青き聖域と、無限の黄金弾
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勝負は決した。
だが、その代償は大きかった。
守り手であるヒルデが吹き飛ばされたことで、今まで彼女がその身で堰き止めていた「黒い泥」が、一気に決壊したのだ。
ドス黒い汚染の奔流が、津波のように世界樹の根へと押し寄せる。
「あぁ……主よ。……申し訳、ありませぬ……」
ヒルデは折れた腕をだらりと下げ、地面に膝をついていた。
その瞳には、深い絶望の色が浮かんでいる。
彼女の全身から、制御を失った赤黒い魔力がバチバチと迸り始めた。
『おい、まさか……自爆する気か!?』
「我が命を糧に……せめて、この汚れだけでも吹き飛ばす……!」
彼女は自分の命を魔力爆弾に変え、心中するつもりだ。
だが、そんなことをすれば彼女自身はもちろん、守るべき世界樹の根さえも傷ついてしまう。
「ダメっ……!」
エリスが悲鳴のような声を上げる。
助けなきゃ。でも、どうすれば?
あんな濁流、私の『防護』じゃ防ぎきれない。
焦るエリスの脳裏に、不意にあの「声」が響いた。
『――焦らないで、エリス』
鈴を転がしたような、中性的な少年の声。
夢の中で聞いた、あの声だ。
『君ならできるよ。母様の枝を使って、君の「ルール」を世界に刻むんだ』
(ルール……? でも、私にはまだ、そんな力……)
『強さは関係ないよ。……思い出して。夢の中の「彼女」は、必死に壁を作っていたかい?』
エリスはハッとする。
夢の中で見た、銀髪の女王。彼女は敵と戦ってはいなかった。
ただ静かに、そこにある平穏を「肯定」していただけだった。
『そう。彼女は「戦わなかった」。ただ「ここは安全な場所だ」と決めただけ。……イメージして。君が拒絶したいものと、絶対に失いたくない大切なものたちを』
エリスは杖を握りしめ、目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、大切な仲間たちの顔。
いつも元気なルルちゃん。怖がりだけど優しいミリーナさん。
そして、どんな時も前に立ち、私たちを守ってくれる頼もしい背中――赤い球体のポンタさん。
その時。
エリスの心象風景の中で、ポンタの姿が一瞬揺らいだ。
ダルマのような丸い背中に、「燃えるような赤い髪をした、精悍な青年の笑顔」がダブって見えた気がした。
(え……? 今の人は……)
誰かは分からない。けれど、その幻影は不思議と温かく、エリスの心に強烈な安心感を与えた。
恐怖が消え、静かな決意が満ちていく。
『……いいイメージだ。さあ、宣言して。君の聖域を』
エリスはカッ、と目を見開いた。
もう迷いはない。
彼女は暴走寸前のヒルデの前に飛び出し、静かに、けれど世界に刻み込むように杖を掲げた。
「ここは、穢れが触れていい場所じゃない! ――顕現せよ、【聖盾アイギス】!」
瞬間。
エリスを中心に、青い光の粒子が幾何学模様を描き出した。
展開されたのは、無数の六角形が組み合わさった、ドーム状の光の障壁。
それはかつて夢で見た、絶対不可侵の聖域。
ジュワァァァ……ッ!!
押し寄せた黒い泥の津波が、光の盾に触れた瞬間、蒸発するように浄化されていく。
泥は一滴たりとも、聖域の内側には入れない。
さらに、ヒルデの身体を蝕んでいた暴走魔力も、アイギスの光に包まれて優しく鎮静化されていった。
「な……ッ!?」
ヒルデが驚愕に目を見開く。
自爆の熱が引き、代わりに温かな光が彼女を包み込んでいた。
「この温かい光は……まさか、伝承にある『王の聖域』……?」
泥の奔流が止まる。
だが、まだ終わってはいない。
聖域の外、遺跡の最奥で、汚染の元凶である「帝国の採掘プラント」が不気味に唸りを上げたのだ。
ブォォォォォォン……!
機械の周囲に、禍々しい紫色のドームが展開される。
「ルル、解析できるか?」
「無理だよ師匠! あれ、物理的な干渉を全部弾くバリアだ!」
ルルの言葉を、ソフィアが補足する。
『警告。対象の周囲に高密度の「暗黒魔力結界」を確認。物理干渉無効化、および自動呪詛反撃の特性を持っています』
ヒルデが悔しげに呻く。
「無駄だ……。あの結界は、我が剛拳でも傷一つ付かなかった。あれがある限り、いずれ汚染は再開する……」
物理干渉無効。
パイルバンカーも魔弾の一種ではあるが、結局は「質量を持った杭」を叩き込む物理的な衝撃に依存している。
あの結界は、その「衝撃」という概念そのものを拒絶する厄介な代物だ。
『物理法則そのものが通用しない相手か。……なら、どうする?』
『提案。この世界の物理法則を覆すほどの、高密度かつ純粋な魔力エネルギーによる飽和攻撃を推奨します』
ソフィアの冷静な分析。
俺の脳裏に、かつて廃坑の遺跡でミスリルゴーレムと戦った時の記憶が蘇る。
あの時、エリスとのパスが繋がり、無限の魔力が流れ込んできた感覚。
あれなら、理屈ごと結界を吹き飛ばせる。
『エリス。俺にバフをくれ。「あの時」みたいに、思いっきりな』
俺は浮遊したまま、背後のエリスに声をかけた。
エリスが顔を上げる。
「あの時……無限の魔力を、ポンタさんに……」
『そうだ。今のアイギスを展開したお前なら、意図的にやれるはずだ』
エリスは杖を俺に向け、意識を集中させた。
しかし、一瞬だけ迷いが生じる。
あれは暴走に近い現象だった。自分の意志で、あの巨大なパスを繋げられるだろうか?
『――大丈夫。怖がらないで』
また、少年の声が彼女を導く。
『目に見える世界の外側を感じて。そこには、この世界の波長とは異なる、無限のエネルギーが流れている』
(異次元の……エネルギー……)
『そう。君は「接続者」。扉を開き、その流れを彼に繋ぐだけでいい』
エリスは深く息を吸った。
感じ取れる。大気の裏側に流れる、奔流のような力の脈動を。
彼女はその「扉」を開き、杖を通して俺へとパスを繋いだ。
「――遮る理を断ち切る刃を! 【鋭利化】!」
詠唱と共に、本来なら武器の切れ味を少し上げる程度の初級支援魔法が放たれる。
だが、エリスのユニークスキル『接続者』が発動した今、その意味は変質していた。
ドクンッ!!
俺の内部フレームが、奔流のようなエネルギーに晒されて軋みを上げる。
『警告! 警告! 外部より測定不能な魔力流入を確認! エネルギー充填率1500%を突破! 計測不能!』
ソフィアの狼狽した声。
だが、俺は冷静だった。
『……来た来た、この感じだ』
全身を駆け巡る、熱い奔流。
俺の赤い球体ボディに、幾何学的な金色の紋様が浮かび上がり、まばゆい輝きを放ち始める。
ただのバフじゃない。異次元の魔力が、俺という器を通してこの世界に顕現しようとしているのだ。
『ありがとよ、エリス。これなら遠慮はいらねぇな』
俺は魔力アームを変形させた。
ガトリングガンはまだ未完成だが、俺にはこの「アサルトライフル形態」がある。
普段は魔力消費が激しすぎて連射できないが、今の俺は無限の弾倉を持っているに等しい。
『消え失せろ、不法投棄ゴミ! ――【黄金弾幕・フルオート】!!』
トリガーを引き絞る。
銃口から放たれたのは、弾丸ではなかった。
圧縮された魔力が連なり、一本の極太の黄金レーザーとなって迸る。
ズガガガガガガガガガッ!!!
光の嵐。
数千、数万発の魔弾が、一瞬のうちに暗黒結界へと叩き込まれる。
物理を無効化する闇の盾も、理を書き換えるほどの飽和攻撃の前には無力だった。
パリンッ……!
ガラス細工が砕けるような音と共に、結界が粉砕される。
黄金の濁流は止まらない。
そのまま奥の採掘プラントを飲み込み、装甲を溶解させ、魔力炉ごと跡形もなく蒸発させた。
ドオオォォォォンッ!!
最後に大きな爆発が起き、黒い煙が上がる。
汚染の元凶は、完全に消滅した。
静寂が戻る。
機械が消えたことで、森を支配していた不協和音も嘘のように消え去っていた。
「……静かになりました。世界樹さんが、喜んでます」
ミリーナが、両手で押さえていたモコモコのイヤーマフから手を離し、嬉しそうに微笑んだ。
「……信じられん」
呆然とした声が漏れる。
ヒルデだ。
彼女は、黄金の紋様を纏って浮遊する俺を、震える瞳で見上げていた。
それは恐怖ではない。
武人が、遥か高みの存在を見た時に抱く、純粋な武者震いだ。
(あのような力を持っていながら……このお方は、我との戦いでは、あの一撃に留めたのか……?)
彼女は理解したのだ。
もし、あの黄金の嵐を自分に向けていたら、自分は塵も残らず消えていただろう。
この赤き球体は、圧倒的な力を持ちながら、自分を殺さぬよう手加減してくれていたのだと。
「なんと、慈悲深く、強大な……」
ヒルデは動かない体を叱咤し、這うようにして俺たちの前へ進み出ようとする。
だが、ダメージは深く、その場に崩れ落ちそうになった。
「あ……」
「じっとしててください! すぐに治します!」
エリスが駆け寄り、手をかざす。
『接続者』のパスはまだ繋がっている。今の彼女の魔法は、全てが規格外だ。
「――【大治癒】!」
カッと強い光が溢れる。
無限の魔力が注ぎ込まれたそれは、「再生」を遥かに超えた奇跡をもたらした。
ヒルデの砕かれた腕、全身の打撲、内出血が瞬く間に完治するだけではない。
粉々に砕け散っていたはずの黄金のガントレットまでもが、光の粒子となって彼女の腕に集束し、傷一つない新品同様の姿へと再構成されていく。
「バカな……。体だけでなく、武具までもが修復されたというのか……?」
ヒルデは蘇った自分のガントレットを見つめ、信じられないという顔でエリスを見る。
そして、居住まいを正すと、俺とエリスの前で深々と頭を垂れた。
「我が名はヒルデ・リンドブルム。地竜の騎士にして、この庭の守護者なり」
彼女の声は震えていた。
悔しさではない。感極まった涙声だ。
「数々の無礼、万死に値する。……だが、貴方様は我が力及ばず守れなかった『庭』を救い、あまつさえ愚かな我に情けをかけてくださった」
彼女は顔を上げ、濡れた瞳で俺を見つめる。
その目には、一点の曇りもない忠誠の光が宿っていた。
「貴方様こそ、我が待ち望んだ真の王。……どうか、この身を捧げさせてほしい。我が新たなる主よ!」
こうして、世界樹の守護騎士ヒルデ・リンドブルム。
彼女との出会いは、俺たちのパーティ『アカマル』にとって、新たな物語の始まりとなる、頼もしい仲間を得た瞬間だった。
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【キャラクター紹介: ヒルデ】
ある遺跡で世界樹の根を護っていた地龍人
高い耐久性を持ち魔法耐性も高い。
【能力・スキル】
龍鱗の障壁 皮膚表面に展開される薄い光の膜。生体オリハルコンに匹敵する異常な硬度を持ち、散弾銃の至近距離射撃すらノーダメージで弾き返す、まさに「歩く要塞」。
神速の踏み込み(縮地) 重厚な鎧と巨大なガントレットを装備しているとは思えない速度で間合いを詰める。その脚力は弾丸のようであり、一瞬で相手の懐に潜り込む。
【武装・必殺技】
特注ガントレット 両腕に装備された巨大で重厚な手甲。攻防一体の要であり、彼女の強力な魔力と拳圧に耐えうる唯一の武装。
震脚
大地を粉砕するほどの力で踏み込み、土砂の津波と物理的な衝撃波を広範囲に発生させる。
地龍・剛撃衝
全身の魔力を右の拳一点に極限まで圧縮・収束させ、背後に巨大な地龍の幻影と共に放たれる彼女の最大奥義。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
遂に新しいメインパーティメンバーにヒルデが加わりました。
ポンタの射撃をカバー出来る近接先頭と火力、タンク役を思い描いてました。
ヒルデの加入で今後の戦闘がより幅広くなると思うので楽しみにしていて下さい。
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