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商会長ゴルドーの提案と、丘の上の幽霊屋敷

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

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 翌日。

 俺たち『アカマル』の一行は、朝一番で商人ギルドの一角に店を構える『ゴルドー商会』を訪れていた。

 アルメニアでも一、二を争う大手商会だ。その本店ビルは威風堂々としており、受付の対応も洗練されている。


 通されたのは、ふかふかの絨毯が敷き詰められた特別応接室だった。


「ほっほっほ。お待ちしておりましたぞ、ポンタ様に皆様」


 出迎えたのは、綺麗に整えられた口髭を蓄えた、小柄な紳士だった。

挿絵(By みてみん)

 身長は100センチほどだろうか。子供のように低い背丈だが、その顔つきには年輪が刻まれ、高級なスーツをぴしりと着こなしている。

 彼こそが、一代でこの商会を築き上げた会長、ゴルドー氏だ。


『(……小さいな。ドワーフか?)』


 俺が内心で首を傾げると、脳内でソフィアが即座に補足を入れた。


『解答。対象の種族は「ハーフリング」と推測されます。平均身長は人間の腰ほどですが、手先が器用で弁舌に長け、商才や交渉事に優れた種族です。見た目の愛らしさに加え、高度な知性と商才を兼ね備えています。交渉相手として、非常に優秀な個体と推測されます』


 なるほど。可愛い顔して、頼れる大商人ってわけか。


「Bランク昇格、誠におめでとうございます。雪山でのご活躍、私の耳にも届いておりますぞ」

『へぇ、もう知ってるのか。流石はゴルドー商会、耳が早いな』


 俺が感心して見せると、ゴルドーはニコリと笑い、口髭を指先で撫でた。

 その瞳の奥には、商機を見定める鋭い光が宿っている。


「ええ、勿論ですとも。……しかし、事前に頂いた条件を拝見しましたが、中々に難しいリクエストですなぁ」


 ゴルドーは手元の資料をめくりながら、冷静に分析を始めた。


「十分な広さの工房スペースに、プライバシーを確保できる部屋数。そして女性陣のご希望である『ある程度の豪華さ』……。現在のアルメニアは冒険者の流入が増えておりまして、好条件の物件は市場に出る前に買い手がついてしまうのが現状でして」

『なるほどな。金ならあるが、モノがないってわけか』

「左様でございます。……ですが、そこを何とかするのが私の仕事。いくつか条件に近い物件を見繕わせました」


 ゴルドーがパチンと指を鳴らすと、控えていた案内係の部下が入ってきた。

 俺たちは彼の案内で、早速街へ繰り出すことになった。



 だが、現実はそう甘くはなかった。


「……狭いな」

「そうですね……。お洒落ではあるんですけど」


 一軒目。新市街に建つ、最新鋭の石造りマンション。

 外観はモダンで素晴らしく、磨き上げられた石壁は高級感に溢れていたが、部屋の中に入ってルルが顔をしかめた。


「作りがコンパクトすぎるよぉ。人間が住むだけならいいけど、私の大型工作機械とか、素材のストックを置く場所がないじゃん」

『確かに。これじゃあルルの荷物だけで通路が埋まっちまうな』


 俺も同意する。俺自身のサイズはバスケットボール程度だが、ルルの発明品は場所を取るのだ。


『分析。対象物件の床面積に対し、ルル個体の所有する機材占有率は120%を超過。生活空間が圧迫され、ストレス値の上昇が予測されます』

『却下だ。次に行こう』


 続いて案内されたのは、下町の繁華街に近い物件だった。


「おっ、ここは悪くないぞ!」


 二軒目。築年数は古いが、元は倉庫を兼ねていた商家らしく、作りが広い。

 地下には小さいながらも石造りの地下室があり、シャワー室も男女別にリフォームされている。

 軋む床も、直せば味になるだろう。


 だが――。


「にいちゃん! 寄ってかない!? いい店あるよ~!」

「へへっ、昼間っから一杯どうだい?」


 窓の外から、品のない呼び込みの声や、酔っ払いの怒鳴り声が聞こえてくる。

 ここは所謂、飲み屋街のど真ん中だった。治安はお世辞にも良いとは言えない。


「……うぅ、なんか怖そうな人がいっぱいですぅ」

「……」


 ミリーナが怯え、俺を抱いているエリスの手にも力がこもる。

 こんな環境に、純真なエリスを住まわせるわけにはいかない。教育上も精神衛生上も最悪だ。


『警告。周辺地域の犯罪発生率は平均の3.5倍。特に夜間の騒音レベルは睡眠阻害を引き起こす可能性が高いです』

『……却下だ。ここはナシだ』


 ソフィアの分析を聞くまでもない。俺は即断した。


 そして三軒目。

 俺たちは馬車に揺られ、街の城壁の外へと出ていた。


「わぁ……! 素敵!」

「空気が美味しいですぅ!」


 案内されたのは、美しい湖のほとりに建つログハウスだった。

 ウッディな外観は温かみがあり、部屋も広々としている。周囲は森に囲まれ、聞こえるのは小鳥のさえずりと湖面の波音だけ。

 まさに理想郷だ。ルルとミリーナは大はしゃぎしている。


 だが、俺は冷静に地図を確認し、首を横に振った。


『……遠すぎる』

「えっ?」

『ここに来るまでに馬車で半日かかったぞ。毎日ギルドへ通って依頼を受ける俺たちには、現実的じゃない』


 往復で一日が終わってしまう。これでは拠点ベースではなく、ただの別荘だ。


『計算。ギルドへの往復移動時間は約8時間。一日の活動時間の33%を移動に費やすことになり、業務効率が著しく低下します』

『だそうだ。残念だが、ここもダメだ』


◇ ◇


 夕方。

 すっかり歩き疲れた俺たちは、再びゴルドー商会の応接室に戻ってきていた。


「……ふむ。やはり、お気に召しませんでしたか」


 報告を聞いたゴルドーは、予想通りといった顔で紅茶を一口啜った。


『ああ。どれも決定打に欠けるな。……ゴルドー、あんたほどの大商人だ。本当はもっといいタマを持ってるんじゃないのか?』


 俺がカマをかけると、ゴルドーは口髭を撫で、柔和な表情のままニヤリと笑った。


「ほっほっほ。……さすがはお目が高い。実は一件だけ、皆様の規格外なご要望を全て満たす物件がございます」


 彼が机の上に、一枚の古びた資料を滑らせた。


「元は高名な宮廷魔術師が、隠居後の研究のために建てた館です。街外れの丘の上にあり、広さは十分、内装も豪華。おまけに、実験用に使っていた『離れの工房』まで完備されています」

「えっ! 工房付き!? 最高じゃん!」


 ルルが食いつく。だが、俺はゴルドーの目を見据えたまま聞いた。


『そんな優良物件が売れ残ってるわけがない。……何かあるんだな?』

「ええ。……所謂、『訳あり』でしてな」


 ゴルドーが声を潜める。


「『出る』のですよ。……悪霊が」

「ひぃっ!?」


 ミリーナが悲鳴を上げ、エリスもビクリと肩を震わせた。


「夜な夜な怪奇現象が起き、住み着いた者は皆、三日と持たずに逃げ出す始末。お陰で買い手がつかず、長らく塩漬けになっている不良債権なのです」


 なるほど、幽霊屋敷か。

 ゴルドーは俺たちの顔色を窺いながら、商談のカードを切った。


「そこで、提案がございます。……これを単なる不動産売買ではなく、『依頼』として受けていただけませんか?」

『依頼、だと?』

「はい。この屋敷の『悪霊騒ぎ』を解決していただきたいのです。もし成功した暁には、この屋敷を……そうですね、相場の十分の一、白金貨15枚でお譲りしましょう」


 白金貨15枚。

 この規模の豪邸なら、タダ同然の破格だ。

 ゴルドーにしてみれば、厄介な物件を処分でき、かつ恩も売れる。俺たちにとっても、理想の拠点が安く手に入る。

 まさに、ウィンウィンの取引だ。


『……ハーフリングってのは、見た目によらず随分と「食えない」種族らしいな』

「お褒めに預かり光栄です」


 俺はニヤリと笑い(心の中で)、差し出された資料を掴んだ。


『いいだろう。その話、乗った』


◇ ◇ ◇


 その日の深夜。

 俺たちは街外れの丘の上に立っていた。


 月明かりに照らされ、不気味なシルエットを浮かび上がらせる洋館。

 つたが絡まり、庭木は伸び放題になっているが、建物の骨格はしっかりしている。昼間に見れば風格ある建物なのだろうが、今の時間帯に見ると、魔王の城のような威圧感があった。


「うぅぅ……ほ、本当に夜に来るんですかぁ……?」


 ミリーナがガタガタと震えながら、エリスの後ろに隠れている。


「魔力反応があるよ! やっぱり本物だ!」


 ルルだけは平気なようで、魔力計を見ながらワクワクしている。


『エリス、大丈夫か?』


 俺が視線を上げると、俺を抱きかかえているエリスの手が、ぎゅぅ、と強まっていた。


「は、はい……。ぽ、ポンタさんがいれば、大丈夫です……」


 強がってはいるが、その指先はわずかに震えている。

 さすがのエリスも、正体不明のオバケは怖いらしい。

 俺は彼女を安心させるように、その腕の中で少しだけ体温(排熱)を上げた。


『離すなよ。何かあれば俺が吹き飛ばす』

「……はいっ」


 俺たちは意を決して、錆びついた鉄門をくぐった。


 ギィィィ……。


 重厚な玄関扉を開けると、そこは広大な吹き抜けのホールだった。

 埃の匂いと、冷たい空気が肌を刺す。

 まだ何もいない。

 だが、暗闇の奥へと一歩足を踏み入れた瞬間、背筋が凍るような気配が俺たちの足元を撫でた気がした。

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