世界樹の精霊と、亡国の姫君
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帝国の採掘プラントが大爆発を起こし、黒い煙と共に消滅した。
不快な機械音と、森を蝕んでいた不協和音が消え、遺跡に静寂が戻る。
「……終わった、のか?」
ヒルデが呆然と呟く。
彼女が何年もかけて守り、それでも押し留めることしかできなかった元凶が、跡形もなく消え去っていた。
『ああ、完全破壊だ。もう再稼働することはない』
俺はガトリング(アサルトライフル形態)の放熱フィンを開き、冷却しながら答えた。
だが、戦闘は終わったというのに、空間の振動が収まらない。
いや、むしろ強まっている?
『おい、どうなってる? まだ敵がいるのか?』
『否定。敵性反応はありません。……警告。マスターの許容量を超えた余剰魔力が、外部干渉を開始しています』
ソフィアの冷静な声が響く。
原因はエリスだ。
彼女のユニークスキル『接続者』のパスが、感情の高ぶりによって開きっぱなしになっている。
異次元から流れ込む奔流のような魔力が、行き場を求めて渦巻いていた。
『おいエリス、杖を抑えろ!』
「は、はい! でも、魔力が止まらなくて……きゃっ!?」
エリスの手の中で、『聖樹の枝杖』がドクンッ! とまるで心臓のように脈動した。
溢れ出した青い光の粒子が、杖の先端に急速に集束していく。
『何か出るぞ! 総員警戒!』
俺が身構えた、その時だった。
ポンッ!
気の抜けるような軽い破裂音と共に、光の中から何かが飛び出した。
それは、淡い光を纏った「半透明の少年」だった。
年齢は10歳くらいだろうか。服装こそこの世界のものだが、その体は幽霊のように透けている。
「ふぅー、やっと外に出られた! すごい魔力供給だったね。おかげで実体化できたよ、エリス」
少年はふわりと着地すると、屈託のない笑顔を見せた。
「えっ……? あなたは……?」
「うわぁっ! 何これ!? 透けてるよ? エネルギー体なの!?」
ルルが目を輝かせて、スパナ片手に突撃しようとする。俺は慌ててアームを伸ばし、彼女の襟首を掴んで止めた。
ミリーナはビクッと身体を震わせ、俺の背後に隠れる。
「ひっ……お、お化け……? ……あ、あれ?」
怯えていたミリーナだったが、すぐにモコモコのイヤーマフの上から耳を抑え、不思議そうな顔をした。
「怖く……ないです。この音、すごく懐かしい……。昔、お母さんが歌ってくれた子守唄みたいな……そんな、優しい波長がしますぅ」
少年はニコリと笑い、俺たちの周りをくるりと回った。
「初めまして、異界の魂を持つ『赤き星』とその仲間たち。僕は『世界樹の若枝の精霊』。……ここで『母様』の根を守っていたものさ」
世界樹の精霊。
その言葉に、誰よりも早く反応したのがヒルデだった。
彼女はその場に崩れ落ちるように平伏し、震える声で叫んだ。
「ははっ……! まさか、『若枝の君』が御自ら姿を現されるとは……! 守護騎士ヒルデ、感涙の極みにございます!」
どうやら、彼女が仕えていた「主」の正体らしい。
精霊の少年は、地面にひれ伏すヒルデを見て、苦笑いしながら肩をすくめた。
「顔を上げてよ、ヒルデ。君が一人でここを守ってくれていたことは知っているよ。……帝国の『精神汚染波』のせいで、僕の声が届かなくなってごめんね」
「も、勿体なきお言葉……!」
精霊は空中にあぐらをかき、真剣な表情で俺たちを見回した。
「君たちには、感謝と同時に、知っておいてほしいことがある。……この世界の『仕組み』と、帝国が犯している大罪についてだ」
彼は指先で空中に光の図形を描いた。
それは、以前エリスが長老から聞いたという『御伽噺』の情景だった。
「君たちは知っているかい? かつて女神様が、世界を飲み込もうとした『黒い獣』を封じるために、自らの心臓を大地に突き刺した話を」
「……はい。村の長老から聞きました」
エリスが頷く。
「そう。その『心臓』から芽吹いたのが、僕たちの母様――世界樹だ。つまりこの樹は、世界にマナを循環させる血管であると同時に、邪神を封じ込める『巨大な楔』なんだよ」
光の図形の中で、大樹が地下深くの「黒い影」を抑え込んでいる様子が描かれる。
だが、その根元にドス黒いパイプが打ち込まれ、樹の輝きが吸い取られていく。
「帝国は、その楔に汚いパイプを突き刺して、無理やりエネルギーを吸い取っている。……楔が弱まれば、どうなると思う?」
『……封印が解け、下の獣が目を覚ます』
「正解。彼らは目先のエネルギー欲しさに、世界を滅ぼすスイッチを押しているようなものさ」
少年は悲しげに目を伏せた。
「血管が詰まり、楔が腐り始めている。最近、世界各地で起きている『異変』や魔物たちの暴走は、その痛みに耐えかねた星の悲鳴なんだ」
なるほど。
俺たちが戦ってきた異変の数々は、全て帝国のこの自殺行為が引き金になっていたわけか。
「今回の遺跡は、その血管の重要な『中継ポンプ』だったんだ。もし君たちが来てくれなかったら、この一帯の楔は折れ、死の大地になっていたよ」
精霊はエリスに向き直り、柔らかく微笑んだ。
「特に君だ、エリス。君が『聖盾アイギス』を展開してくれなかったら、浄化は間に合わなかった。……さすがは、アイギス王家の血筋だね」
その言葉に、ヒルデが弾かれたように顔を上げる。
「やはり……! あの聖域の御業、そしてその杖……。貴方様は、帝国に滅ぼされた聖王国の……」
エリスは観念したように俯き、杖を強く握りしめた。
そして、意を決したように顔を上げ、俺たちを見た。
「……黙っていて、ごめんなさい。私は、エリス・フォン・アイギス。……国を追われた、最後の王族です」
重い沈黙が落ちる。
亡国の王女。
その肩書きが持つ意味は重い。帝国に知られれば、間違いなく最優先で狙われる存在だ。
だが。
「ふーん、そうだったんだ」
静寂を破ったのは、ルルの間の抜けた声だった。
彼女はスパナで頭をポリポリとかきながら、ニカっと笑った。
「でも、それがどうしたの? エリスはエリスでしょ? お姫様だろうが何だろうが、私の大事な家族には変わりないよ!」
「ルルちゃん……」
「そうですよぉ」
ミリーナもおずおずと近づき、エリスの手をそっと握った。
「王女様だなんて……私、おとぎ話の中の遠い人だと思ってました。……でも、エリス様も私と同じで、故郷を失くして、ずっと一人で辛い思いをしてきたんですね……」
彼女の目には、身分差への畏怖よりも、同じ境遇の少女への共感の色が浮かんでいた。
「……みんな……」
エリスの瞳に涙が溜まる。
彼女は濡れた瞳で、最後に俺を見た。
『……何を心配そうな顔をしてるんだ』
俺は呆れたように思考を飛ばした。
『俺は、旅の初めに聞いていただろ? 焚き火の前で』
「……あ」
エリスがハッとする。
そういえば、まだ二人きりだった頃、彼女は自分の素性を明かしてくれたことがあった。
俺にとっては、彼女が王女だろうが村娘だろうが関係ない。
彼女は、俺をこの世界に呼び出し、居場所をくれた大切なパートナーだ。
『言ったはずだぜ。お前が誰だろうと、俺が守るってな』
「……はいっ! ポンタさん!」
エリスが涙を拭い、満面の笑みを浮かべる。
そんな俺たちのやり取りを見ていたヒルデが、静かに進み出た。
彼女はその場に跪き、エリスと俺に向かって深々と頭を垂れた。
「なんと……! 我が主は、この世界を救う力を持つ御方。そしてエリス様は、我が一族が代々お仕えしてきた主君の血筋……!」
彼女の中で、全てのピースがハマったようだった。
武人としての忠義と、騎士としての使命。その二つが矛盾なく統合されたのだ。
「これ以上の誉れはありません。……我が剣は『主』のために。我が盾は『姫様』のために。この命尽きるまで、お二方をお守りします!」
あまりにも真っ直ぐすぎる忠誠心。
少々重いが、彼女らしくて頼もしい。
「うんうん、いいパーティだね」
精霊の少年が満足げに頷いた。
「騎士ヒルデ。君に新たな任務を与える。……ここに留まるのではなく、彼らと共に『北』へ向かうんだ」
「北、でありますか?」
「そう。汚染の源流は、帝国の本拠地に近い『北の大地』にある。……僕の『母様』もそこにあるんだ」
精霊はパチンと指を鳴らした。
すると、遺跡全体を包むように、新しい結界が展開される。
「ここは僕が結界を張り直しておくから大丈夫。君は、彼らの剣となって道を切り開いておくれ」
「はっ! 謹んでお受けいたします!」
これで、ヒルデが遺跡を離れる理由もできた。
精霊の身体が、徐々に光の粒子となって薄れていく。
「ポンタ、と言ったね。君の魂は面白い。……また会おうね。君たちが『北』へ来るのを待っているよ」
最後にそう言い残し、少年はエリスの杖の中へと吸い込まれるように消えた。
遺跡に、穏やかな風が吹き抜ける。
もう、不快なノイズはない。
俺たちは顔を見合わせた。
『よし、話はまとまったな』
俺は仲間たちを見回した。
エリス、ルル、ミリーナ。そして、新しく加わった金髪の女騎士ヒルデ。
最高のチームだ。
『帰るぞ。俺たちの家に』
「「「おー!」」」
「うむ、帰還しようぞ!」
こうして、俺たちは新たな仲間と、世界の謎への手がかりを手に、夕焼けに染まる森を歩き出した。
目指すは、俺たちの拠点「アカマルハウス」。
そこには、きっと賑やかで温かい日常が待っているはずだ。
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