隻眼と断罪の雷
【カクヨムコン参加中の話題作、ついに「なろう」解禁!】
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通されたのは、ギルドの二階にあるギルドマスター室だった。
重厚なオーク材の扉が開かれると、そこには男の歴史が刻まれた空間が広がっていた。
壁には巨大なワイバーンの剥製された首や、刃こぼれした魔剣、砕けた大盾といった「武勇の証」が所狭しと飾られている。
ただの管理者ではない。死線を潜り抜けてきた、本物の戦士の部屋だ。
『解析。対象「ギデオン」の推定戦闘力はAランク上位。全身に無数の古傷を確認。筋肉密度、魔力循環効率ともに極めて高水準です。隙がありません』
(……ああ、分かってる。怒らせたらヤバいタイプだ)
執務机を挟んで、俺たちはギデオンと対峙した。
彼はエリスに湯気の立つ温かい紅茶を勧め、彼女が一口飲んで少し落ち着いたのを確認してから、ふと俺にも目を向けた。
「そっちの赤いの……ポンタと言ったか。お前も飲むか?」
ギデオンがティーポットを持ち上げる。
俺は首(というか全身)を横に振った。
(いいや、俺は遠慮しておく。大気中の魔力を直接吸収するだけで十分なんでな)
「ほう。魔力のみで自律稼働するとは。精霊の一種、あるいは古代の遺物といったところか?」
ギデオンは興味深そうに俺を見つめ、コンコンと俺のボディを指の背で叩いた。
硬質な、いい音が響く。
「中身が詰まってる音だ。燃費のいい体で羨ましいこった。酒が飲める体なら、一杯奢ってやったんだがな」
(気持ちだけ受け取っておくよ。……アンタ、見た目より話せる口だな)
少しだけ場の空気が和んだ。
ギデオンは紅茶を一口啜ると、表情を引き締め、手元にある水晶板の端末を操作し始めた。
「さて、単刀直入に聞こう。嬢ちゃん……『鉄の牙』でお前は何をされていた? ここにある活動報告書と、事実を照らし合わせたい」
エリスは一瞬体を強張らせたが、俺の「大丈夫だ」という念話を聞いて、ぽつりぽつりと語り始めた。
荷物持ちとして無理やり連れ回されていたこと。
報酬はほとんど与えられず、食事も残飯だったこと。
そして、魔物の群れに遭遇した際、囮として森に置き去りにされたこと。
エリスが話すたびに、ギデオンが手元の水晶板を確認し、その眉間の皺が深くなっていく。
「……やっぱりだ。奴ら、報告書を改ざんしてやがる」
ギデオンが吐き捨てるように言った。
「『荷物持ちエリスの貢献度、皆無』『戦闘時の命令違反多数』……。奴ら、自分たちの手柄を水増しするために、お前の働きを『ゼロ』どころか『マイナス』に書き換えてやがったんだ。これじゃあ、お前がいくら働いてもランクが上がるわけがない」
「そ、そんな……」
エリスが絶句する。
組織的な搾取。そして、命の軽視。
全てを聞き終えた時、ギデオンの拳が執務机に叩きつけられた。
ドンッ!!
インク瓶が跳ね、飾られた剣が震えるほどの衝撃。
「……腐りきってやがる」
ギデオンは怒りに震える声で唸った。
その隻眼には、抑えきれない憤怒の炎が宿っている。
「新人の教育どころか、囮にして見殺しにするだと? ……昔、俺の戦友も、功名心に駆られたリーダーの無茶な命令で命を落とした」
ギデオンの手が、無意識のうちに自身の右目――黒い眼帯へと伸びる。
「俺のこの目もな、昔……リーダーに裏切られ、戦友と窮地に陥った時にやられたもんだ。……だから俺は許さねぇ。仲間の命の重さを知らんクズは、冒険者じゃねぇ。ただの野盗だ。ギルドの恥晒しめ……!」
彼は自身の苦い過去を重ねたのか、即座にベルを鳴らし、職員を呼びつけた。
「おい! 今すぐ衛兵隊に連絡しろ! 『鉄の牙』のガストンたちを、殺人未遂および冒険者法違反、さらにギルドへの背任行為の容疑で拘束させるんだ!」
「は、はい! 直ちに!」
「それと、奴らの冒険者ライセンスは即刻剥奪だ。今後、この街はおろか、どこのギルドも奴らを受け入れんよう手配しろ。……二度と剣など握らせるな」
矢継ぎ早に下される指示。だが、ギデオンの追撃はそれだけではなかった。
「もう一つだ。奴らの預金口座と装備品、全て凍結・差し押さえろ」
「へっ? さ、差し押さえですか?」
「当たり前だ! エリスへの未払い報酬、および精神的苦痛への慰謝料だ。奴らの全財産を没収して充てろ。金貨の一枚も残すな!」
職員が慌ただしく部屋を出て行く。
ギデオンの迅速かつ徹底的な断罪に、エリスは呆然としていた。
「あ、あの……いいんですか? 彼らはCランクで……」
「ランクなど関係ない。仲間を見捨てるようなクズに、冒険者の資格はない」
ギデオンは椅子に深く腰掛け、エリスを真っ直ぐに見た。
その目は、先ほどの激情が嘘のように穏やかで、慈愛に満ちていた。
「嬢ちゃん。辛い思いをさせたな。管理不行き届きだ。ギルドを代表して詫びる」
「い、いえっ! 頭を上げてください!」
「そして……そっちの丸いのも、だ」
ギデオンの視線が俺に向く。
彼は俺がガストンの剣を砕いた時のことを思い出しているようだった。
「お前が助けなければ、未来ある若者が一人死んでいた。……さらに、ギルド内での見事な制圧劇。魔法使いの詠唱阻害、軽戦士達の足止め、そしてリーダーへの威圧と武装解除。全てが一瞬かつ的確だった」
強面のおっさんが、ニヤリと子供のような、それでいて好戦的な笑みを浮かべた。
「ただのマスコットかと思ったが、とんでもない食わせ物だな。……『鉄の牙』は消えた。これからは胸を張って活動しろ。期待してるぞ、新人」
そう言って話を締めくくり、俺たちが席を立とうとした時だ。
ギデオンがふと思い出したように言葉を継いだ。
「ああ、そうだ。……近いうちに、お前たちに個人的に頼みたい『極秘の仕事』があるかもしれん」
(極秘の仕事?)
「うむ。お前たちのような、腕が立って信頼できる奴らにしか頼めん案件だ。……今はまだ調整中だがな。書類が整ったら連絡する。空けておいてくれ」
ギデオンは意味ありげに片目を細めた。
厄介ごとの予感がするが、同時に悪い話ではない気もする。
俺は「また連絡してくれ」と念話で返し、部屋を後にした。
***
ギルドを出ると、そこには眩しいほどの日差しが降り注いでいた。
エリスが空を見上げる。
その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは悲しみの涙ではない。
過去の呪縛から解き放たれ、ようやく本当の意味で自由になれた、安堵の涙だった。
「……終わったんですね、ポンタさん」
「ああ。もう誰も、お前を縛る奴はいねぇよ」
俺たちは並んで歩き出した。
その足取りは、昨日までよりもずっと軽く、力強いものになっていた。
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【キャラクター紹介: ギデオン・バルバロス】
冒険者ギルド・アルメリア支部を束ねる、『隻眼の戦鬼』の異名を持つギルドマスター。 ポンタを単なる魔道具ではなく、中身に入った「歴戦の戦士」として認め、極秘の裏仕事を託す。
Class: Guild Master / Former A-Rank
(ギルドマスター / 元Aランク冒険者)
Unique: 豪快な振る舞いとは裏腹に、安全管理には人一倍厳格。「命をチップに博打を打つな」を信条とし、無謀な指揮官には容赦しない。
Voice: 「ガハハ! 俺は『道具』に話しかけてるんじゃねぇ。その中に入ってる『一人の男』に頼んでるんだ」
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