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接敵(エンカウント)

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★

挿絵(By みてみん)


「なんで俺、ダルマになってんだよォォォッ!?」


 俺の叫び声は、意外なほどよく通った。  いや、正確には「声」ではない。口がないからだ。  どうやら、俺の思考がそのまま周囲に「念話」のような形で響いているらしい。


 俺は必死に身をよじった。  起き上がりたい。走りたい。せめて、手を使って顔を覆いたい。  だが、今の俺にはそのすべてがない。あるのは、滑らかな曲面と、絶妙な重心バランスのみ。


 ゴロン、ゴロン。


 必死に動こうとすればするほど、俺の体はその場で虚しく前後に揺れるだけだった。起き上がり小法師かよ。いや、ダルマだからその通りなんだけど。


「くそっ、なんだこのクソゲーは! 初期アバターが『置物』って、運営の頭がバグってんのか!?」


 俺が虚空に向かって悪態をついた、その時だった。


『――回答。個体名「ポンタ」の種族は【吉祥天ダルマ(アーティファクト・アバター)】です。バグではありません』


 脳内に直接、冷ややかな女性の声が響いた。  さっき、意識が落ちる前に聞いた声だ。


「……誰だ?」


『私はナビゲーションAI、コードネーム「ソフィア」。貴方の異世界転移および、戦闘支援バトル・アシストを担当します』


「戦闘支援……だと?」


 俺はピタリと揺れるのを止めた。  ゲーマーの勘が働く。この状況、ただのマスコットキャラへの転生じゃない。


『視覚情報の同期を完了。ユニークスキル【FPSファースト・パーソン・シューター視点】を展開します』


 フォォン……。  静かな起動音と共に、俺の視界が一変した。


 それまでただの「夜の森」だった風景の上に、半透明の光るグラフィックがオーバーレイ表示されたのだ。  視界の右上には、現在時刻とミニマップ。  左下には、自分のステータスを示すであろうHPバー(緑色)と、MPバー(青色)。  そして、視界のド真ん中――。


「……クロスヘア(照準)?」


 そこには、FPSゲームで見慣れた「十字のレティクル」が浮かんでいた。  俺が意識して視線を右の木に向けると、レティクルも追従する。  その動きは、遅延ゼロ。マウス感度センシティビティは完璧だ。


『肯定。貴方の魂に刻まれた「FPSの技能」をスキルとして昇華しました。貴方はこの視界を通して、対象をロックオンし、魔法弾を狙撃することが可能です』


「マジかよ……」


 俺の恐怖は、徐々に興奮へと変わっていった。  体はダルマだが、中身システムは俺が人生を捧げてきたFPSそのものだというのか。


「でもよ、ソフィア。狙撃も何も、俺はこの場から一歩も動けねぇぞ。手足がないんだからな」


『問題ありません。スキル【浮遊レビテーション】が常時発動しています。念じるだけで、貴方は重力から解放されます』


「浮遊……?」


 俺は恐る恐る、自分が「浮き上がる」イメージを頭に描いてみた。  ドローンがふわりと離陸するように。重力を断ち切るように。


 スッ……。


 視界が高くなった。  地面の草が遠ざかる。  俺の体は今、音もなく空中に浮いていた。


「うおおお……! すげぇ、浮いてる! しかも……!」


 俺は空中で、前後左右、そして回転ロールを試してみた。  動く。思った通りに動く。  まるで俺自身が、高性能なマウスカーソルになった気分だ。  人間だった頃よりも自由で、何より「軽い」。


『移動速度、および旋回速度は、貴方の思考速度に依存します。元プロゲーマーである貴方の反射神経ならば、この世界で捕捉できる存在は稀でしょう』


「ハッ、いいお世辞だ。気に入ったぜ、相棒」


 俺は空中でくるりと一回転を決めた。  状況は依然として不明だ。なぜ死んだのか、なぜダルマなのか。  だが、やることは変わらない。


「要するに、ルールが変わっただけの新しいゲームだ。攻略してやるよ」


 俺が覚悟を決めた、その時。


警告アラート。接近する生体反応あり。敵対的です』


 視界のミニマップに、赤い光点レッド・ドットが表示された。  同時に、木立の向こうから少女の悲痛な叫び声が聞こえてくる。


「……キャアアアアッ!! 誰か、誰か助けてっ!!」


「……イベント発生ってわけか」


 俺は空中に浮いたまま、音のする方角へと滑るように加速した。


        ***


 木立を抜けた先、少し開けた場所に出た。  月明かりの下、一人の小柄な少女が、大木の根元に尻餅をついている。  身に纏っているのは、擦り切れたボロボロのローブ。フードが目深にかかっていて表情は見えないが、震える体からは恐怖が伝わってくる。


 そして、彼女の目の前には――。


「グルルルルッ……!!」


 巨大な狼がいた。  ただの狼じゃない。体高は二メートル近くあり、全身から禍々しい黒いモヤを立ち昇らせている。  ファンタジーRPGでよく見る「魔物モンスター」そのものだ。


『対象確認。敵性個体「ブラック・ファング」。脅威度D。捕食行動を開始しようとしています』


 ソフィアの淡々とした声が響く。


射撃許可ファイア・パーミッションは?」 『常時承認されています。貴方の意思がトリガーです』 「了解ラジャ。……助けるぞ」


 俺は上空五メートルの位置でピタリと停止ホバリングした。  視界の中央、レティクルを狼の頭部――眉間に合わせる。  吸い付くように照準が固定された。


 狼が、少女に向かって大きく口を開け、飛びかかろうとした瞬間。


(ここだ)


 俺は、かつてマウスをクリックした感覚で、強く「発射」を念じた。


 ズキュゥゥゥンッ!!


 俺の体から、一筋の赤い閃光が迸った。  それは文字通り「光の弾丸」だった。  暗闇を切り裂き、一直線に狼へと吸い込まれていく。


 ――着弾。


 パァァァンッ!!


 乾いた破裂音と共に、狼の頭部が大きくのけぞった。  赤い光の粒子が飛び散る。  まさにFPSの「ヘッドショット」のエフェクトだ。


「ギャンッ!?」


 狼は悲鳴を上げ、横合いに吹き飛んだ。  少女に届くはずだった牙は、空を切って地面に突き刺さる。


「え……?」


 少女が呆然と顔を上げる。  俺は追撃の手を緩めない。相手はまだHPバーが残っている。


ネクスト


 空中でスライド移動し、射線を通す。  二射目、三射目。  俺の放つ魔弾は、百発百中の精密さで狼の眉間を貫き続けた。  これはいわゆる「タップ撃ち」。反動を制御しつつ、確実に急所を狙う技術だ。


『敵性個体、沈黙ダウン


 四発目を撃ち込んだところで、狼は光の粒子となって霧散した。  後に残ったのは、地面に落ちた小さな魔石だけ。


「ふぅ……。まずは一勝ってとこか」


 俺は静かに高度を下げ、少女の近くへと降りていった。


 少女は腰を抜かしたまま、ポカンと口を開けていた。  フードが少しずれ、月明かりに照らされたその顔は、あどけなさが残る美少女だった。  だが、その瞳は今、目の前の「救世主」を見て、困惑の色に染まっている。


「あ、あの……助けて、くれたんですか……?」


 少女がおずおずと問いかけてくる。  俺は彼女の目線に合わせて、ふわりと着地した。


「ああ、怪我はないか? お嬢さん」


 そうカッコよく言ったつもりだったが、彼女の反応は予想外だった。


「……お、お餅……?」


「は?」


「赤い……お餅が、喋った……?」


 俺は心の中で盛大にツッコミを入れた。  (誰がお餅だ! 鏡餅じゃねーよ!)


「俺はダルマだ! ……まあ、似たようなもんかもしれんが」


_________________________

【キャラクター紹介:ソフィア】

挿絵(By みてみん)

主人公ポンタの脳内に直接響く、謎のナビゲーターAI。

その正体は、この世界を管理するシステム(らしい)。

FPS脳で暴走しがちなポンタを、冷静沈着なシステム音声でサポートする頼もしい相棒。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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