月の生存者と、隻眼の戦鬼
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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「いやぁぁぁっ! もう無理ぃぃ! 辞めるぅぅぅッ!!」
冒険者ギルド・アルメリア支部。
昼下がりの活気あるロビーに、悲痛な、そしてどこか情けない叫び声が響き渡った。
声の主は、ボロボロの格好で受付カウンターに突っ伏して泣きじゃくっている受付嬢――ミリーナだ。
「あんな化け物の相手なんて聞いてないですぅぅ! 死ぬ! 今度こそミンチになって死んじゃいますぅぅ!」
「お、おいミリーナ、落ち着けって……。客が見てるぞ」
「落ち着けるもんですかぁ! 私はただの受付ですよ!? なんで前線で岩投げられなきゃいけないんですかぁッ!」
同僚になだめられながらも、彼女は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げようとしない。
周囲の冒険者たちが、ざわめきと共に俺たちを見ている。
だが、その視線は以前のような侮蔑や嘲笑ではない。
Cランクの『鉄の牙』を返り討ちにし、今回も五体満足で帰還した俺たちへの、畏敬の念が混じったものだ。
「おい見ろよ、あの『赤玉』のパーティだ……」
「また高難度の依頼をこなしたのか? ミリーナちゃんがあんなになるまで……」
「すげぇけど、あそこのパーティの進軍速度についていける奴なんていねぇよ……」
どうやら俺たちの評価は、「関わると危険だが、実力は本物」という方向に定まりつつあるらしい。
悪名は無名に勝る、とは言うが、少しばかりハードルが上がりすぎている気がしなくもない。
『……喉がつぶれるほど元気ってことは、怪我はないな』
「ふふ、ミリーナさん、すごい肺活量ですぅ」
俺とエリスは、泣き叫ぶミリーナをギルド職員に任せ、奥にある重厚な扉――ギルドマスターの執務室へと向かった。
***
「ガハハハハ! よくぞ無事に戻ったな!」
扉を開けると、紫煙の向こうから豪快な笑い声が出迎えた。
隻眼の巨漢――ギデオンだ。
いつものように葉巻を噛み、机の上には山積みの書類があるが、俺たちの顔を見るなりその表情を明るくさせた。
「報告は聞いているぞ。廃鉱山の調査どころか、奥に巣食っていた『主』まで討伐したそうじゃないか」
『ああ。だが、厄介な土産も持ってきたぞ』
俺はインベントリから、帝国製オートマタの残骸と、ミスリルゴーレムから摘出したコアを取り出した。
ドサリ、と重い音が響く。
それを見た瞬間、ギデオンの目から笑意が消え、猛禽類のような鋭い光が宿った。
「……なるほど。帝国の『ネズミ』ども、本気でここ(アルメリア)を嗅ぎ回っているようだな」
『廃鉱山の奥には、まだ手付かずのミスリル鉱脈が眠っていた。奴らの狙いは資源と、それを使った魔導兵器の開発だろう』
「厄介だな。今はまだ調査段階だろうが……いずれ、その鉱脈を確保するために軍を動かしてくる可能性が高い」
ギデオンは太い指で机を叩いた。
そのリズムは、迫り来る戦火の足音を予感させるように重い。
「この件は俺の方で預かる。国の上層部にも報告が必要だが……貴族どもは腰が重いからな。当面は俺の権限で警戒レベルを引き上げる」
『頼む』
「ああ。……それと、これは今回の特別報酬だ」
ギデオンが革袋をドン、と机に置いた。
ジャラリと鳴る金属音。中には金貨がずっしりと詰まっている。
「ミリーナへの『精神的慰謝料』も含んでおいた。あいつも文句を言いつつ、仕事はきっちりこなしたようだしな」
『あいつの【地獄耳】は役に立ったよ。あいつがいなけりゃ、不意打ちを食らってた』
俺が素直に評価すると、ギデオンは深く紫煙を吐き出しながら、どこか寂しげに目を細めた。
「……フ。【地獄耳】か。あいつのそれは、そんなありふれたスキルじゃねぇよ」
『ん?』
「あいつはな、『ルナ一族』の生き残りだ」
(ソフィア、検索)
『了解。……検索結果、該当あり』
即座にソフィアの冷静な声が脳内に響く。
『解説。ルナ一族は、古代文明時代より「月の魔力」を操り、エネルギー精製に関わっていたとされる少数民族です。その聴覚は、音波だけでなく魔力の波長すら捉えると言われています』
(魔力の波長だと……?)
俺の脳裏に、廃鉱山での光景がフラッシュバックした。
あの時、暴走したゴーレムを前に、ミリーナは耳を塞いで叫んでいた。『音がドス黒く濁ってる』『殺意が聞こえる』と。
(……なるほど。あれはただの比喩じゃなかったのか。あいつは、敵から溢れ出る『攻撃の意思(魔力)』そのものを聴いていたんだな)
『追記事項。現在、ルナ一族はガレリア帝国の徹底的な弾圧と捕縛により、散り散りになっています。集落レベルの個体数は確認されておらず、絶滅危惧種に指定されています』
「……あいつの両親も一族も、帝国の『狩り』に遭ってな。命からがら逃げ延びてきたのが、この街だ」
ギデオンが低い声で語る。
隻眼の奥にある光は、ただ純粋に、弱き者を案じる父親のような温かさを帯びていた。
「あの異常なまでの臆病さは、その時の記憶が刻み込まれてるからだろうよ。……だが、本来あいつは受付嬢で腐らせるには惜しい才能を持ってる。恐怖さえ乗り越えれば、一流の探索者になれるんだがな……」
「……そう、だったんですね」
エリスが胸元をギュッと握りしめた。
彼女の瞳が揺れている。自分もまた、帝国によって故郷「アイギス」を追われ、孤独に逃げ惑った身だ。
ただの怖がりだと思っていたミリーナの背中に、自分と同じ傷跡を見てしまったのだろう。
「手のかかる奴だとは分かってる。ビビリだし、泣き虫だし……ギルド内で荒くれ者同士の喧嘩が始まりゃ、真っ先に受付の下で震えてるような奴だ」
ギデオンは苦笑しながら、葉巻の灰を落とした。
「だがな、あいつにも少しは『外』を見せてやりてぇんだ。怯えて暮らすだけが人生じゃねぇってことをな」
彼は真剣な眼差しで俺を見た。それはギルドマスターとしてではなく、一人の男としての願いだった。
「お前らのパーティなら……あいつのその『耳』を活かして、守りながら戦えるかもしれん。……たまには、目をかけてやってくれんか」
『……やれやれ。俺たちは子守り部隊じゃねぇんだがな』
俺は悪態をつきつつも、ボディを小さく揺らして肯定の意を示した。
有能な索敵要員は喉から手が出るほど欲しい。それに、エリスがあんな顔をしていては断れるはずもない。
「ガハハ! 恩に着るぜ」
ギデオンは空気を変えるように、パンと手を叩いた。
その一つの瞳が、ニヤリと俺を見る。
「帝国の技術力は侮れん。奴らが本気になれば、見たこともない兵器が出てくるだろう。……対抗できるのは、お前のような『規格外』だけかもしれん。頼むぞ、新人」
俺は無言で頷いた。
アームズ・レース(軍拡競争)。
向こうが技術を上げるなら、こっちはそのさらに上を行く「火力」を用意するまでだ。
それに……ルルという腕利きの技師が仲間になった今なら、俺の頭の中にある『あの構想』も、実現できるかもしれないしな。
***
ギルドを出ると、外ではルルが待ちきれない様子でウズウズしていた。
「終わった? ねぇ終わった!? じゃあ約束通り、私の『工房』へ案内するよ! 師匠のメンテナンスしなきゃ!」
『……メンテナンスっつっても、お前に俺の中身はいじれねぇぞ』
俺の体は継ぎ目なしの特殊合金だ。
どうせ表面を撫で回して「すっごーい!」とか言うつもりだろう。
「いいの! 見るだけでも勉強になるんだから! ほら行くよ!」
ルルは強引に俺を持ち上げると、走り出そうとした。
その時だ。
「ああっ! 待ってくださいルルさん!」
エリスが慌てて割って入り、俺をルルの手から奪い返した。
「ポンタさんを運ぶのは、私の役目です! お手入れだって、私が毎日やってるんですから!」
「え〜? 減るもんじゃないし、ちょっとくらいいいじゃん」
「ダメです! ポンタさんは私の……私の、大切な相棒ですから!」
エリスがむぅっと頬を膨らませて俺を抱きしめる。
柔らかい感触と、彼女の体温が伝わってくる。
……やれやれ。これだけ健気に尽くされると、悪い気はしないな。
「ちぇっ、ケチだなぁ。ま、いいや。こっちこっち! 街一番の設備がある最高の場所だよ!」
ルルが案内したのは、槌音が響く職人街の一角だった。
煤と鉄の匂いが立ち込めるその場所に見覚えがあり、エリスが「あ、あれ?」と声を上げた。
「この道って……」
『……おい、まさか』
ここまで読んでいただきありがとうございます!
エピソード14の巻末にルルの挿絵を追加しました。
まだ見ていなければ是非ご覧ください。
またミリーナの過去が実は結構シリアスだった…このルナ一族はこれからのメインストーリーにどう拘っていくのか?
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