『白銀の旅路と、風詠(かざよ)みの御伽話』
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東の遺跡での激闘を終え、休息も束の間。
俺たちは新たな目的地、大陸北部にそびえる『白銀山脈シルヴァリオ』へと足を踏み入れていた。
視界を埋め尽くすのは、圧倒的な白。
肌を刺すような冷気と、轟々と吹き荒れる猛吹雪が俺たちを出迎える。
「さ、さささ、寒いですぅぅぅ〜!!」
ルルがガチガチと歯を鳴らしながら、俺のボディに必死にしがみついてくる。
「師匠ぉぉ! もっと熱出してよぉ! ダルマ・ストーブモードにしてぇ!」
『あー、くっつくな。動きにくい』
「だってぇ! ドワーフは暑いのは平気だけど、寒いのは苦手なのぉ!」
俺のボディはヒヒイロカネ製だ。魔力を通せばほんのりと熱を持つため、今のルルにとって俺は歩く暖房器具らしい。
俺自身はダルマの体だから寒さは感じないし、【浮遊】のおかげで雪に足を取られることもないが……生身のメンバーには過酷な環境だ。
「ルルちゃん、あまりポンタさんを困らせないで。……ほら、これでも飲んで」
エリスが水筒から温かいスープを注ぎ、ルルに手渡す。
彼女は分厚い防寒具に身を包んでいるが、その顔色は悪くない。
以前の彼女なら、この過酷な環境と不安で足を止めていたかもしれない。だが今の彼女の瞳には、目的を見据える強い光が宿っている。
『聖樹の枝杖』の加護もあるだろうが、何より精神的な強さが彼女を支えているようだ。
「……それにしても、師匠。本当に行くの? この奥」
ルルがスープで息を吹き返したのか、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
雪で濡れないように、大切に抱えているそれは、俺たちがこれから作る最強兵器『ガトリングガン』の設計図だ。
「この設計通りの『冷却機関』を作るには、どうしてもアレが必要だけど……」
『ああ。この極寒の地を支配するボス、ブリザード・コングの体内にある『氷の魔石』だ』
先日のミスリルゴーレム戦。
あそこで放った【連射モード(フルオート)】は強力だったが、同時に凄まじい熱量を発生させた。たった数秒の射撃で、俺のボディ内部はオーバーヒート寸前だったのだ。
アサルトライフルの連射であれだ。桁違いの弾数を、より高速でばら撒くガトリングガンとなれば、今のままでは銃身が溶け落ちてしまう。
この問題を解決するには、強力な冷却魔石を組み込むしかない。
『最強の火力を手に入れるためだ。避けては通れない道だぜ』
「ふふ、だよね! 私も師匠があの『回転多銃身』をぶっ放すところ、早く見たいし!」
ルルはニカっと笑い、再び設計図に視線を落とした。
この寒さの中でさえ、彼女のメカニックとしての情熱は燃え上がっているようだ。
だが――全員が元気なわけではなかった。
「…………」
最後尾を歩くミリーナの様子がおかしい。
寒さで震えているのではない。顔色は青白く、俺が作ったノイズキャンセリング・イヤーマフの上から、さらに両手で耳を塞ぐようにして俯いている。
『おい、ミリーナ。大丈夫か?』
俺が念話で声をかけると、彼女はビクッと肩を震わせ、虚ろな目でこちらを見た。
「……聞こえるんです」
『何がだ? 敵か?』
「いえ……もっと、嫌な音です」
ミリーナは苦しげに顔を歪めた。
「風の音だけじゃありません。その裏に……まるでガラスを爪で引っ掻くような、耳障りな金切り音が混じっていて……」
『金切り音?』
「頭に直接響くような、不協和音です。……この山全体が、悲鳴を上げているみたいな」
俺はセンサーを最大感度にして周囲を探る。
だが、聞こえるのは風の音だけだ。ソフィアの解析にも異常はない。
(……ミリーナの『地獄耳』は、ただ音を聞くだけじゃない。殺気や感情、見えない波長まで捉える)
だとしたら、彼女が聞いているのは物理的な音ではなく――もっと根本的な、この世界が軋む音なのかもしれない。
俺はエリスの顔を見た。
彼女もまた、不安そうに雪山の奥を見つめている。
今朝、彼女が言っていた「巨木が凍りついて苦しんでいる夢」と、ミリーナの聞く「悲鳴」。
無関係とは思えなかった。
◇ ◇ ◇
吹雪の中を進むこと数時間。
山の斜面にへばりつくようにして存在する、小さな集落が見えてきた。
『風詠みの村』。
雪山の麓にありながら、独自の信仰を守り続けている古い村だ。
村の入り口には無数の風車や風鈴が飾られており、風が吹くたびにチリン、カラカラと不思議な音色を奏でている。
「ようやく着いたか……。とりあえず、今日はここで一泊して情報を集めよう」
俺たちは村の入り口へと向かった。
だが、村人たちの反応は冷ややかだった。
「止まれ。よそ者が何用だ」
毛皮をまとった自警団の男たちが、槍を構えて立ちはだかる。
その目は警戒心に満ちていた。
「今は山が荒れている。観光気分なら帰ってくれ」
『……歓迎されてないな』
俺が出ると余計に怪しまれるだろう。赤いダルマだし。
どうしたものかと考えていると、エリスが一歩前へ出た。
「お待ちください。私たちは観光に来たのではありません」
エリスはフードを外し、凛とした声で告げた。
吹雪の中でも揺るがない、その毅然とした瞳。かつての「おどおどした荷物持ち」の面影はもうない。
「私たちは冒険者ギルドの依頼で、この山の異変の原因……凶暴化した魔物を討伐に来ました。このまま放置すれば、いずれ村にも被害が及びます」
「む……冒険者だと?」
「はい。こちらは、ギルドマスター・ギデオン様からの紹介状です」
エリスが懐から封蝋された手紙を差し出す。
男たちは顔を見合わせ、手紙を確認すると、少しだけ態度を軟化させた。
「……ギデオン殿の紹介なら、無碍にはできんか。村長に話を通そう」
『やるな、エリス。頼りになるぜ』
「えへへ……ポンタさんの役に立ちたかったですから」
俺の念話に、エリスは少し照れくさそうに笑った。
交渉成立だ。俺たちは案内され、村長の家へと通された。
◇ ◇ ◇
村長の家は、太い梁がむき出しになった古民家だった。
囲炉裏には火が焚かれ、パチパチと薪が爆ぜる音が心地よい。
その奥に、一人の老人が座っていた。
両目は白濁しており、視力を失っているようだが、その纏う空気は静謐だ。
「よく参られたな、旅のお方。……ふむ」
長老と呼ばれたその老人は、見えない目で俺たちの方を向き、鼻をひくつかせた。
「……懐かしい香りがするのう」
「え?」
「お嬢さん。お主が持っておるその杖……ただの木ではないな?」
長老の言葉に、エリスがハッとして自分の杖を握りしめた。
『聖樹の枝杖』。世界樹の若木から作られたという逸品だ。
「……『始まりの木』の枝じゃろう。微かだが、女神様の残り香がする」
「始まりの……木?」
「いかにも。この村には、古い御伽噺が伝わっておってな」
長老は遠くを見るような顔で、静かに語り始めた。
「昔々、世界がまだ闇に覆われていた頃の話じゃ。
どこからともなく『星を喰らう黒い獣』が現れて、この世界の全てを飲み込もうとした。
そこへ『光の女神様』が舞い降りて、獣と戦った」
それは、子供に聞かせるような優しい口調だった。
だが、その内容は俺たちが直面している現状と、妙にリンクしている気がした。
「女神様は強かったが、黒い獣は死ななかった。魔法を吸い込み、何度でも蘇ったからじゃ。
そこで女神様は、自らの『心臓』を取り出し、獣の体に突き刺して、大地の底へと縫い止めたんじゃよ」
「女神様の……心臓……」
エリスがごくりと喉を鳴らす。
「その心臓から芽が生え、天を支えるほどの巨木になった。
それが、世界に命の風を送る大樹――『世界樹ユグドラシル』じゃ」
世界樹。
その名を聞いた瞬間、エリスの瞳が揺れた。
夢の中で見た、あの天を衝くような巨木。あれはやはり、世界樹だったのだ。
「だがな、獣はまだ生きておる。夜になり、闇が深まれば、封印を破ろうと暴れだす。
だから女神様は、眠りにつく前に最後の力を振り絞り……自らの『涙』を凍らせて、空に掲げたんじゃ」
「涙を……?」
「それが、夜空に輝く『月』じゃよ。
月は女神様の鏡。太陽の光を映し、夜の間も世界樹を見守り、清め続けておる。
……わしらはそう教わってきた」
長老の話が終わると、部屋には薪が爆ぜる音だけが残った。
ただの御伽噺かもしれない。
だが、俺には今の話が、この世界の真実を突いているように思えてならなかった。
(魔法を喰らう獣……。そして、世界樹がその封印の杭……)
だとしたら、エリスが見た夢――世界樹が凍りつき、苦しんでいる姿は何を意味する?
杭を抜こうとしている何者かが、いるのか?
(……どちらにせよ、ロクなことじゃなさそうだ)
俺は心の中で舌打ちした。
◇ ◇ ◇
その夜。
俺たちに割り当てられた客室で、ルルは暖炉の前を占領していた。
「んふふ〜……この『氷の魔石』の純度が高ければ、冷却効率は理論値の3倍……。排熱ダクトの形状はこっちの方が……」
彼女はブツブツと独り言を言いながら、羊皮紙に猛烈な勢いで書き込みを続けている。寒さなど忘れたかのような集中力だ。
一方、部屋の隅にあるベッドでは、ミリーナが泥のように眠っていた。
日中、ずっと聞こえ続けていた『不協和音』に精神を削られたのだろう。その寝顔はどこか苦しげで、時折うなされるように小さく身じろぎをしている。
エリスが心配そうに彼女の毛布を掛け直し、それから静かに窓辺へと立った。
雪雲の切れ間から、青白い満月が顔を覗かせている。
女神の涙、か。
「……ポンタさん」
エリスが静かに口を開いた。
「私、確かめたいです。この山の奥にあるものを」
『夢の続きか?』
「はい。長老様の話を聞いて、確信しました。……あの夢で見た木は、きっと世界樹です。そして今、それが悲鳴を上げている」
エリスは胸元の『聖樹の枝杖』を強く握りしめた。
「ミリーナさんが聞いた『不協和音』も、きっとその悲鳴です。……放っておけません。私たちが、行かなくちゃいけない気がするんです」
その瞳には、強い使命感が宿っていた。
ただのお人好しではない。何か運命的な引力に導かれているような、覚悟の光だ。
『ああ。分かってるよ』
俺は窓枠に飛び乗り、エリスの隣に並んだ。
『どのみち、ガトリングの素材集めで山の奥まで行くんだ。ついでにその『不協和音』の元凶も、拝んでやろうぜ』
「……ふふ、ポンタさんにとっては『ついで』なんですね」
『当たり前だろ。俺たちの目的はあくまで『氷の魔石』だ。……ま、寝覚めが悪いのは嫌いだからな。原因が何であれ、邪魔するならブッ飛ばすだけだ』
俺の軽口に、エリスは緊張が解けたように微笑んだ。
「はい! ……行きましょう、ポンタさん」
窓の外、雪に煙る白銀の山脈が、俺たちを待っている。
御伽噺が暗示する不吉な予感。
ミリーナを苦しめる不協和音の正体。
そして、最強の兵器を完成させるための素材。
全てが、あの吹雪の向こうにあるかも知れない。
(待ってろよ、ブリザード・コング。……俺の新しい弾丸の試し撃ちにしてやる)
俺は夜空に浮かぶ冷たい月を見上げ、静かに闘志を燃やした。
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【雪山装備のパーティ『アカマル』】
ここまで読んでいただきありがとうございます!
画像の3人ですがそれぞれ雪山装備を描いてみました。
エリスは王道の白いモコモコを
ミリーナはオシャレな感じで
ルルはワイルドにw
それぞれに個性を考えてデザインしてみましたがどうでしょうか?
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