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ダルマの休日と、乙女たちの寝相

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★


 東の遺跡から帰還した俺たちは、その足で冒険者ギルドへと向かった。

 受付嬢に要件を伝えると、すぐにギルド長室へと通される。


 重厚な扉を開けると、書類仕事に忙殺されていた隻眼の男――ギデオンが顔を上げた。


「……ん? もう戻ったのか。早かったな」


 ギデオンはペンを置き、俺たち、特に後ろで縮こまっているミリーナに視線を走らせる。

 怪我はなく、むしろ以前より少しだけ背筋を伸ばして立っている彼女を見て、ギデオンの口元が微かに緩んだ。


「あの遺跡の守護者は、生半可な魔物じゃなかったはずだ。それを退けて帰還するとはな……。ミリーナ、少しは肝が据わったようじゃないか」

「は、はい……! 皆さんのおかげです!」


 ミリーナが緊張しつつも答えるのを見て、ギデオンは満足げに頷く。


「……で、成果は?」

「ああ。注文の品だ」


 俺はドン、と机の上に『ヒヒイロカネのインゴット(端材)』と、遺跡のボスから回収した『巨大な角』を置いた。

 赤く輝くその金属を見て、ギデオンが息を呑む。


「……まさか、本当に見つけてくるとはな。しかもこれほど純度の高いヒヒイロカネとは」

「ついでに遺跡の奥にいたデカいトカゲも始末してきた。こっちの査定も頼むぜ」


 ギデオンは呆れたように笑うと、机の上の呼び鈴を鳴らし、側近を呼んだ。


「いいだろう。この件は以前伝えた通り、国家機密レベルの『特務指名依頼』扱いだ。帝国の連中に嗅ぎつけられる前に処理する」


 彼は金庫から重そうな革袋を取り出し、机の上に放った。


「今回の報酬と、口止め料込みだ。……受け取れ」

「話が早くて助かるぜ」


 中を確認すると、見たこともない枚数の金貨が詰まっていた。

 この国の平均年収の数倍はあるだろう。


「こ、こ、こんな大金……一生分のお給料ですぅ……!」


 横から覗き込んだミリーナが、金貨の輝きに目を回してふらついている。

 エリスが慌てて「ミリーナさん! しっかりしてください!」と彼女を支えた。


 ◇◇◇


 ギルドを後にした俺たちは、その足で鍛冶師ボルグの工房へと向かった。

 本命のヒヒイロカネを届けるためだ。


「おーい、石頭ジイちゃん! 約束のブツ持ってきたよー!」


 ルルが元気よく扉を開ける。

 奥から、煤まみれのボルグが顔を出した。


「うるせぇな! 帰ってきたのか半端者……って、おい旦那! まさか!」

「ああ。約束通り、手に入れたぞ」


 俺はアイテムボックスから、赤く輝くヒヒイロカネのインゴットを取り出した。

 薄暗い工房が、赤い光で満たされる。


「な……!」


 ボルグが震える手でそれを受け取った。

 以前、俺とルル、そしてボルグの三人で描いた『最強のガトリングガン』の設計図。

 その実現に不可欠でありながら、入手は非常に困難とされている伝説の金属が、今ここにある。


「……へッ、流石だぜ旦那。本当に持ってきやがったか」


 ボルグはその場に膝をつき、ヒヒイロカネの表面を指でなぞる。

 その瞳は、完全に職人のものになっていた。


「純度99.9%……混ぜ物なしの純塊だ。これならイケる。あのバケモノ(ガトリング)のフレームに耐えうるぞ」

「でしょでしょ!? ジイちゃん、早く叩こうよ!」


 ルルも目を輝かせてボルグの背中を叩く。

 ボルグは涙を拭い、ニヤリと不敵に笑った。


「おうよ! だが旦那、こいつを加工して熱に耐える機関部を作るには、冷却機構が必須だ。今の設備じゃ出力が足りねぇ」

「ああ。だから次は『氷の魔石』だ」

「そうだ。この前話した通り、北の山に住む魔物の中にあるって話だ。俺がこいつの基礎フレームを叩き上げてる間に、取ってきてくれ!」


 ボルグは既にハンマーを手に取り、炉の火力を上げ始めていた。


「お前ら、しばらく話しかけるな! 邪魔だ! 戻ってくるまでに最高のフレームを用意しといてやる!」


 完全に職人モードに入ったようだ。

 俺たちは邪魔にならないよう、工房を後にした。

 次の目的地は、北の雪山に決定だ。


 ◇◇◇


「というわけで、雪山装備の買い出しだ」


 俺たちは街の大通りにある服屋へとやってきた。

 北の山脈は極寒の地だ。今の軽装では凍死する。


「エリス、これ絶対似合うよ! 着てみて!」

「え、えぇ? こ、こんな可愛らしい服、私には……」


 ルルが持ってきた服を押し付けられ、エリスが試着室へと消える。

 しばらくして、カーテンがゆっくりと開いた。


「あ、あの……どう、でしょうか……?」


 おずおずと出てきたエリスが身につけていたのは、白いモコモコの毛皮がついたケープコートだった。

 純白の生地が彼女の銀髪と肌の白さを引き立て、まるで雪の精霊のような可憐さだ。

 恥ずかしそうに頬を染めて俯く姿に、店員も「お似合いですぅぅ!」と悶絶している。


「(……元が美少女すぎて、何を着せても似合うな)」

「いいな。エリスに似合ってる。買おう」

「えへへ、ありがとうございます」


 一方、ルルは機能性重視だ。

 厚手のダウンジャケットに、雪目対策のゴーグルを試着してポーズを決めている。


「へへっ、どう? 凄腕の冒険家っぽくない?」

「ああ、様になってるぞ。だが、ちゃんと厚手の手袋もしとけよ。指がかじかんだら解体ができないからな」

「はーい!」


 二人が楽しそうに選ぶ中、ミリーナだけが値札を見て青ざめ、隅っこで震えていた。


「た、高いですぅ……! こんな高級な服、私にはもったいないです! 私、服の中に新聞紙詰めるので大丈夫ですからぁ!」

「却下だ。そんな装備で凍傷にでもなってみろ。俺たちの足が止まる」


 俺はミリーナの首根っこを掴み、特注品コーナーへ連れて行った。

 そして、小柄な彼女でも動きやすそうな厚手のショートコートと、ある防寒具を手に取る。


「これを着けろ」

「えっ……こ、これは?」


 それは、裏起毛がついた高級なイヤーマフ(耳カバー)だった。

 彼女の聴覚過敏な耳をすっぽりと包み込み、冷気から守る特注品だ。

 以前プレゼントしたヘッドセットの上からでも装着できるサイズになっている。


「お前の耳は大事な商売道具レーダーだ。凍って取れたら困るだろ? ……必要経費だ」

「ポ、ポンタ様ぁぁ……!」


 俺が代金を支払うと、ミリーナは涙目でイヤーマフを受け取った。

 装着した感触がよほど温かかったのか、彼女は嬉しそうにイヤーマフの上から自分の耳を抑え、感触を確かめている。


「えへへ……温かいですぅ……♪」


 その姿は、なんともチョロ……いや、守ってやりたくなる可愛さがあった。


 ◇◇◇


 買い物を終え、俺たちは拠点にしている宿屋『金色の亭』の食堂で遅めの夕食をとることにした。

 今回の遺跡攻略の成功を祝した、ささやかな打ち上げだ。


「かんぱーい!」


 エールと果実水で、グラスを合わせる音が響く。

 極上の肉料理と、今回の冒険の思い出話で、席は大いに盛り上がった。


「それにしても、今回の勝因はミリーナだ。あの索敵がなけりゃ、最初のトラップか透明なカメレオンの時点で手を焼いてただろうな。よくやった」


 俺が素直に称賛すると、ミリーナが真っ赤になって俯いた。


「えへへ……そ、そうですかぁ? 私、ビビってただけなんですけどぉ……」

「そんなことないよ! ミリーナのおかげでトラップ解除らくちんだったよー。それにエリスも凄かった! ボスの時の10重防壁! あれがなきゃルル、今頃消し炭だったもん!」


 ルルがフォークを振り回しながら力説する。

 すると、エリスも首を横に振った。


「いえいえ! 私こそ、あんな恐ろしいボスの目の前で囮になってくれたルルちゃんの勇気に感動しました! 私にはとても真似できません!」

「へへっ、照れるなぁ」


 互いの健闘を称え合い、笑い合う三人娘。

 俺はグラスを傾けながら、その光景を眺めた。

 (まあ、飲めないから気分だけだが)


「(……いいチームになってきたな)」


『通知。マスターの精神波形に、著しい「充足感」を検知しました』


 不意に、脳内でソフィアの冷静な声が響く。


『以前の単独行動時と比較し、精神安定度が300%向上しています。これを「仲間意識」と定義しますか?』

「(……余計なお世話だ。ただの酒の匂いに当てられただけだ)」

『否定。マスターの機体に嗅覚センサー及び酩酊機能は実装されていません。素直に認めることを推奨します』

「(……チッ。うるせえ相棒だ)」


 俺は心の中で悪態をつきつつも、その通信を切ることはしなかった。

 気づけば夜も更け、宴はお開きになったのだが――。


「う〜、お腹いっぱい……。ボルグの家まで帰るのめんどくさーい」


 ルルがテーブルに突っ伏して駄々をこね始めた。


「私も……満腹で歩けません……。ギルドまで戻るのが億劫ですぅ……」


 ミリーナもとろんとした目で頷いている。

 これじゃあ、夜道を歩かせるのも危ないか。


「仕方ない。この宿にもう一部屋取ってやる」


 俺とエリスはカウンターへ向かった。

 顔なじみの恰幅の良い女将さんが、俺たちを見て困ったように眉を下げた。


「あら、エリスちゃん。今日は可愛いお嬢ちゃんたちも一緒かい? でもごめんなさいねぇ。今日は料理目当てのお客さんで満室なのさね」


 なんと。俺たちが借りている部屋以外、空きがないらしい。

 戻ってそのことを伝えると、二人が肩を落とす。


「ええっ!? じゃあ私、ボルグの家の硬い床で寝るのー?」

「私はギルドの宿直室に戻りますぅ……隙間風が寒いんですけど……」


 すると、ルルがポンと手を叩いた。


「そうだ! じゃあ、みんなで師匠の部屋で寝ればいいじゃん! ベッド大きいし!」

「えっ!? で、でも男女一緒は……」

「師匠はダルマだからノーカウント! それに、みんな一緒の方が温かいよ!」


 エリスも少し考えてから、微笑んだ。


「そうですね。これからの旅の結束を深めるためにも、今日はみんなで泊まりましょう! お風呂に入ってすぐ寝ちゃえば大丈夫ですよ」

「は、はい! 私も、皆さんと一緒なら……!」


 こうして、なし崩し的に俺の部屋での合同合宿が決まった。


 ◇◇◇


 深夜。

 『金色の亭』の一室にある大きなダブルベッドには、三人の少女が川の字になって眠っていた。

 左からエリス、ルル、ミリーナという並びだ。


 俺は《浮遊》スキルを使い、ベッドの少し上の空中で待機モードに入っていたのだが……。


「……すぅ、すぅ……」


 エリスは直立不動で、美しい寝顔のまま微動だにしない。

 まさにお姫様といった寝相の良さだ。

 問題は、真ん中のルルだ。


「う〜ん……ガトリングぅ……そっちはバレルだよぉ……むにゃむにゃ」


 どんな夢を見ているのか、ルルがゴロゴロと横に回転する。

 そして、その足が隣のミリーナの腹にクリーンヒットした。


 ドスッ。


「うぐっ……!」

「えへへ、待て〜」


 さらにルルの手が伸び、ミリーナの頬をグイグイと押す。

 壁際に追い詰められたミリーナは、逃げ場もなく涙目で耐えていた。


「うぅ……重いですぅ……やめてぇ……」


 ……カオスだ。

 俺はため息をつき、そっと高度を下げた。


「(……まったく。風邪引くぞ)」


 俺は自身の排熱機構を微調整し、ほんのりと温かい『微熱モード』になると、寒そうに震えるミリーナの足元に体を滑り込ませた。

 すると、熱源を感知したのか、三人が無意識に俺の方へとにじり寄ってくる。


「ん……温かい……」

「ふへへ、ダルマストーブだぁ……」


 俺を中心に団子状態になり、ようやく静かになった三人娘。

 その寝顔を見ながら、俺はふと思う。


「(……狭そうだな。というか、これじゃ疲れが取れん)」


 ルルは普段、ボルグの工房の硬い床やソファで寝ていると言っていた。

 ミリーナも、ギルドの狭い宿直室暮らしだ。

 エリスと俺もずっと宿暮らし。


 メンバーも増えた。装備開発のスペースや、プライバシーも必要だ。

 何より、こいつらが誰にも気兼ねなく、安心して手足を伸ばして眠れる場所がいる。


「(……雪山の件が片付いたら、拠点を買うか。……デカい風呂付きのやつをな)」


 俺は密かに決意を固めた。

 マイホーム計画。悪くない目標だ。


 翌朝。

 目の下にクマを作ったミリーナと、スッキリ快眠したルル、そして変わらず優雅なエリス。

 新品の冬装備に身を包んだ俺たちは、宿を出発した。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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