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『最速Bランクと、白金貨80枚』

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★


 アルメニアの街に戻った俺たちは、真っ先に馴染み深い『金床の火花亭』の扉をくぐった。


「おう、待ちくたびれたぞ。ヒヒイロカネの基礎打ちは終わってるが……肝心の『冷却モン』がなきゃ、こいつはただの鉄屑だ」


 工房の奥から、煤まみれのボルグが顔を出す。

 作業台の上には、以前遺跡で手に入れたヒヒイロカネから叩き出された、六本の鈍い輝きを放つ銃身バレルが鎮座していた。


『待たせたな、ボルグ。……約束のブツだ』


 俺は雪山で手に入れた戦利品を、作業台の上にドンと置いた。

 透き通るような青い輝きを放つ『氷の魔石(極大)』。そして、ルルが回収した『帝国の冷却パイプ』だ。


「なっ……!?」


 ボルグが片眼鏡モノクルの位置を直し、食い入るように魔石を睨む。


「おいおい……冗談だろ? こいつの純度、尋常じゃねぇぞ。……山一つ凍らせる気か?」

「それだけじゃないよ、ジイちゃん! こっちを見て!」


 ルルが興奮気味に、黒いパイプを指差した。


「これ、帝国の杭に使われてたパーツなんだけど……見て、この継ぎ目のなさ! 魔法鍛造マジック・フォージじゃない。もっと精密な、ミクロン単位の機械加工だよ!」

「……なんだと?」


 ボルグがパイプを手に取り、職人の目で撫で回す。

 その顔色が、驚愕から真剣なものへと変わっていった。


「……確かに、人間の手技じゃねぇ。まるで生き物みてぇに熱を食う構造になってやがる。……おいルル、お前の言ってた『強制冷却機構』ってのは、こいつを使えば……」

「うん! 理論値だけど、毎分6000発の摩擦熱を完全に相殺できるはず! ……うわぁ、すごいよ師匠! これなら『バレル焼け』を気にせず撃ち続けられる!」


 ルルが設計図を開き、ボルグに見せる。

 以前の話し合いで二人で頭を抱えた「熱問題」が、このオーバーテクノロジーの部品一つで解決しようとしていた。


「カッカッカ! 面白ぇ! まさか俺の寿命が尽きる前に、こんなデタラメな仕事ができるとはな!」


 ボルグがニカっと笑い、ルルの背中をバンと叩いた。


「おいルル! お前はこのパイプの接続部ジョイントを設計しろ! 俺はその間に、魔石を炉にくべて冷却液を精製する!」

「分かってるってば! ……へへっ、負けないからね石頭!」


 ガシッ、と二人の工具がぶつかり合う。

 最強の鍛冶師と、天才技師。水と油の二人が、再び「最強の矛」を作るために動き出した。


「だが旦那、このパイプを組み込むには現物合わせの微調整が必要だ。……半月は待ってもらうぞ」

『ああ、構わねぇ。最高の一丁に仕上げてくれ』


 俺は熱気に包まれた工房を後にした。

 ルルはそのまま開発に没頭するようなので、俺とエリス、そしてミリーナの三人で冒険者ギルドへ向かうことにした。


◇ ◇ ◇


 ギルドの中に入ると、周囲の冒険者たちの視線が変わっていた。

 以前のような好奇の目ではない。畏敬と、少しの恐怖を含んだ視線だ。

 どうやら、あの雪山のボスを倒した噂は既に広まっているらしい。


 俺たちは二階へ上がり、いつものようにギルドマスター室の重厚な扉を叩いた。


「入れ!」


 中に入ると、ギデオンが机の上に足を投げ出し、葉巻を燻らせていた。


「おう、戻ったか赤いの! 雪山の噂は聞いてるぞ。派手に暴れたらしいな!」


 ギデオンは豪快に笑い、俺のボディをバシバシと叩いた。

 相変わらずの筋肉ダルマだ。この男がいると、部屋の気温が二、三度は上がる気がする。


『ああ。だが、土産話は笑えるもんじゃねぇぞ』


 俺は雪山で目撃した「採取杭」の機能と、それが帝国の技術であったことを報告した。

 話が進むにつれ、ギデオンの表情から笑みが消えていく。机から足を下ろし、葉巻を灰皿に押し付けた。


「……なるほど。帝国の連中め……そんなモノを密かに持ち込んでいたとはな」


 ギデオンは眉間の皺を深くし、低い声で唸った。

 歴戦の戦士の顔だ。


「マナを吸い上げ、魔物を強化する杭か……。もし、そんな厄介な代物が他の場所にも埋め込まれているとしたら、笑い事じゃ済まねぇぞ」


 彼は深刻な面持ちで腕を組んだ。


「この件はS級案件相当の機密として扱う。俺の方でも、信頼できる手の者に各地を調査させよう。……お前らも、口外は無用だぞ」

『ああ、分かってる』


 報告を終え、重苦しい空気が流れる。

 俺たちが席を立とうとした、その時だ。


「っと、待て待て。そういえば、もう一つ話があったんだ」


 ギデオンがふと思い出したように手を打ち、雰囲気をガラリと変えた。

 ニヤリと、悪戯っ子のような笑みを浮かべて革袋を机に置く。


「前に俺が指示を出した、『鉄の牙』の件だ。覚えてるだろう? 奴らの全財産を没収しろって言ったアレだ」

「……『鉄の牙』」


 エリスが小さくその名を口にする。

 かつては名前を聞くだけで恐怖に震え、過呼吸になりかけたトラウマの対象。

 だが、今の彼女に動揺はなかった。


(……あれ? 私、震えてない)


 エリスは自分の手のひらを見つめ、少しだけ驚いたように瞬きをした。

 隣を見れば、頼もしい背中がある。

 ポンタたちと死線を潜り抜け、信頼できる仲間と共に歩んできた日々が、いつの間にか彼女の心を強くしていたのだ。


「奴らの資産凍結と没収の手続きが、ようやく完了してな。……いやはや、呆れたもんだ。新人への恐喝に素材の横流し、貯め込みに貯め込んでやがったよ」


 ギデオンは忌々しそうに鼻を鳴らし、続けた。


「連中の処遇も決まった。『犯罪奴隷』として鉱山送りだ。刑期は50年……ま、事実上の終身刑だな」

「……50年」

「俺としちゃあ、その場で縛首がお似合いだと思ったんだがな。……まあ、死ぬまで国のために働かせるのも、奴らには妥当な末路だろうよ」


 ギデオンの重い言葉にも、エリスは表情を曇らせることなく、ただ静かに頷いた。

 そしてギデオンは革袋の紐を解いた。

 ジャララ……と、眩い光が溢れ出す。中身は全て、最高額硬貨である『白金貨』だった。


「被害者への返還分を差し引いて、残りは全てお前のものだ。……奴らが着服していた報酬と、精神的苦痛への慰謝料。そして今回の雪山攻略の特別報奨金も合わせて、白金貨80枚(金貨8000枚相当)だ」

「白金貨……80枚……」


 一般市民なら一生遊んで暮らせるだけの大金だ。

 だが、エリスは落ち着いた様子でギデオンに一礼すると、その革袋をそのまま俺の方へ差し出した。


『おいおい、いいのか? お前が受け取るべき慰謝料だぞ』

「いいんです。ポンタさんが持っていてください」


 エリスは迷いのない、晴れやかな笑顔で告げた。


「私一人じゃ使い切れませんし……何より、ポンタさんに預けたほうが、きっと私たちのためになることに使ってくれるって、信じてますから」

『……へっ、言ってくれるじゃねぇか』


 全幅の信頼。重いが、悪い気分じゃない。

 俺は革袋を受け取った。


「さて、金の話は終わりだ。……赤いの、ギルドカードを出せ」


 ギデオンが言った。

 俺がカードを差し出すと、彼は机に埋め込まれた水晶板の上にそれを滑らせる。

 ギデオンが指先で空中に印を描くと、水晶が淡く発光し、カードの表面情報を魔術的に書き換えていく。


「今回の雪山攻略、および『未知の技術』発見の功績を鑑み……本日付で、お前たちを『Bランク』に昇格させる」

「えっ……!?」


 その言葉に、素っ頓狂な声を上げたのはミリーナだった。

 彼女は目を丸くして身を乗り出し、書き換わったばかりの俺のカードを覗き込む。

 そこには確かに、燦然と輝く『B』の刻印が刻まれていた。


「び、Bランクぅ!? うそ、信じられない……!」

『そんなに驚くことか?』

「お、驚くも何も、前代未聞ですよぉ! ポンタ様たちが登録したのは、ほんの数週間前ですよね!?」


 元・ギルド受付嬢であるミリーナが、信じられないといった顔でまくし立てる。


「普通、Bランクに上がるには早くても数年、地道な依頼達成を積み重ねてようやくなれるものなんです! それを、こ、こんな短期間で……! ギルドの歴史始まって以来の椿事ですよぉ!」

「カッカッカ! まあ、やったことがデカすぎるからな」


 ギデオンが愉快そうに笑い、そして真面目な顔に戻る。


「遺跡の守護者ガーディアンを倒した戦果も大きいが……何より、今回の雪山で『帝国の重要な動き』をキャッチできたことが大きい。この情報の価値は、魔物一匹を倒すより遥かに重いぞ」


 そう言って、ギデオンは部屋の隅で縮こまっているミリーナへと視線を向けた。

 そのまま視線を俺に戻し、片眉を器用に上げる。


(……分かってるよ、筋肉ダルマ)


 俺はギデオンと無言のアイコンタクトを交わし、一歩前へ出た。


『ギデオン。……こいつも正式にメンバーとして迎え入れたい』

「は、はいぃっ!?」


 ミリーナが驚いて俺を見る。


『今回の遺跡や雪山の攻略、お前の「耳」と索敵能力には本当に助けられた。……もうゲスト扱いは終わりだ。正式に俺たちの目となり、耳になってくれ』

「……っ! わ、私なんかで、本当にいいんですかぁ……?」

『お前がいいんだよ。頼めるか?』

「は、はいぃっ! ポンタ様のためなら、地獄の果てまでついて行きますぅ!」


 ミリーナが感極まって泣き出し、エリスが「よかったですね」と優しく背中を撫でる。

 これで前衛、後衛、技術、索敵と、パーティの役割ロールが完全に埋まった。


「ま、受付業務はサボるわ、噂話には首を突っ込むわで、俺も手を焼いてたところだ。お荷物がなくなって、ようやく肩の荷が下りたぜ」

「うぐっ……! そ、そんな言い方しなくてもぉ……」


 ギデオンの憎まれ口に、ミリーナが呻く。

 だが、その言葉に棘がないことを一番理解しているのは、他ならぬ彼女自身だった。


 ルナ一族の虐殺で一人生き残った幼いミリーナを保護し、孤児院へ預け、ここまで見守ってきたのはギデオンだ。彼にとって彼女は、手のかかる娘のような存在なのだろう。


「……ようやく、心を許せる『音』を奏でる連中に出会えたようだな」


 ギデオンは葉巻をくゆらせ、煙の向こうで目を細めた。

 それはギルドマスターの顔ではなく、一人の父親のような、慈愛に満ちた表情だった。

 ミリーナは涙を拭い、深く頭を下げる。


「……はい。ギデオンさん……今まで、本当にありがとうございました」


「おう。……精々、気張んな」


 ギデオンは照れくさそうに視線を逸らし、シッシッと追い払うような仕草をした。

 今生の別れじゃない。これからも顔を合わせる機会はいくらでもある。だが、彼女にとっては「保護者からの自立」という意味で、一つの区切りなのだろう。

 俺は少しだけ湿っぽくなった空気を払拭するように、努めて明るい調子で切り出した。


『資金もできた。ランクも上がった。仲間も増えた。……なら、前々から考えてた計画を実行に移すか』

「計画、ですか?」


 涙を拭ったミリーナが首を傾げる。


『ああ。「拠点ベース」の購入だ』


 俺の言葉に、エリスとミリーナが顔を輝かせる。


「拠点……! 素敵ですね、私たちのお家!」

『宿暮らしも手狭になってきたし、開発スペースも必要だ。これだけの資金があれば、それなりの物件が買えるだろう』

「おう、景気のいい話だな!」


 ギデオンがニヤリと笑う。


「なら、ついでにもう一つ決めておけ。拠点を構えるなら、ちゃんとした『パーティ名』が必要だ。ギルドの登録簿を書き換えてやるぞ」


 パーティ名。

 そういえば、今まで成り行きで行動していたから、決めていなかった。


 俺たちは顔を見合わせる。

 ダルマ、聖女、発明家、そして索敵手。

 異色すぎる組み合わせだが、確かな絆で結ばれた俺たちに相応しい名前とは――。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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