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『氷雪の狩人と、黒い楔(くさび)』

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★


 白銀山脈シルヴァリオの中腹。

 そこは、上も下も分からない完全な白の世界だった。


 猛烈な吹雪が視界を奪い、隣を歩く仲間の姿さえ白く霞ませる。

 轟音のような風鳴りが、互いの声をかき消していく。


 普通の冒険者パーティなら、この時点で遭難確定だろう。

 だが、俺たちには「文明の利器スキル」がある。


『……チェック、ワンツー。感度良好か?』


 俺は新スキル【分隊無線スクワッド・ラジオ】を起動し、念話回線を開いた。

 かつて遺跡攻略の際に習得した、メンバーの脳内に直接音声を届ける指揮官用スキルだ。


『は、はい、クリアです。……やっぱり、この吹雪の中でポンタさんの声が頭に直接届くと、すごく安心します』


 エリスの声が、ノイズ一つなくクリアに響く。

 遺跡での激戦を経て、彼女はこの「見えない繋がり」に全幅の信頼を寄せてくれているようだ。


『ルルも聞こえてるよー! これなら迷子にならないね、師匠!』

『か、感度良好です、ポンタ様……』


 ルルの明るい声に続いて、ミリーナの震える声が入る。

 彼女は真っ青な顔で、防寒着の襟を強く握りしめていた。ただでさえ臆病な彼女にとって、この視界ゼロの状況は恐怖以外の何物でもないだろう。


『な、何か来ます……! 前方です……凄く速いのが、いっぱい……!』


 ミリーナが悲鳴に近い声を上げるのと同時、俺の脳内ですぐさまソフィアが反応する。


警告アラート。雪面下に複数の高速移動反応を検知。パターン照合……『氷牙狼フロスト・ハウンド』です。数15。包囲されています』


 俺の固有能力ユニークスキルであり、最高の相棒バディでもあるシステム管理者AIのソフィアだ。

 ミリーナの感覚的な索敵と、ソフィアのデータ解析。この二つが揃えば、奇襲など成立しない。


了解ラジャー。全員、足を止めろ』


 俺は即座に停止命令を出し、視界のモードを切り替えた。

 【暗視ナイトビジョン】に【熱源探知サーマル】を重ねる。

 すると、真っ白だった視界がワイヤーフレームで構築された電子的な映像へと変わり、周囲を旋回する無数の「青白い影」が浮かび上がった。


(……冷気を纏って体温を隠してやがるのか。賢いな)


 それは、白銀の毛並みを保護色にし、音もなく獲物を狩る雪山の死神――狼の群れだった。


◇ ◇ ◇


『く、来る……! 3時の方向から2体、9時から4体! 波状攻撃ですっ!』

『行かせません……!』


 ミリーナの切迫した報告に、エリスが即座に杖を構える。


『光よ、重なりて我らを拒む壁となれ! 『多重防壁プロテクション・ダブル』!』


 エリスの詠唱と共に、俺たちの左右に半透明の光の板が出現した。

 二枚の障壁が密着するように重なり合い、分厚い装甲板となって側面をカバーする。

 今のエリスにとって最も安定して展開できる、堅実な守りだ。


 ガギンッ!!


 吹雪の中から飛び出した白い疾風が、二重の障壁に激突して弾かれた。

 姿を現したのは、鋭利な氷の牙を持つ巨狼――フロスト・ハウンドだ。

 一枚目の壁にヒビが入るが、二枚目が衝撃を完全に殺している。


『速っ!? これ、目で追えないよ!』

『落ち着いてルルちゃん。二枚重ねなら、突破はさせません!』


 エリスの防壁は盤石だ。だが、ハウンドたちは知能が高い。

 一度弾かれた程度では諦めず、再び吹雪の中へ姿を消し、死角からの再突撃を狙って高速で旋回を始めている。

 このままではジリ貧だ。FPSにおいて、視認性の悪い高速移動目標スピードスターを狩るには、「足」を止めるのが定石だ。


『ルル、右の雪だまりだ。あぶり出せ』

『お任せあれー! ……燃えちゃえっ!』


 ルルが腰のポーチから、フラスコのような瓶を取り出して投擲した。

 【錬金焼夷弾アルケミー・ファイア】。

 ルル特製の、雪や水でも消えない特殊な発火液を詰めた手投げ弾だ。


 パリンッ!


 瓶が砕けた瞬間、雪原に紅蓮の炎が爆ぜた。

 ジュワアアアッ! という雪が蒸発する音と共に、熱波が広がる。


『ギャウッ!?』


 冷気を纏っていたハウンドたちにとって、この高熱は致命的だった。

 炎への本能的な恐怖と、視界を奪っていた吹雪が晴れたことで、群れの連携が一瞬で崩れる。


『ターゲット確認(視認)。……掃除するぞ』


 炎の明かりに照らされ、足が止まった標的マトに向けて、俺は右腕を構える。

 バレル展開。モード・ショットガン。


 ズドンッ!!


 轟音と共に、魔力の散弾が扇状に放たれる。

 回避不可能な面制圧の弾幕が、逃げ惑う狼たちを数匹まとめて薙ぎ払う。


 ガシャン。ズドンッ!!


 次弾装填。間髪入れずに第二射。

 雪原を逃げようとした残りの狼たちも、背後から散弾の雨を浴びて雪の中へと沈んだ。


『ポ、ポンタ様。残存勢力、なし……。お、オールクリアです』


 ミリーナの報告に、俺はボディを揺らして排熱した。

 的確な索敵、堅実な防御、強制的なあぶり出し、そして制圧射撃。

 完璧なチーム連携キルゾーンだった。


◇ ◇ ◇


 フロスト・ハウンドの群れを退け、さらに奥へと進んだ頃だった。


『……ツっ!』


 突如、最後尾のミリーナが短く悲鳴を上げ、その場にうずくまった。

 イヤーマフの上から必死に耳を押さえている。


『ミリーナさん!?』

『大丈夫か?』

『……痛い……近いです……。あの不協和音が、ここから……』


 彼女が涙目で指差した先。

 吹雪がふっと弱まり、開けた視界の先に――その異様な光景はあった。


「……な、何これ」


 ルルが思わず声を漏らす。

 そこには、自然界にはありえない、人工的な「傷」があった。


 永久凍土の大地に、巨大な『黒い金属の杭』が打ち込まれているのだ。

 太さは数メートル、高さは10メートル近い。

 無骨な鉄塊からは、ボイラーのような低い駆動音が響き、地面から吸い上げた青白いマナがパイプを通って脈動している。


『解析開始。……対象物の構造データを検索中』


 俺の視界に、ソフィアの解析ウィンドウが走る。

 そして弾き出された結果に、俺は眉をひそめた。


『……なんだこれは。古代遺跡じゃない。最近作られたものだ』

『高確率で『ガレリア帝国』の軍事規格と一致します。マスター、これは採掘プラントの一部です』


 ソフィアの報告と同時に、ルルが巨大レンチを片手に杭へ駆け寄った。


『ちょっと待って師匠。ルルが見てみる』


 彼女は杭の表面に手を当て、スキル【機工の神髄】を発動させる。

 数秒後、ルルの表情が険しく歪んだ。


『……うん、間違いない。これ、帝国の規格だね。しかも、かなり乱暴な作り』

『乱暴?』

『うん。地下深くまでドリルみたいなパイプを通して、無理やり大地のエネルギーを吸い上げてる。……まるで、ストローで星の血を吸ってるみたい。ルル、こういう機械は嫌い』


 ルルの言葉に、エリスが息を呑んだ。


『星の……血?』


 エリスは杭を見つめ、胸騒ぎを覚えたように杖を握りしめる。


『(この光景……夢で見た、黒い氷に似ています。まさか、これが……)』


 世界樹が悲鳴を上げている原因。

 確証はない。だが、この無遠慮な鉄塊が、この土地を、ひいては世界樹そのものを傷つけていることだけは確かだった。


『……破壊するか?』


 俺がパイルバンカーの射出準備に入った、その時だ。


『ひィッ!? ま、待ってくださいポンタ様! 洞窟の奥から、凄く怖いのが……来ます!』


 ミリーナの怯えた叫びと同時に、杭のさらに奥にある巨大な氷の洞窟から、ズズ……ンッ、と地響きが轟いた。

 現れたのは、全身が氷の甲冑で覆われた、5メートルを超える白銀の類人猿。

 今回のターゲット、『ブリザード・コング』だ。


 だが、様子がおかしい。

 その背中や肩には、あの杭と同じ「黒い金属片」が融合し、肉体をどす黒く侵食していた。

 赤く発光する瞳は、正気を失い、破壊衝動に支配されている。


『うわぁ……。師匠、あのコング、体内の魔石があの装置の影響で変質してるかも』


 ルルが嫌悪感と、技術者としての好奇心が入り混じった声を上げる。


『……でも、あの黒く変質した『氷の魔石』なら、通常の何倍もの冷却効果が期待できるよ!』

『なるほどな。帝国の尻拭いは癪だが……あの魔石は俺たちのモンだ』


 俺はニヤリと笑い、メンバー全員に無線を飛ばした。


『原因究明は後だ。まずはあのデカブツを沈めて、魔石をいただくぞ。……総員、戦闘開始だ。



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