鉄と歯車の狂想曲(ラプソディ)
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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ルルが案内したその店は、俺たちにとって馴染み深い場所だった。
年季の入ったレンガ造りの建物。看板には、煤けて読みづらくなっているが、力強い文字でこう書かれている。
――武具屋『金床の火花亭』。
「ただいまー!」
ルルが躊躇なく、店の扉を蹴り開ける。
「帰ってきやがったか、このバカ弟子がァ!!」
入店と同時、奥から怒号と共にハンマーが飛んできた。
ルルはそれを慣れた動きでヒョイと避ける。
「危ないなぁ! 弟子じゃなくて『居候』だってば! 何回言ったら分かるの、この石頭!」
「うるせぇ! ギルドの許可もなく廃鉱山に入り浸りやがって! 鉄も叩けねぇ半端者が、ジャンクいじりばっかしてんじゃねぇ!」
奥から姿を現したのは、岩のような筋肉と立派な髭を蓄えたドワーフの老職人。
以前、エリスの才能を見抜き、あの『聖樹の枝杖』を譲ってくれた恩人――ボルグだ。
『……やっぱりここかよ』
「あ、ボルグさん! お久しぶりです」
俺とエリスの声に、ボルグがピタリと動きを止めた。
片眼鏡の奥の瞳が、俺たちを捉える。
「ん? 聖樹の杖のお嬢ちゃんと……おお! 『赤ダルマ』……いや、『赤玉の旦那』じゃねぇか!」
「えっ? 旦那? ……ジイちゃん、師匠と知り合いなの?」
ルルが目を丸くして、俺とボルグを交互に見ている。
ボルグはニヤリと笑った。
「おうよ。知ってるも何も、俺の鍛造にケチつけたのは、後にも先にもこの旦那だけだ」
「ええっ!? 天下無双を自称する、あの頑固なジイちゃんの腕に!?」
「『多重折り込み鍛造だろ? 悪くない腕だが、魔力の“波長”が見えてねぇな』……なんて言われてな。図星突かれて、ぐうの音も出なかったわ」
ボルグはカッカッカと笑い飛ばしたが、すぐに真剣な表情に戻り、声を潜めた。
「それに、な」
彼は俺の赤いボディをじっと見つめた。
その瞳には、職人としての敬意と、少しばかりの「秘密の共有者」としての色が浮かんでいる。
「俺は若い頃、聖王国アイギスの宮廷鍛冶師に弟子入りしてたことがあってな。……王家の宝物庫で見たことがあるんだよ。その『赤い守護神』をな」
「えっ……」
エリスが息を呑む。
ボルグは「しっ」と人差し指を口に当てた。
「安心しな、お嬢ちゃん。俺は口が堅いのが売りだ。……ただ、まさかあの伝説の国宝が喋り出すとは夢にも思わなかったがな」
『……気づいてたのか』
「当たり前だ。ヒヒイロカネの曲面加工に、古代の封印術式。こんなデタラメな仕事、今の時代の職人にできるわけがねぇ」
ボルグはニカッと笑うと、俺のボディをバンバンと叩いた。
なるほど、この親父がエリスに『聖樹の枝杖』を格安で譲ってくれた理由が分かった。
彼は最初から、俺たちがアイギスの関係者だと察した上で、力を貸してくれていたのだ。
「へぇ……あの石頭のジイちゃんがそこまで認めるなんて。師匠、やっぱり凄かったんだ」
「師匠だぁ? ……ルル、てめぇまた変なガラクタ拾ってきて、旦那に迷惑かけてんじゃねぇだろうな」
「失礼な! 私は師匠と技術提携を結んだの! 私の理論と、師匠の知識があれば、帝国の兵器なんて目じゃないんだから!」
ルルが胸を張ると、ボルグは鼻で笑った。
「ケッ、小娘が。理論だけで武器が作れるかよ。魂込めて鉄を叩く『重み』がねぇんだよ、お前の機械には」
「はぁ!? 重みより精度でしょ!? 今の時代はミクロン単位の加工が必要なの! ジイちゃんのやり方は古臭いのよ!」
始まった。
伝統派の頑固親父と、革新派の天才少女。
魂か、理論か。水と油の二人が、俺を挟んでギャーギャーと言い争いを始める。
『……やれやれ』
職人の性というのは、どの世界でも変わらないらしい。
だが、俺が必要なのはその両方だ。
(ソフィア、例の設計図を出せ)
『了解。ホログラム展開』
俺は二人の間に割って入り、空中に青白い光の図面を投影した。
『喧嘩してる場合か。……お前ら二人なら、“コレ”が作れるはずだ』
二人の声がピタリと止まる。
薄暗い工房の中に浮かび上がったのは、6本の巨大な銃身を束ねた回転式機関砲――【M61 バルカン】の構造図だ。
「……な、なんだこれは……?」
ボルグが片眼鏡の位置を直し、食い入るように図面を睨む。
その顔色が、一瞬にして変わった。
「おいおい……冗談だろ? こいつの口径、20mmはあるぞ!? 人に向けて撃つサイズじゃねぇ……城壁でもブチ抜く気か!?」
「すごい……! 6本の砲身を高速回転させて、冷却と装填を強制的に行うシステム……!? 理論上の発射速度は……毎分6000発!?」
ルルが震える声で叫び、図面の細部を拡大してブツブツと計算を始めた。
「毎秒100発の20mm榴弾……。こんなの、ただの弾幕じゃない。『鉄の壁』を射出するようなものだよ……!」
「だが、この圧力と熱量は尋常じゃねぇぞ。並のミスリルなら数秒で飴細工みてぇに溶けちまう。……それにこの軸受け、ミクロン単位の精度がなけりゃ回転した瞬間に自壊するぞ」
二人は同時に顔を上げ、互いを見た。
ボルグには、素材と熱処理の知識があるが、精密な回転機構の設計ができない。
ルルには、機構の知識があるが、それに耐えうる素材を加工する技術がない。
『……分かるな?』
俺は二人に告げた。
『俺が設計の“理屈”は出す。だが、それを形にするには、最高の素材を作る“鍛冶師”と、それを精密に組み上げる“技師”の両方が必要なんだ』
ボルグとルル。
二人はしばらく睨み合っていたが、やがてフッと同時に笑った。
それは、技術という共通言語を持つ者同士の、不敵な笑みだった。
「……フン。赤玉の旦那の頼みなら仕方ねぇ。おいルル、図面引け。俺がその倍の強度で叩き上げてやる」
「……へへっ、言ったね石頭! 私の設計について来られなくて泣かないでよ!」
ガシッ、と二人のゴツい手と小さな手が握手……ではなく、互いの工具をぶつけ合った。
『商談成立だな』
俺もニヤリと笑う。
最強の矛を作るための、最強の開発チームがここに結成された。
「だが旦那、すぐにとはいかねぇぞ」
ボルグが腕を組んで言った。
「設計と炉の準備に数日はかかる。それに、何より材料が足りねぇ。このバケモノ(20mm砲)の砲身には『ヒヒイロカネ』、冷却には『氷結魔石』……どっちも市場には出回らねぇレア素材だ」
『なるほど。で、どこで手に入る?』
「『ヒヒイロカネ』は東の森の奥にあるという『未踏の古代遺跡』に眠っているという噂だ。『氷結魔石』は北の山脈だが……まずは遺跡だな」
「古代遺跡!? 行く! 私も行く!」
ルルが目を輝かせて、ボルグの言葉に食いついた。
「古代文明の遺物! 未知のテクノロジー! うわぁぁ、夢が広がるぅぅ!」
「おい待てルル! お前、設計図はどうすんだ!」
「大丈夫だって! 移動中に頭の中で組んで、現地で微調整するから! それに……」
ルルはリュックをポンと叩いた。
「私の新しい装備も作りたいしね! ……ね、いいでしょ師匠?」
『……まあ、トラップ解除はお前の専門分野だしな。戦力になるなら構わん』
「やった!」
ルルがガッツポーズをする。
ボルグはやれやれと肩をすくめた。
「仕方ねぇな。じゃあ俺は、旦那たちが戻るまでに、この図面に耐えられる『合金の配合』を研究しとくわ。……熱処理の計算だけで一週間はかかりそうだ」
『頼む』
俺は頷いた。
ルルの装備準備と、ボルグの合金研究。
出発までには少し時間が必要だ。
『よし、なら俺たちは素材調達の準備だ。……まずはギルドに戻って、正式な依頼として受けてくる』
「はい、ポンタさん! しばらくは街でゆっくり準備ですね」
エリスが嬉しそうに微笑んだ。
こうして最強の武器を作るための、新たな冒険が始まろうとしていた。
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【キャラクター紹介: ボルグ・インゴット】
城塞都市アルメニアの裏通りに店を構える、頑固一徹なドワーフの鍛冶師。 最初はポンタをただの魔道具と侮っていたが、彼が持つ「ハッキング・アイ(FPS解析)」に戦慄し、最高の理解者となる。
Class: Master Blacksmith(鍛冶師)
Unique: 仕事中以外はだいたい酒を飲んで陽気だが、ハンマーを握ると目の色が変わる。
Voice: 「鉄は嘘をつかねぇ。嘘をつくのはいつだって使い手だ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
以前登場した武器屋のオヤジが…まさかのルルの身内という設定にしました。
これからこの二人のコンビが開発する武器をお楽しみにして下さい。
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