聖域の記憶と、母の愛(ログ)
【第3章・世界樹防衛編、堂々開幕!】
★毎日「朝7時」更新中!★
舞台は王都から世界へ! ついに「ファストトラベル」と「新たなロマン重火器(RPG&対空ミサイル)」が解禁!
剣と魔法のファンタジー世界を、FPSのロジックで圧倒する痛快無双劇!
※第1章・第2章(王都編まで)完結済み。今からの「一気読み」も大歓迎です!
トールガル王の案内で、俺たちはアイアンホルムの最深部へと足を踏み入れた。
地下深くへ続く分厚い隔壁をいくつも抜け、辿り着いたその場所は、息を呑むほど美しい空間だった。
澄み切った巨大な地底湖。その中央にそびえ立つ岩山に絡みつくようにして、淡く緑色に発光する巨大な木の根が、脈打つように静かな光を放っている。
ドワーフの地下都市を支える命の源、『世界樹の根』だ。
だが、俺たちの視線は、その神秘的な根そのものよりも、根の根元に鎮座する『異様な存在』へと釘付けになっていた。
「……ッ! 皆、武器を構えろ! とてつもないプレッシャーだぞ!」
ヒルデが即座に戦斧を構え、ヒロインたちが一斉に緊張を走らせる。
そこにいたのは、山のように巨大な『単眼の巨人』だった。
全身が未知の輝く鉱石と岩の筋肉で覆われ、静かに座禅を組んでまどろんでいる。
後方にいたミリーナに至っては、両手でイヤーマフをきつく押さえ、ガタガタと震え上がっていた。
「だ、ダメですポンタ様! この存在の『心音』……まるで活火山そのものです! もし怒らせたら、一瞬で私たちが消し炭に……ッ!」
(ソフィア、アレはなんだ? 敵性生物か?)
『マスター、敵対生物ではありません。あれは神話に伝わる鍛冶の神の使い、『キュクロプス』と推測されます。この聖域と、ドワーフの国そのものを護る神聖なガーディアンです』
ソフィアの冷静なアナウンスを聞き、俺は片手を上げて皆を制止した。
「落ち着け、武器を下ろせ。あれは魔物じゃない、この聖域の守護者だ」
俺の言葉に、皆が恐る恐る武器を下ろす。
その緊迫した空気を、間の抜けた咀嚼音が破った。
「むしゃむしゃ……ん~? なんか騒がしいね~」
声の主を探すと、キュクロプスのフカフカした岩苔の膝の上に、一人の男の姿があった。
いや、人間ではない。半透明の身体を持った、ぽっちゃりとした太っちょの男精霊だ。
彼はキュクロプスの膝をベッド代わりに寝転がりながら、巨大なポテトチップスでも食べるかのように、魔力結晶をボリボリと齧っていた。
「……おや、ユーグじゃん。何百年ぶり~?」
そののんびりとした声に、エリスの杖からふわりと姿を現したユーグが、深くため息をついた。
『あーあ……兄さん、またサボってるの?』
「サボってないよ~。きゅーちゃん(キュクロプス)のお膝を温めてあげてるんだから~。ね~、きゅーちゃん」
太っちょの精霊――ドントが巨大な膝をポンポンと叩くと、キュクロプスが「グルル……」と喉を鳴らすように心地よさそうな音を立てた。
どうやら本当に、この二人は仲良しらしい。
「あの、あなたは……?」
「ん~? 僕はドント。この聖域のお世話係みたいなもんだよ~」
エリスの問いかけに、ドントが欠伸をしながら答えたその時だった。
トクトク……トクトク……!
俺が首から下げていたネックレスが、突然、脈打つように赤く明滅し始めた。
異次元インベントリから取り出し、お守り代わりに身につけていた『アイゼンのタグ』だ。
「おや?」
タグの光を見たドントが、目を丸くして身を起こした。
「その光……昔ここに来た、半分機械のお兄さんと、すっごく騒がしいお姉ちゃんが持ってた鍵と同じだ~」
「騒がしいお姉ちゃん……?」
「うん。きゅーちゃん、あのお姉ちゃんたちの『忘れ物』、見せてあげて~」
ドントがキュクロプスの巨大な膝を再びポンポンと叩くと、ガーディアンがゆっくりと単眼を瞬かせた。
その瞳から優しい光が放たれ、空間に立体映像が投影された。
(ソフィア、この映像はなんだ?)
『マスター。これはロストテクノロジーを用いた、過去の映像と音声の記録データです。また、このタグと投影されている記録データのタイムスタンプには異常があります。千年前の赤き賢者と同時代の痕跡と、数十年前の痕跡が混在しています。通常のヒューマンの寿命ではあり得ません』
(……なるほどな。『半分機械のお兄さん』か)
アイゼンという男は、ロストテクノロジーを用いて自身の体を機械化し、長大な時を生き長らえていた。俺はソフィアの報告から、その隠された真実を静かに察知した。
『わはははっ! アイゼンの旦那、ここの術式古いから私が最新のに書き換えといたわよ!』
『馬鹿者! 基礎構造を理解せずに弄るな! また爆発させる気か!』
ホログラムに映し出されたのは、顔の半分が影に隠れた男と、若き日のアストリッドの姿だった。
呆れながらも、アストリッドに古代の知識や世界樹の構造を教え導くアイゼン。二人の間には、師弟のような、あるいは親子のような温かい空気が流れていた。
「お母さん……」
ルルとバリンが、息を呑んでその映像を見つめている。
やがて、映像が切り替わった。
そこに映るアストリッドは、先ほどの陽気な姿とは打って変わり、酷く深刻な表情を浮かべていた。
『このままじゃ、帝国の連中に地脈を掘り尽くされて世界が終わる! 止めに行かないと!』
『よせ、アストリッド。それはお前が一人で背負うことじゃない』
『でも、世界樹を守らないと、世界が終わっちゃうでしょ! 私が行くしかないの!』
バリンがかつて語っていた、「世界樹を守るために出奔した」という言葉の真実。
帝国の野望にいち早く気づき、彼女は誰にも頼らず、一人で立ち向かおうとしていたのだ。
そして、映像は最後の場面へと移り変わる。
少しだけ年を重ねたアストリッドが、大きくなった自分のお腹を、愛おしそうに撫でている姿だった。
『……ねえ、アイゼン。どんなに世界が壊れそうになっても……この子だけは、絶対に私が守ってみせるわ』
普段のガサツで騒がしい彼女からは想像もつかない、深く、慈愛に満ちた真面目な母親の表情。
『だって……この子は、私の、一番の傑作だからね』
映像は、そこでふっと途切れた。
「あ……う、うぅ……っ」
静寂に包まれた聖域に、小さな嗚咽が響いた。
ルルが、両手で顔を覆い、ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
自分を置いて姿を消した母。だが、そこには確かに、自分に向けられた、海よりも深い無償の愛情があったのだ。
俺は無言のまま、ルルの小さな頭を優しく撫でた。
バリンもまた、目頭を押さえて静かに肩を震わせている。
「……あのお姉ちゃんね、結界の『毛布』を掛け直しに来るって言ってたんだけどね~」
ホログラムが消えた後、ドントが申し訳なさそうに頭をかいた。
「きゅーちゃんも自分の熱でずっと頑張って結界を張ってるんだけど、流石に薄れてきて、寒くなってきちゃってさ……。君たち、代わりにお願いできないかな~?」
ドントののんびりとした、けれど切実な願い。
ルルが涙を拭い、しっかりと前を向いたのを見て、俺は隣の聖女に視線を向けた。
エリスは静かに頷き、一歩前へと進み出る。
「はい。アストリッド様が守りたかったこの世界を……私たちが繋ぎます」
エリスが『聖樹の枝杖』を掲げる。
杖に宿るユーグと、キュクロプスの膝に座るドントが、エリスの魔力に呼応して膨大な精霊の力を分け与えた。
「『聖盾アイギス』……全展開!」
エリスから放たれた眩い黄金の光が、地底湖と世界樹の根、そして巨大なキュクロプスをすっぽりと包み込む。
それは、絶対に外敵を寄せ付けない、優しく温かな絶対防御の結界。
黄金の毛布に包まれたキュクロプス――きゅーちゃんは、安心したように「グルル……」と喉を鳴らし、再び静かにその単眼を閉じて、深い眠りにつくのだった。
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