表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/39

腐食の森と、黄金の守護騎士

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★


 一歩、森に足を踏み入れた瞬間、世界が変わったようだった。


『…………』


 静かだ。あまりにも静かすぎる。

 本来なら聞こえるはずの鳥のさえずりも、虫の羽音も、風が葉を揺らす音さえもしない。

 まるで森全体が死に絶えたかのような、不気味な静寂サイレンス

 漂っているのは、鼻を突く甘ったるい腐臭と、肌にまとわりつくような湿気だけだ。


「うぅ……頭が、割れそうですぅ……」


 ミリーナが、装着しているモコモコのイヤーマフを、さらに両手で強く押さえている。

本来なら、この特製イヤーマフがあれば大抵の騒音は遮断できるはずだ。  だが、今の彼女の表情は苦痛に歪んでいる。


「イヤーマフをしてても……ダメですぅ。キーンって音が、隙間から染み込んでくるみたいで……頭のなかで反響して……気持ち悪いです」


 ルナ一族の鋭敏すぎる感覚が様々なものを音として捉える。物理的な遮音を超えて、この森を支配する「何か」を拾ってしまっているようだ。


「キーンって音が、頭のなかで反響して……気持ち悪いです」


 俺はすぐにソフィアに解析を命じる。


『ソフィア、周囲の音波状況をスキャン』

『了解。……警告。環境音の欠如を確認。代わって、特定周波数の微弱な魔力波が森全体に放射されています』


 ソフィアの冷静な声が脳内に響く。


『これは生物の脳幹、特に「闘争本能」を司る部位に直接干渉する波長です。精神汚染マインド・ハックの一種と思われます』

『なるほどな。魔物たちを無理やり興奮状態ハイにさせてるってわけか』


 個別にチップを埋め込む手間もなく、エリア一帯の生態系を狂わせる。

 誰の仕業かは知らないが、随分と趣味の悪いやり口だ。


 ガサガサッ!!


 その時、前方の茂みが爆発するように弾け飛んだ。


『警告。敵性体接近。フォレスト・ベアです』


 飛び出してきたのは、森の王者とも呼ばれる巨大な熊だ。

 本来、この種の熊は獰猛だが、同時に非常に慎重な性格をしている。自分より得体の知れない相手には、むやみに近づかない賢さがあるはずだ。


 だが、今のこいつは違った。

 全身の筋肉がどす黒く変色するほど膨れ上がり、血管が切れそうなほど浮き出ている。両目は血のように赤く、口からは泡を吹きながら、理性のない咆哮を上げている。


「グルルルルァァァァッ!!」


 完全に理性を焼かれている。

 あれではもう、痛みも恐怖も感じないだろう。ただ殺戮衝動のみで動く、生きた兵器だ。


「皆さん、来ます!」


 エリスが凛とした声を上げ、杖を掲げた。


「――女神の加護を!【身体強化フィジカル・ブースト全体エリア】!」


 エリスを中心にして、澄み渡る青色の波動が広がる。

 俺、ルル、そしてミリーナの体が清涼な青い光に包まれ、身体能力が底上げされた感覚が走る。


「うおおっ! 力が湧いてくるよ! サンキュ、エリス!」

「は、速いです……でも、筋肉が軋む音が聞こえます! フェイント……右から来ますぅ!」


 ミリーナが叫ぶと同時、熊が左右にブレるような高速機動で突っ込んできた。

 薬物強化されたその動きは、目で追うのがやっとだ。

 だが、ミリーナには「音」で敵の予備動作が手に取るように分かっているのだ。

 彼女は震える手で、しかし迷いなく弓を引き絞った。


 ヒュン!


 放たれた矢は、吸い込まれるように熊の右目付近に突き刺さる。


「グオッ!?」


 急所を穿たれ、熊の突進軌道がわずかにズレる。

 だが、それでも止まらない。暴れまわる丸太のような腕が、近くにいたルルへと振り下ろされる。


「ルル!」

「へっちゃらだよ! 私の『相棒』は頑丈なんだから!」


 背負っていた等身大の巨大モンキーレンチを轟音と共に振り回し、真正面から盾のように構える。


 ガギィィィンッ!!


 重金属同士がぶつかり合うような音が響く。

 ルルは一歩も引かなかった。

 小柄な少女に見えるが、彼女には祖父譲りの『ドワーフの血』が流れている。その細腕には、見た目からは想像もつかない剛力が秘められているのだ。

 エリスの強化魔法、レンチの重量、そしてドワーフの怪力による完全防御。

 弾かれた熊の体勢が、大きく崩れる。


「――今だよ、師匠!」


 ルルの合図。

 俺にはそれで十分だった。


『ナイスだ、二人とも!』


 俺は浮遊スラスターを全開にし、生じた隙へ一直線に飛び込む。

 狙うは懐。


『ソフィア、射撃シークエンス!』

『照準固定。ゼロ距離射撃、推奨』


 俺は熊の腹部に、ショットガンの銃口を押し当てた。


 ズドンッ!!


 森を揺るがす轟音。

 至近距離からの散弾を浴び、熊の巨体が木の葉のように吹き飛ぶ。

 背後の巨木に激突し、熊は二度と動かなくなった。


 光の粒子となって消えていく熊を見送りながら、俺はフォアエンドを引いた(ポンプアクション)。

 カシャリ、と小気味よい駆動音が響き、銃身から余剰魔力が白煙となって排出される。


『……ひどいよ。ただそこにいただけの動物を、こんな姿に変えるなんて』


 ルルがレンチを背負い直しながら、悔しそうに唇を噛む。

 その通りだ。この熊も被害者の一人に過ぎない。


「……音の発生源は、あっちです」


 戦闘後、少し落ち着きを取り戻したミリーナが、森の奥を指差した。


「あの崖の向こうから、すごく嫌な音がします。……きっと、そこに元凶があります」


 俺たちは警戒を強めながら、指差された方角へ進んだ。

 行き着いた先は、切り立った巨大な岩壁だった。一見するとただの行き止まりだが、ルルがニヤリと笑う。


「へへっ、ビンゴ! 岩に見せかけたホログラムと、物理障壁の二重ロックだね」

「開けられますか、ルルちゃん?」

「お任せあれ! これ、古代文明ロストテクノロジーの遺跡だよ。すご〜い!どんな仕組みで動いているのか気になるぅ。」


 ルルは巨大レンチを構え、岩壁にガシッと押し当てた。

 彼女のユニークスキル発動だ。


「スキル【機工の神髄ザ・メカニック】! ……構造理解、パスワードバイパス、強制解除! 開け、ゴマ!」


 レンチから青い魔力が流し込まれる。

 数秒後、「ガコン!」と重い解錠音が内部から響いた。

 岩壁の映像がノイズのように揺らぎ、消失する。そこには、地下へと続く石造りの階段が口を開けていた。


 プシュゥゥゥ……。


 開いた入り口から、冷たい風と共に、ヘドロのような腐臭が漏れ出してくる。


『……こいつは臭うな』


「夢で見た景色と、同じ気配がします」


 エリスが『聖樹の枝杖』を握りしめる。

 杖の先端にある宝珠が、ドクン、ドクンと脈打つように明滅している。

 まるで、持ち主に「急げ」と訴えかけているようだ。


「杖が導いてくれています。……あの女性は、この下にいます」


 俺たちは頷き合い、暗闇の階段を降りていった。


 ◇


 地下空間は、古代の遺跡のような場所だった。

 だが、その歴史ある石畳の上には、無粋な「黒いパイプ」が血管のように張り巡らされている。

 なぜ古代の遺跡に、こんな異質なものが設置されているのか。

 パイプの継ぎ目からは、タールのような黒い液体――『廃棄マナ』が漏れ出し、地面を腐食させていた。


『警告。空間内の汚染濃度、上昇中。長居は無用です』


 ソフィアの警告に従い、俺たちは先を急ぐ。

 そして、最深部の広大なドーム状の空間に出た。


「……っ! あれは……!」


 エリスが息を呑む。

 ドームの中央には、天井まで届く太い「世界樹の根」があった。

 周囲の地面は真っ黒な泥の海と化しており、不気味なパイプ群が今にもその聖なる根に触れようと迫っている。

 根自身も、汚染された空気の影響か、苦しげに脈動し、輝きを失いかけていた。


 そして、その泥の海の中心。

 根を守る防波堤となるように、仁王立ちしている一つの人影があった。


 太陽の光を糸にしたような、眩い金色の髪。

 頭には二本の角。腰からは太い龍の尻尾が伸びている。

 夢で見た通りの、地竜人の女性だ。


 彼女の鎧はボロボロに砕け、美しい金髪は泥と血に汚れている。

 だが、彼女の両腕には、まだ砕けていない巨大なガントレットが装着されていた。

 彼女は剣を持たない。己の肉体と、その籠手だけを武器に戦い続けてきたのだ。

 その瞳は燃えるように鋭く、極限状態にあっても決して折れてはいなかった。


「……また来たか、下郎どもめ」


 彼女が、低く唸るような声で告げる。

 その視線が、俺たちを射抜いた。


「飽きもせず、あるじの庭を汚しに来るとは……!」


 強烈な殺気。

 今まで戦ったどの魔物よりも重く、鋭いプレッシャーだ。

 どうやら、俺たちを遺跡を荒らしに来た敵の増援だと勘違いしているらしい。


「待ってください! 私たちは――」


 エリスが声をかけようとするが、彼女は聞く耳を持たなかった。


「問答無用……! 我が命尽きるまで、ここからは一歩も通さぬ!!」


 彼女が大きく脚を振り上げる。

 大地を踏み砕く構え――『震脚』だ。


『警告! 高質量の振動波を検知! 回避不能!』


 ソフィアの警報が鳴り響く。

 彼女の足が、地面に叩きつけられた。


「――【震脚アース・インパクト】!!」


 ドォォォォンッ!!


 遺跡全体が激震し、地面が波打つように隆起して、俺たちへと襲いかかってきた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、 ブックマーク登録や、広告下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!


執筆の励みになります!

↓↓【☆☆☆☆☆】評価お願いします↓↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ