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完成したガトリングと聖女の祈り

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!

 地下訓練場の冷たい空気の中に、その「鉄の獣」は鎮座していた。

 黒い布が剥がされた瞬間、場にいた全員の息が止まる。

 ヒヒイロカネの赤鈍色の光沢と、埋め込まれた氷魔石から溢れ出す極低温の霧。それは武器というより、一振りの芸術品のようでもあった。


『……これだ。俺が求めていたのは』


 俺は独白する。

 現代最強のガトリング砲、GAU-8「アヴェンジャー」。本来は攻撃機の機首に据えられる対戦車用の化け物だ。凄まじい発射速度から放たれる弾丸は、戦車の分厚い装甲すら容易く食い破る破壊の権化。その圧倒的な存在感は、見る者すべての本能に「死」を予感させる。

 それを今、俺は異世界の技術と魔力を借りて再現した。


「最高傑作の仕上がりだ。……だが旦那、こいつは重いぞ。並の力じゃ持ち上がらん」


 ボルグの言う通りだ。密度を増したヒヒイロカネの重量は凄まじく、俺の「浮遊スキル」をもってしても、自由自在に振り回すにはあまりに手に余る重さだった。

 俺は脳内で、相棒に問いかけた。


『ソフィア、こいつをMODで吸収できるか?』

〈……スキャン完了。この世界で作られた武器ですので、問題なく吸収・最適化が可能です〉


 よし。俺がガトリングに触れると、巨大な重火器は薄赤く光る粒子となり、俺の体へと吸い込まれていった。

 驚くボルグたちを余所に、俺は用意された特厚の岩壁に向き合う。


『システム、アヴェンジャー・オン』


 俺の任意で、目の前の空間に魔力で形成された「青白く輝くガトリング」が実体化した。

 ――フィイィィィィィィィン……!

 リボルバー部分のロールが超速で回転を始め、独特の駆動音が地下に響き渡る。

 直後。


 ――ブラァァァァァァッ!!


 巨大な布を裂くような、あるいは天の雷鳴のような重低音が炸裂した。

 岩壁は「砕ける」という段階を飛ばし、一瞬にして砂塵となって霧散した。


「な、なんて威力だ……。旦那、あんた一体何者なんだ……」


 ボルグが呆然と呟く。だが、ソフィアの声は淡々と、俺にだけ真実を告げる。


〈……推定威力、アサルト形態の2500%。ですが、これはまだ「コネクター」による供給が不安定な状態での数値です〉


 ここで、ユーグがエリスの肩に手を置き、静かに口を開いた。

 俺の魔力源が実はエリスであること、そして彼女が異次元の力を引き出す「接続者コネクター」であるという事実が語られた。

 俺は知っていたが、初めて聞かされるエリスや仲間たちは、その事の大きさに言葉を失っていた。


「エリスの想いが強まれば、彼の攻撃力はさらに跳ね上がるよ。君はポンタの、最高のバッテリーなんだ」


 訓練を終えた俺たちは、決戦前夜の英気を養うためにアカマルハウスへ戻った。


 その夜の晩餐は、いつにも増して豪華なものだった。

 テーブルの上には、マリーが腕によりをかけた料理が並ぶ。オーク肉の赤ワイン煮込みは口の中でとろけるほど柔らかく、獲れたての地鶏の香草焼きが食欲をそそる香りを放っている。


「がははは! この酒、最高じゃねえか旦那!」


 ボルグはすでに出来上がっていた。上質なエールをジョッキで煽り、顔を真っ赤にして笑っている。ドワーフの老匠は、仕事をやり遂げた満足感に浸っているようだ。


「明日、われが皆の盾となろう。どれほどの大軍が押し寄せようと、ぬしの前は一歩たりとも通さぬ!」


 ヒルデが肉を豪快に頬張りながら、女騎士らしい凛とした口調で宣言する。その横でミリーナが、おずおずと、屋敷に付いている精霊たちへ視線を向けた。


「シルフィさん、マリーさん……明日、よろしくお願いしますぅ。皆さんの力を貸してください……!」


 ミリーナの感謝の言葉に、シルフィはプイと顔を背けた。


「ふ、ふん! 若様に命じられたから仕方なくやるだけよ! あんたが家事の片手間にサボらないように見張っててあげるわ!」


 相変わらずのツンデレ反応だが、その頬は心なしか緩んでいる。一方、マリーは微笑みを絶やさず、ミリーナの肩にそっと手を置いた。


「うふふ、お任せくださいなぁ〜。ミリーナさんと一緒に、悪い魔物さんたちをお掃除しちゃいましょう〜」


 賑やかな宴は夜が更けるまで続いた。


 やがて仲間たちが眠りにつき、屋敷が静まり返った頃。

 魔力供給で動く俺は眠る必要がないため、一人で明日の布陣を練っていた。


『(ヒルデの防壁を中央に、ルルがその周囲に罠とランチャーを配置。ミリーナが後方高所から狙撃。エリスが中央でコネクターの維持……)』


 思考を巡らせていた俺の視界に、ベランダで一人佇む人影が入った。

 エリスだ。

 月明かりに照らされたエリスは、息を呑むほどに美しかった。

 夜風に揺れる金糸のような髪が銀色の輝きを放ち、透き通るような白い肌が月の光を吸い込んで淡く発光しているかのようだ。亡国の王女としての気高さをたたえつつも、どこか壊れそうな儚さを纏ったその姿に、俺は一瞬、現実を忘れて見惚れてしまった。


『エリス……起きてたのか』


 声をかけると、彼女は少し驚いたように、でも優しく微笑んだ。


「ポンタさん。……はい、なんだか今日は、今までのことを思い出してしまって」


 彼女は夜空を見上げながら、慈しむように仲間たちのことを語りだした。

 前パーティの「鉄の牙」に囮として使い捨てられ、絶望の淵にいた自分を助けてくれた、奇妙なダルマの姿をした英雄。


「あの時、ポンタさんに拾ってもらわなければ、今の私はありませんでした。ポンタさんが鉄の牙との因縁を断ち切ってくれて……それから、ルルちゃんやミリーナさん、ヒルデさんのような心強い仲間たちが一人、また一人と集まってくれて」


 エリスは一人ひとりの顔を思い浮かべるように、目を細める。


「いつも一生懸命で天才的なルルちゃん、臆病だけど誰より優しいミリーナさん、不器用だけど真っ直ぐなヒルデさん……。それに、少し素直じゃないけど本当は優しいシルフィや、紅茶を溢すけど料理が上手なマリー。……この毎日が、私は、愛おしくて堪らないんです」


 そして彼女は、自分の掌を見つめた。


「でも、不安なんです。……ポンタさんのあんなに凄まじい力が、私の心一つに関わっているなんて。私に、その重責が果たせるのでしょうか……」


 震える彼女の肩。俺は何も言わず、浮遊スキルで彼女の隣まで移動し、どっしりと居座った。


『エリス。責任なんて、一人で背負うもんじゃない。俺とお前は「コネクター」で繋がってるんだろ?』


 俺は夜の静寂の中で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


『お前の「祈り」が俺の力になるんなら、俺はその力を全部使って、お前が愛するこの場所を守り抜く。だからお前は、明日も俺の隣で特等席の景色を見ててくれればいい。……お前が信じた俺は、この世界の誰よりも強いんだぜ?』


「ポンタさん……」


 エリスの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 彼女は俺のダルマボディにそっと寄り添い、愛おしそうに微笑んだ。


「はい。……私、精一杯繋ぎます。ポンタさんの隣が、私の世界で一番安心できる場所ですから」


 嵐の前の静けさ。

 だが、俺たちの絆は、どんな軍勢よりも強く、固く結ばれていた。


 明日。3万の軍勢が、この平穏を奪いに来る。

 だが、俺たちは負けない。

 最強の矛と、神の盾が揃ったのだから。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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