているが、その視線はチラチラと少年の整った顔立ちを盗み見ている。


「主殿……なんと神々しい……。小さき姿になられても、その威光は隠せませぬ……!」


 ヒルデに至っては、直視するのも恐れ多いのか、拝むように手を合わせている始末だ。


 さらに、テーブルの上に置かれたエリスの杖――聖樹の枝杖からも、半透明の少年がひょっこりと顔を出した。


『ヒュ〜! やるじゃんポンタ! そのナリなら女の子にモテモテだねぇ。僕の次くらいに可愛いんじゃない?』

「うるせぇユーグ、杖に戻ってろ!」


 口々に言いたい放題の仲間たちをよそに、ポンタの視線は一点に釘付けになっていた。

 目の前に並べられた朝食。

 湯気を立てるクリームスープ。焼きたての香ばしい匂いを漂わせる白パン。

 そして何より――皿の上で脂を光らせる、こんがりと焼かれた厚切りのベーコン。


 ゴクリ、と喉が鳴った。

 ダルマの体になってから数ヶ月。食事は必要なく、味覚もなかった。

 だが今は違う。空腹という野生の感覚が、胃袋をきりきりと刺激している。


「…………」


 震える手でスプーンを握り、スープをすくう。

 ゆっくりと、口へ運ぶ。


「…………っ!」


 その瞬間、ポンタの瞳孔が開いた。

 舌の上に広がる、濃厚なミルクのコクと野菜の優しい甘み。そして何より、喉を通って胃に落ちる「温かさ」。


「うぉぉぉぉぉおおおッ!! うまいッ!! 味がするぞぉぉぉッ!!」


 ガタッと椅子から立ち上がり、ポンタは叫んだ。

 涙こそ流していないが、そのテンションは異常だった。

 続けて、フォークで分厚いベーコンを突き刺し、大きな口を開けて齧り付く。


 ジュワッ、と口いっぱいに広がる脂の甘み。

 カリカリに焼かれた表面の香ばしさと、噛みしめるたびに溢れ出す強烈な肉の旨味。


「肉だ……! この塩気、この噛みごたえ……! 俺は今、肉を食ってるんだ!!」


 たまらずにパンをむしり取り、スープに浸して放り込む。

 スープを吸ってふやけたパンの食感と、小麦の香り。そこにベーコンの脂が絡み合い、極上のハーモニーを奏でる。


「食感がある! 温度がある! 噛みしめられるって最高だ! うめぇ、マジでうめぇぇ!!」


 ガツガツとベーコンを頬張り、パンで皿のソースを拭って食べる。

 咀嚼し、飲み込む。喉を通る熱と重みさえ愛おしい。

 生きている。俺は今、人間として飯を食っている。

 

その事実に、ポンタの魂が打ち震えていた。


「あらあら〜、そんなに慌てなくても、おかわりは沢山ありますわよー、ポンタ様」


 給仕をしていたマリーが、クスリと笑いながら大きな寸胴鍋と、山盛りのベーコン皿を運んでくる。


「んぐっ、んぐっ……! マリー、最高だ! お前の料理は世界一だ! 鍋ごとくれ!」

「ふふ、ありがとうございます。……作り甲斐がありますね」


 口の周りを脂とクリームだらけにして夢中で食べる少年の姿。

 かつての「破壊神」の面影はない。そこにいるのは、ただのご飯大好きな育ち盛りの男の子だ。

 エリスは自身の皿をそっちのけで、優しくナプキンでポンタの口元を拭ってあげた。


「ふふ、いっぱい食べてくださいね、ポンタさん」


 賑やかで、温かい朝食の風景。

 だがポンタはまだ知らなかった。

 この「人間の体」になったことで、自身の最強の武器であるダルマ装甲ヒヒイロカネを失ってしまった可能性に。

 そして、その検証のために、さらなる驚きが待ち受けていることを。


「ごちそうさん! ……さて、腹も膨れたし、ちょっと身体の調子を確かめに行くか!」

ここまで読んでいただきありがとうございます!


本日から第二章突入します。

少年の姿になったポンタ…コレからどの様に物語が進んでいくのかご期待ください。

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