表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/47

廃鉱山の赤目と、解体屋の少女

【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】

★スタートダッシュ! 毎日「7時」と「19時」の2回更新中!★

 アルメリアの東、岩肌が剥き出しになった荒野の先に、その場所はあった。

 旧ゴルゴ廃鉱山。

 かつては魔石の採掘で栄えたらしいが、今は入り口が朽ちた木材と錆びた鉄条網で封鎖され、立ち入り禁止区域となっている。

 昼間だというのに、坑道の奥からは「ヒュオオオ……」という風切り音が亡霊のうめき声のように響いてくる。


「む、無理です! 絶対に無理ですぅぅ!」


 入り口の前に立った瞬間、案内役のミリーナが悲鳴を上げて踵を返した。


「私、事務職ですよ!? 冒険者じゃありません! こんなお化けが出そうな場所、時給がいくらあっても割に合いませんからっ! 帰ります!」

『……おい。誰が帰っていいと言った?』


 逃走を図ろうとするミリーナの襟首を、俺は念話で捕まえた。


『ギルドマスターからの業務命令だろ。それに、この依頼の成功報酬……金貨50枚だぞ?』

「ご、50枚……!?」


 ミリーナの足がピタリと止まる。

 現金な奴だ。恐怖と物欲が天秤に掛かり、激しく揺れ動いている。


「で、でもぉ……死んだらお金も使えないですし……」

「大丈夫ですよ、ミリーナさん!」


 涙目になっているミリーナの手を、エリスが優しく、しかし力強く握った。


「私が強化魔法バフをかけますし、もし怪我をしてもすぐに治癒ヒールしますから! だから安心してください!」

「エ、エリス様ぁ……! うぅ、やっぱり持つべきものは優秀な回復役ヒーラーですね……どこかの赤い悪魔とは大違いですぅ……」

(聞こえてるぞ)


 まったく、騒がしい女だ。

 俺たちは封鎖されたバリケードの隙間を抜け、暗闇の坑道へと足を踏み入れた。


        ***


 坑道の中は、完全な闇だった。

 湿った空気と、カビ臭い匂いが充満している。


「ライト」


 エリスが『聖樹の枝杖』を掲げると、先端の蒼天石セレスタイトがぼんやりと光り、周囲数メートルを照らし出した。

 だが、この程度の明かりでは奥までは見通せない。

 俺は視覚モードを切り替えた。


暗視ナイトビジョン、起動)


 フンッ、という電子音と共に、俺の視界が緑色のモノクローム世界へと変わる。

 地形がワイヤーフレームのように強調表示され、物陰に潜むネズミ一匹の体温さえも逃さない。FPSゲーマーにはお馴染みの視点だ。

 俺たちは慎重に奥へと進む。

 と、その時だ。


「……ひっ、まっ、待ってください……!」


 最後尾を歩いていたミリーナが、震える声でささやいた。

 彼女はその場に立ち止まり、両手で自身の耳を覆うようにして集中している。


「……音が、します」

『何の音だ? 俺のセンサーにはまだ反応がないぞ』

「遠いです。およそ450メートル先、右の第3通路の奥……カチ、カチって音がします」


 450メートルだと?

 俺の索敵範囲外だ。


「足音じゃありません。硬い金属質の足が、石畳を叩くような音。……数は3体。規則的に巡回しています」


 ミリーナの顔色は真っ青で、ガタガタと震えている。だが、その報告内容は驚くほど具体的だ。

 スキル【地獄耳ラビット・イヤー】。

 半径500メートル以内の音を聞き分ける、彼女の固有能力。

 性格は終わっているが、ソナー役としての性能はガチだ。これならFPSの「ウォールハック(透視チート)」に近い立ち回りができる。


『よし、警戒レベルを上げろ。エリス、右の通路だ』

「はい! ……あ、ポンタさん。足音を消しますね」


 エリスが杖を軽く振り、小さな声で詠唱した。


「風の精霊よ、我らの歩みを包み込みたまえ……【忍びサイレント・ステップ】」


 ふわり、と俺たちの体が風の膜に包まれる。

 歩いても、石を踏む音が一切しなくなった。

 気配遮断の補助魔法バフか。いつの間にこんな便利な魔法を覚えたんだ。

 俺たちは音もなく、指定された通路の角へと近づく。


 そして角からそっと覗き込むと――そこに、奴らはいた。

 闇の中で赤く光る、単眼のカメラアイ。

 多脚戦車のような6本の脚を持つ、黒い金属の塊。


『解析終了。対象照合――ガレリア帝国製、自律偵察兵器スカウト・オートマタ。通称、スパイダー型です』


 ソフィアの冷静な声が脳内に響く。


『……当たりか』

「ひぃぃッ!? き、機械が動いてますぅぅ!?」


 ミリーナが悲鳴を噛み殺し、エリスの背中にしがみつく。

 俺は浮遊しながら、奴らの装甲を見定めた。

 魔物の柔らかい皮膚ではない。冷たく硬い、鋼鉄のボディ。


(……ハッ。最高じゃねぇか)


 俺の魂が歓喜に震えた。

 この世界に来てからずっと、魔物の肉を撃つだけの感触に飽き飽きしていた。

 だが、今の相手は「鉄」だ。

 鉛弾で装甲をぶち抜き、中の回路を焼き切るあの感触が味わえる。


『提案。対象の装甲強度を解析。通常の魔弾では跳弾のリスクがあります』


 脳内でソフィアの声が響く。


『推奨:弾頭硬度を強化した【徹甲弾アーマー・ピアシング】への切り替え』

(了解だ、ソフィア。……解体ショーの時間だな)


 俺は魔力を練り上げ、弾丸の性質を書き換える。

 貫通力特化。


『ターゲットロック。……弱点部位を表示します』


 ソフィアのサポートにより、俺の視界の中でオートマタの脚の付け根――装甲の継ぎ目が赤くハイライトされた。

 完璧なアシストだ。


「消えな」


 ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!


 乾いた発射音と共に、三発の徹甲弾が正確に吸い込まれていく。

 狙ったのは、ソフィアが示した動力伝達部。

 硬質な金属音と共に、オートマタたちのボディが内側から火花を散らした。


「ギ、ギギ……」


 プスン。

 三体の機械蜘蛛は、一瞬にしてただのスクラップへと変わった。


「す、すごいです……一撃で……」

「やりましたね、ポンタさん!」


 エリスたちが駆け寄ってくる。

 俺は満足感に浸りながら、残骸を確認した。

 綺麗な穴が開いている。やはり対物ライフル級の貫通力があれば、帝国の兵器といえど敵ではない。


『警告。残骸に違和感を検知』


 ソフィアが注意を促す。


『破壊された箇所以外に、装甲が人為的に剥離された痕跡があります。内部パーツの欠損を確認』

(……誰かが、部品を回収している?)

『推測。この廃鉱山には、魔物以外に「技術的知識を持つ何者か」が存在する可能性があります』


 ソフィアの分析に、俺は警戒を強めた。

 ただの魔物の巣じゃない。何かがいる。


「……あの、ポンタ様」


 ミリーナが再び耳を澄ませ、青ざめた顔で俺のボディを叩いた。


「奥から……変な音がします」

『増援か?』

「い、いえ。機械音じゃありません。……これ、鼻歌です」

『鼻歌?』


 ミリーナの言葉に、俺とエリスは顔を見合わせた。

 こんな不気味な廃鉱山の奥で、鼻歌だと?

 俺たちは警戒を最大にし、音のする最深部――かつての大採掘場跡へと向かった。


        ***


 坑道を抜けると、そこは広大なドーム状の空間になっていた。

 天井の穴から一筋の光が差し込んでいる。

 そして、その中央には――


「……なんですか、あの山」


 エリスが呆然と呟く。

 そこにあったのは、無数のオートマタの残骸が積み上げられた、巨大な「ガラクタの山」だった。

 その頂上で、小柄な影が踊るように動いている。


「ふふ〜ん♪ 今日は豊作だねぇ〜!」


 ピンクブロンドの髪を無造作に跳ねさせた少女。

 油まみれの作業用つなぎを着て、背中には自分の身長ほどもある巨大なモンキーレンチを背負っている。

 少女の目の前に、まだ稼働しているオートマタが襲いかかった。

 だが。


「はい邪魔ぁ! そのサーボモーター、いただきっ!」


 ガゴォォォォンッ!!


 少女が振るった巨大レンチの一撃が、オートマタの頭部を粉砕した。

 ただの打撃ではない。衝撃の瞬間に装甲の結合部を狙い撃ちし、一撃で「分解」させたのだ。

 バラバラになったパーツを、少女は手慣れた様子で拾い上げる。


「ん〜! この第四世代のチップ、レアなんだよねぇ! 萌えるわぁ〜!」


 頬を赤らめ、機械部品に頬ずりする少女。

 ……なんだあの変人は。

 俺たちが呆気にとられていると、少女がふと顔を上げ、こちらに気づいた。


「ん? 誰か来た? ……って、え?」


 少女――額のゴーグルをガチャガチャと操作し、俺の方を凝視した。

 その目が、カッと見開かれる。


「……け、計測不能!? この複雑な三次元曲面(3Dカーブ)……なのに継ぎシームがミクロン単位でも見当たらない!?」


 少女の口から、タラリとよだれが垂れた。

 嫌な予感がする。ソフィアが、先ほどのオートマタ以上の「危険度」をアラートしている。


「継ぎ目がない!? どうやって作ったの!? 鍛造? 鋳造? まさか削り出し!? いやありえない、神の御業オーパーツだわ!!」


 少女はドライバーとスパナを両手に構え、猛スピードで斜面を駆け下りてきた。

 目は血走り、荒い鼻息を噴出している。


「ねぇ君!! ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから!!」

『う、うおっ!? く、来るな!』

「その中身、見せてぇぇぇぇッ!! 分解バラさせてぇぇぇ!!」


 俺たちに向かって、解体屋の少女が全力で突っ込んできた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、 ブックマーク登録や、広告下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!


執筆の励みになります!

↓↓【☆☆☆☆☆】評価お願いします↓↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ