『激突、砕けぬ竜の拳』
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「――【震脚】!!」
黄金の地竜人の足が、大地を粉砕した。
ドォォォォォォォンッ!!
鼓膜を劈く轟音と共に、視界が歪む。
比喩ではない。物理的な衝撃波が遺跡の床板を波打たせ、巨大な土砂の津波となって俺たちへ襲いかかってきたのだ。
地面が生き物のように牙を剥く。
回避行動に移るまでの時間は、コンマ数秒しかない。
『総員、上へ逃げろ! 地面にいるな!!』
俺は思考通信で叫ぶと同時に、背中の浮遊スラスターを最大出力で噴射した。
青白い魔力光を撒き散らし、赤い球体が宙へと跳ね上がる。
「きゃぁっ!?」
「くっ、何とかもって……! 【風の障壁】!」
逃げ遅れたミリーナを、エリスが庇うように杖を掲げる。
展開された風の障壁が、押し寄せる瓦礫の波を左右へと受け流す。
「っとと! 危なーい!」
ルルはもっと曲芸的だった。
迫りくる隆起した岩の頂点に、巨大モンキーレンチを棒高跳びの要領で突き立てる。
しなるレンチの弾性と、ドワーフの怪力を利用して、彼女は軽業師のように遥か頭上へと舞い上がった。
「へへっ、高い高い!」
なんとか全員、初撃の直撃は免れた。
だが、安堵する暇などない。
土煙が舞う中、ゾッとするような殺気が、俺の背骨を駆け上がったからだ。
『警告。下方より高エネルギー反応。急速接近』
ソフィアの警告が遅く感じるほどの速さだった。
土煙を裂いて、金色の影が弾丸のように飛び出してきた。
ヒルデだ。
彼女は、重厚な鎧と巨大なガントレットを装備しているとは思えない速度で跳躍してきやがった。
「逃がさぬと言ったはずだ! 鉄屑風情がぁぁッ!!」
空中にいる俺の目の前に、鬼神の形相が迫る。
彼女が振りかぶった右拳は、魔力を帯びて赤熱し、空気を焦がしていた。
『チッ、速えな……! 簡易障壁、展開!』
俺には人間のような腕はない。
とっさに機体前面に魔力を集中させ、円形の小さな障壁を展開して防御態勢を取る。
ガギィィィンッ!!
遺跡全体に響き渡るような、金属音。
重い。
とてつもなく、重い。
まるで高速で走る列車と正面衝突したような衝撃が、シールド越しに俺の丸い体を軋ませる。
『ぐゥッ……!?』
『シールド耐久値、一撃で15%消失。マスター、物理的衝撃が許容値を超えています』
俺は空中で弾き飛ばされ、数十メートル後方の壁際へと着地した。
ズザザザッ、と火花を散らしながら、足裏のスパイクを地面に食い込ませてブレーキをかける。
――強い。
今まで戦ってきた魔物や、帝国の機械兵士たちとは次元が違う。
これが、世界樹を守護する「騎士」の実力か。
「ほう。我が拳を受けて砕けぬとはな」
ヒルデが音もなく着地する。
彼女は、湯気を立てるガントレットを構え直し、鋭い眼光で俺を見据えた。
満身創痍のはずなのに、その闘志は全く衰えていない。底なしのスタミナだ。
『ソフィア、敵戦力を再評価しろ』
『了解。解析完了。対象の種族は「地竜人」。龍の血を色濃く引く上位種です。皮膚表面に展開された魔力障壁は「龍鱗」に匹敵する強度。……生体オリハルコン反応も検出されました』
なるほど。どうりで硬いわけだ。
生きた要塞そのものじゃないか。
「その強固な鎧。帝国の最新鋭機か? ……だとしても関係ない。主の庭を荒らす害虫は、一匹残らずすり潰すのみ」
完全に敵認定されている。
弁解しようにも、今の彼女は聞く耳を持たないバーサーカー状態だ。
止めるには、物理的に無力化するしかない。
『上等だ。……ソフィア、戦闘モード・ランクBへ移行。近接戦闘(CQC)で制圧する』
『了解。リミッター解除。近接火器管制、オンライン』
俺は魔力アームを操作し、ショットガンのポンプをガシャッと引いた。
重心を低く構える。
瞬間、ヒルデの姿がブレた。
「――遅い!」
縮地。
一足飛びで間合いを詰めてくる。
俺は彼女の踏み込みに合わせて、カウンターのショットガンを放つ。
ズドンッ!!
至近距離からの散弾。
圧縮された魔力弾の嵐が、彼女を飲み込む。
だが、ヒルデは避けない。
彼女は左腕のガントレットを前に突き出し、散弾を正面から受け止めた。
キンキンキンキンッ!!
硬質な音が連続して響く。
魔力弾は、彼女のガントレットと、その肌を覆う薄い光の膜――「龍鱗」に弾かれ、キラキラと輝く粒子となって霧散した。
傷一つない。
『マジかよ。魔力弾が通じないだと!?』
「軟弱な豆鉄砲だ!」
ヒルデが右拳を突き出す。
俺はスラスターを噴かしてサイドステップで回避するが、彼女の拳圧だけで衝撃波が発生し、装甲を削っていく。
「ルルちゃん、援護を!」
「任せて! 特製『錬金焼夷弾』をお見舞いだよ!」
エリスの声に応じ、ルルが懐から赤いフラスコを取り出して投げつける。
空中で瓶が割れ、紅蓮の炎が爆発的に広がる。
だが、ヒルデは視線すら向けない。
彼女が地面をドンと踏むと、床から鋭利な岩の槍が突き出し、炎を遮断した。
「小賢しい! 雑魚は黙っていろ!」
彼女の狙いは、あくまで俺一点。
他のメンバーを無視して、確実に一番厄介な敵を潰しに来ている。戦術眼も確かだ。
ガガガガッ!
ドゴォォォン!
拳とショットガンが交錯する。
俺と彼女の周囲だけ、空気が歪むほどの高エネルギーが衝突していた。
一進一退。
だが、ジリ貧なのは俺の方だ。
彼女の体力は底が見えないし、何よりあの装甲が硬すぎる。
『エリスの魔法をフルチャージすれば消し飛ばせるかもしれんが……それじゃ殺しちまう』
俺たちの目的は殲滅じゃない。
彼女を正気に戻し、この遺跡をあのヘドロの汚染から解放することだ。
そのためには、彼女の最大の武器である「ガントレット」を破壊し、戦意を喪失させるしかない。
『ソフィア。パイルバンカーの安全術式を全解除。圧縮魔力シリンダー、限界圧力まで充填しろ』
『警告。アームユニットの魔力回路が焼き切れる恐れがあります』
『構わん。一発で決める』
俺は大きくバックステップし、距離を取った。
逃げたのではない。
助走距離を作るためだ。
ヒルデも、俺の意図を察したらしい。
彼女は追撃をやめ、深く腰を落とした。
全身の魔力が、右の拳一点に収束していく。
周囲の空気がビリビリと振動し、足元の石畳が圧力でひび割れていく。
「……良いだろう。その鉄屑、小細工なしの全力で粉砕してやる」
彼女の背後に、巨大な地龍の幻影が揺らめいた気がした。
正々堂々。
正面からの殴り合いこそが、騎士の礼儀と言わんばかりだ。
『ありがたいね。そういう脳筋スタイル、嫌いじゃないぜ』
俺は右のアームユニットを展開する。
3本の杭が回転し、キィィィィン……と甲高い魔力駆動音が限界を告げる。
青白いスパークが散り、アームが赤熱し始める。
――刹那。
示し合わせたような合図などなかった。
ただ、互いの気が臨界点を超えた瞬間。
「「――――ッ!!」」
俺たちは同時に大地を蹴った。
スラスター全開の加速。
縮地による神速の踏み込み。
二つの質量が、ドームの中央で激突する。
「穿てぇぇッ! 【地龍・剛撃衝】!!」
ヒルデの拳が、流星のような輝きを放って突き出される。
俺はそれを避けなかった。
避ければ、後ろにいるエリスたちに被害が及ぶ。
それに何より――ここで引いたら、「男」が廃る。
『貫けッ! 【パイルバンカー・フルバースト】!!』
俺は右のアームを突き出し、ヒルデの拳のど真ん中へ、回転する杭を叩き込んだ。
ドォォォォォォォォォォンッ!!!
世界が白く染まった。
衝突点から発生した衝撃波が、ドーム内の黒い泥を吹き飛ばし、天井から瓦礫を降らせる。
金属と魔力が拮抗し、火花が散る。
本来なら、俺のアームごと粉砕されていてもおかしくない威力だった。
だが。
「……なッ!?」
ヒルデの表情が、驚愕に歪む。
彼女の自慢のガントレットに、亀裂が走ったのだ。
俺のパイルバンカーは、ただの物理攻撃じゃない。
かつて東の遺跡で、ヒヒイロカネの巨獣すら一撃で屠った、俺の切り札だ。
現代兵器の貫通理論と、異世界の魔力によるブースト。
その一点突破の威力が、この守護騎士の防具を上回った。
パキィィィィンッ!!
澄んだ破砕音が響き渡る。
ガントレットが砕け散り、その破片がキラキラと宙を舞う。
「がはっ……!?」
勢いを殺しきれなかったヒルデの体が、砲弾のように吹き飛んだ。
彼女は背後の世界樹の根の近くまで弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
『……っし、勝負ありだな』
俺は煙を上げる右アームを下ろした。
魔力回路は焼き付き、魔力で構成された強度なパイルバンカーの杭も折れ曲がっている。
ギリギリの勝利だった。
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