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第三防衛線・アルメニア城壁の攻防

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!


 朝日が昇り、空が青く澄み渡る午前八時。

 最終防衛ラインである「アルメニア城壁」の前には、一万弱の魔物の軍勢と、それを迎え撃つアルメニア防衛軍が対峙していた。

 渓谷と河川で敵の七割以上を削ったとはいえ、残ったのは精鋭揃いの本隊。その圧力は、これまでの戦いとは次元が異なっている。


 開戦の直前。城壁の前に立ったギデオンが、大剣を地面に突き立てて声を張り上げた。


「皆、聞いてくれ! アカマルの作戦は見事に成功した! 当初三万だった軍勢も、今や一万を切っている。野郎ども、ここが正念場だぜ!」


 兵士たちの視線が集まる中、ギデオンは空中に浮かぶ赤い相棒へ視線を送った。


「ポンタ、お前からも何か言ってくれ」


 ポンタは静かに前へ出ると、拡声魔法を使って戦場全体へ声を響かせた。


『まだ数は劣勢だが、俺たちにはそれを覆す力をそれぞれが持っている。いいか、決して諦めるな。逆転する手段カードは俺が持っている』


 その力強い言葉に、不安げだった兵士たちが顔を上げる。


『俺が必ず決める。だから、それまで持ち堪えてくれ。生き残れば俺たちの勝ちだ! 頼むぜ、アルメニアの精鋭たち』


「「「うおおおおおおーーーッ!!!」」」

「絶対生き残るぞ!」「やってやる!」


 ポンタの言葉に、地響きのような歓声が巻き起こる。士気は最高潮に達した。

 その様子を見て、魔術師団長のミランダは「まぁ……なんて頼もしいお言葉。素敵……」と目をハートにしてメロメロになっている。

 ギデオンはニヤリと笑い、ポンタに小声で囁いた。


「フッ、とんでもねえカリスマだ。ポンタ、お前過去に将軍でもやってたのか?」


そして真剣な面持ちに戻りポンタに語りかけた

「お前の切り札が発動するまで、何としても持たせてやる。頼んだぞ」

「ああ、引き受けた」


 ギデオンが再び大剣を引き抜き、切っ先を敵軍へ向けた。


「全軍、突撃チャージ!!」


 城門が開き、アルメニア防衛戦、最後の激突が始まった。

 同時に、ポンタの冷静な指令が通信パスを通じて各リーダーへと飛ぶ。


『ギデオン、右翼だ! 敵の足並みが揃う前に側面を食い破れ!』

「応よ! 野郎ども、俺に続けぇぇぇッ!!」


 ギデオン率いる騎馬隊と冒険者部隊が疾走した。「くさび陣形」をとった彼らは、魔物の群れの横腹に鋭く突き刺さる。ギデオンの剛剣『ギガント・クリーバー』が閃くたびに、強靭な魔物が紙切れのように宙を舞う。ヒット・アンド・アウェイで敵を撹乱し、翻弄するその姿はまさに戦場の獅子だった。


 中央では、正規兵たちが巨大な盾と長槍を隙間なく並べた「密集陣形ファランクス」を作り、オークやリザードマンの波を受け止めている。それを支えるのはヒルデだ。


『ヒルデ、中央は任せる。一歩も通すな!』

「御意! 我が主の住む街だ、貴様らの薄汚い足で踏み入ることは許さん!」


 ヒルデが震脚しんきゃくを踏むと、地面が波打ち、殺到していた魔物たちがまとめて吹き飛ばされる。崩れそうになる戦線があれば即座に駆けつけ、土魔法で足場を固め、圧倒的なフィジカルで敵を押し返す。その鬼神の如きタンク能力が、数の不利を覆して戦線を維持していた。


 城壁の上からは、ミランダ率いる魔術師団とルルが待機している。


『ミランダ、ルル。三時方向、リザードマンの別働隊だ。足止め頼む』

「了解だよ師匠! 特製『バインド・ネット弾』、発射ぁ!」


 ルルの魔導グレネードランチャーから放たれた弾頭が空中で炸裂し、粘着性の特殊ネットが広がる。ポンタのバインドジェルを参考に開発されたそれは、リザードマンの部隊を絡め取り、身動きを封じた。


「追撃ですわ! 魔弾のマジック・レイン!」

 ミランダの号令で、無数の魔法弾が敵頭上に降り注ぐ。さらにルルが次弾を装填した。

「とどめだよ! 『ナパーム・グレネード』!」

 着弾と同時に激しい炎が広がり、ネットに捕らわれた魔物たちを焼き尽くす。


 そして、戦場の「音」を支配しているのはミリーナだ。

 彼女は耳元のイヤーマフにそっと手を添えた。これは、ポンタたちが彼女のために作ってくれた特注品だ。かつては他人の感情の音が津波のように押し寄せ、苦痛でしかなかった毎日。だが、このイヤーマフのおかげで、嫌な雑音は消え、世界は静けさを取り戻した。

(私たちが愛する街……みんなとの冒険。どれも大切で、守りたいものばかり……)

 普段はビビリのミリーナだが、今は不思議と心が落ち着いている。今の彼女には、戦場の喧騒さえも必要な情報おととして聞こえていた。


『ミリーナ、騎士たちの死角をカバーしろ。お前がこの戦場の「目」だ』

(はい、ポンタ様!)


 通信に頷き、ミリーナは弓を引き絞る。

(……あそこ、騎士さんの呼吸が乱れてる。危ない!)

 隣には、顕現したままのシルフィが手をかざした。


穿うがて! 『風神のシルフィード・アロー』!」


 ヒュンッ!!

 放たれた矢はソニックブームを巻き起こして飛翔し、騎士に迫っていた魔物の群れの中心で炸裂した。


(次は……敵の指揮官!)

「貫け! 『水神のウンディーネ・ランス』!」


 今度はマリーの力を借りた水の矢が、後方で指示を出していたオーガ・メイジの多重魔法障壁を紙切れのように貫通し、その心臓を深々と穿った。


 誰もが奮戦していた。誰もが、勝てると信じ始めていた。

 だが――戦場に落ちた「影」が、その希望を踏み砕いた。


 ――グォォォォォォォォォッ!!!


 空気がびりびりと震える。

 敵軍の中央を割り、姿を現したのは山のように巨大な『エンシェント・ベヒーモス』。全身を漆黒の剛毛と鋼鉄の鱗で覆った、伝説級の怪物だ。

 ベヒーモスが大きく息を吸い込むと、その口元にどす黒いエネルギーが収束していく。


「まずい! ブレスが来るぞ! 総員、防御陣形ッ!」


 ギデオンが叫ぶ。だが、極太の暗黒ブレスは、ファランクスの盾ごと兵士たちを吹き飛ばした。

 ドォォォォォォォンッ!!

 鉄壁を誇った陣形が、たった一撃で食い破られる。ギデオンも負傷者を守るために退却を余儀なくされ、戦線は崩壊寸前だった。


 城壁の上で、エリスはその光景を震えながら見つめていた。


『エリス、行けそうか?』


 ポンタの静かな声が届く。彼は焦っていない。信じているのだ。

 だが、圧倒的な絶望を前に、エリスの足がすくむ。

(私がしっかりしないと……。でも、どうすれば……)

 脳裏に浮かぶのは、かつて夢で見た、世界樹を守護するあの気高い女王の姿。あんな風に、私もみんなを守りたい。


『――大丈夫だよ、エリス』


 不意に、手に持った『聖樹の枝杖』から、ユーグの声が心に響いた。


『君はもう、世界樹の根を守った時に理解しているはずだ。力の根源は「願い」だということを。あの女王のように、魔力と一緒に、君の「守りたい」という願いを込めるんだ』


(願い……。守りたい、みんなを。私たちが愛するこの街を!)


 エリスが顔を上げ、杖を強く握りしめる。

 その瞬間、空間が歪むほどの膨大なマナが、彼女の体へと流れ込んだ。ユニークスキル『接続者コネクター』が活性化し、異次元にある魔力の源泉と直接リンクする。


「お願いします……私の全てを使って、みんなを守って!!」


 エリスの叫びと共に、聖樹の枝杖が眩いほどの白光を放った。


「顕現せよ――『聖盾アイギス』!!」


挿絵(By みてみん)


 カッッッ!!!!

 戦場が、純白に染まった。

 エリスを中心に展開された半透明の光のドームが、城壁を超えて爆発的に広がり、戦場全体を覆い尽くす。

 ベヒーモスの二撃目のブレスがドームに触れた瞬間、霧散して消滅した。それだけではない。聖なる光は傷ついた兵士たちに降り注ぎ、裂けた傷を塞ぎ、瀕死の重傷者を瞬く間に完治させていく。

 さらに、崩れかけた城壁すらも、光の粒子が集まり自動修復されていく。


「な、なんだこれは……傷が、消えていく!?」


 その神々しい光景に、前線にいたギデオンは目を見開いた。


「今は亡き聖王国アイギスの奇跡か……。まさか今、この場でお目にかかれるとはな」


 それは、神話の再現だった。


 そして――その奇跡を、静かに待っていた者がいた。

 城壁の最頂部。エリスから溢れ出した『聖盾アイギス』の余剰マナ、その膨大な聖なるエネルギーが、赤いダルマ――ポンタのヒヒイロカネのボディへと急速に収束していく。

 ポンタは脳内でソフィアの数値を確認しながら、独りごちた。


『よくやった、エリス』


 切り札である『アヴェンジャー』の発動には、通常の魔力では到底足りない。この最終局面で戦場を終わらせる圧倒的な火力を叩き出すには、どうしても『聖盾アイギス』の発動による、コネクターの「無限のマナ供給」が必要だったのだ。


(エネルギー充填率、120%突破。リミッター解除。……マスター、いけます)


 ソフィアの冷静な声。

 ポンタの体が赤熱し、その背後に、かつてない規模の魔法陣が展開される。空間からせり出してきたのは、六本の銃身を持つ鋼鉄の破壊神。


『……待たせたな』


 ガトリングの銃身が、重々しい回転音と共に唸りを上げ始めた。


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