透明な敵と、密室の罠
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巨大な石の扉をくぐり、俺たちは『東の遺跡』の内部へと足を踏み入れた。
そこは、まるで巨大な楽器の内部と、幾何学的な回路が融合したような、不思議な空間だった。
壁面には無数のパイプが張り巡らされ、空気の流れが変わるたびに「フォォォン……」という低い共鳴音が響いている。
魔法とも科学ともつかない、古代文明の名残が色濃く残る場所だ。
「すごい……。これ、ただの遺跡じゃないよ師匠。この建物自体が、魔力を循環させる巨大な回路になってるんだ」
ルルが壁の幾何学模様に目を輝かせる。
だが、感心してばかりもいられない。
「――ッ! 待ってください!」
俺の後ろを恐る恐るついてきていたミリーナが、イヤーマフに手を当てながら叫んだ。
「右の壁から、『キーン』っていう甲高い音が……。あと、床の下から『カチカチ』って音が聞こえます」
「(ソフィア、スキャン)」
『警告。右壁面に高周波ブレードの射出孔。床面に圧力感知式信管を確認』
どうやら、侵入者を切り刻む罠だらけのようだ。
「ルル、解除できるか?」
「お安い御用だよ! ……構造理解、回路遮断!」
ルルが壁のパネルに手を触れ、ニヤリと笑う。
「ユニークスキル――【機工の神髄】!」
プシュン。
破壊音ではない。まるで完成されたパズルのピースが外れるような、小気味よい音が響いた。
複雑怪奇な魔力回路が一瞬で沈黙し、通路の照明が正常な色に戻る。
「解除完了! へへん、楽勝だね!」
「流石だな。よし、進むぞ」
その後も、俺たちは慎重に進んだ。
天井から襲ってきた『吸血コウモリ』の群れも、俺の『散弾モード』と、エリスの防御魔法によるサポートであっさりと撃退。
古代の遺跡にしては、思ったより順調――そう思った矢先だった。
「――ッ!? 止まってください! ……殺気です!」
再びミリーナが悲鳴のような声を上げた。
俺は即座に周囲を警戒するが、レーダーには敵影反応がない。
ただの静寂な通路だ。
「どこだ? 反応はないぞ」
「い、います! そこです! 景色が……歪んでます!」
ミリーナが指差したのは、何もない空間。
だが次の瞬間、そこからシュルリと長い舌が伸び、俺の横にあった石柱を粉砕した。
「なっ……光学迷彩かよ!」
破片が飛び散る中、空間が揺らぎ、巨大な爬虫類の姿が一瞬だけ浮き上がる。
『ファントム・カメレオン』。周囲の景色に擬態する厄介な魔物だ。
「くそ、ロックオンできねぇ! ミリーナ、位置を頼む!」
「ひぃぃ! み、右の壁です! あ、今天井に張り付きました!」
「そこかぁぁッ!」
俺はミリーナのナビゲートを信じ、天井に向けてショットガンの魔弾をぶっ放した。
散弾が広範囲を薙ぎ払う。
「ギャァァァッ!」
虚空から鮮血が散り、迷彩が解けたカメレオンが落下してきた。
俺はすかさず追撃を叩き込み、トドメを刺す。
「ふぅ……。見えない敵ってのは厄介だな」
俺は倒したカメレオンの死骸に近づき、手をかざした。
こいつの表皮、使えるかもしれない。
「(ソフィア、解析してMOD化できるか?)」
『肯定。生体組織から《光学迷彩機能》を抽出。装甲表面に適用可能です』
「よし、インストールだ」
俺のボディが淡い光に包まれる。
試しに機能をオンにすると、俺の赤い装甲がスゥッと透け、遺跡の壁と同化した。
「うわっ!? 師匠が消えた!? すごーい!」
「よし、これならスナイパーとして理想的な立ち回りができそうだ」
新たな能力(MOD)を手に入れ、俺たちはさらに奥へと進む。
道中、俺はミリーナに声をかけた。
「さっきは助かったぞ、ミリーナ。お前の耳がなけりゃ被弾してた。いい索敵だ」
「えへへ……そ、そうですかぁ? やっぱり私、やれば出来る女なのかもですぅ……♪」
褒められたミリーナは、満更でもなさそうにイヤーマフを嬉しそうに撫でている。
以前のビビリぶりからは想像できない、だらしないニヤけ顔だ。
まあ、これだけ役に立てば自信もつくか。
「ふふん〜♪ 私にかかればお宝の発見もちょちょいのちょいですぅ〜」
鼻歌交じりに、俺の前を歩き出すミリーナ。
そして、部屋の隅にある台座に目を留めた。
「あ、あんなところにも宝箱のようなものが……」
彼女が不用意に足を踏み出した、その時。
――カチッ。
軽快なスイッチ音が、静寂な広間に響き渡った。
「「「あ」」」
俺とエリスとルルの声が重なる。
直後、ズズズズズ……と重い地響きが鳴り、前後の通路に分厚い隔壁が落下した。
「ひぃぃぃ! ごめんなさいぃぃぃ!」
肩を丸めて縮こまるミリーナ。
完全な密室。いわゆる『パニック・ルーム』だ。
前方の壁にある無数の通気口が開き、そこからカサカサというおぞましい音が響いてくる。
「くっ、敵だ! 構えろ!」
穴から湧き出てきたのは、金属質の甲殻に覆われた巨大なムカデ――『アーマー・センチピード』の大群だった。
「うわぁ、気持ち悪っ! 師匠、ぶっ飛ばしていい!?」
「待て! 壁を見ろ。妙に脆そうだ」
俺は周囲の壁面を観察した。古い石材が組み合わさっているだけで、少しの衝撃で崩れ落ちそうだ。
意図的に「生き埋め」にするために作られた部屋かもしれない。
「エリスの《鋭利化》で俺の火力を上げたり、爆発物を使えば、俺たちごと潰れるぞ!」
「じゃあどうするんですか!?」
「エリスは身体強化だ! ルル、爆破じゃなく『燃やせ』!」
俺は即座に指示を飛ばしつつ、『バインドジェル』を床にばら撒いた。
粘着質のゲルに絡まり、先頭のムカデたちの動きが鈍る。だが、後続がその背中を乗り越えて押し寄せてくる。数が多すぎる!
「はいっ! ……内なる脈動よ、力となりて溢れ出せ……《身体強化》!」
エリスの詠唱と共に、全員の体が淡い光に包まれ、力がみなぎる。
ルルがポーチをごそごそと探り、二つのボールを取り出した。
「まずは集まれー! 『魔虫誘引玉』!」
ルルが投げたボールから強烈な異臭が広がる。
すると、ムカデたちは一斉に反応し、部屋の隅へと群がっていった。
「うげぇ、地獄絵図……。これでもくらえーっ!」
ルルが続けて投げたのは、手製の『錬金焼夷弾』。
着弾と同時に紅蓮の炎が上がる。
すかさずエリスが杖を振るった。
「サポートします! 風よ! 炎を煽りなさい! 《ウィンド・ブラスト》!」
エリスの風魔法が炎を巻き上げ、局地的な『火災旋風』となってムカデの塊を飲み込んだ。
凄まじい熱量だが、風の制御のおかげで周囲の壁へのダメージは最小限だ。
「ギャギギギギッ!」
断末魔と共に、大群が炭になっていく。
それでも炎を抜けて向かってくるタフな個体に対して、俺は視界のレティクル(照準)を合わせた。
「(ソフィア、スナイパーモード。壁を傷つけないよう、眉間をピンポイントで狙う)」
『了解。弾道補正、開始』
俺の意識に応じ、魔力弾の質が変わる。
放たれたのは、貫通力と収束率を高めた一撃必殺の魔弾。
パスッ、パスッ、パスッ。
乾いた音と共に、撃ち漏らしたムカデたちの頭部が次々と弾け飛ぶ。
数分後、部屋には焦げ臭い匂いと静寂だけが残った。
「……はぁ、はぁ。なんとかなりましたね」
「ううぅ……本当にすみません……調子に乗りましたぁ……」
ミリーナが申し訳無さそうに肩を落としている。
そんな彼女の背中を、エリスが優しく撫でた。
「大丈夫ですよ、ミリーナさん。誰にだって失敗はあります」
「そうそう! 最後はあいつら黒焦げだったし、結果オーライだよ!」
ルルも笑って励ます。
仲間たちに救われ、ミリーナも少しだけ安堵の表情を見せた。
◇◇◇
トラップ部屋を抜け、俺たちはついに最深部へと到達した。
そこは、広大なドーム状のホールだった。
壁一面が巨大なパイプオルガンになっており、天井まで伸びる無数のパイプが、淡い光を放っている。
「(ソフィア、スキャン)」
『解析。前方のパイプ基部に埋め込まれた赤色の結晶体――純度99.9%。ヒヒイロカネです』
「ビンゴだ」
俺が見つけたそれを指差すと、ルルが駆け寄った。
「うわぁ、綺麗……。でも師匠、あれ削り出すの大変だよ? 下手にやったら遺跡壊しちゃいそう」
「ああ。慎重にやる必要がありそうだ。……だが、ルル。お前のスキルならいけるか?」
「ふふん! 任せてよ! ……構造理解、共振点特定!」
ルルが工具を、ヒヒイロカネの埋まった台座に押し当てる。
「ユニークスキル――【機工の神髄】!」
ゴトッ。
まるで知恵の輪が解けるように、強固に埋まっていたヒヒイロカネの塊が、台座から外れて転がり落ちた。
遺跡本体には傷一つついていない。
「流石だな、『解体屋』」
「へっへーん! もっと褒めていいよ!」
目的のブツは手に入った。
だが、そう簡単に帰してはくれないらしい。
――ゴォォォォン……
パイプオルガンが、地響きのような重低音を勝手に奏で始めた。
空気がビリビリと震え、石柱の陰から、ズシン、ズシンと重い足音が響く。
「グルルルル……」
現れたのは、巨大なトリケラトプスのような魔獣。
だがその皮膚は岩石のように分厚く、三本の角はヒヒイロカネのような輝きを放っている。
「『轟音の重戦車・グランド・トリケラトプス』……。ここの魔力を食って育った番人か」
トリケラトプスが前足で地面を削り、突進の構えを見せる。
真正面からぶつかれば、間違いなくミンチだ。
『推奨作戦プランC。味方を囮にし、側面および背面からの狙撃を提案します』
ソフィアの冷静な声が脳内に響く。
味方を囮に……?
「(……却下だ。あいつらを危険に晒したくない)」
俺が一瞬ためらっていると、ルルが前に飛び出した。
「師匠! 私が引きつけるよ!」
「ルル!?」
「私すばしっこいし、エリスお姉ちゃんの身体強化があるから全然当たる気がしないもん! 今のうちに後ろに回って!」
ルルが自信満々にウィンクする。
隣でエリスも杖を構えた。
「私も、ミリーナさんを守りながらサポートします! ルルちゃんには指一本触れさせません!」
「わ、私も……敵の感情を読みます! 攻撃が来るタイミング、教えますから!」
ミリーナも震えながら、けれどしっかりと前を見据えている。
……いつの間にか、俺が守るだけじゃない、頼もしいチームになっていたらしい。
「……分かった。頼むぞ!」
俺は意識を切り替え、新MOD『光学迷彩』を起動した。
フッ、と俺の姿が景色に溶けて消える。
「(ターゲット確認。死角から急所を撃ち抜く)」
姿なきスナイパーと、信頼できる仲間たちによるチーム戦。
俺たちの狩りの時間が始まった。
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