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鋼鉄の守護者と、黄金の嵐

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★


 カン! カンッ!!


 乾いた音が廃鉱山に虚しく響く。

 俺が放った徹甲弾は、巨人の装甲に当たった瞬間、無惨にも火花を散らして弾かれた。


『……硬ぇな、おい!』


 俺は空中で回避行動を取りながら悪態をつく。

 目の前に立ちはだかるのは、採掘用ゴーレム(マイニング・ギガント)。

 だが、ただの岩の塊ではない。長年かけて吸収したミスリル鉱石が、天然の装甲となって全身を覆っている。

 戦車の複合装甲よりもタチが悪い、「歩く要塞」だ。


「グオオオオッ!!」


 ゴーレムが右腕の巨大ドリルを振り回す。

 単純で大振りな攻撃だが、その質量自体が凶器だ。直撃すれば俺のボディとてただでは済まない。


「ひぃぃ! こっちに岩投げないでくださいよぉぉ! まだ死にたくないですぅぅ!」


 瓦礫の陰で、ミリーナが涙と鼻水を流しながら絶叫している。

 完全に腰が引けているが、逃げ足だけは速い。とりあえず彼女は放っておいても大丈夫そうだ。


『ソフィア、弱点は!』

『解析中……回答。現状、外部装甲の隙間が皆無です。物理攻撃による有効打は期待できません』

『詰みってことかよ!』


 俺が攻めあぐねていると、下から呆れたような声が聞こえた。


「まったく、師匠は強引だなぁ。……ちょっと待ってて、私が『皮』をいであげる」


 ルルだ。

 彼女は巨大なモンキーレンチを構えると、ゴーレムの足元へ向かって走り出した。


「ふっ!」


 ドォン! とドリルが地面を叩き割る。

 ルルはその衝撃波を、まるで新体操選手のような軽やかな跳躍で回避した。

 ドワーフの身体能力だけではない。彼女自身のセンス――天性のバネと体幹の強さが、その動きを可能にしている。

 彼女は空中で身をひねり、ゴーレムの懐へと飛び込む。


 だが、ゴーレムもただの岩ではない。足元の小虫を排除しようと、左腕のショベルを振り上げた。


『させねぇよ! ……喰らえ、【バインド・ジェル】ッ!』


 俺はルルを守るため、振り上げられた左腕の肩関節へ向けて粘着弾を発射した。

 ドリュッ、という音と共に、緑色の高粘度ジェルが肩と胴体に絡みつく。


「グ、オ……ッ!?」


 ゴーレムの動きが止まった。

 急速硬化したジェルが関節をロックし、その剛腕を胴体に縫い付けたのだ。


「うわっ、なにこれ!?」


 着地したルルが、目を輝かせて頭上のジェルを見上げた。


「すごい粘着力……それに魔力伝導率が高い! これ、未知の錬金素材!? ねえ師匠、あとでこれの成分データ頂戴ね!」

『遊んでる場合か! さっさとやれ!』

「はーい! ……いっくよー! 構造理解、共振点特定!」


 ルルがレンチの先を、無防備になった右膝の装甲に押し当てる。

 魔力が奔流となって流し込まれる。


「ユニークスキル――【機工の神髄ザ・メカニック】!」


 カパッ。


 破壊音ではない。まるで完成されたパズルのピースが外れるような、小気味よい音が響いた。

 俺の徹甲弾でも傷つかなかった分厚いミスリル装甲が、一枚の板となって綺麗に剥がれ落ちる。


「師匠、膝フレーム露出! 重心が崩れるよ!」


 ルルの言葉通り、支えを失ったゴーレムがガクンと体勢を崩し、片膝をついた。

 ナイスだ! これなら狙える――と思った、その時。


 ブォォォォン……ッ!!


 ゴーレムの全身から、不気味な赤い蒸気が噴き出した。

 カメラアイが赤熱し、駆動音がけたたましく変化する。


 バヂヂヂヂッ!!


 肩を拘束していたバインドジェルが、強引なパワーによって無理やり引きちぎられた。

 繊維状になった粘液が宙に舞い散る。


「……ひっ!?」


 岩陰にいたミリーナが、両耳を押さえて悲鳴を上げた。


「お、音が変わりました! 内部の回転数が異常上昇してます! ……これ、何かヤバいのが来ますよぉぉ!?」

『ヤバいのが来るのは見れば分かる! 具体的に何だ!』


 俺が怒鳴ると、ミリーナは青ざめた顔で、耳を塞ぎながら首を振った。


「わ、分かりませんけど……音が『ドス黒く』濁ってますぅ! 誰でもいいから壊してやるって、凄まじい『殺意』が聞こえるんですぅぅ!」


『……あぁ? 殺意が聞こえるだぁ?』


 俺は眉をひそめた。

 駆動音が変わったと言いたいのだろうが、妙な表現をする奴だ。

 だが、その直感は正しかった。


 直後、ゴーレムが咆哮と共に両腕をデタラメに振り回し始めた。

 狙いも何もない。ただ周囲を破壊するためだけの暴力。

 自由になった巨大なショベルが、天井の支柱を薙ぎ払う。


 ズズズッ――ドォォォン!!


 天井の岩盤が崩落した。

 巨大な岩塊が、逃げ遅れたミリーナの頭上へと降り注ぐ。


「――っ!?」


 俺はゴーレムの腕を引きつけていて、間に合わない。

 ミリーナが絶望に顔を歪め、空を見上げた。


「ミ、ミリーナさんッ!」


 エリスが叫んだ。

 彼女は逃げるどころか、落下地点へと踏み出した。

 間に合わない。物理的に、あの岩を受け止める術はない。


 だが、エリスは『聖樹の枝杖』を両手で強く握りしめ、天にかざした。


「お願い……出てっ!」


 それは詠唱ですらない、彼女の魂からの叫びだった。


 キィィィ――――――ンッ!!


 ……え?

 岩が激突したはずなのに、響いたのは巨大な鐘を叩いたような、硬質で澄んだ高音だった。


 土煙が晴れる。

 そこには、無傷のエリスと、腰を抜かしたミリーナがいた。

 二人の頭上――衝突の瞬間に展開されたであろう「半透明の六角形が連なる光の盾」が、硝子細工のようにキラキラと崩れ落ちていくのが見えた。


「……で、できた……」


 エリスが荒い息を吐きながら、自分の杖を見つめている。

 一瞬だったが、間違いなく発動した。あの【聖盾アイギス】が。


「エ、エリス様ぁぁ……! もうダメかと思いましたぁぁ……!」

「よかった……間に合いました……」


 泣きついてくるミリーナに、エリスが安堵の笑みを向ける。

 そのあどけない笑顔は、守りきった達成感に輝いていた。


 だが、今はまだ感傷に浸っている場合じゃない。

 俺の中で、どす黒い怒りの導火線に火がついた。


『……よくも、俺のツレを潰そうとしてくれたな』


 仲間を危険に晒した。

 その事実だけで、俺がこいつを「解体」する理由は十分だ。

 俺は空中で静止し、暴れ回るゴーレムを見下ろした。


(ソフィア、あの暴走を止める!)


 さっきまでは鉄壁だった。だが、状況が変わっているはずだ。

 ソフィアの冷静な声が、俺の推測を肯定する。


『解析完了。暴走に伴う過剰排熱のため、頭部装甲の一部が強制展開しました。眉間中央、直径3センチのメインセンサーが露出しています』

(やっぱりな! 熱くなりすぎて隙ができてるぜ!)


 視界に赤いターゲットマーカーが表示される。

 暴れ回る巨体の、ほんの一点を狙う。

 FPS廃人を舐めるなよ。偏差射撃リードショットはお手の物だ。


『止まれッ!』


 俺は一点の迷いもなく引き金を引いた。

 放たれた魔弾は、振り回される腕の隙間を縫い、排熱のために開いた隙間へと吸い込まれ――正確にゴーレムの単眼カメラアイを貫いた。


「グ、ガ……ッ!?」


 視界を奪われたゴーレムが、のけぞって動きを止める。

 棒立ちだ。


「師匠! やるなら今だよ!」


 ルルが叫んだ。


「でもお腹の動力炉コアは壊さないで! あれ、超高出力のレアエンジンなの! 私の新しい発明品に絶対必要なんだから!」

『注文が多いな! ……エリス!』


 俺は呼びかける。


『俺に、この前覚えた“アレ”をくれ! 火力を上げろ! 装甲の上からでもブチ抜けるくらいにな!』

「は、はいっ! ……光の精霊よ、全てを貫く切っ先を与えたまえ……【鋭化シャープネス】!」


 エリスが杖を掲げ、高らかに詠唱した。

 カッ、と俺の体が金色の光に包まれる。

 ……おいおい、訓練の時より凄くないか?

 一度「守る力」を成功させた自信からか、エリスの魔力が迷いなく注ぎ込まれている。


警告アラート。魔力密度が予測値を大幅に超過』


 ソフィアの声にノイズが混じる。


『聖樹の杖による増幅効果を確認。貫通係数、測定限界を突破。およそ1500%(15倍)に上昇』

(15倍!? インフレしすぎだろ!)


 俺のボディが、高すぎる魔力密度で唸りを上げている。

 まるで、今にも破裂しそうな爆弾を抱えているような感覚だ。

 単発セミオートじゃ消費しきれない。


『提案。現在の魔力供給量に対し、単発射撃セミオートでは排熱が追いつきません』


 ソフィアが冷静に告げる。


『推奨戦術を「狙撃」から「面制圧」へ変更。マスターの記憶データより、FPSスキル【アサルトライフル・マスタリー】を参照……論理再構築リビルドを開始します』


 俺の脳裏に、前世の記憶がフラッシュバックする。

 遠距離からのスナイプも好きだった。だが、本当に脳汁が出たのは、中・近距離でトリガーを引き絞り、弾幕で敵をなぎ倒した瞬間だった。


(……ああ、そうだ。それだよ、ソフィア!)


 俺の魂が歓喜に震える。

 スナイパーライフルだけがFPSじゃない。

 圧倒的な弾数で、反動をねじ伏せ、敵を蜂の巣にする快感。それこそが――!


『スキル構築完了。リミッター解除。……【連射モード(フルオート)】、解放します』


 カシャッ。

 俺の中で、何かが切り替わる音がした。


 だが、これならいける。

 俺は照準を、動力炉はらを避けた「胸部」へ合わせた。


『装甲ごと消え失せろ! ……【連射モード(フルオート)】ッ!! オラァァァァァッ!!』


 俺の意識がトリガーを引きっぱなしにする。


 ズガガガガガガガガガガガッ!!


 轟音。

 俺の銃口から吐き出されたのは、エリスの黄金の魔力でコーティングされた、破壊の雨だった。

 一発一発が対戦車砲並みの威力を持つ魔弾が、あまりの連射速度に連なり、まるで一筋の光の帯のように見えているのだ。

 手元に伝わる強烈なリコイル(反動)。だが、俺のエイムは微動だにしない。これぞFPS廃人の指先だ。(まあ、今の俺に指はないが)


 防御? 関係ない。

 硬度? 知ったことか。


 ボッ、ゴォォォォォッ!!


 ミスリルの厚い装甲が、紙のように裂け、蒸発した。

 胸部、肩、頭部――。

 上半身のすべてが、背後の岩盤ごと粉砕され、消滅していく。


「――――」


 断末魔を上げる暇もなかった。

 黄金の嵐が止んだ時、そこには、綺麗に「下半身」と「お腹」だけを残したゴーレムの残骸が立っていた。

 ドサッ。

 残骸が崩れ落ち、もう二度と動く気配はない。


        ***


「……あーあ」


 静寂の中、ルルの呆れた声が響いた。


「せっかくのミスリル装甲が、半分以上蒸発しちゃったよ。……ま、一番大事な動力炉レアアイテムは無事だから、いっか」


 ルルは残骸に駆け寄り、腹部から輝くコアを嬉しそうに取り出した。

 本当に現金な奴だ。


「……もうダメかと思いましたぁぁ……エリス様ぁ、ありがとうございますぅぅ……」


 ミリーナはまだ涙目で、エリスにすがりついている。

 エリスは「よしよし」と、年上のミリーナの頭を撫でていた。

 その姿は完全に、聖女と迷える子羊だ。


「さて、と」


 ルルが大きなリュックに戦利品を詰め込み、ニカッと笑って俺を見た。


「約束通り、知識データは教えてもらうよ師匠! それに、こんな面白い技術ポンタ……放っておくわけないじゃん」

『……何が言いたい』

「決まってるでしょ? 私もパーティについて行くよ! 師匠たちの装備、私がメンテしてあげる」


 ルルはガバッと俺に抱きつき、離そうとしない。

 すると、横からムッとした顔のエリスが割って入ってきた。


「むぅ……ダメです! ポンタさんのお世話は、私の役目ですから!」

「え〜? いいじゃん、私の方が構造ナカミに詳しいし!」

「私は毎日拭いてますから、表面ソトガワには詳しいんです!」


 俺を挟んで、銀髪とピンク髪がギャーギャーと言い合っている。

 やれやれ、とんだ押しかけ弟子が増えたもんだ。


「あ、それと師匠! 責任とって、街にある私の工房まで護衛してよね! さっきの戦闘で手持ちのアイテム、使い切っちゃったし!」

『……はいはい、分かったよ』


 俺は呆れながらも承諾した。

 こうして俺たちは、思わぬ戦利品と、騒がしい新メンバーを加えて帰路につくことになった。


 だが、ふと視線を落とす。

 俺の横で上機嫌に歩くルルの、パンパンに膨らんだリュック。

 その隙間からはみ出した、怪しく輝く銀色の鉱石――ミスリル。

 

 あの隻眼せきがんのギルドマスターは言っていた。「帝国は新しい魔導兵器の開発に躍起になっている」と。


(……奴らが求めているのは、ただの資産じゃない。他国を蹂躙するための『武力』だ)


 今回は俺たちが阻止したが、帝国の渇望が止まることはないだろう。

 俺のボディには、まだフルオート射撃の高熱が芯に残っている。

 その冷めやらぬ熱さが、これから始まる熾烈な開発競争アームズ・レースの予兆のように思えてならなかった。


__________________________________________

【キャラ紹介 ルル・インゴット】

挿絵(By みてみん)

廃鉱山でポンタを「未知の素材」として追い回していた、神出鬼没の解体屋スカベンジャー。 人間とドワーフのハーフであり、小柄な体格ながら体術に優れ、身の丈以上の巨大レンチを軽々と振り回す。 ポンタが提示した「ロータリーエンジン」の構造図に衝撃を受け、彼を「師匠」と呼び慕うようになる。


Class: Scavenger / Genius Engineer(解体屋 / 天才技師)


Unique: 異常なほどの知識欲と、構造を一瞬で理解する直感力を持つ。魔法技術に頼らない「純粋な機械工学」の美しさを解する、世界でも稀有な存在。


Voice: 「邪魔だよ銀髪! 私は今、歴史的発見と対話してるんだ!」


ここまで読んでいただきありがとうございます!

ルルが仲間になりました。

彼女の飽くなき好奇心と天才的なメカニックの腕は今後のポンタ達を大いに助ける?と思います(笑)


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