表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/92

第2防衛線・激流と爆砕

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!

 深夜の渓谷で繰り広げられた一方的な殺戮から、およそ三時間が経過した。

 午前五時。東の空が白み始め、朝焼けの紫と橙が混ざり合う幻想的な刻。アルメニア市街の手前を悠然と流れる大河「アルメニア川」には、薄らと朝靄あさもやが立ち込めていた。

 だが、その静謐な景色を、どす黒い絶望が塗り潰していく。

 渓谷の惨劇を回避し、大きく迂回してきた魔物の群れが対岸に到達したのだ。その数、およそ二万二千。

 第一防衛戦「沈黙の渓谷」で八千余の戦力を削ぎ落としたとはいえ、それでもなお、朝霧の中から湧き出るように現れる暴力的な質量は、見る者の心を折るに十分な威圧感を放っていた。


「……なんという数だ。これだけの数が、まだ残っていたとは」


 川岸に陣取る正規兵の一人が、震える声で呻く。だが、その背中を叩く者がいた。

 アカマルのリーダー、ポンタだ。


『ビビるな。数は多いが、奴らの侵入経路は絞られている。ここは俺たちのキルゾーンだ』


 ポンタの冷静な通信音声が、兵たちの動揺を鎮める。

 魔物たちは、アルメニアへと至る唯一の侵入経路である、巨大な石造りの大橋へと殺到し始めていた。我先にと押し合いへし合い、橋の欄干が軋みを上げて悲鳴を上げる。

 オーク、リザードマン、そして凶暴なワイルドハウンドたち。欲望と殺意に濡れた獣の群れが、橋の中央付近まで埋め尽くし、まさにすし詰め状態となったその瞬間。


『――今だ。ルル、やってやれ!』

「了解だよ師匠! ……計算通り、構造上の急所キーストーンだけをいただくよ。ポチッとな!」


 ルルが手元の起爆スイッチを、まるで玩具でも扱うかのような軽い手つきで押し込んだ。

 瞬間、橋の支柱の根元で、乾いた破断音が連続して響いた。

 それは派手な爆発ではない。だが、ソフィアの演算に基づき、橋の自重を支える一点のみを正確に破壊する、ビル解体の技術を応用した「外科手術」のような精密爆破だった。


 ――ズ、ズズズン……ッ!


 腹に響く重低音と共に、数百年もの間アルメニアの交通を支えてきた堅牢な石橋が、中央からV字に折れ曲がる。物理法則に従い、支えを失った数千トンもの石材と、その上に群がる数千の魔物が、スローモーションのように川面へと崩落していく。


「「「グギャァァァァァァッ!!」」」


 断末魔の絶叫と共に、黒い塊が水飛沫を上げて川へと飲み込まれていく。


『ミリーナ、出番だ!』

「は、はいっ! ……お願いします、マリーさん、シルフィちゃん!」


 ポンタの合図を受け、川岸に控えていたミリーナが高々と手を掲げる。

 彼女の足元には、事前に展開されていた二重の召喚魔法陣が、青と緑の鮮烈な光を放っていた。そこから顕現した水と風の上位精霊が、契約者の命に応える。

 本来、上位精霊を二体同時に使役するなど至難の業だ。しかし、ミリーナは「ルナ一族」の末裔――生まれながらにして月の魔力を精霊と繋げる稀有な血筋を持つ。


全ての生き物の感情も音(波長)として捉える特殊な耳を持つだけでは無いのだ。

空に残る淡い月の光が彼女を通して精霊たちに流れ込み、その潜在能力を極限まで引き出していた。だからこそ、彼女たちは無邪気に、そしてチートなまでにその力を解放できるのだ。


「あらら~? もう解放していいんですの~? じゃあ、いっきますわよ~。はぁーい、自由にいってらっしゃ~い」


 マリーが天然おっとりとした口調と共に、上流で極限まで堰き止めて維持していた「水の壁」を一気に解放した。

 ダムが決壊したかのような膨大な質量の水が、唸りを上げて橋の残骸へと襲いかかる。


「私たちの街を襲おうなんて百年早いのよ! これでも喰らいなさい、この薄汚い泥棒猫ども!」


 そこへさらに、勝気なシルフィが暴風を叩き込んだ。

 風の回転力が加わった濁流は、もはやただの鉄砲水ではない。無数の水流がドリルのように複雑に回転し、荒れ狂う「水竜の牙」となって魔物たちを咀嚼し始めた。


 ――ドゴォォォォォォォォッ!!


 橋から落ちた魔物たちは、泳ぐことさえ許されなかった。

 回転する激流に巻き込まれ、上下左右の感覚を失い、同時に流れてきた巨大な石材や流木に全身を叩きつけられる。

 強靭な体躯を誇るオーガ達ですら、圧倒的な自然の猛威の前には木の葉同然だ。ボキボキと骨が砕ける音を響かせながら、抵抗する間もなく下流へと押し流されていく。


良い流れだ。

ここまでは完全に読み通りだ。


『よし、魔術師団は予定通り魔力を温存! 漏れてきた奴らはタンク隊と騎士団で押し返せ!』

「応ッ!! 我が主の御前である、一匹たりとも上陸させるな!」


 ヒルデが叫び、黄金のガントレットを打ち鳴らして最前線に立つ。

 運良く溺死を免れ、岸にしがみつこうとする魔物たちに対し、ギルドの重装歩兵たちと騎士団が長槍の壁となって立ちはだかった。


「ギシャアアアアッ!」

 川から這い上がろうとしたリザードマンの顔面を、ヒルデのガントレットが粉砕する。

「甘いっ! 貴様らの居場所は川底だ!」

 騎士たちが長槍を突き出し、的確に急所を貫いて再び濁流へと突き落とす。水流に足を取られ、体勢を崩している魔物に勝ち目などあるはずもない。次々と水飛沫が上がり、川面へと消えていった。


 地獄のような巨大な洗濯が落ち着いた頃。

 朝焼けに染まる川は、魔物の血と肉片でさらに赤黒く濁り、当初二万二千いた敵影の七割以上が、文字通り消え失せていた。


(戦果報告。敵残存戦力、一万以下。こちらの死傷者、魔力消費、ほぼゼロです)


 脳内に響くソフィアの報告に、ポンタは小さく頷く。

 そして目の前に広がる壊滅的な光景を見て、張り詰めていた陣地は、再び爆発的な歓喜に包まれた。


「信じられん……これほどの大軍を、一方的に蹂躙するとは……」


 騎士団長のバンスは、川を流れていく無数の死体を見つめ、驚愕に目を見開いていた。剣の一振りも、魔法の一発も放つことなく、敵の大半が壊滅しているのだ。


「こんな戦闘、見たことがない。ポンタ殿……貴殿は軍神か何かであるか?」


挿絵(By みてみん)


 畏怖すら滲ませるバンスの横で、魔術師団長のミランダは恍惚とした表情で頬を染め、熱っぽい視線をポンタに向けていた。


「素敵……素敵すぎますわ、ポンタ様! 私たちの魔力を完全に温存させたまま、これほどの戦果を……。あなたの采配、痺れますわ! この勝利の方程式、あまりに美しすぎます!」


 完全に目がハートになり、崇拝の域に達しているミランダに、ポンタは冷静に、しかし労りの色を含んだ声で返した。


『ああ、ミランダ。あんたたちの温存した魔力が、最後の切り札になるからな。よく堪えてくれた』


 その言葉にミランダが感極まった表情を浮かべた、その時だった。

 勝利の空気を一瞬にして凍りつかせる、異質な「波動」が対岸から放たれた。


 ――ズシン、ズシン。


 川の向こう岸。

 残存した一万弱の魔物たちが、恐れをなして道を開ける。その奥から、三万の軍勢を統率していた「元凶」が、悠然と姿を現したのだ。

 それは、ただ巨大なだけではない。距離があっても肌が粟立つような、圧倒的で禍々しいプレッシャー(覇気)を纏っている。

 まだ戦えると言わんばかりの威圧感。

 だが、ポンタは動揺することなく、即座に次の一手を打った。


『……お出ましだな。長居は無用だ、全軍撤退!』


 兵たちが息を呑む中、ポンタの凛とした声が響き渡る。


『予定通りだ。敵の戦力はすでに半壊している。最終防衛ライン『城壁』へ引くぞ! そこで全てを終わらせる!』


 大戦果を挙げたポンタたちは、最後の決戦の地であるアルメニア城壁へと迅速に撤退を開始した。

 決着の時は近い。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、 ブックマーク登録や、広告下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!


執筆の励みになります!

↓↓【☆☆☆☆☆】評価お願いします↓↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ