スパイスの香りと聖樹の声
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深い森の奥、木々の隙間から苔むした石造りの巨大な扉が姿を現した。
目的地である『東の遺跡』だ。
到着した頃には、すでに日は西に傾き、辺りは薄暗くなっていた。
森の夜は早い。無理に探索を始めるより、今夜はここで英気を養うのが得策だろう。
「よし、今日はここで野営だ」
俺は馬車を安全な場所に停めると、アイテムボックスからとっておきの装備を取り出した。
迷彩柄の巨大なコンテナ――『野営用多目的居住モジュール(タクティカル・テント)』だ。
地面に設置してスイッチを入れると、プシュッという空気音と共に自動で展開され、頑丈な布とフレームが組み上がっていく。
外見は無骨な軍用テントだが、中に入ればその真価が分かる。
「うわぁ! なにこれ!? 師匠のテント、外から見るより中がすっごく広いよ! これ空間魔法!?」
真っ先に飛び込んだルルが、目を輝かせてはしゃぐ。
そう、内部は空間拡張されており、空調完備のリビングに加え、フカフカのコット(簡易ベッド)や簡易シャワーブースまで備え付けられているのだ。
「ふふ、凄いでしょ? ポンタさんの魔法は、驚くものばかりなんですよ」
以前、このテントの快適さを経験済みのエリスが、なぜか我が事のようにドヤ顔で胸を張る。
彼女にとっては、俺のアイテムも凄い魔法に見えているらしい。
「(まあ、ゲームの中で出来てたことが、現実で当たり前に出来るのは確かにチートだがな)」
「まずは旅の汚れを落としましょうか。……《洗浄》」
エリスが魔法を唱えると、心地よい風が体を包み込み、服や肌についた砂埃や汗が一瞬で消え去った。
女性陣から、ふわっと石鹸のような良い香りが漂う。
「さて、ポンタさんは私がしっかりお拭きしますね」
エリスが手ぬぐいを手に、ニコニコと俺に近づいてくる。
彼女にとって、俺のボディ磨きは日課であり、至福の時間らしい。
「えー! ルルもラインのチェックしたい! ほら師匠、ちょっと後ろの曲線見せてよー!」
「ダメですぅ。今日は私の番。順番にしよってルルちゃんが言ったじゃないですか」
「ちぇー」
ルルが頬を膨らませるが、エリスは譲らない。
俺の体は玩具でも展示品でもないんだが……まあ、されるがままにしておくか。
◇◇◇
ボディがピカピカになったところで、夕食の時間だ。
俺はアイテムボックスから調理器具と食材を取り出した。
「今日の飯は、道中で仕留めた『フォレスト・クウェイル(森ウズラ)』を使った特別メニューだ」
ダッチオーブンで肉と野菜を炒め、数種類のスパイスを調合して煮込む。
仕上げに、飯盒で炊き上げた艶々の白米を皿に盛れば完成だ。
スパイシーな香りが、森の冷たい空気に溶け出し、三人の胃袋を刺激する。
「うぅ……いい匂いですぅ……」
「師匠、これ何!? 初めて嗅ぐ匂い!」
「俺の特製、『森ウズラのチキンカレー』だ。食うぞ」
「「「いただきます!」」」
三人がスプーンを口に運ぶ。
瞬間、それぞれの目がカッと見開かれた。
「んんっ! はふっ、はふっ……! か、辛いですけど……美味しいですぅぅ!」
「なにこれ! 辛いのに止まんない! お口の中でお祭り騒ぎだよ師匠!」
「ん〜っ……! やっぱり、ポンタさんのお料理は世界一です。お肉も柔らかくて、スパイスの香りが鼻に抜けて……幸せ……」
大好評だ。
やはりカレーは異世界でも最強のソウルフードらしい。
ハフハフと夢中で匙を動かす彼女たちを見ていると、料理スキルのレベルを上げておいて正解だったとしみじみ思う。完全に胃袋を掴んだな。
◇◇◇
食後のコーヒー(ルルたちは果実酒やジュース)を飲みながら、俺は少し真面目な話を切り出した。
「いいか。明日からの探索、そして今後強敵と戦う時のために、重要なことを話しておく」
俺は、道中の馬車でソフィアと整理した情報を、噛み砕いて説明した。
エリスの『聖盾』の発動条件についてだ。
「俺とエリス、そしてその『聖樹の枝杖』。この三つが揃って初めて、エリスの防御魔法は真価を発揮する」
エリスの魔力は強大すぎる。
「これについては接続者の影響なんだがコレは話さない」
杖が制御弁となり、俺がアースとなって余剰負荷を受け止めることで、初めてあの無敵の盾は安定するのだ。
「俺が近くにいないと、あの盾は出せない。無理に出せば、エリス自身の体が魔力の奔流に耐えきれずに――最悪、命を落とすことになる」
俺の言葉に、エリスはハッとして息を呑んだ。
「だから、戦闘中は絶対に俺の視界から外れるな。俺がカバーできる範囲にいろ」
俺の言葉に、エリスは真剣な眼差しでコクリと頷いた。
「はい。私はもう、ポンタさんの視界から離れません。……絶対に」
「えー? なんでなんで? 師匠がアースってどういうこと? 魔力回路が繋がってるの?」
ルルが興味津々で身を乗り出してくるが、これ以上詳しく説明するとボロが出そうなので、「企業秘密だ」とはぐらかした。
ふと横を見ると、ミリーナが幸せそうな顔で革袋の中身を数えていた。
「うへへ……今回の報酬、すごかったですぅ。これだけあれば、万が一また無職になっても当分食いつなげますぅ……金貨、金貨ぁ……」
目が完全に金貨のマークになっている。
酒が入ると銭ゲバが出るタイプか。
「(まあ、こんな風に素の欲望をさらけ出せるってことは、それだけ俺たちに心を許して安心してるって証拠か)」
以前の彼女なら、こんな姿は見せなかっただろう。
俺は呆れつつも、悪い気はしなかった。
◇◇◇
夜も更け、宴はお開きとなった。
ルルとミリーナは、調子に乗って果実酒を飲みすぎたらしく、早々に撃沈していた。
「むにゃ……師匠ぉ……すごい設計図……」
「……金貨ぁ……うへへ……」
イビキをかいて幸せそうに寝ている二人。
ドワーフのくせに酒に弱いルルと、夢の中でも金勘定をしているミリーナ。
「(まったく、緊張感のない連中だ)」
俺が苦笑していると、膝の上に乗せていたエリスが、そっと俺のボディに触れてきた。
その顔は少し赤く、瞳は焚き火の明かりを受けて優しく揺れている。
「……賑やかですね。私、今すごく幸せです」
エリスは、近くのコットで無防備に寝息を立てるルルの方へと目をやった。
「私、一人っ子だったから……こんな風に妹みたいな女の子とキャッキャするの、ずっと憧れだったんです」
そう語る彼女の横顔には、かつて出会った頃のような絶望の色はもうない。
全てを失い、孤独に震えていた少女は、今、新しい仲間に囲まれて笑っている。
「もう、誰も失いたくない。……その為にも、私の力……もっとちゃんと使えるようにならなきゃ」
それは、自分自身に言い聞かせるような呟きだった。
「おやすみなさい、ポンタさん」
エリスは俺を優しくコットの横へ下ろすと、毛布にくるまり、決意を秘めるようにまぶたを閉じた。
「(ああ、おやすみ。ゆっくり寝ろ)」
全員が寝静まったテントの中で、俺は一人、パチパチと爆ぜる焚き火の音を聞きながら見張りを続けた。
◇◇◇
その夜、エリスは不思議な夢を見た。
そこは、信じられないほど巨大な大樹の麓だった。
視界いっぱいに広がる緑と、幻想的なマナの光。そして、懐かしいような、草木の心地よい匂い。
『……その力は強大。大切な人を守る心で使うのですよ……』
頭の中に、慈愛に満ちた女性の声が響いた。
姿は見えないが、とても温かい声だ。
「力……? 私の、この聖盾のことですか?」
問いかけるが、声の主は答えない。
代わりに、自分が右手に何かを握っていることに気づく。
それは、いつも愛用している『聖樹の枝杖』だった。
「どうしたら、もっとちゃんと使えるようになるの? 私はみんなを守りたいです」
誰にともなく呟くと、杖がドクン、と脈動した気がした。
『――もっとボクに集中すれば、出来るよ』
「えっ?」
杖が喋った?
驚いた拍子に、エリスの意識は急速に浮上していった。
◇◇◇
チュンチュン、と小鳥のさえずりが朝を告げる。
目が覚めたエリスは、夢の内容をよく覚えていなかった。
だが、枕元に置いてあった杖を握りしめると、以前よりも不思議と手に馴染む感覚があった。
「よし、行くぞ。ここからが本番だ」
朝食を済ませ、テントを収納した俺たちは、万全の状態で遺跡の前に立った。
巨大な石の扉を見上げる。
この奥には、ボルグが求めていた最強の金属『ヒヒイロカネ』が眠っているはずだ。
気を引き締めて行くぞ。
「「「はいっ!」」」
三人の元気な返事と共に、俺たちは深淵なる『東の遺跡』へと足を踏み入れた。
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