第一の夢:異郷の友と、星のシステム
【第3章・世界樹防衛編、堂々開幕!】
★毎日「朝7時」更新中!★
舞台は王都から世界へ! ついに「ファストトラベル」と「新たなロマン重火器(RPG&対空ミサイル)」が解禁!
剣と魔法のファンタジー世界を、FPSのロジックで圧倒する痛快無双劇!
※第1章・第2章(王都編まで)完結済み。今からの「一気読み」も大歓迎です!
エルフの国への出発を翌日に控えた、アルメニアの夜。
アカマルハウスの自室のフカフカのベッドで深い眠りに落ちていた俺は、気がつくと、どこまでも深く暗い『誰かの記憶』の底を漂っていた。
パチパチと、小枝が爆ぜる音がする。
どこからか漂ってくる、脂の焦げる香ばしい匂いと、肌を刺すような夜の冷気。
(……ここは、どこだ?)
視界がゆっくりと晴れると、そこは見知らぬ古代遺跡のキャンプ跡だった。
崩れかけた石柱の向こう側、夜空には巨大な月が圧倒的な存在感を放って浮かび、遥か彼方には、天を支えるかのような世界樹の根がそびえ立っている。
俺には肉体がなく、まるで宙に浮く幽霊のように、赤々と燃える焚き火を囲む『二人の男』の姿を上空から俯瞰していた。
「……驚いたな。見ろよ、ジン」
焚き火のそばで、一人の青年が自作の計測器のような機械を弄りながら、興奮気味に声を上げた。
黒髪で、理知的な鋭い目つきをした男。
真鍮のような金属パーツと淡く発光する魔石を組み合わせたその機械は、このファンタジー世界には似つかわしくない、どこかスチームパンク的な精密さを漂わせている。
彼の顔には機械化された痕跡は一切なく、まだ若々しい人間の姿をしていたが……彼が纏う理路整然とした空気と、手にした機械の構造を見て、俺は直感した。
彼が、若き日のアイゼンだ。
「なんだよアイゼン。またお前の、そのよく分からんガラクタの話か?」
アイゼンの声に応じたのは、燃えるような赤い髪を持った、体格の良い青年だった。
全身から迸るような活力を感じさせる男は、豪快な笑みを浮かべ、焚き火でこんがりと炙った巨大な骨付き肉に齧りついている。
この男が……千年前の救世主、『赤き賢者』。
「ガラクタじゃない。……いいかジン、この計測器の波長から推測するに、この世界の魔力は、ただの自然現象じゃないんだ。完全な『血液(龍脈)』として、この星全体を網の目のように循環している」
「血液? 星が生き物だってのか?」
「ああ。そして、あの巨大な樹木(世界樹)は、単なる植物じゃない。地下に潜む『何か』を抑え込むための、巨大な『杭』にして、星の生命力を還流させる『循環システム』だ。自然発生したものじゃない。誰かが意図的に造り上げたんだよ」
俺は息を呑んだ。
世界樹が杭であり、龍脈が血であるという世界のシステム(創世の神話の真実)。それを、アイゼンはこの時点で完全に解き明していたのだ。
だが、アイゼンの深刻な声に対し、赤い髪の青年――ジンは、肉の脂を口元から拭いながら、あっけらかんと笑い飛ばした。
「小難しいことは分からん! つまり、そのシステムを守って、今あちこちで暴れ回ってる魔王ってやつをぶっ飛ばせば、俺たちの勝ちってことだろ?」
「ジン、お前はもう少し事の重大さを……もしこの循環システムが壊れでもしたら……」
「いいからいいから! 考えすぎるとハゲるぞ。それに、俺たちには頼もしい仲間がいるじゃないか」
ジンは串肉を頬張りながら、背後に張られたいくつかのテントの方を指差して笑う。
「酒が入ると面倒なドワーフの頑固親父『ガルド』に、ツンケンしてるが根は優しい気高いエルフの姉ちゃん『エルミナ』。腕っぷしは弱いが神獣さえ手懐けちまう不思議な獣人の小娘の『クルル』に、いつも月にお祈りしてる健気なルナ一族の巫女さん『ルミア』だ。これだけ面白くて頼もしい連中が揃ってるんだから、さっさと魔王を片付けて、平和を取り戻そうぜ」
(……っ!)
俺は再び驚愕した。
獣王国で語り継がれていた『邪神に立ち向かった各族の戦士』の口伝。そして宗教国で迫害された『ルナ一族』。
長い年月を経て神話や御伽話として脚色されてしまった伝承は、すべて事実だったのだ。彼らは今まさに、共に魔王討伐の旅をしている最中なのだ。
「あーあ、早く日本に帰ってラーメン食いてぇな! 豚骨のやつ! チャーシュー大盛りでさ! 駅前のあそこの店、まだやってるかなあ」
夜空に浮かぶ月に向かって大きく背伸びをしたジンが、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべてアイゼンを見た。
「なあ、お前もそう思うだろ? 『愛染まこと』君よぉ」
「……そのフルネームで呼ぶなと言っているだろう、ジン。この世界で俺はアイゼンだ。それに俺は醤油派だ。あの透き通ったスープこそが至高だろうが」
「なんだと!? 疲れた体には豚骨一択だろ! 腹にガツンと来るのがいいんじゃねえか!」
(……アイゼンって、日本名の名字だったのかよ)
他愛のない、本当にどこにでもいる若者たちの会話。
焚き火を囲んでラーメンの好みを言い合い、笑い合う二人の姿を見下ろしながら、俺の心臓はギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。
(日本……ラーメン……。そうか……)
伝説の救世主。ロストテクノロジーの創造主。
後世に神話のように語り継がれる彼らも、元は俺と同じだったのだ。
今までの話の流れや残された遺産から、彼らが俺と同じ日本からの転生者であることは分かっていた。だが、こうして等身大のやり取りを改めて見せられると……なんというか、胸の奥にどうしようもない親近感と、痛いほどの悲しいやるせなさが込み上げてくる。
突然この異世界に放り込まれ、元の世界に帰ることを夢見て、一緒に馬鹿を言い合える『ただの気のいい親友同士』だった。
いつか魔王を倒し、仲間たちと笑い合い、二人で一緒に故郷へ帰る。
彼らは本気で、その輝かしい未来を信じていたのだ。
――だが、俺は知っている。
彼らが日本に帰ることは、二度となかったという事実を。
そしてこの後、二人に『星の寿命』と『親友との決別』を天秤にかける、残酷すぎる決断が待っているということを。
「……っ!」
そこで、ふっと視界が暗転した。
焚き火の温もりも、肉の焼ける匂いも消え去り、次に目を開けると、見慣れたアカマルハウスの自室の天井があった。
「夢……いや、過去の記憶の再生か……」
体を起こすと、首から下げていた『アイゼンのタグ』が、微かな熱を持ってトクトクと赤く明滅していた。
俺の中に宿る『吉祥天ダルマ』がジン(赤き賢者)の遺産であり、このタグがアイゼンの遺産であるなら。俺は彼ら二人を繋ぐ、奇跡の交差点のような存在なのかもしれない。
(……マスター。心拍数に異常が見られます。冷や汗もかいているようです。何か悪夢でも?)
脳内で、常駐するソフィアが心配そうに声をかけてくる。
(いや……悪夢じゃない。ただ、少しだけ『昔の話』を見ていただけだ)
俺はタグをそっと握りしめ、ベッドから降りて窓の外を見た。
地平線の向こうから、眩しい朝日がアルメニアの街並みを照らし始めている。
彼らが遺した負の遺産。そして、ルルの母・アストリッドが命懸けで繋ごうとした『バイパス手術』。
星のシステムを巡る戦いは、千年の時を超えて、俺たち『アカマル』に託されている。
「……待ってろよ、ジン、愛染。お前たちの尻拭いは、後輩の俺たちがキッチリやってやるからよ」
誰に聞こえるでもなくそう呟き、俺はタグを服の中にしまった。
今日からいよいよ、残された神話のピースを埋めるための新たな旅――未知の秘境『エルフの国』への遠征が始まる。
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