接敵(エンカウント)
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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「なんで俺、ダルマになってんだよォォォッ!?」
俺の叫び声は、意外なほどよく通った。 いや、正確には「声」ではない。口がないからだ。 どうやら、俺の思考がそのまま周囲に「念話」のような形で響いているらしい。
俺は必死に身をよじった。 起き上がりたい。走りたい。せめて、手を使って顔を覆いたい。 だが、今の俺にはそのすべてがない。あるのは、滑らかな曲面と、絶妙な重心バランスのみ。
ゴロン、ゴロン。
必死に動こうとすればするほど、俺の体はその場で虚しく前後に揺れるだけだった。起き上がり小法師かよ。いや、ダルマだからその通りなんだけど。
「くそっ、なんだこのクソゲーは! 初期アバターが『置物』って、運営の頭がバグってんのか!?」
俺が虚空に向かって悪態をついた、その時だった。
『――回答。個体名「ポンタ」の種族は【吉祥天ダルマ(アーティファクト・アバター)】です。バグではありません』
脳内に直接、冷ややかな女性の声が響いた。 さっき、意識が落ちる前に聞いた声だ。
「……誰だ?」
『私はナビゲーションAI、コードネーム「ソフィア」。貴方の異世界転移および、戦闘支援を担当します』
「戦闘支援……だと?」
俺はピタリと揺れるのを止めた。 ゲーマーの勘が働く。この状況、ただのマスコットキャラへの転生じゃない。
『視覚情報の同期を完了。ユニークスキル【FPS視点】を展開します』
フォォン……。 静かな起動音と共に、俺の視界が一変した。
それまでただの「夜の森」だった風景の上に、半透明の光るグラフィックがオーバーレイ表示されたのだ。 視界の右上には、現在時刻とミニマップ。 左下には、自分のステータスを示すであろうHPバー(緑色)と、MPバー(青色)。 そして、視界のド真ん中――。
「……クロスヘア(照準)?」
そこには、FPSゲームで見慣れた「十字のレティクル」が浮かんでいた。 俺が意識して視線を右の木に向けると、レティクルも追従する。 その動きは、遅延ゼロ。マウス感度は完璧だ。
『肯定。貴方の魂に刻まれた「FPSの技能」をスキルとして昇華しました。貴方はこの視界を通して、対象をロックオンし、魔法弾を狙撃することが可能です』
「マジかよ……」
俺の恐怖は、徐々に興奮へと変わっていった。 体はダルマだが、中身は俺が人生を捧げてきたFPSそのものだというのか。
「でもよ、ソフィア。狙撃も何も、俺はこの場から一歩も動けねぇぞ。手足がないんだからな」
『問題ありません。スキル【浮遊】が常時発動しています。念じるだけで、貴方は重力から解放されます』
「浮遊……?」
俺は恐る恐る、自分が「浮き上がる」イメージを頭に描いてみた。 ドローンがふわりと離陸するように。重力を断ち切るように。
スッ……。
視界が高くなった。 地面の草が遠ざかる。 俺の体は今、音もなく空中に浮いていた。
「うおおお……! すげぇ、浮いてる! しかも……!」
俺は空中で、前後左右、そして回転を試してみた。 動く。思った通りに動く。 まるで俺自身が、高性能なマウスカーソルになった気分だ。 人間だった頃よりも自由で、何より「軽い」。
『移動速度、および旋回速度は、貴方の思考速度に依存します。元プロゲーマーである貴方の反射神経ならば、この世界で捕捉できる存在は稀でしょう』
「ハッ、いいお世辞だ。気に入ったぜ、相棒」
俺は空中でくるりと一回転を決めた。 状況は依然として不明だ。なぜ死んだのか、なぜダルマなのか。 だが、やることは変わらない。
「要するに、ルールが変わっただけの新しいゲームだ。攻略してやるよ」
俺が覚悟を決めた、その時。
『警告。接近する生体反応あり。敵対的です』
視界のミニマップに、赤い光点が表示された。 同時に、木立の向こうから少女の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「……キャアアアアッ!! 誰か、誰か助けてっ!!」
「……イベント発生ってわけか」
俺は空中に浮いたまま、音のする方角へと滑るように加速した。
***
木立を抜けた先、少し開けた場所に出た。 月明かりの下、一人の小柄な少女が、大木の根元に尻餅をついている。 身に纏っているのは、擦り切れたボロボロのローブ。フードが目深にかかっていて表情は見えないが、震える体からは恐怖が伝わってくる。
そして、彼女の目の前には――。
「グルルルルッ……!!」
巨大な狼がいた。 ただの狼じゃない。体高は二メートル近くあり、全身から禍々しい黒いモヤを立ち昇らせている。 ファンタジーRPGでよく見る「魔物」そのものだ。
『対象確認。敵性個体「ブラック・ファング」。脅威度D。捕食行動を開始しようとしています』
ソフィアの淡々とした声が響く。
「射撃許可は?」 『常時承認されています。貴方の意思がトリガーです』 「了解。……助けるぞ」
俺は上空五メートルの位置でピタリと停止した。 視界の中央、レティクルを狼の頭部――眉間に合わせる。 吸い付くように照準が固定された。
狼が、少女に向かって大きく口を開け、飛びかかろうとした瞬間。
(ここだ)
俺は、かつてマウスをクリックした感覚で、強く「発射」を念じた。
ズキュゥゥゥンッ!!
俺の体から、一筋の赤い閃光が迸った。 それは文字通り「光の弾丸」だった。 暗闇を切り裂き、一直線に狼へと吸い込まれていく。
――着弾。
パァァァンッ!!
乾いた破裂音と共に、狼の頭部が大きくのけぞった。 赤い光の粒子が飛び散る。 まさにFPSの「ヘッドショット」のエフェクトだ。
「ギャンッ!?」
狼は悲鳴を上げ、横合いに吹き飛んだ。 少女に届くはずだった牙は、空を切って地面に突き刺さる。
「え……?」
少女が呆然と顔を上げる。 俺は追撃の手を緩めない。相手はまだHPバーが残っている。
「次」
空中でスライド移動し、射線を通す。 二射目、三射目。 俺の放つ魔弾は、百発百中の精密さで狼の眉間を貫き続けた。 これはいわゆる「タップ撃ち」。反動を制御しつつ、確実に急所を狙う技術だ。
『敵性個体、沈黙』
四発目を撃ち込んだところで、狼は光の粒子となって霧散した。 後に残ったのは、地面に落ちた小さな魔石だけ。
「ふぅ……。まずは一勝ってとこか」
俺は静かに高度を下げ、少女の近くへと降りていった。
少女は腰を抜かしたまま、ポカンと口を開けていた。 フードが少しずれ、月明かりに照らされたその顔は、あどけなさが残る美少女だった。 だが、その瞳は今、目の前の「救世主」を見て、困惑の色に染まっている。
「あ、あの……助けて、くれたんですか……?」
少女がおずおずと問いかけてくる。 俺は彼女の目線に合わせて、ふわりと着地した。
「ああ、怪我はないか? お嬢さん」
そうカッコよく言ったつもりだったが、彼女の反応は予想外だった。
「……お、お餅……?」
「は?」
「赤い……お餅が、喋った……?」
俺は心の中で盛大にツッコミを入れた。 (誰がお餅だ! 鏡餅じゃねーよ!)
「俺はダルマだ! ……まあ、似たようなもんかもしれんが」
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【キャラクター紹介:ソフィア】
主人公ポンタの脳内に直接響く、謎のナビゲーターAI。
その正体は、この世界を管理するシステム(らしい)。
FPS脳で暴走しがちなポンタを、冷静沈着なシステム音声でサポートする頼もしい相棒。
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