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予兆の夢と、不穏な森

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★


 深い、深い、闇の中。

 私はまた、あの夢の中にいた。


『――ねえ、エリス』


 暗闇に、鈴を転がしたような少年の声が響く。

 それは中性的で、どこか懐かしい響き。


『聞こえる? 母様が泣いている声が』


 視界が開ける。

 そこは、かつて見た美しい世界樹の根元ではない。

 以前の夢で見た「銀髪の女王」が展開した、あの温かく完璧な六角形の聖域アイギスも、ここにはない。


 あるのは、ドス黒いヘドロのような闇だけ。

 機械のような不気味な駆動音と共に、闇は太古の根を腐らせ、溶かそうとしていた。


『かつて君が見た「聖域」の力。……今こそ、定める時だよ』


 少年の声は悲痛に震えている。


『見て。……たった一人で、その「庭」を守り続けている騎士を』


 声に導かれ、私は闇の底を見る。

 そこに、一人の女性が立っていた。


 太陽の光をそのまま糸にしたような、眩い金色の髪を束ねた、凛とした後ろ姿。

 龍の角と、太い尻尾を持つ彼女は、押し寄せる魔物の群れと、足元を侵食する汚染にたった一人で立ち向かっていた。


「はぁぁぁぁッ!!」


 彼女が大地を強く踏みしめる。

 その震脚しんきゃくだけで地面が隆起し、巨大な岩の壁となって魔物を弾き飛ばした。

 両腕には巨大な籠手ガントレット

 武人のような構えから放たれる一撃は、岩をも砕く威力だ。


 けれど――多勢に無勢。

 彼女の鎧は砕け、美しい金髪は泥と血に汚れ、呼吸は荒い。

 それでも彼女は、一歩も引かなかった。

 背後にある「根」を守るために。


『……守らねば。あるじの庭を……我が命に代えても……!』


 悲鳴ではない。

 それは、折れそうな心を必死に叩き直す、決死の覚悟の独白。


『あの子はずっと一人で戦っている。……もう、限界だよ』


 少年の声が告げる。

 彼女の物理的な強さでは、この汚染は防げないのだと。


『お願い、エリス。彼を……あの「赤い星」を連れてきて。彼なら、この絶望くさびを壊せるから』

『そして君が、新たな「聖域」を定めるんだ』


 視界が白く染まっていく。

 最後に見たのは、泥の中で膝をつきそうになりながらも、決して前を見ることをやめない彼女の、気高くも孤独な瞳だった。


 ◇


「――っ!?」


 ガバッ、と私は飛び起きた。

 心臓が早鐘のように鳴っている。

 頬には、冷たい涙が伝っていた。


「……前に見た夢よりも悪くなっているみたい…」


 胸のざわめきが収まらない。

 あれがただの夢ならいい。でも、あの少年の声と、悲痛な光景があまりにも鮮明すぎて。


「もし、あの夢が本当のことなのだとしたら……あの女性は誰なんでしょう。たった一人で、戦っています」


 ◇


 その日の午前。

 昨晩の通信による呼び出しを受けた俺たちは、ギルドマスター室を訪れていた。


「――来たか」


 重厚な執務机の向こうで、ギデオンが顔を上げた。

 その表情は、いつになく険しい。

 机の上には、周辺地域の戦術マップが広げられている。


「わざわざ呼び出してすまんな。だが、無線だけでは伝えきれない状況だ」


 ギデオンは太い指で、地図の東側――広大な森林地帯を指差した。


「東の『迷わずの森』。普段はCランク程度の魔物しか出ない狩場だが……今朝、調査隊から緊急連絡が入った」

『魔物の狂暴化……だったか?』

「ああ。草食獣までもが目を血走らせ、暴れ始めている。それだけじゃない。魔物たちが何かに怯えるように、森の奥から溢れ出してきているんだ」


 ギデオンが眉間を揉む。


「ただのオーバーフロウ(溢れ出し)の前兆なら、まだ予断は許さないが対処はできる。だが、今回は『質』が違う。……俺の勘だが、森の生態系そのものが狂わされているような、そんな嫌な気配がするんだ」


 古参兵の勘(直感)というやつか。

 伊達にこの街の防衛線を張り続けてきたわけじゃないらしい。

 俺が地図をスキャンして情報を記録していると、横にいたエリスが一歩前に出た。


「あの……ギデオンさん、ポンタさん」


「ん?」

「どうした、お嬢ちゃん」


「私、夢を見ました。……その森の奥深くで、何かが黒い泥に侵食されて、一人の騎士が助けを求めて戦っている夢です」


 一瞬、部屋が静まり返る。

 普通なら、夢の話なんて笑い飛ばされるかもしれない。

 だが、ギデオンは静かな瞳でエリスをじっと見つめ返した。


 エリスの銀髪と、手に持った『聖樹の枝杖』。

 彼はまるで、その奥にある「何か」を見定めるような目つきをした。

 それは、ただのギルドマスターではない。かつて世界の危機に立ち向かい、深淵を覗いてきた『元S級冒険者』としての理知的な瞳だった。


「……夢、か」


 ギデオンが、独り言のように呟く。


「『聖女』の予知夢……。笑い飛ばすほど、俺は若くない」

「え……?」

「お嬢ちゃん。あんたのその姿を見ているとな、古臭い御伽噺を思い出すんだよ。かつて世界を救ったという『銀の女王』の伝承をな」


 ギデオンは、あえてそれ以上の言葉を飲み込むように、ニヤリと口角を上げた。


「お嬢ちゃんが何かを受け取ったのなら、それはきっと意味があることなんだろう。……それに、その話は今の状況と妙に符合する」


 ギデオンは組んだ両手に顎を乗せ、俺へと視線を戻した。


「ポンタ。お前たちが雪山で『帝国の杭』をぶっ壊した一件……あれと同じことが、ここでも起きている可能性が高い」

『ああ、同感だ。俺たちの庭を荒らす害虫グリッチがいるなら、駆除しなきゃならねぇな』


 俺が肯定すると、ギデオンはふっと表情を緩めた。

 やはり、話が早くて助かる。


「頼む。……俺が動ければいいんだが、街の防衛指揮で手一杯だ。あの森の異常を止められるのは、規格外イレギュラーな連中しかいない」


『任せておけ。きっちり掃除してくる』


 ◇


 ギルドを出た俺たちは、一度屋敷に戻って準備を整え、すぐに出発することにした。


「いってらっしゃぁ~い。お屋敷のことはぁ、マリーにお任せくださぁ~い」


 玄関先で、マリーがふにゃふにゃと手を振っている。

 その横で、シルフィがジト目でミリーナを睨みつけていた。


「それと、そこのサボり魔! 隙を見てサボろうとしたら、私がここから『風の矢』でお尻を狙い撃つから覚悟しなさいよ!」

「ひぃっ!? まだ何もしてないですぅ! 心外ですぅ!」


 ミリーナがビクッと体を震わせ、お尻を手で押さえるような仕草をする。

 

『相変わらず、いい家守り(キーパー)だな』


 俺が感心して声をかけると、シルフィはツインテールを揺らしてフンと鼻を鳴らした。


「べ、別にあんたたちの為にやってるわけじゃないからね! 私が管理する屋敷が汚れるのが嫌なだけなんだから!」


 そう言って顔を赤らめるシルフィだが、俺たちが背を向けた途端、「ふふ~ん♪」と上機嫌な鼻歌が聞こえてきた。

 どうやら、留守中の監視体制は万全のようだ。


 今回の作戦メンバーは、俺、エリス、ルル、そして――。


「……よし、弦の張り具合も完璧ですぅ」


 ミリーナが真剣な表情で、木製の弓を確認していた。

 これまでは「索敵専門」だった彼女だが、今回からは武器を持つことを志願したのだ。

 『もう足手まといにはなりたくないんですぅ』と。


とは言え、彼女の索敵能力は他の追随を許さない素晴らしい能力なのだが、もっとパーティに貢献したいという意欲が強くなっている様だ。

ミリーナも普段はビビリでサボり魔ではあるが、悪く無い成長をしている。


『ソフィア。ミリーナに弓矢の適性、どう思う?』


『分析結果。ルナ一族は対象の「感情」や「殺意」までも音として捉えることができます。視覚に頼らず獲物の位置を正確に把握できるため、弓の扱いは達人級マスタークラスです』


 脳内でソフィアが補足情報を表示する。


『古来よりルナ一族は、月から文明の火をもたらした「月の兎」をルーツに持つと言われています。彼女のユニークスキル、地獄耳ラビットイヤーは、その名残なのです』


 なるほど。最初はヘタレな受付嬢の印象だっが、狩猟本能が刻まれているわけか。

 頼もしい後衛がまた一人増えたな。


「ガトリングの砲身は、ジイちゃん(ボルグ)の工場で焼き入れ中だからね! 今日は私が現地でエンジニアやるよ! 帝国の機械があるなら、データも取りたいし!」


 ルルは、彼女のトレードマークである等身大の巨大モンキーレンチを背負っている。

 あんな鉄塊を背負って転ばないか心配になるサイズだが、ルルは羽が生えているかのように軽快にスキップしている。この身軽さが彼女の凄いところだ。


 ちなみに解体道具はこれ一本で十分らしい。

 彼女のユニークスキル『機工の神髄ザ・メカニック』は、工具越しに対象に触れるだけで、その構造を魔力を通して一瞬で理解し、解体も修復も自在に行えるというデタラメな代物だ。

 俺の現代知識(設計図)を即座にこの世界に応用できるのも、このチートスキルがあってこそだ。


『よし、全員揃ったな』


 俺は仲間たちを見渡す。

 気合十分のエリス、等身大のレンチを担ぐルル、そして弓を手にしたミリーナ。

 バランスの取れたパーティになりつつある。


欲を言えば、後は近接戦闘も可能な火力兼タンク役が加われば部隊(パーティ)としてのバランスは完成されると考えている。



『ソフィア、ルート検索。目的地は東、「迷わずの森」最深部だ』

『了解。最適ルートを表示します。マスター、魔弾生成の残弾魔力を確認してください』

『問題ない。フルロードだ』


 俺たちは東へ向かった。

 街を抜け、街道を進み、やがて視界の先に見えてくる広大な緑の海――「迷わずの森」へ。


 そこには、俺たちの想像を超える異常事態と、新たな出会いが待ち受けているはずだ。

 俺は浮遊スラスターの出力を上げ、先頭を切って動き出した。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


夢の声や世界樹…

物語のメインストリームもだんだん、ここから明らかになってきます。


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