『臆病なウサギと、静寂の贈り物』
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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ギルドのマスター室。
ポンタ、エリス、そしてルルの三人が入室すると、ギデオンは書類から顔を上げ、隻眼を細めた。
「おう、来たか。待っていたぞ」
既に前回の報告を終え、この街に滞在していることは周知の事実だ。ギデオンは早速本題に入ろうとするが、ふとポンタの後ろにいる小柄な少女に目を留めた。
「……で、その後ろのチビは誰だ?」
ギデオンの視線が、物珍しそうに室内をキョロキョロ見回しているルルに向けられる。
ポンタは体を揺らして紹介した。
「ああ、紹介するぜ。こいつはルル。俺たちの専属メカニックだ」
「メカニック……? 鍛冶師じゃなくてか?」
「この街で鍛冶屋をやってる『ボルグ』の孫娘だよ。腕は確かだ、俺が保証する」
「……あいつの孫だと?」
ギデオンが驚いたように眉を跳ね上げる。
「かつては亡き聖王国アイギスの宮廷鍛冶師すら務めたという、あの偏屈で有名な『神槌のボルグ』に……こんな、何と言うか、軽そうな身内がいたとはな」
「あはは! おじさんウケるー!」
ルルは物怖じするどころか、ケラケラと笑ってギデオンの机に身を乗り出した。
「おじいちゃんは頭カチコチだけど、私は柔軟なの! よろしくね、眼帯のダンディおじさま!」
「……お、おじさま……」
ギルドマスター相手に敬語も使わないその物言いに、ギデオンは呆気に取られる。
ルルはふと、壁に立てかけられていたギデオンの大剣に目を留めた。
「ん? ねぇ、その剣。重心が切っ先寄りに二ミリずれてるよ? 刃こぼれを研ぎ直した時にバランス崩れたんじゃない?」
「……なに?」
「柄の中のウェイト調整すれば、振り抜きが二割は速くなると思うけど。……やる?」
ルルがニカっと笑って工具を取り出すと、ギデオンは目を見開き、次いで部屋が揺れるほどの豪快な笑い声を上げた。
「ガハハハハ!! こいつは驚いた! 一目で見抜くとはな!」
ギデオンはバンバンと机を叩いて喜ぶ。
「違いない! その慧眼、確かにあのクソ親父の血筋だ! よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん!」
「りょーかい! 任せてよ、眼帯のダンディおじさま!」
場の空気が一気に和んだところで、ギデオンは表情を引き締める。
「さて、本題だ」
彼が切り出したのは、ポンタたちが持ち帰った「東の遺跡」の探索計画についてだった。
「帝国が悪さをする前に、先手を打って『ヒヒイロカネ』を確保するか。悪くない判断だ」
ギデオンは羊皮紙に素早くペンを走らせ、ドンと机に置く。
「この件、ギルドからの『特務指名依頼』とする。帝国の連中が嗅ぎつける前に素材を回収し、装備を整えろ」
「話が早くて助かるぜ。……で、今回の探索だが」
そこでポンタは言葉を切り、ギデオンの隻眼を真っ直ぐに見据えた。
「場所が場所だ。案内役か、とびきり『耳の利く』奴を借りたいんだが?」
その言葉に含まれた意図――以前、ギデオンが気に掛けていたミリーナのこと――を察し、ギデオンの口元がニヤリと歪む。
「……フン、よく分かっているじゃないか。ああ、適任がいる」
ギデオンは部屋の隅でお茶の準備をしていた小柄な影に視線を向けた。
「ミリーナ、お前が行け。遺跡内部は入り組んでいる上に、視界が悪い。お前の索敵能力が必要だ」
名前を呼ばれた小柄な少女――ミリーナが、持っていたお盆をガシャンと取り落とした。
――ガシャァァン!!
静かな室内に響いた金属音。
だが、過敏すぎる聴覚を持つミリーナにとって、それは許容量を超えた爆音となり、恐怖のスイッチを押し込んだ。
「ひぇっ!? わ、わわ、私ですかぁぁ!?」
「そうだ。お前の耳なら、反響する洞窟内でも魔物の位置を特定できる」
「そ、そんなぁ! 無理です無理ですぅぅ! 私なんかが行ったら、また足手まといになりますぅぅ!」
ミリーナの顔が青ざめ、体が小刻みに震えている。
エリスが励まそうと優しく声をかける。
「大丈夫ですよ、ミリーナさん! 私たちが守りますし、ミリーナさんがいてくれたら百人力です!」
だが、今のミリーナには、その純粋な期待さえもプレッシャーという名のノイズでしかなかった。
「うぅぅ……怖い……ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ!」
耐えきれず、ミリーナは耳を塞いで執務室を飛び出し、そのままギルドの外へと走り去ってしまった。
「あ、こら! 待ちやがれ!」
「……行かせてやれ、ポンタ」
追いかけようとしたポンタを、ギデオンが止める。
「……あいつの過去は知っているな? 以前話した通りだ」
「ああ。帝国の弾圧で村を焼かれて、逃げてきたんだろ」
ポンタは、以前聞いた話を反芻する。
音だけでなく、魔力や感情の波長すら聞き取ってしまう『ルナ一族』の生き残り。
「あの異常なまでの臆病さは、その時の記憶が刻み込まれてるからだろうよ。……だが、今のままじゃあいつは一生、自分の能力に怯えて暮らすことになる」
ギデオンの言葉に、ポンタはその赤く丸い体を揺らした。
「……なるほどな。性能が良すぎるレシーバーってのも、考えものだぜ」
***
宿に戻るなり、ポンタは工房の机に設計図を広げた。
「ポンタさん、どうするんですか? ミリーナさんを置いていくんですか?」
心配そうなエリスに、ポンタはニヤリと笑って(いるような雰囲気で)答える。
「まさか。あいつの耳は遺跡攻略に必要だ。……(ソフィア、ちょっと知恵を貸せ)」
ポンタは脳内で相棒に呼びかける。
ここからは、時間との勝負だった。
《一日目:理論構築》
『……音の完全遮断は推奨しません。無響室状態は、逆に精神的な不安を増幅させ、平衡感覚を失わせます』
ソフィアの冷静な指摘に、ポンタは唸る。
「(なら、ホワイトノイズか?)」
『はい。川のせせらぎや風の音など、「安心できる環境音」をベースに流し続け、その上で特定の「悪意」だけをカットするフィルタリング機能の実装を提案します』
「(なるほどな。……よし、ベース音の選定はお前に任せる)」
『了解。……提案。マスターの心拍音をサンプリングし、サブリミナルで混ぜる手法は、対象の精神安定に極めて有効ですが?』
「(却下だ。恥ずかしいこと言うな)」
《二日目:デザイン論争》
機能要件が固まり、ルルが外装の試作に取り掛かる。
だが、ポンタの提案した「防御力重視のフルフェイス・ヘルメット案」に、待ったがかかった。
「ダメですポンタさん! ミリーナさんは女の子ですよ!?」
エリスが設計図を指差して抗議する。
「こんな鉄の塊みたいなの被ってたら、余計に怖がられちゃいます! もっとこう、可愛くて、普段使いもできるようなデザインじゃないと!」
「えー? 私はゴツいのも好きだけどなー?」
「もう、ルルちゃん! 昨日二人でポンタさんを磨いた時、『機能美と愛らしさは同居する』って言ってたじゃないですか!」
「うっ……エリス、痛いとこ突くね」
ルルが仲間になって数日。俺のボディメンテナンス権を巡ってギャーギャーやり合っていた二人だが、どうやらその中で奇妙な連帯感が生まれたらしい。
ルルは苦笑しながら、新しい図面を引き直す。
「分かったよぅ。エリスの言う通りにする。じゃあ、色は白とピンクにして、ヘッドバンドの部分に可愛い刻印入れよっか!」
「(……機能さえ満たせば何でもいいんだが)」
女性陣のこだわりにより、デザインは大幅に洗練されていった。
《三日目:最終調整》
完成したヘッドセットを前に、最後の調整が行われた。
重要なのは、「誰の声を『安全な音』として認識させるか」だ。
「(ソフィア、俺の声紋データをキーに設定しろ。俺の声だけは、どんな状況でもクリアに通すように)」
『了解。フィルタリング設定、完了。……マスター、随分と入れ込みますね』
「(うるせぇ)」
ポンタは心の中で悪態をつきつつ、つい数日前の光景を脳裏に蘇らせた。
あの廃鉱山での戦い。
崩れ落ちる瓦礫の下、ミリーナとエリスが押し潰されそうになった瞬間だ。
「(……結果的にエリスの『聖盾』で助かったが、あれは完全に俺の指揮ミスだ。俺がもっと的確な指示を出せてりゃ、あいつらに死の恐怖を感じさせることも……ミリーナにあの不快な『破壊音』を聞かせることもなかった)」
これは、その詫びのようなものだ。
「(……乗りかかった船だ。最後まで面倒見てやるよ)」
こうして、ポンタ、エリス、ルル、そしてソフィア。
全員の技術と想いを詰め込んだ、たった一人の少女のための「静寂」が完成した。
「よし……。上出来だ」
机の上に置かれたそれは、窓から差し込む夕日を浴びて、柔らかく輝いていた。
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