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暴走技師と、悪魔の知識

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★

「待て待て待てぇぇぇっ! 逃げるな、その赤くて丸いのォォッ!!」

『逃げるに決まってるだろ、この変態! ドライバーをしまえ!!』


 廃鉱山の広大な採掘場跡で、奇妙な追いかけっこが繰り広げられていた。

 逃げるのは、俺ことポンタ。

 追うのは、巨大なモンキーレンチを背負った少女。


 速い。

 ドワーフといえばずんぐりむっくりな体型を想像するが、彼女は違う。

 人間とのハーフなのだろう。小柄で華奢な体躯は、まるで森の妖精のように軽やかだ。

 髪の間から覗く耳は人間よりも少しだけ長く、先端が鋭角に尖っている。

 だが、その目は完全に獲物を狙う肉食獣のそれだった。


「お願い! ネジ一本! 外装のパネル一枚でいいからぁ! その複雑な曲面の裏側がどうなってるのか、死ぬほど気になってるのぉぉ!」

『俺の体は溶接もネジ止めもしてねぇよ!』

「じゃあどうやって動いてるの!? 魔力駆動? それとも未知の慣性制御!? ああもう、確かめさせてぇぇッ!」


 少女は涎を撒き散らしながら、手に持った万力のような工具をカチカチと鳴らして迫ってくる。

 捕まったら最後、あの工具で無理やりこじ開けられる未来しか見えない。


「ちょ、ちょっと! ポンタさんをいじめないでください!」


 エリスが慌てて割って入ろうとするが、少女は残像が見えるほどのスピードで身をかわす。


「邪魔だよ銀髪! 私は今、歴史的発見と対話してるんだ!」

「対話じゃなくて解体しようとしてますよね!?」

「ひぃぃぃ……こ、こっちに来ないでくださいぃぃ!」


 ミリーナはとっくに岩陰に避難し、頭を抱えて震えている。

 ダメだ、話が通じない。このままでは、俺の貞操ボディがこじ開けられてしまう。


(ソフィア! こいつを止める方法はないか!?)

『提案。対象の言動から、極めて高い「知的好奇心」と「工学への執着」が見受けられます』


 ソフィアの冷静な分析が響く。


『物理的な排除よりも、より高度な「興味の対象」を提示し、注意を逸らすことを推奨します』

(興味の対象だと? 俺の体以上に?)

『肯定。マスターの記憶領域にある、この世界には存在しない「機構メカニズム」の概念図を見せるのが効果的です』


 なるほど。

 技術屋なら、未知のテクノロジーには抗えないはずだ。

 俺は空中に急停止し、振り返った。


『……おい、解体屋!』

「ん? 観念した? じゃあここを開けて……」

『俺をバラしても、中身はただの空洞だ。だが……俺を壊せば、貴様はこの世界に存在しない「神の技術ロジック」を永遠に失うことになるぞ』


 少女の手がピタリと止まる。


「……神の、技術?」

『ソフィア、ホログラム展開。……「ロータリーエンジン(回転機関)」の基本構造図だ』


 ブォン、という音と共に、俺の目の前の空中に青白い光の図形が浮かび上がった。

 三角形のローターが繭型のハウジングの中を回転し、吸気・圧縮・爆発・排気を繰り返す構造。

 ガトリングガンの基礎ともなる、回転機構のロジックだ。


「……な、なにこれ?」


 少女がゴーグルをカチャカチャと操作し、食い入るようにホログラムを凝視する。


「魔力炉がない……? 往復運動を回転運動に変えるクランクもない……? なのに、構造そのものが動力を生み出してる!?」


 食いついた。

 この世界の機械は、魔法というブラックボックスに頼りきりだ。

 だからこそ、物理法則のみで組み上げられた「純粋な機械」の美しさは、エンジニアの魂を揺さぶる。


『理解が早いな』

 俺はニヤリと笑った(心の中で)。


『これは俺が持つ知識の、ほんの欠片カケラに過ぎない。俺の頭の中には、こういう「未知の兵器」や「機構」の設計図が山ほど眠っている』

「……!!」

『どうだ? 俺をバラして鉄屑にするか? それとも……俺に従って、この知識の深淵を覗くか?』


 少女はゴクリと喉を鳴らした。

 工具を持つ手が震えている。解体欲と、知識欲。二つの欲望がせめぎ合い――


「……見る」


 カラン、と工具が地面に落ちた。


「見る! 見たい! あなたの知識、もっと教えて! 師匠ししょう!!」

『……よし、交渉成立だ』


 チョロい。

 俺は安堵の息を吐いた。

 とりあえず、最大の危機は去ったようだ。


「私はルル。ルル・インゴット。しがない解体屋スカベンジャーだよ。師匠の名前は?」

『……俺はポンタだ』

「私はエリスといいます。……あの、ルルさん?」


 エリスがおっとりとした口調で近づいていく。

 ルルがきょとんとしていると、エリスは懐から白いハンカチを取り出し、ルルの頬にそっと触れた。


「お顔、真っ黒ですよ? 機械油とすすがついちゃってます」

「えっ、あ、う……?」

「女の子なんですから、もう少し気を使わないと。――【洗浄クリーン】」


 エリスはハンカチに生活魔法をかけると、優しくルルの頬を拭った。

 ベッタリと付着していた頑固な機械油が、まるで嘘のようにスルリと落ちていく。

 毎日欠かさず、俺のボディを鏡のようにピカピカに磨き上げているだけあって、その手際はもはや職人芸だ。

 エリスにかかれば、どんな汚れもイチコロなのだ。


「……はい、綺麗になりました」


 エリスは慈愛に満ちた微笑みで言った。

 突然の母親のような扱いに、ルルの顔がボッと赤くなる。


「あ、ありがと……。べ、別に顔くらい洗わなくても死なないし……」

「ふふ、可愛いお顔が台無しですよ」

「うぅ……調子狂うなぁ、この銀髪……」


 どうやら野生児のようなルルも、エリスの天然の優しさには弱いらしい。

 俺が紹介すると、岩陰からミリーナも恐る恐る顔を出した。


「あ、あの……ルルさん? あなた、こんな危険な場所に一人で入るなんて、ギルドの許可取ってます? 違法侵入ですよ?」

「あー、ギルド? 興味ないね」


 ルルは気を取り直したように鼻で笑い、手を振った。


「冒険者って嫌いなんだよね。あいつら、遺跡のガーディアンとか見つけると、価値も分からず『粉々』にするでしょ? あれは貴重な技術遺産なんだよ。『解体バラ』して持ち帰るならいいけど、ただの鉄屑にするなんて野蛮すぎ! 文明への冒涜だよ」


『なるほど。それでお前は、野蛮な連中に壊される前に部品を回収サルベージしに来たってわけか』

「そゆこと。街の鍛冶屋じゃ、こういう精密部品は作れないからねぇ。頭の硬い筋肉ダルマばっかりだし」


 ルルは肩をすくめた。

 どうやら彼女なりの美学があるらしい。「破壊」はNGだが、「解体」はOK。要は、中のパーツを無事に回収できるかどうかが重要なのだろう。

 俺にとっては好都合だ。


『それにしても、大量のオートマタだったな。あいつら、ここで何をしていたんだ?』


 俺は話題を変え、先ほど倒したスパイダー型の残骸に目を向けた。

 ルルが真剣な表情に戻り、残骸の腹部を開いて見せる。


「それなんだよ、師匠。こいつら、ただの偵察機じゃない。見て、これ」


 彼女が指差したのは、ドリル状のアタッチメントと、採取された鉱石が入ったガラス管だった。


「地質調査用ユニット。こいつら、この鉱山の『成分』を調べてたんだ」

『成分?』

「帝国は新しい魔導兵器の開発に躍起になってる。そのために必要なのが、高純度の伝導体……つまり『ミスリル』や『オリハルコン』みたいなレアメタルだよ」


 ルルは廃鉱山の奥、暗い闇が広がる坑道を睨みつけた。


「ここはただの廃鉱山じゃない。もっと奥に、とんでもない純度の鉱脈が眠ってる。帝国はそれを嗅ぎつけて、こいつらを送り込んだんだと思う」


「魔導兵器……」


 エリスが悲しげに眉を寄せた。


「そんなもののために、また争いが起きるんでしょうか……」

『……その可能性は高いな』

(ソフィア、どう思う?)

『推測。ルルの仮説は極めて高い確率で正解です。帝国の動き、および偵察機の装備から、大規模な資源採掘の前段階であると考えられます』


 ギデオンが警戒していた「キナ臭い動き」の正体が見えてきた。

 帝国はこの場所を、資源供給地として確保しようとしているのだ。


『……面倒な話になってきやがったな』

「でしょ? ま、私は帝国だろうがなんだろうが、珍しいパーツが手に入ればそれでいいんだけどねー」


 ルルが呑気に笑った、その時だ。


 ズズズズズズ……ッ!!


 地響きと共に、廃鉱山全体が大きく縦に揺れた。

 天井からパラパラと土砂が落ちてくる。


「ひぃッ!? じ、地震!?」


 ミリーナが悲鳴を上げてしゃがみ込む。

 エリスがとっさに彼女を抱き寄せ、落下物から守るように背中を向けた。


「大丈夫ですか、ミリーナさん!」

「エ、エリス様ぁ……!」


 だが、揺れは収まるどころか、足元の地面から規則的な振動として伝わってきた。

 ドシン、ドシン、ドシン。

 まるで、巨大な何かが歩いてくるような音。


「き、聞こえます! 地面の下から……巨大な駆動音が! これは機械じゃない、もっと原始的な……岩が擦れ合うような音です!」


 ミリーナの報告に、ルルが「あちゃー」と舌を出した。


「やっべ。起きちゃったかも」

『……何がだ?』

「ここのぬし。私がガシャンガシャン解体作業して、最後に師匠と追いかけっこしてたから……うるさくて怒っちゃったみたい」

『お前が原因かよ!』


 轟音と共に、積まれていたガラクタの山が爆発した。

 土煙の中から姿を現したのは、全身が岩と錆びた鉄塊、そして青白く輝く結晶で構成された、全長8メートルを超える巨人。


 採掘用ゴーレム(マイニング・ギガント)。

 だが、ただのゴーレムではない。その装甲の表面には、帝国が探し求めていたであろう「白銀色の鉱石ミスリル」がびっしりと付着し、天然の鎧となっていた。


「グオオオオオオオッ!!」


 咆哮が空気を震わせる。

 ルルがゴーグルを装着し、ニヤリと笑った。


「出たよ、特大のレア素材! ……師匠、あれがこの鉱山の『番人』だね」


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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