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月の巫女と、目覚める精霊たち

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!

 ギルドの地下には、一般には公開されていない広大な「特別訓練場」が存在していた。

 石造りの冷ややかな空間に、爆音と衝撃音が響き渡る。


『オラオラオラァ! 防御が薄いぞ!』


 俺はアサルトライフル形態をフルオートで掃射していた。

 放たれるのは俺の魔力で生成された、赤く輝く「魔弾」の嵐だ。


「ぬんっ!」


 対するヒルデは、盾を持っていない。

 彼女は両腕の重装甲ガントレットを構え、地面を強く踏みしめる――震脚しんきゃく

 ドォォン!

 地面から分厚い岩盤が隆起し、魔弾の雨を受け止める。だが、それだけではない。


「土魔法――『岩槍ロック・ジャベリン』!」


 彼女の咆哮と共に、空中に無数の石礫いしつぶてが出現した。

 それは見る見るうちに巨大化し、鋭利な岩の槍へと形成されていく。

 ヒルデが剛腕を振るうと、それらが唸りを上げて猛スピードで射出された。

 防御からの即時反撃。攻防一体の超高等技術だ。


『ふっ、やるな!』


 俺はスラスターを噴かして空中へ回避しながら、迎撃射撃を行う。

 互いに本気の一歩手前。ハイレベルな模擬戦が展開されていた。


 まさに、決戦前の猛特訓。

 だが、その空間の片隅で、一人だけ沈んでいる少女がいた。


「…………」


 ミリーナだ。

 彼女は愛用の弓を構え、20メートル先の標的を狙っていた。

 シュッ、と放たれた矢は、吸い込まれるように標的の中心に突き刺さる。

 百発百中の腕前だ。

 だが、彼女の表情は晴れない。


「……こんなの、3万の軍勢の前では爪楊枝と同じですぅ……」


 彼女は震える手で、空の矢筒を握りしめた。

 耳を澄ませば、聞こえてくる。

 ポンタさんやヒルデさんの、自信に満ちた強烈な「強さの音」。

 それに比べて、自分の音はなんと弱々しく、不協和音を奏でていることか。


(私なんかじゃ……きっと、みんなの足手まといになる……)


 彼女がうつむきかけた、その時だった。


「どうしてそんなに怖がっているの? ミリーナ」


 ふわりと、目の前にユーグが降りてきた。


「ユーグ様……。い、いえ、怖がってなんて……」

「嘘だあ。君の魂、すごく嫌な音を出してるよ」


 図星を突かれ、ミリーナは言葉を詰まらせた。

 ユーグはニコリと笑い、彼女の周りをくるりと回った。


「もったいないなぁ。君には素晴らしい才能があるのに」

「才能……? 私にですか? 耳が良いことくらいしか……」

「それがすごいんだよ。ルナ一族はね、ただ耳が良いだけの種族じゃない。相手の感情すらも『音』として読み取れる、すごい一族なんだ。……だけど、それだけじゃない」


 ユーグは人差し指を立てた。


「大昔、君の先祖たちは**『月の巫女』**と呼ばれていたんだよ」

「月の……巫女……?」

「うん。君たちの体は、月の魔力を集めるパイプみたいな性質を持っている。その鋭い聴覚は、精霊の声や世界の音を聞くためのアンテナなんだ」


 ユーグはパチン! と指を鳴らした。


「論より証拠だ。まずはパートナーを呼ばなきゃね」


 足元に魔法陣が展開される。

 ポンッ! という音と共に、二つの影が飛び出した。


「え? なになに? 私、エリスのお部屋お掃除したのよ?」

「あら〜? お庭でお花にお水をあげてたんですよぉ〜」


 現れたのは、留守番をしていたはずのシルフィとマリーだった。

 二人はハタキやジョウロを持ったまま、キョトンとして周囲を見回す。


「えっ、ここどこ? 地下? カビ臭っ!」

「あら、ミリーナさんも一緒にお水あげましょう〜」

「あ、あの、シルフィさん、マリーさん……上を見てください……」


 ミリーナがおずおずと頭上を指差すと、シルフィが顔を上げる。

 そこには、ヒラヒラと笑顔で手を振るユーグの姿があった。


「やっほー」

「げっ!? わ、若様!? さ、サボってたわけじゃありません! 休憩してただけです!」

「あ〜ら〜、ごきげんよう〜」


 シルフィが慌てて土下座し、マリーが優雅にカーテシーをする。

 ユーグは優しく微笑んで言った。


「急に呼び出してごめんね。……ただ、君たちの本当の力が必要になったんだ。ミリーナと契約して、戦う準備をしてほしい」

「えっ? ミリーナと?」


 シルフィが驚いて、ミリーナをまじまじと見る。


「こいつ、いつも家事サボってばかりの**ダラけ女**よ? そんな才能あるわけ……」

「あるんだよ。彼女は『月の巫女』の末裔だからね」


 ユーグの説明を聞き、シルフィは「マジで?」と口を開けた。


「……ふーん。意外な才能があるのね。まあ、若様の命令なら仕方ないわ。力を貸してあげる!」

「うふふ、一緒に頑張りましょうねぇ〜」


 二人の精霊がミリーナの左右に並ぶ。

 ユーグはミリーナの胸に手をかざした。


「目を閉じて、イメージしてごらん。夜空に浮かぶ月を。そして、その澄んだ音色を君の体を通して、二人に響かせるんだ」


 ミリーナは言われた通りに目を閉じた。

 深呼吸をする。

 意識を集中させると、世界の雑音が消え、静寂の中に凛とした「音」が聞こえてきた。

 月。静かで、優しい旋律。

 それが自分の頭上から降り注ぎ、指先へと流れていく感覚。


(力を貸してください……シルフィさん、マリーさん。私と一緒に、戦って!)


 カッ!


 地下室に、閃光が走った。

 ミリーナの体が、淡く青白い光のオーラに包まれる。

 それに呼応するように、シルフィとマリーの体が激しく発光した。


「「――ッ!!」」


 光の中で、二体のシルエットが変わっていく。

 可愛らしいマスコットのような姿から、より精悍で、神々しい姿へ。

 光が収まると、そこには以前とは別人のような二人が浮かんでいた。

 シルフィは半透明の風の衣を纏い、背中には鋭い翼が生えている。

 マリーは流れる水のようなドレスを身に付け、周囲に水球を浮遊させている。


 それはまさに、戦場を舞う『戦乙女ヴァルキリー』のような姿だった。


「す、すごい……! 体が軽い! これなら本気が出せるわ!」


 シルフィが興奮したように空を駆け巡る。そのスピードは、目にも止まらぬ速さだ。


「うふふ……。力が溢れてきますぅ。水が私の手足のようです」


 マリーもまた、優雅に微笑みながら、訓練場の岩を一瞬でウォーターカッターで切り裂いてみせた。


『なっ……!? なんだ今の光は!?』


 訓練をしていた俺たちが、驚いて駆け寄ってくる。

 そこには、光を纏って佇むミリーナと、進化した精霊たちの姿があった。


「ミ、ミリーナちゃん……? その姿……」

「エリス様……。私、やってみます」


 ミリーナは顔を上げた。

 もう、その瞳に迷いはない。

 彼女が弓の弦を引くと、そこに実体の矢はなかった。

 代わりに、彼女の魔力が収束し、輝く「魔法の矢」が生成される。魔力が尽きない限り無尽蔵に撃てる、光の矢だ。


「シルフィさん!」

「任せて!」


 シルフィがミリーナの弓に手をかざす。

 強烈な風のエネルギーが、魔法の矢に注ぎ込まれていく。

 その瞬間、ミリーナの頭の中に、世界の声が囁いた。

 ――その技の名は。


穿うがて! 『風神のシルフィード・アロー』!」


 ヒュンッ!!


 放たれた矢は、甲高いソニックブームを巻き起こして飛翔した。

 着弾した瞬間。


 ドォォォォォンッ!!


 爆弾が炸裂したような轟音が響き、巨大な岩塊が粉々に砕け散った。

 爆風が俺たちの頬を叩く。


『おいおい、嘘だろ……? 今の、グレネード弾並みの威力じゃねえか』


 俺は絶句した。

 ただの矢が、範囲攻撃兵器に化けたのだ。

 だが、それだけでは終わらない。


「次はマリーさん!」

「はいなぁ〜」


 今度はマリーが手をかざす。

 魔法の矢が高圧の水流に覆われ、ドリルのように高速回転を始めた。

 再び、頭の中に言葉が浮かぶ。


「貫け! 『水神のウンディーネ・ランス』!」


 ズドォッ!!


 放たれた水の矢は、標的として置いてあった分厚い鉄板を、まるで紙切れのように貫通し、背後の壁に深々と突き刺さった。


『高貫通……! 対戦車ライフル(アンチ・マテリアル・ライフル)かよ!』


 風の範囲攻撃と、水の貫通攻撃。

 二つの属性を使い分ける、最強の『魔法弓手アーケイン・アーチャー』の誕生だ。


 ミリーナは弓を下ろし、荒い息を吐いた。

 だが、その顔には達成感が満ちていた。


「これなら……。これなら私でも、戦えます……!」

『戦えるどころの話じゃねえよ』


 俺はスラスターを噴かして彼女に近づき、目線を合わせた。


『索敵だけじゃねえ。その射程と威力なら、遠距離の敵や、硬い装甲を持つ指揮官クラスを狙い撃ちできる』


 俺はダルマボディを揺らして、最大限の賞賛を送った。


『お前はもう足手まといなんかじゃない。アカマルが誇る、最強の狙撃手スナイパーだ』

「スナイパー……」


 ミリーナの瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。

 それは恐怖の涙ではない。安堵と、自分が必要とされたことへの喜びの涙だった。


「はいっ……! 私、誰よりも遠くから、皆さんをお守りしますぅ!」


 彼女は涙を拭い、強く頷いた。


「誰よりも遠くからってのがミリーナらしいね」

ルルがおどけて茶々を入れる。


皆んなの笑い声が訓練場に響き渡った。


 その様子を見て、ユーグがふわりと近づき、ニッコリと微笑んだ。


「ね? 言った通りでしょ」


 怯えていた少女はもういない。

 そこにいるのは、来るべき決戦の空を支配する、頼もしい戦友だった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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