幽霊屋敷の掃除人(ゴースト・スイーパー)
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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静まり返ったホールに、俺たちの足音だけがコツコツと響く。
内部は外観以上に立派だった。高い天井には豪奢なシャンデリアが吊るされ、床には厚手の絨毯が敷かれている。
だが、その全てが薄暗い埃に覆われ、まるで時間が止まっているかのようだ。
「……ひぃぃ……。やっぱり、やっぱり何かいますよぉ……」
ミリーナが涙目で、俺の球体ボディにへばりつくようにして震えている。
「さっき足元を、冷たい手が撫でた気がしました……! 帰りましょうよぉ、ポンタ様ぁ……」
『泣くな。せっかく不動産屋が紹介してくれた「訳あり格安優良物件」だぞ。相場の十分の一だ』
俺は周囲を警戒しながら諭す。
先週入居した貴族の一家が、あまりの恐怖に一晩で逃げ出したという、いわく付き物件だが、この設備でこの家賃は魅力的すぎる。背に腹は代えられない。
「ふむ、内装もしっかりしてるね。この柱の彫刻、いい仕事してる」
ルルは恐怖心よりも職人としての興味が勝っているらしく、壁や柱をコンコンと叩いて回っている。
エリスも恐る恐るだが、興味深そうに周囲を見渡していた。
「お、お邪魔します……」
エリスが小声で挨拶をする。
その時だった。
正面の壁に飾られていた、立派な髭を蓄えた老紳士の肖像画。
その目が、ギョロリと動いた。
「――ひっ!?」
真っ先に反応したのは、やはりミリーナだった。
「み、見ました! 今、絵の人がこっちを見ました! 『帰れ』って目で睨みましたぁぁ!」
『落ち着け。……敵性反応、なし』
俺は冷静にマップを確認する。
赤点は表示されていない。
『ただの動く絵だろ。魔法仕掛けの防犯カメラか、あるいはループ再生のGIFアニメみたいなもんだ。実害はない』
「実害はなくても精神的被害が凄いですぅぅ!」
ミリーナが抗議するが、俺は無視して奥へと進む。
廊下を歩いていると、今度は天井から何かがポトリと落ちてきた。
「きゃぁぁぁぁっ!!」
悲鳴が屋敷に響く。
彼女の肩に乗っていたのは――毛むくじゃらの蜘蛛のオモチャだった。
「む、虫ぃぃぃ! いやぁぁぁ!」
「あはは! これよく出来てるー! ゴムで吊ってるだけだよミリーナ」
パニックになってルルに抱きつくミリーナ。ルルは面白がってオモチャを突いている。
『……殺気がないな。やる事が子供の悪戯レベルだ』
俺は違和感を覚えていた。
噂に聞く「悪霊」にしては、攻撃がささやかすぎる。どちらかと言うと「驚かせて追い返したい」という意図を感じる。
その時。
奥のキッチンの方から、今日一番の轟音が響いた。
ガッシャァァァァァァァン!!!
凄まじい破壊音。まるで食器棚ごとひっくり返したような音だ。
「ひぃっ!? こ、今度は何ですかぁぁ!?」
『……流石に今の音はデカいな。ポルターガイストか?』
「き、聞こえますぅ……! 怨念の声が……!」
ミリーナが長い耳を両手で押さえ、ガタガタと震えだした。
「『あらあら、またやっちゃいましたぁ……』って、脱力するような間の抜けた声が聞こえますぅぅ!」
『……は?』
俺は動きを止めた。
怨念? 間の抜けた声?
『……どうやら、ただの幽霊屋敷じゃなさそうだな。行くぞ』
俺たちは音のした大広間へと向かった。
***
大広間に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
宙に浮く椅子やテーブル。そして、半透明の少女が一人。
「もう! なんで出ていかないのよ! この鈍感ダルマ!」
新緑のような緑色の髪をツインテールにした、14歳くらいの少女の姿をした何かが、怒りの形相で俺たちを睨んでいた。
間違いなく、ポルターガイストの主犯だ。
(ソフィア、解析!)
『了解。……対象は高密度の魔力体。ゴースト(幽霊)ではなく、エレメント(精霊)に近い反応です』
脳内でソフィアの冷静な声が響く。やはり、ただの悪霊ではないか。
「ここは立ち入り禁止よ! 主様の屋敷を荒らす盗賊は、アタシが許さないんだから!」
少女が腕を振るうと、突風と共に浮いていた椅子が俺たちめがけて飛んでくる。
だが、それだけではない。
奥の部屋から、もう一人――澄んだ空のような青色のロングヘアを三つ編みにした、メイド服の女性がおぼつかない足取りで現れた。
「シルフィちゃぁん、お待ちなさぁい……。お客様にお茶をお出しして、話し合えば……きゃっ」
メイドは何もない平らな床で、盛大につまずいた。
「あぁぁぁぁ〜〜〜れェェェェ〜〜〜!」
スローモーションのように宙を舞うメイド。
そして彼女が持っていたお盆から、熱々のティーポットとカップが、物理法則を無視した放物線を描いて俺たちに降り注ぐ。
「あ、危ないです……! ……【防壁】!」
エリスがとっさに前に出て、半透明の光の盾を展開した。
カキン、カキンッ! と小気味よい音を立てて、カップの破片が弾かれる。
『ナイスだエリス! ……連携攻撃だったのか?』
俺は眉をひそめて分析する。
妹っぽい緑髪の方は風魔法で攻撃してきている。それに合わせて姉っぽい青髪のメイドが熱湯攻撃を仕掛けてきた――ようにも見えたが。
『……いや、違うな。片方はただの自爆だ』
あれは単にドジなだけだ。殺気以前の問題だ。
「ムカつくー! なんで避けるのよ! 出ていけ出ていけー!」
少女――シルフィと呼ばれた霊が、さらに魔力を高める。
屋敷中の家具がガタガタと震えだした。このままでは建物自体が傷む。
『交渉の余地はありそうだが……まずは落ち着いてもらうか』
(ソフィア、閃光弾の術式構築!)
『了解。非殺傷設定。出力調整完了』
俺のボディの横に、魔力で構成された円筒形の缶が出現する。
FPSにおいて、室内に立てこもる敵を制圧する定石。
俺は『分隊無線』を開いた。
『――皆んな、目を閉じろ! 耳を塞げ!』
俺の声が、仲間たちの脳内に直接響く。
とっさに三人が目を覆ったのを確認し、俺はピンを抜いた円筒を、二人の足元へ転がした。
「え? なにこれ?」
シルフィがそれを覗き込んだ、瞬間。
カッッッッ!!!!!
キィィィィィィィン!!!!
強烈な閃光と、鼓膜をつんざく爆音が炸裂した。
「ぎゃぁぁぁぁ! 目が、目がぁぁぁ!」
「あらあらぁぁぁ〜〜! 真っ白ですぅぅぅ〜〜!」
二人が目を押さえて悶絶する。
幽霊(または精霊)であっても、視覚情報に頼っているなら効果はある。
『ルル、例のブツだ!』
「了解! いけぇ、ダイソン級!」
ルルが取り出したのは、俺のアイデアを元に開発した魔導具『吸引機改』。
スイッチを入れると、暴風のような吸引力が発生する。
「きゃぁぁぁ!? 吸われるぅぅぅ!?」
「あらぁぁぁ〜〜! スカートがめくれちゃいますぅぅ〜〜!」
『確保!』
俺たちは抵抗する二人を物理的に吸い寄せ、ルル特製の『対魔力拘束ネット』で簀巻き(すまき)にした。
***
「……うぅ、酷い。いきなり光らせて、掃除機で吸うなんて……」
「目がチカチカしますぅ……」
拘束された二人は、リビングのソファ(無事だったもの)に座らされていた。
俺は彼女たちの前で、ゆっくりと語りかける。
『さて。いくつか聞きたいことがある。お前たち、ただの悪霊じゃないな?』
俺の問いに、緑髪の少女――シルフィが唇を尖らせた。
「ふん! 当たり前でしょ! アタシたちは高貴な精霊よ! この屋敷の主、偉大なる宮廷錬金術師アイゼン様の契約者なんだから!」
やはりか。
マップに敵対反応が出なかったのも頷ける。彼女たちは「場所を守っている」だけで、殺すつもりはなかったのだ。
『前の家主は、もういないんだろ?』
「……そうよ。とっくに死んじゃったわよ」
シルフィが寂しげに目を伏せる。
「でも、約束したの。『私の研究が、悪用されないように守ってくれ』って。ここには主様の危険な発明品がいっぱいあるから……泥棒たちに渡すわけにはいかないの!」
なるほど。
これまで貴族や冒険者を追い返していたのは、悪意ではなく、亡き主への忠義だったわけか。
「マリーもですぅ……。主様がいつ帰ってきてもいいように、毎日お掃除とお洗濯をして待ってるんですぅ……」
隣で青髪のメイド精霊――マリーが、おっとりとした口調で涙ぐむ。
見れば、彼女はメイド服が悲鳴を上げそうなほど豊かな、ダイナマイトボディの持ち主だった。
立っているだけで絵になる美女だが……さっきの盛大な転倒を見るに、どうやら足元がお留守になるのは彼女の『標準仕様』らしい。
『……事情は分かった』
俺はネットの拘束を解くよう、ルルに合図した。
「え? ……解いてくれるの?」
驚く二人に、俺はフッと息を吐いて語りかける。
『正直に言うと、俺たちは不動産屋から「この屋敷の幽霊騒ぎを解決してくれ」って依頼を受けてここに来たんだ。格安で貸してもらう条件にな』
「っ……! やっぱり……あんたたちもアタシたちを消しに来たのね……!」
シルフィが身構える。
だが、俺は首を横に振った。
『そのつもりだったが……気が変わった。お前たちを追い出したり、消滅させたりする気はない』
「……え?」
『お前たちがここに留まっていた理由が、ただの未練じゃなくて、立派な「忠義」だって分かったからな。そういうのは、嫌いじゃない』
俺は部屋を見渡す。
埃が溜まり、手入れが行き届いていない箇所も目立つ。
『それに、家ってのは人が住んで空気を入れ替えないと腐る。お前たちだけで守り続けるにも限界があるだろ?』
「そ、それは……」
『だから、提案がある』
俺はダルマの体を揺らし、二人の目を真っ直ぐに見据えた。
『俺たちがここを借りて住む。その代わり、俺たちが「魔導具の研究」と「屋敷」を、お前たちと一緒に守ってやる』
「……え?」
『俺たちは冒険者だ。戦闘に関してはプロだ。俺たちがここに住めば、コソ泥や盗賊なんて一歩も入れさせない』
俺は自信たっぷりに言い放つ。
『つまり、お前たちが必死になって侵入者を追い返す必要はもうないってことだ。荒事は俺たちが全部引き受ける。……そうすれば、お前たちは本来の仕事――「屋敷の管理」に専念できるだろ?』
「……っ!」
『それに、俺たちのパーティには優秀な技師と、魔導の使い手がいる。前の家主の研究資料を、正しく理解して継承できる人材だ。悪用なんてさせない』
俺の言葉に、マリーがパァァァッと顔を輝かせた。
「まあぁ……! ということは、もう怖い顔をして威嚇しなくていいんですの? また毎日お料理やお洗濯をしていいんですの?」
『ああ。特に料理は頼みたい。俺たちの仲間は食いしん坊が多いからな』
「はいぃぃ! マリー、腕によりをかけますぅ!」
マリーは嬉しさのあまり立ち上がり、その豊かな胸をプルンと揺らした。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! 簡単に信用しちゃダメよ!」
シルフィが慌てるが、俺は彼女にも向き直る。
『シルフィ、お前もだ。この広い屋敷、セキュリティ担当は一人でも多いほうが助かる。……俺たちの背中、守ってくれないか?』
「……っ!」
シルフィは顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。
「……ふ、ふん! まあ、あんたたちの実力は認めてあげるわよ。さっきの変な魔法も凄かったし……」
彼女はチラリと俺を見る。
「勘違いしないでよね! あんたたちを守るんじゃないわ、あくまで主様の屋敷を守るついでなんだから!」
『はいはい、分かったよ。よろしく頼むぜ、ツンデレ精霊さん』
こうして、交渉は成立した。
俺たちは格安で最高の拠点を手に入れ、さらに優秀な(?)ハウスキーパー二人を仲間に加えることになった。
「それでは改めまして、契約成立のお祝いに、特製のお茶を淹れますねぇ」
マリーがニコニコ顔で、新しいティーセットを持ってきた。
だが。
「あ」
何もないカーペットの縁に、彼女の足が引っかかる。
「あらぁぁぁ〜〜〜!」
ガッシャァァァァァァァン!!!!
本日二度目の轟音が、屋敷に響き渡った。
「ひぃぃぃ! ……結局、心臓に悪いのは変わらないですぅぅぅ……!」
ミリーナの悲鳴と、みんなの笑い声が、新しい拠点に温かく響いたのだった。
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