初報酬は500万!?
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契約は成立した。
エリスは俺を「ぬいぐるみ」のように胸に抱え、森を歩き出した。
なんだか妙な気分だが、彼女の体温と鼓動が伝わってきて、不思議と安心感がある。移動の手間が省けるのも悪くない。
森を抜け、街道をしばらく進むと、前方に巨大な石造りの城壁が見えてきた。
『マップデータ照合。前方、冒険者拠点・城塞都市「アルメリア」を確認』
ソフィアのナビゲート通りだ。いよいよ異世界の街か。
「ポンタさん、検問があります。喋ったり動いたりすると、魔物だと思われて騒ぎになるかも……」
「わかってる。俺にはとっておきのスキルがある」
(ソフィア、隠蔽モード起動!)
『了解。スキル【擬態】発動。生体反応を遮断します』
俺は意識をオフにし、ただの「赤い置物」になりきった。
検問の衛兵は、エリスが抱える俺を不審そうに見たが、「旅のお守りの赤い人形です」というエリスの苦しい言い訳と、彼女のボロボロの姿への同情もあってか、なんとかスルーしてくれた。
街の中に入ると、活気のある喧騒が耳に飛び込んできた。
石畳の道、レンガ造りの建物、行き交う馬車。ファンタジーRPGそのものの光景だ。
だが、観光をしている暇はない。まずは活動資金だ。
俺たちは街の中心部にある「冒険者ギルド」へと向かった。
重厚な扉を開けると、ムッとするような熱気と、エールと汗の混じった独特の臭いが鼻をつく。
夕方のギルドは、依頼を終えた荒くれ者たちでごった返していた。
「おい見ろよ、あれ」
「ん? うわ、またあいつか。『役立たずのエリス』じゃねぇか」
「生きてたのかよ。てっきり森で野垂れ死んだかと……」
エリスが入店した瞬間、周囲から陰湿なヒソヒソ話が聞こえてくる。
彼女が名乗った『鉄の牙』による悪い噂が広まっているのだろう。誰もが彼女を蔑んだ目で見ている。
エリスの体が硬直する。俺を抱く腕にギュッと力が入るのがわかった。
(……チッ、気分の悪い場所だ。ここが完全なアウェイってわけか)
俺は心の中で舌打ちをする。
だが、今のエリスには俺がついている。
エリスは視線を下に向け、逃げるように受付カウンターへと向かった。
「あ、あの……素材の換金をお願いします……」
「はいはい、エリスさんですね。今日は薬草ですか? それともゴブリンの耳?」
受付嬢も、あからさまに面倒くさそうな態度だ。
エリスは震える手で、俺がインベントリからこっそり吐き出した「黒い魔石」をカウンターに置いた。
ゴトッ。
重々しい音がカウンターに響く。
それは拳大の大きさがある、底知れない闇色を湛えた魔石だった。
それを見た瞬間、受付嬢の愛想笑いが凍りついた。
周囲の冒険者たちの視線も、その異様な魔力に引き寄せられて釘付けになる。
「こ、これは……!? まさか、指定危険種『ブラック・ファング』の魔石……!?」
受付嬢の裏返った声が、ギルド内に響き渡った。
「ええっ!?」
「嘘だろ!? ブラック・ファングだって!?」
「あいつはCランクパーティーでも全滅しかねない化け物だぞ!? ありえねぇ!」
ギルド内が騒然となる。
嘲笑は消え、驚愕と疑念が渦巻く。
受付嬢は震える手で鑑定魔道具を取り出し、慎重に確認を行う。レンズを覗き込む彼女の顔色が、見る見るうちに青ざめていく。
「ほ、本物です……! 魔力濃度、形状、間違いありません。……エリスさん、これをあなたが倒したのですか……?」
「い、いえ! 私ではありません!」
エリスは慌てて首を横に振り、腕の中の俺を少しだけ持ち上げた。
「私の……その、新しく契約したポンタさんが、倒してくださいました」
「ぽ、ぽんた……? その……赤い丸いの、がですか?」
受付嬢の目が点になる。
周囲の冒険者たちも、ポカンと口を開けて俺を見ている。
「人形が倒した? 馬鹿な」という空気が流れる。
埒が明かないな。
俺は仕方なく、受付嬢の脳内にだけ念話を飛ばした。
少しドスを利かせて。
『……おい。いつまで待たせる気だ? 早く換金しろ。そこの嬢ちゃんが疲れてる』
「ひっ!?」
頭の中に直接響く謎の声に、受付嬢は悲鳴を上げて飛び上がった。
目の前の赤い物体が、ただの置物ではないことを悟ったのだろう。彼女は顔面蒼白になりながら、大慌てで金庫へ走った。
提示された報酬額は、金貨50枚。
日本円にして約500万円相当の大金だ。エリスの手が震えるほどの大金である。
ギルドを出る時、俺たちは英雄のような、あるいは得体の知れない化け物を見るような目で見送られた。
さっきまでの嘲笑は、もうどこにもなかった。
***
懐が温まった俺たちは、その足で大通りにある防具屋へとやってきた。
鉄と革の匂いが充満する店内には、様々な武器や防具が所狭しと並んでいる。
「いいかエリス。FPS……いや、冒険の基本は『装備』だ。プレイスキルも大事だが、初期装備のまま高レベルエリアに行くなんざ自殺行為だぞ」
「は、はい……でも、ポンタさん。そんなに高いものを買ってもらうわけには……」
エリスは店の棚に並ぶ高級な革鎧を見て、値札の数字に目を回している。
『鉄の牙』で奴隷同然に扱われ、その日暮らしを強いられていた今の彼女にとっては、到底手の届かない高級品ばかりだ。
だが、今の俺たちには金がある。そして、俺には最強の鑑定士がついている。
(ソフィア、この店で一番性能が良く、エリスの魔法適性を阻害しない装備をマーキングしろ)
『了解。スキャン開始……検索完了。右手の棚、上から二段目の「飛竜革の軽鎧」を推奨。軽量かつ、微弱なマナ回復効果が付与されています』
(よし、それだ! あとはそれに合うブーツと……おっ、あの深緑のマントも良さそうだな)
俺は店主に指示を出し、ソフィア推奨の最強装備一式を揃えさせた。
有無を言わさず試着室に押し込む。
数分後。
カーテンが開き、おずおずとエリスが出てきた。
その姿を見て、俺は思わず唸った。
「……おお」
泥だらけのローブ姿とは、まるで別人がそこにいた。
赤茶色の革鎧は、彼女の華奢なラインを守りつつ動きやすさを確保している。その上から羽織った深緑のマントは、銀色の髪と絶妙なコントラストを描いていた。
機能的でありながら、どこか気品を感じさせる立ち姿。
「へへ……どう、ですか? ポンタさん。これなら、一緒に歩いても恥ずかしくないですか?」
エリスが頬を染め、はにかむような笑顔を向けてくる。
守ってやりたい、と思わせる破壊力抜群の笑顔だ。
俺は内心、盛大にガッツポーズをした。
(おいソフィア、今の笑顔のスクショ撮ったか!?)
『……機能にありません。マスターの記憶領域に保存してください』
(ちぇっ、つれないなぁ)
「……ああ、悪くない。最高の装備だ」
俺は努めてクールにそう答え、心の中でこれからの冒険に思いを馳せた。
謎多き薄幸の美少女と、最強の赤いダルマ。そして脳内の毒舌AI。
ちぐはぐで奇妙なパーティーだが、このメンバーなら、この異世界攻略も悪くないかもしれない。
俺たちは新たな装備と共に、夕暮れの街へと歩き出した。
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