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騒がしい帰還と、精霊たちの頂上決戦

【第2章・王都編開幕!】

★毎日「朝7時」更新中!★

カクヨムで話題を呼んだ注目作、なろうにて絶賛連載中!

※第1章(1〜49話)完結済み。通勤・通学のお供にどうぞ!


 数日の旅路を経て、俺たちはついに拠点へと帰り着いた。

 小高い丘の上に建つ、元貴族の屋敷――「アカマルハウス」。

 夕日に照らされたその姿は、俺たちにとって何より安らぐ「我が家」だ。

挿絵(By みてみん)


「つ、着きましたぁ……! もう足が棒ですぅ……」


 ミリーナが玄関前の階段でへたり込む。

 彼女は一般人(元受付嬢)だ。冒険者並みの強行軍にはまだ慣れていないらしい。


「だらしないなぁミリーナは。ほら、最後くらいシャキッとしなよ」


 そんな彼女の背中を、ルルがスパナでペチペチと叩く。

 このドワーフの少女は、体こそ小さいが体力は底なしだ。重い工具箱を背負ったまま、息一つ切らしていない。


「うぅ、ルルさんは元気すぎますよぉ……」


 エリスが微笑みながら、玄関の扉に手をかけた。


「ただいま戻りました、シルフィちゃん、マリーさ――」


 バァンッ!!


 エリスが言い終わる前に、扉が勢いよく開かれた。

 そこから緑色の旋風が飛び出し、俺めがけて一直線に突っ込んでくる。


「遅い遅い遅ーーーーいっ!! 心配させないでよ、この赤玉ーーっ!」


 風の精霊シルフィだ。

 彼女は再会の挨拶代わりに、風魔法を纏った強烈なドロップキックを俺のボディに叩き込んできた。


『ぐべっ!? (相変わらずの歓迎だな……)』


 俺はヒヒイロカネ製のボディでそれを受け止めたが、そのあまりの狼藉に、黙っていない者がいた。


「き、貴様ァァァッ!!」


 ヒルデだ。

 彼女は瞬時に黄金のガントレットを展開し、殺気を撒き散らしてシルフィの前に立ちはだかった。


「我が主になんたる無礼を! その不敬、万死に値する!」

「はぁ? 何よこのデカ女! あんたこそ誰よ!?」

「我は地竜の騎士ヒルデ・リンドブルム! ポンタの剣なり!」

「主ぃ?この家の管理人は私なんだからね!」


 バチバチと火花が散る。

 風魔法と竜の闘気がぶつかり合い、せっかくの帰還が一触即発の事態に。


「ひぃぃっ!? け、喧嘩はやめてくださぁい!」


 ミリーナが悲鳴を上げ、慌ててルルの背中に隠れた。

 地獄耳(イヤーラビット)を持つ彼女にとって、ヒルデとシルフィの怒声は大音量の感情として聞こえてくるのだろう。

 対照的に、盾にされたルルは目を輝かせていた。


「へぇ、あの金色の籠手ガントレット……。魔力駆動式の関節補助が付いてるね。ねえヒルデ、あとで分解させてくれない?」

「ぶ、分解だと!? 我が装甲をか!?」


 ヒルデが困惑した隙に、エリスの杖からふわりとユーグが実体化した。


「これこれ、喧嘩はダメだよ。……僕の可愛い眷属たち」

「えっ……?」


 シルフィの動きがピタリと止まった。

 風の精霊である彼女は、肌で感じ取ってしまったのだ。目の前の少年が放つ、桁違いの「格」を。


「な、何この純粋な森の神気……。ま、まさか、世界樹の若様……!?」


 シルフィはその場に膝をつき、深々と頭を下げた。さっきまでの威勢の良さはどこへやら、完全に借りてきた猫状態だ。

 一方、天然なマリーは、頬に手を当てて「あら〜」と微笑んだ。


「とっても高貴な気配……。すごいですぅ。いらっしゃいませぇ〜」


 彼女はスカートの裾をつまみ、優雅なカーテシー(膝を折る礼)で敬意を表した。


「うん。二人ともいい子だね」


 ユーグは偉ぶることもなく、無邪気に二人の頭を撫でた。

 その光景を見て、ヒルデもガントレットを収める。

 こうして、アカマルハウスにおけるヒエラルキー(ユーグ > 精霊姉妹)が一瞬で確定したのだった。


          ◇


 ドタバタとした出迎えの後は、旅の汚れを落とすために全員で大浴場へと向かった。

 俺はいつものように一番風呂として飛び込み、魔力炉でお湯を沸かす。


『ふぅ……。いい湯加減だ』


 俺はダルマボディをプカプカと浮かべながら、リラックス……できるわけがなかった。

 湯気越しに見える、エリスやルル、マリーたちの白い肌。そして新しく加わったダイナマイトボディのヒルデ。

 これだけの美女たちとの混浴など、理性が蒸発しそうになる。


『(お、落ち着け俺……俺はただの球体……)』


 必死に無心を装っていると、脱衣所から入ってきたヒルデが、俺を見るなり震えだした。


「なんと……! 湯が輝いている……! これぞ、あるじが自らの魔力で沸かした聖なる湯……!」


 彼女は直立不動で合掌し、何か祈りを捧げ始めた。


「こ、このような聖水に、我が身を浸して良いものか……。まずはみそぎをしてから……」

「いいから早く入りなよー! 寒いってば!」


 ルルがドンと背中を押し、ヒルデはドボンッと豪快に湯船に落ちた。

 ようやく全員がお湯に浸かるが、ミリーナだけがなぜか隅っこで縮こまっている。


「……あ、あのぉ、ヒルデさん……」

「む? なんだ斥候スカウト殿」

「ミリーナでいいですぅ。あ、あのヒルデさん…」

「し、尻尾が……当たってますぅ……。あと、鱗が硬くて痛いです……」


 狭い浴槽の中で、ヒルデの太い尻尾がゆらゆらと動き、ミリーナを圧迫していたのだ。

 ヒルデはハッとして恐縮した。


「す、すまない! このように多数で入る湯船に慣れておらず……」

「狭いなら詰めればいいじゃん。ほら、尻尾こっち貸して」


 ルルが遠慮なくヒルデの尻尾を掴み、グイッと自分のほうへ引き寄せた。


「っ!? そこは敏感な……!」

「へぇ、結構筋肉質だね。これならハンマーの柄に使えそう」

「やめろ! 素材として見るな!」

「ひぃぃ……ルルさん、地竜を怒らせないでくださいよぉ……」


 怯えるミリーナ、容赦ないルル、そして翻弄される女騎士。

 騒がしいが、悪い雰囲気ではない。

 そんな中、俺の隣にプカプカと浮かんでいたユーグが口を開いた。


「ねえポンタ。エリスの『聖盾アイギス』のことなんだけど」

『ん? ああ、あの絶対防御か』

「うん。今は攻撃を防ぐだけだけど、熟練度が上がれば、受けた力をそのまま相手に返す『反射リフレクション』も使えるようになるはずだよ」


聖域展開だけでも相当なチート能力ではあるが、更に反射も使えると言うのか。


『反射か……。使いこなせば、攻防一体の最強スキルになるな』


 俺たちはのんびりと湯に浸かりながら、今後の戦術について語り合った。

 平和で、温かい時間。

 だが、この平穏を守るためには、もっと強くならなければならない。


          ◇


 風呂上がりは、お待ちかねの夕食タイムだ。

 今夜のメニューは、俺の現代知識を活かした「特製・豚キムチ鍋」だ。

 この世界にキムチはないが、似たような発酵野菜と辛味のある香草を組み合わせて、マリーに再現してもらった自信作だ。


 グツグツと煮える鍋から、食欲をそそるスパイシーな香りが立ち上る。


「いただきます!」


 挨拶もそこそこに、ヒルデが小皿に取り分けた肉と赤い野菜を口に運んだ。

 その瞬間、彼女の黄金の瞳が見開かれる。


「――ッ!? な、なんだこの刺激的な辛味と……後から追いかけてくる濃厚な旨味は!?」


 彼女はハフハフと息を吐きながら、猛スピードで箸を動かし始めた。


「熱い! 辛い! だが止まらん! これは未知の味覚だ……! おかわりを所望する!」


 その食いっぷりは、まさに竜そのものだ。

 隣で見ていたミリーナが、引きつった笑みを浮かべる。


「ひ、ヒルデさん……すごい勢いですね……。あ、あの、鍋の具材がなくなっても、私を食べたりしませんよね……?」

「安心しろミリーナ。我は偏食ではないが、仲間を食らう趣味はない」

「そ、それならいいんですけどぉ……」

「ほらヒルデ、もっと食べなよ」


 ルルが自分の皿から、豚肉をヒルデの皿に移した。


「あんた前衛タンクなんだから、カロリー摂らないと盾になれないでしょ」

「む……それでは遠慮なく頂戴する……」

「その代わり、あとでそのガントレットの構造、じっくり教えてよね」

「……ふっ。お主は好奇心旺盛だな」


 ヒルデが微かに笑みを見せ、肉を頬張る。

 それを見て、エリスも嬉しそうに微笑んだ。


『(……いいパーティになったな)』


 種族も生まれもバラバラな奴らが、一つの食卓を囲んで笑い合っている。

 孤独だった前世では考えられない光景だ。

 俺は基本的に食事を必要としない体だが、こうして仲間と同じ場の空気を味わうために、嗜好品である魔力水をちびちびと啜っていた。

 この場所を守るためなら、俺はどんな敵とも戦える。


 そう決意を新たにした、その時だった。


『――ピピッ、ピピッ』


 突然、俺の脳内に電子音が鳴り響いた。

 視界のHUDに、通信ウィンドウがポップアップする。


【着信:ギルドマスター・ギデオン】


 俺は魔力水を啜るのを止め、空中でピタリと静止した。

 これは俺のスキル『分隊無線スクワッド・ラジオ』の応用だ。


『……こちらアカマル。どうしたギデオン、藪から棒に』

『おお、繋がったか。その反応だと、無事に戻ったようだな』


 脳内に、ギデオンの野太い声が響く。


『ああ、たった今な。飯の最中だ』

『そいつは悪かったな。だが、お前たちに頼んでいた「迷わずの森」の調査依頼……その報告を早急に聞きたくてな』


 さすがはギルドマスター、耳が早い。


『……帝国のプラントを一つ潰した。森の異変は止まるはずだ』

『……帝国、か』


 ギデオンの声色が、ズシリと重くなる。


『……嫌な予感はしていたが、やはりそうか。詳しい話は直接聞かせてもらおう。明日の朝一で、ギルドのマスター室に来てくれ』

『了解した。報告書をまとめていく』

『ああ。それとな……お前たちに「見せたいもの」がある』


 見せたいもの?


『お前らの戦力強化に関わる案件だ。……期待して来い』


 プツン。

 そこで通信が切れた。

 俺は意識を現実に戻し、心配そうに見つめる仲間たちを見回した。


「師匠……? 誰かと話してたの?」


 ルルが首を傾げる。

 この通信は俺にしか聞こえないから、傍から見れば急に黙り込んだ変なダルマだ。


『ああ、ギデオンからだ。明日の朝ギルドに来いとさ。「迷わずの森」の報告と……俺たちに「見せたいもの」があるらしい』

「見せたいもの?」


 エリスがきょとんとする。


『さあな。だが、「戦力強化」に関わることだと言っていた。……悪い話じゃなさそうだ』


 俺たちは残りの鍋を平らげ、明日に備えて早めに休むことにした。

 ギデオンが持ってくる話だ。きっとまた、俺たちを強くしてくれる何かが待っているに違いない。

 

 新たな冒険の予感を、微かに感じながら。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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