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『白銀の旅路と、風詠(かざよ)みの御伽話』

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★


東の遺跡での激闘を終え、休息も束の間。

 俺たちは新たな目的地、大陸北部にそびえる『白銀山脈シルヴァリオ』へと足を踏み入れていた。


 視界を埋め尽くすのは、圧倒的な白。

 肌を刺すような冷気と、轟々と吹き荒れる猛吹雪が俺たちを出迎える。


「さ、さささ、寒いですぅぅぅ〜!!」


 ルルがガチガチと歯を鳴らしながら、俺のボディに必死にしがみついてくる。


「師匠ぉぉ! もっと熱出してよぉ! ダルマ・ストーブモードにしてぇ!」

『あー、くっつくな。動きにくい』

「だってぇ! ドワーフは暑いのは平気だけど、寒いのは苦手なのぉ!」


 俺のボディはヒヒイロカネ製だ。魔力を通せばほんのりと熱を持つため、今のルルにとって俺は歩く暖房器具らしい。

 俺自身はダルマの体だから寒さは感じないし、【浮遊レビテート】のおかげで雪に足を取られることもないが……生身のメンバーには過酷な環境だ。


「ルルちゃん、あまりポンタさんを困らせないで。……ほら、これでも飲んで」


 エリスが水筒から温かいスープを注ぎ、ルルに手渡す。

 彼女は分厚い防寒具に身を包んでいるが、その顔色は悪くない。

 以前の彼女なら、この過酷な環境と不安で足を止めていたかもしれない。だが今の彼女の瞳には、目的を見据える強い光が宿っている。

 『聖樹の枝杖』の加護もあるだろうが、何より精神的な強さが彼女を支えているようだ。


「……それにしても、師匠。本当に行くの? この奥」


 ルルがスープで息を吹き返したのか、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 雪で濡れないように、大切に抱えているそれは、俺たちがこれから作る最強兵器『ガトリングガン』の設計図だ。


「この設計通りの『冷却機関』を作るには、どうしてもアレが必要だけど……」

『ああ。この極寒の地を支配するボス、ブリザード・コングの体内にある『氷の魔石』だ』


 先日のミスリルゴーレム戦。

 あそこで放った【連射モード(フルオート)】は強力だったが、同時に凄まじい熱量を発生させた。たった数秒の射撃で、俺のボディ内部はオーバーヒート寸前だったのだ。

 アサルトライフルの連射であれだ。桁違いの弾数を、より高速でばら撒くガトリングガンとなれば、今のままでは銃身が溶け落ちてしまう。

 この問題を解決するには、強力な冷却魔石を組み込むしかない。


『最強の火力を手に入れるためだ。避けては通れない道だぜ』

「ふふ、だよね! 私も師匠があの『回転多銃身』をぶっ放すところ、早く見たいし!」


 ルルはニカっと笑い、再び設計図に視線を落とした。

 この寒さの中でさえ、彼女のメカニックとしての情熱は燃え上がっているようだ。


 だが――全員が元気なわけではなかった。


「…………」


 最後尾を歩くミリーナの様子がおかしい。

 寒さで震えているのではない。顔色は青白く、俺が作ったノイズキャンセリング・イヤーマフの上から、さらに両手で耳を塞ぐようにして俯いている。


『おい、ミリーナ。大丈夫か?』


 俺が念話で声をかけると、彼女はビクッと肩を震わせ、虚ろな目でこちらを見た。


「……聞こえるんです」

『何がだ? 敵か?』

「いえ……もっと、嫌な音です」


 ミリーナは苦しげに顔を歪めた。


「風の音だけじゃありません。その裏に……まるでガラスを爪で引っ掻くような、耳障りな金切り音が混じっていて……」

『金切り音?』

「頭に直接響くような、不協和音ノイズです。……この山全体が、悲鳴を上げているみたいな」


 俺はセンサーを最大感度にして周囲を探る。

 だが、聞こえるのは風の音だけだ。ソフィアの解析にも異常はない。


(……ミリーナの『地獄耳』は、ただ音を聞くだけじゃない。殺気や感情、見えない波長まで捉える)


 だとしたら、彼女が聞いているのは物理的な音ではなく――もっと根本的な、この世界が軋む音なのかもしれない。

 俺はエリスの顔を見た。

 彼女もまた、不安そうに雪山の奥を見つめている。

 今朝、彼女が言っていた「巨木が凍りついて苦しんでいる夢」と、ミリーナの聞く「悲鳴」。

 無関係とは思えなかった。


◇ ◇ ◇


 吹雪の中を進むこと数時間。

 山の斜面にへばりつくようにして存在する、小さな集落が見えてきた。


 『風詠かざよみの村』。

 雪山の麓にありながら、独自の信仰を守り続けている古い村だ。

 村の入り口には無数の風車や風鈴が飾られており、風が吹くたびにチリン、カラカラと不思議な音色を奏でている。


「ようやく着いたか……。とりあえず、今日はここで一泊して情報を集めよう」


 俺たちは村の入り口へと向かった。

 だが、村人たちの反応は冷ややかだった。


「止まれ。よそ者が何用だ」


 毛皮をまとった自警団の男たちが、槍を構えて立ちはだかる。

 その目は警戒心に満ちていた。


「今は山が荒れている。観光気分なら帰ってくれ」

『……歓迎されてないな』


 俺が出ると余計に怪しまれるだろう。赤いダルマだし。

 どうしたものかと考えていると、エリスが一歩前へ出た。


「お待ちください。私たちは観光に来たのではありません」


 エリスはフードを外し、凛とした声で告げた。

 吹雪の中でも揺るがない、その毅然とした瞳。かつての「おどおどした荷物持ち」の面影はもうない。


「私たちは冒険者ギルドの依頼で、この山の異変の原因……凶暴化した魔物を討伐に来ました。このまま放置すれば、いずれ村にも被害が及びます」

「む……冒険者だと?」

「はい。こちらは、ギルドマスター・ギデオン様からの紹介状です」


 エリスが懐から封蝋された手紙を差し出す。

 男たちは顔を見合わせ、手紙を確認すると、少しだけ態度を軟化させた。


「……ギデオン殿の紹介なら、無碍にはできんか。村長に話を通そう」

『やるな、エリス。頼りになるぜ』

「えへへ……ポンタさんの役に立ちたかったですから」


 俺の念話に、エリスは少し照れくさそうに笑った。

 交渉成立だ。俺たちは案内され、村長の家へと通された。


◇ ◇ ◇


 村長の家は、太い梁がむき出しになった古民家だった。

 囲炉裏には火が焚かれ、パチパチと薪が爆ぜる音が心地よい。

 その奥に、一人の老人が座っていた。

 両目は白濁しており、視力を失っているようだが、その纏う空気は静謐せいひつだ。


「よく参られたな、旅のお方。……ふむ」


 長老と呼ばれたその老人は、見えない目で俺たちの方を向き、鼻をひくつかせた。


「……懐かしい香りがするのう」

「え?」

「お嬢さん。お主が持っておるその杖……ただの木ではないな?」


 長老の言葉に、エリスがハッとして自分の杖を握りしめた。

 『聖樹の枝杖』。世界樹の若木から作られたという逸品だ。


「……『始まりの木』の枝じゃろう。微かだが、女神様の残り香がする」

「始まりの……木?」

「いかにも。この村には、古い御伽噺おとぎばなしが伝わっておってな」


 長老は遠くを見るような顔で、静かに語り始めた。


「昔々、世界がまだ闇に覆われていた頃の話じゃ。

 どこからともなく『星を喰らう黒い獣』が現れて、この世界の全てを飲み込もうとした。

 そこへ『光の女神様』が舞い降りて、獣と戦った」


 それは、子供に聞かせるような優しい口調だった。

 だが、その内容は俺たちが直面している現状と、妙にリンクしている気がした。


「女神様は強かったが、黒い獣は死ななかった。魔法を吸い込み、何度でも蘇ったからじゃ。

 そこで女神様は、自らの『心臓』を取り出し、獣の体に突き刺して、大地の底へと縫い止めたんじゃよ」


「女神様の……心臓……」


 エリスがごくりと喉を鳴らす。


「その心臓から芽が生え、天を支えるほどの巨木になった。

 それが、世界に命の風を送る大樹――『世界樹ユグドラシル』じゃ」


 世界樹。

 その名を聞いた瞬間、エリスの瞳が揺れた。

 夢の中で見た、あの天を衝くような巨木。あれはやはり、世界樹だったのだ。


「だがな、獣はまだ生きておる。夜になり、闇が深まれば、封印を破ろうと暴れだす。

 だから女神様は、眠りにつく前に最後の力を振り絞り……自らの『涙』を凍らせて、空に掲げたんじゃ」


「涙を……?」


「それが、夜空に輝く『月』じゃよ。

 月は女神様の鏡。太陽の光を映し、夜の間も世界樹を見守り、清め続けておる。

 ……わしらはそう教わってきた」


 長老の話が終わると、部屋には薪が爆ぜる音だけが残った。

 ただの御伽噺かもしれない。

 だが、俺には今の話が、この世界の真実を突いているように思えてならなかった。


(魔法を喰らう獣……。そして、世界樹がその封印の杭……)


 だとしたら、エリスが見た夢――世界樹が凍りつき、苦しんでいる姿は何を意味する?

 杭を抜こうとしている何者かが、いるのか?


(……どちらにせよ、ロクなことじゃなさそうだ)


 俺は心の中で舌打ちした。


◇ ◇ ◇


 その夜。

 俺たちに割り当てられた客室で、ルルは暖炉の前を占領していた。


「んふふ〜……この『氷の魔石』の純度が高ければ、冷却効率は理論値の3倍……。排熱ダクトの形状はこっちの方が……」


 彼女はブツブツと独り言を言いながら、羊皮紙に猛烈な勢いで書き込みを続けている。寒さなど忘れたかのような集中力だ。


 一方、部屋の隅にあるベッドでは、ミリーナが泥のように眠っていた。

 日中、ずっと聞こえ続けていた『不協和音』に精神を削られたのだろう。その寝顔はどこか苦しげで、時折うなされるように小さく身じろぎをしている。

 エリスが心配そうに彼女の毛布を掛け直し、それから静かに窓辺へと立った。


 雪雲の切れ間から、青白い満月が顔を覗かせている。

 女神の涙、か。


「……ポンタさん」


 エリスが静かに口を開いた。


「私、確かめたいです。この山の奥にあるものを」

『夢の続きか?』

「はい。長老様の話を聞いて、確信しました。……あの夢で見た木は、きっと世界樹です。そして今、それが悲鳴を上げている」


 エリスは胸元の『聖樹の枝杖』を強く握りしめた。


「ミリーナさんが聞いた『不協和音』も、きっとその悲鳴です。……放っておけません。私たちが、行かなくちゃいけない気がするんです」


 その瞳には、強い使命感が宿っていた。

 ただのお人好しではない。何か運命的な引力に導かれているような、覚悟の光だ。


『ああ。分かってるよ』


 俺は窓枠に飛び乗り、エリスの隣に並んだ。


『どのみち、ガトリングの素材集めで山の奥まで行くんだ。ついでにその『不協和音』の元凶も、拝んでやろうぜ』

「……ふふ、ポンタさんにとっては『ついで』なんですね」

『当たり前だろ。俺たちの目的はあくまで『氷の魔石』だ。……ま、寝覚めが悪いのは嫌いだからな。原因が何であれ、邪魔するならブッ飛ばすだけだ』


 俺の軽口に、エリスは緊張が解けたように微笑んだ。


「はい! ……行きましょう、ポンタさん」


 窓の外、雪に煙る白銀の山脈が、俺たちを待っている。

 御伽噺が暗示する不吉な予感。

 ミリーナを苦しめる不協和音の正体。

 そして、最強の兵器を完成させるための素材。

 全てが、あの吹雪の向こうにあるかも知れない。


(待ってろよ、ブリザード・コング。……俺の新しい弾丸の試し撃ちにしてやる)


 俺は夜空に浮かぶ冷たい月を見上げ、静かに闘志を燃やした。


_______________________________________________

【雪山装備のパーティ『アカマル』】

挿絵(By みてみん)


ここまで読んでいただきありがとうございます!


画像の3人ですがそれぞれ雪山装備を描いてみました。

エリスは王道の白いモコモコを

ミリーナはオシャレな感じで

ルルはワイルドにw

それぞれに個性を考えてデザインしてみましたがどうでしょうか?


もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、 ブックマーク登録や、広告下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!


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