廃鉱山の赤目と、解体屋の少女
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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アルメリアの東、岩肌が剥き出しになった荒野の先に、その場所はあった。
旧ゴルゴ廃鉱山。
かつては魔石の採掘で栄えたらしいが、今は入り口が朽ちた木材と錆びた鉄条網で封鎖され、立ち入り禁止区域となっている。
昼間だというのに、坑道の奥からは「ヒュオオオ……」という風切り音が亡霊のうめき声のように響いてくる。
「む、無理です! 絶対に無理ですぅぅ!」
入り口の前に立った瞬間、案内役のミリーナが悲鳴を上げて踵を返した。
「私、事務職ですよ!? 冒険者じゃありません! こんなお化けが出そうな場所、時給がいくらあっても割に合いませんからっ! 帰ります!」
『……おい。誰が帰っていいと言った?』
逃走を図ろうとするミリーナの襟首を、俺は念話で捕まえた。
『ギルドマスターからの業務命令だろ。それに、この依頼の成功報酬……金貨50枚だぞ?』
「ご、50枚……!?」
ミリーナの足がピタリと止まる。
現金な奴だ。恐怖と物欲が天秤に掛かり、激しく揺れ動いている。
「で、でもぉ……死んだらお金も使えないですし……」
「大丈夫ですよ、ミリーナさん!」
涙目になっているミリーナの手を、エリスが優しく、しかし力強く握った。
「私が強化魔法をかけますし、もし怪我をしてもすぐに治癒しますから! だから安心してください!」
「エ、エリス様ぁ……! うぅ、やっぱり持つべきものは優秀な回復役ですね……どこかの赤い悪魔とは大違いですぅ……」
(聞こえてるぞ)
まったく、騒がしい女だ。
俺たちは封鎖されたバリケードの隙間を抜け、暗闇の坑道へと足を踏み入れた。
***
坑道の中は、完全な闇だった。
湿った空気と、カビ臭い匂いが充満している。
「ライト」
エリスが『聖樹の枝杖』を掲げると、先端の蒼天石がぼんやりと光り、周囲数メートルを照らし出した。
だが、この程度の明かりでは奥までは見通せない。
俺は視覚モードを切り替えた。
(暗視、起動)
フンッ、という電子音と共に、俺の視界が緑色のモノクローム世界へと変わる。
地形がワイヤーフレームのように強調表示され、物陰に潜むネズミ一匹の体温さえも逃さない。FPSゲーマーにはお馴染みの視点だ。
俺たちは慎重に奥へと進む。
と、その時だ。
「……ひっ、まっ、待ってください……!」
最後尾を歩いていたミリーナが、震える声でささやいた。
彼女はその場に立ち止まり、両手で自身の耳を覆うようにして集中している。
「……音が、します」
『何の音だ? 俺のセンサーにはまだ反応がないぞ』
「遠いです。およそ450メートル先、右の第3通路の奥……カチ、カチって音がします」
450メートルだと?
俺の索敵範囲外だ。
「足音じゃありません。硬い金属質の足が、石畳を叩くような音。……数は3体。規則的に巡回しています」
ミリーナの顔色は真っ青で、ガタガタと震えている。だが、その報告内容は驚くほど具体的だ。
スキル【地獄耳】。
半径500メートル以内の音を聞き分ける、彼女の固有能力。
性格は終わっているが、ソナー役としての性能はガチだ。これならFPSの「ウォールハック(透視チート)」に近い立ち回りができる。
『よし、警戒レベルを上げろ。エリス、右の通路だ』
「はい! ……あ、ポンタさん。足音を消しますね」
エリスが杖を軽く振り、小さな声で詠唱した。
「風の精霊よ、我らの歩みを包み込みたまえ……【忍び足】」
ふわり、と俺たちの体が風の膜に包まれる。
歩いても、石を踏む音が一切しなくなった。
気配遮断の補助魔法か。いつの間にこんな便利な魔法を覚えたんだ。
俺たちは音もなく、指定された通路の角へと近づく。
そして角からそっと覗き込むと――そこに、奴らはいた。
闇の中で赤く光る、単眼のカメラアイ。
多脚戦車のような6本の脚を持つ、黒い金属の塊。
『解析終了。対象照合――ガレリア帝国製、自律偵察兵器。通称、スパイダー型です』
ソフィアの冷静な声が脳内に響く。
『……当たりか』
「ひぃぃッ!? き、機械が動いてますぅぅ!?」
ミリーナが悲鳴を噛み殺し、エリスの背中にしがみつく。
俺は浮遊しながら、奴らの装甲を見定めた。
魔物の柔らかい皮膚ではない。冷たく硬い、鋼鉄のボディ。
(……ハッ。最高じゃねぇか)
俺の魂が歓喜に震えた。
この世界に来てからずっと、魔物の肉を撃つだけの感触に飽き飽きしていた。
だが、今の相手は「鉄」だ。
鉛弾で装甲をぶち抜き、中の回路を焼き切るあの感触が味わえる。
『提案。対象の装甲強度を解析。通常の魔弾では跳弾のリスクがあります』
脳内でソフィアの声が響く。
『推奨:弾頭硬度を強化した【徹甲弾】への切り替え』
(了解だ、ソフィア。……解体ショーの時間だな)
俺は魔力を練り上げ、弾丸の性質を書き換える。
貫通力特化。
『ターゲットロック。……弱点部位を表示します』
ソフィアのサポートにより、俺の視界の中でオートマタの脚の付け根――装甲の継ぎ目が赤くハイライトされた。
完璧なアシストだ。
「消えな」
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
乾いた発射音と共に、三発の徹甲弾が正確に吸い込まれていく。
狙ったのは、ソフィアが示した動力伝達部。
硬質な金属音と共に、オートマタたちのボディが内側から火花を散らした。
「ギ、ギギ……」
プスン。
三体の機械蜘蛛は、一瞬にしてただのスクラップへと変わった。
「す、すごいです……一撃で……」
「やりましたね、ポンタさん!」
エリスたちが駆け寄ってくる。
俺は満足感に浸りながら、残骸を確認した。
綺麗な穴が開いている。やはり対物ライフル級の貫通力があれば、帝国の兵器といえど敵ではない。
『警告。残骸に違和感を検知』
ソフィアが注意を促す。
『破壊された箇所以外に、装甲が人為的に剥離された痕跡があります。内部パーツの欠損を確認』
(……誰かが、部品を回収している?)
『推測。この廃鉱山には、魔物以外に「技術的知識を持つ何者か」が存在する可能性があります』
ソフィアの分析に、俺は警戒を強めた。
ただの魔物の巣じゃない。何かがいる。
「……あの、ポンタ様」
ミリーナが再び耳を澄ませ、青ざめた顔で俺のボディを叩いた。
「奥から……変な音がします」
『増援か?』
「い、いえ。機械音じゃありません。……これ、鼻歌です」
『鼻歌?』
ミリーナの言葉に、俺とエリスは顔を見合わせた。
こんな不気味な廃鉱山の奥で、鼻歌だと?
俺たちは警戒を最大にし、音のする最深部――かつての大採掘場跡へと向かった。
***
坑道を抜けると、そこは広大なドーム状の空間になっていた。
天井の穴から一筋の光が差し込んでいる。
そして、その中央には――
「……なんですか、あの山」
エリスが呆然と呟く。
そこにあったのは、無数のオートマタの残骸が積み上げられた、巨大な「ガラクタの山」だった。
その頂上で、小柄な影が踊るように動いている。
「ふふ〜ん♪ 今日は豊作だねぇ〜!」
ピンクブロンドの髪を無造作に跳ねさせた少女。
油まみれの作業用つなぎを着て、背中には自分の身長ほどもある巨大なモンキーレンチを背負っている。
少女の目の前に、まだ稼働しているオートマタが襲いかかった。
だが。
「はい邪魔ぁ! そのサーボモーター、いただきっ!」
ガゴォォォォンッ!!
少女が振るった巨大レンチの一撃が、オートマタの頭部を粉砕した。
ただの打撃ではない。衝撃の瞬間に装甲の結合部を狙い撃ちし、一撃で「分解」させたのだ。
バラバラになったパーツを、少女は手慣れた様子で拾い上げる。
「ん〜! この第四世代のチップ、レアなんだよねぇ! 萌えるわぁ〜!」
頬を赤らめ、機械部品に頬ずりする少女。
……なんだあの変人は。
俺たちが呆気にとられていると、少女がふと顔を上げ、こちらに気づいた。
「ん? 誰か来た? ……って、え?」
少女――額のゴーグルをガチャガチャと操作し、俺の方を凝視した。
その目が、カッと見開かれる。
「……け、計測不能!? この複雑な三次元曲面(3Dカーブ)……なのに継ぎ目がミクロン単位でも見当たらない!?」
少女の口から、タラリとよだれが垂れた。
嫌な予感がする。ソフィアが、先ほどのオートマタ以上の「危険度」をアラートしている。
「継ぎ目がない!? どうやって作ったの!? 鍛造? 鋳造? まさか削り出し!? いやありえない、神の御業だわ!!」
少女はドライバーとスパナを両手に構え、猛スピードで斜面を駆け下りてきた。
目は血走り、荒い鼻息を噴出している。
「ねぇ君!! ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから!!」
『う、うおっ!? く、来るな!』
「その中身、見せてぇぇぇぇッ!! 分解させてぇぇぇ!!」
俺たちに向かって、解体屋の少女が全力で突っ込んできた。
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