接続者(コネクター)と、赤き箱舟の真実
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アルメリアの街を出発し、俺たちは馬車で東の街道を進んでいた。
目的地である『東の遺跡』までは半日ほどの距離だ。
荷台に揺られながら、ルルが羊皮紙に猛烈な勢いでペンを走らせている。
「できた! ねぇねぇ師匠! これ見てよ!」
ルルが鼻息荒く見せてきた図面には、無骨な筒を束ねたような奇妙な武器が描かれていた。
「こないだ師匠に見せてもらった『ガトリングガン』? あの回転する駆動系、すっごい参考になったよ! それを応用してね、ルルの特製錬金弾を撃ち出す武器を考えてるの!」
「……ほう。回転式か」
「うん! 師匠の実弾みたいに威力はないけど、ピカピカ弾(閃光)とか、モクモク弾(煙幕)とか、状態異常をバラ撒く弾をシリンダーで切り替えて撃てるの! 名付けて『六連装・回転式錬金擲弾筒(シックス・シリンダー・アルケミー・ランチャー)』!」
ネーミングセンスがガチだ。 要は『回転式擲弾発射器』なのだが、構造や機構を重視した名前を付けるあたり、こいつも立派なメカオタクの素質がある。俺の火力を補う、搦め手としては面白い。
「お前、本当に手先が器用だな。……そういえばルル、お前ハーフドワーフって言ってたよな? 年は幾つなんだ?」
ふと気になって尋ねると、ルルは頬を膨らませた。
「むっ! 師匠、レディに年齢を聞くのは失礼だよー? いーッだ!」
「(ドワーフの寿命感覚が分からん……見た目は中学生くらいだが)」
「あ、でも変に子供扱いされても嫌だから言うけど、ルルは十五歳! ジイちゃんは百五十歳超えてるけどね。私は歳の離れた孫ってわけ。ピチピチだよ~?」
「ふふ、一番楽しい盛りですね」
隣で聞いていたエリスが微笑ましそうに笑う。
この和やかな空気感。ルルが加わってから、旅はずいぶんと賑やかになった。
――ガサガサッ!
その時、街道脇の茂みが大きく揺れた。
「ひぃっ!? で、でで、出ましたぁぁ! 魔物ですぅぅ!」
瞬間、ミリーナが残像が見えるほどの速度で俺の後ろに回り込み、ガタガタと震えだした。
「……おい。今の音はただの野ウサギだぞ。お前の『地獄耳』なら心音でわかるだろ」
「えっ? ……あ、本当だ。小さい心臓の音が……。えへへ、間違えちゃいました」
茂みからピョコっと野ウサギが顔を出し、また森へ消えていく。
「(この高性能ビビリポンコツめ……)」
俺がジト目で睨むと、ミリーナは縮こまりながらも、嬉しそうに耳元のヘッドセットを撫でた。
「す、すみません……。でも、この『耳』のおかげで、ポンタ様の声が一番近くで聞こえますから。……不思議と、前ほど怖くないんです」
以前のような悲壮感はなく、守られている安心感が彼女を少しだけ強くしているようだ。
俺は「へいへい」と軽くあしらいつつ、思考を内側へと向けた。
◇◇◇
(……さて、ソフィア。少し情報の整理といこうか)
俺は揺れる馬車の中で、出発前にボルグの親父が言っていた言葉を反芻していた。
『俺は若い頃、聖王国アイギスの宮廷鍛冶師に弟子入りしてたことがあってな。……王家の宝物庫で見たことがあるんだよ。その『赤い守護神』をな』
ボルグは俺のことを、アイギスの国宝だと言った。
だが、俺が目覚めたのは森の奥深くだ。王家の宝物庫なんかじゃない。
「(なぁソフィア。俺の記憶領域に、王家の宝物庫にいた記録はあるか?)」
『回答。ありません。マスターの稼働記録は、あの森で目覚めた瞬間から始まっています』
「(だよな。じゃあ、ボルグの勘違いか?)」
『否定。推測される可能性が一つあります』
ソフィアの冷静な声が脳内に響く。
『製作者である「赤き賢者」は、かつて聖王国アイギス建国期に対し、技術供与を行っていました。その際、王城警備用として数体の自律型ゴーレムを献上した記録があります。機体名――『アイギス・ガード・ダルマ』。ボルグ・インゴットが目撃したのはそれでしょう』
「(なるほどな。だからあの親父、俺のこの形状を知ってたのか)」
妙に納得がいった。俺には「兄弟」がいたわけだ。
『肯定。ですが、中身は別物です。彼らが国を守る「盾」だとすれば、マスターは賢者が元の世界へ帰るために全技術を注ぎ込んだ、唯一無二のプロトタイプです』
ソフィアは淡々と、しかし重要な事実を告げる。
『次元の壁を超え、異界から魂を運び込む箱舟。ゆえに、あなたの種族名は【吉祥天ダルマ(アーティファクト・アバター)】と定義されています』
「(吉祥天ダルマ……。ふざけた名前だと思ってたが、次元を渡る機能そのものを示してたってことかよ)」
俺の正体は、兵器ではなく「船」だったわけだ。
ここまではいい。だが、まだ疑問が残る。
「(なあ。俺が目覚めた時……俺は森の中にいて、その直後にエリスの悲鳴を聞いて助けに向かったよな?)」
そう。俺がエリスを見つけたのではない。俺が目覚めた後に、エリスを見つけたのだ。
なぜ、都合よく俺の魂は「あの場所」にあるダルマに入ったんだ?
『それこそが、エリス・フォン・アイギスが特異点である証明です』
ソフィアが一拍置き、断定した。
『恐らく、彼女は特異体質――ユニークスキル《接続者》を保有していると推測されます』
「(接続者……?)」
『はい。異界とリンクし、パスを繋ぐ生体鍵。……あの時、彼女は魔物に追われ、生命の危機に瀕していました』
ソフィアの仮説はこうだ。
死の恐怖を感じたエリスの《接続者》スキルが無意識に暴走し、救いを求めて次元の壁に干渉した。
その結果、強力な「吸引力」が発生し、波長の合う俺の魂を異世界(日本)から引きずり込んだ。
『引き寄せられたマスターの魂は、現場付近――かつての「赤き賢者の研究施設」跡地に放置されていた、唯一の器に定着した。これが、事の真相でしょう』
「(……なんてこった。偶然拾われたんじゃねぇ。俺は、あいつのSOSに無理やり呼び出されたってわけか)」
とんでもない召喚術だ。だが、それなら全ての辻褄が合う。
以前、エリスが初めて『聖盾』を発現させたあの戦いで、グレート・ボアが執拗に彼女を狙ったのも、彼女から溢れ出るその「異界へのパス(魔力)」が、魔物にとって極上の餌に見えていたからだ。
「(……なら、廃鉱山で再び「聖盾」が出たのも、そのスキルの影響か?)」
俺は先日のゴーレム戦を思い出す。
あの時、俺は敵の相手をしていて無事だったが、崩落した岩盤がミリーナたちを直撃しそうになった。
その瞬間、エリスは光の盾を展開し、物理的な岩石を消滅させたのだ。
『肯定。あの盾のエネルギー源は、彼女自身の魔力ではありません。《接続者》のスキルを通じて「高次元の領域」と繋がり、そこから無尽蔵のエネルギーを引き出した結果です』
「(無尽蔵……? そんなデタラメなこと、人間にできるのか?)」
『通常なら不可能です。生身の人間がそんなパスを繋げば、負荷で廃人になります。……ですが、あの時は二つの要因が彼女を救いました』
ソフィアは補足する。
『一つは、彼女が握っていた『聖樹の枝杖』です』
「(ボルグの親父から買った、あの杖か)」
『はい。世界樹の一部を加工したあの杖は、尋常ではない魔力伝導率を誇ります。生半可な術者が持てば一瞬で魔力を吸い尽くされますが……エリスの場合は、その杖が逆流する奔流を受け止め、制御するための「高性能なバルブ」として機能しました』
「(なるほどな……)」
ボルグが「誰も使いこなせなかった」と言って格安で譲ってくれた理由が分かった。
あの杖は、エリスのような規格外の魔力タンクでなければ扱えない代物だったのだ。
『そしてもう一つ。マスター(器)が近くにいたことです。杖で制御しきれない余剰負荷を、魂の繋がりを持つマスターが「アース」のように肩代わりした。だから彼女は無事でいられた』
つまり、あの杖がなく、俺がそばにいなければ、彼女は盾を出せなかったか、あるいは出した代償に壊れていただろうということか。
『結論。あなた達は、機能的にも運命的にも、共にあることが生存の最適解です』
俺は揺れる馬車の中で、隣でルルと楽しそうに笑っているエリスを見やった。
フワフワした天然のお姫様だと思っていたが、その身にとんでもない爆弾と才能を秘めていたとは。
俺をこの世界に呼び出し、繋ぎ止め、そして俺自身も彼女がいなければ真価を発揮できない。
「(……ふん。乗りかかった船だと思ってたが、どうやら俺の方こそ『乗せてもらってる』側だったらしいな)」
『事実です。大切に守護することを推奨します』
「(うるせぇ。言われなくても分かってるよ)」
覚悟を新たにしたところで、馬車の速度が緩んだ。
鬱蒼とした森の奥、木々の隙間から、苔むした古代の石造建築が姿を現す。
「よし、着いたぞ。ここからが本番だ」
俺たちは装備を点検し、静まり返った『東の遺跡』へと足を踏み入れた。
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