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桜と吹雪として

作者: 北峰 文傭
掲載日:2025/12/01

 この日の雪が降り積もること―、それは昨夜の天気予報で知っていた。三月も末になってしまっているが、また寒さに耐えて帰宅することになってしまった。少し吹雪いてきている。遠く先の桜の木が、この吹雪でその花びらを散らしていた。この雪の中で桜吹雪が舞っている。ここに何か思うことはないが、つい見惚れてしまって、スマホで写真を気がつけば撮っていた。


 それでも、それは―、ただそれだけのこと…


 その写真は誰にも知られることもなく、スマホの中で永遠に眠ることになる。ソーシャルネットワークサービス。そんな大衆とも云える人々の趣味など、まったく気にも留めない。今どき―、と云いたい女性群がいることも知っていた。ここで知らない誰かとコミュニケーションを取り、その共有を培ったとしても、そこに何らかの意図を持つものでもない、人々の一人だ―、とも最初から解っていた。

 そして一人暮らしの薄暗く汚く、人の臭いのする部屋で、そのカバンを放り投げた仕草は倦怠感に包まれていた。玄関先で明りをつけ、その抑鬱の内面を多少は認め、力なく肩を落としてテーブルについた。冷たくなってしまった頭を手で触った。その頭には雪が気がつけば積もっていた。その雪を皮肉に笑って払い、戸棚に隠してある清酒で体を暖めようと手に取った。テーブルにコップを置き、溢れるほど清酒を並々と注いだ。鯵の干物を齧り清酒を軽く呷れば、寒さに凍えた体が温まってきた。清酒と鯵の干物。いつも食事はその程度で、あとはサプリメントに頼った生活をしていた。テレビを退屈凌ぎにつけてはみたが、面白さを感じることが微塵もできず、これは寂しさを紛らわすだけの―、ただの音声に過ぎない。布団を被り、ただ睡眠に落ちることだけを儚くも願った。


 しんみりとした夜が明ける。本日もまた陽は昇ってきてしまっていた。タンスに終い込んだ手袋を探して填めた。そしていつもと変わらず、バス停で待つ人々の列の後ろに並ぶ。雪はもう止んでしまったが、道路も歩道も、バス停のベンチも雪に覆われてしまっていた。自家用車のタイヤにチェーンを巻き、ノロノロと足るその音だけが雪景色の静かな街に響く。ほど近くの民家の屋根から雪がドサッと音を立てて落ちた。冷たい雪を足元に感じ、バスを三十分ほど待っていたが、雪による大渋滞でバスは大幅に遅れていた。それからさらにバスを待つ。待てど暮らせどバスは来る気配がない。もう時刻は十時に近づいていた。社員の殆どが遅刻する―、それは明らかだと勝手に高を括ってしまっていた。気づけば目の前にバスが停まり、その乗車口のドアを開けた。バスに乗り込む人々に従う。この雪でバスは超満員だった。


 君は人混みの中に流れ込んで行くしか手立てがない。バスの中は人の熱気と強い暖房で、真冬のような外とはまったく違い、それは春のように暖かい。気を緩めてしまった。女性の集団の中に気づけば押し込まれ、まるで痴漢だと云わないばかりの表情で睨まれた。君はカバンを小脇に抱えてつり革を両手で持ち、女性群に対抗するしか手立てがない。何とかこれをやり過ごし、バスが会社の近くまで来たころ、積雪で大渋滞だった道路は、まるで雨でも降ったかのように、道路も歩道も民家の屋根も、雪は完全に溶けバスも道路をスムーズに走った。これでは昨夜からの大雪は、噓だとも錯覚だとも思えてくる。このまま遅刻することになるが、君は言い訳を考えながらバスを降りた。会社はオフィスビルの三階にあった。エレベーターのボタンを押せばすぐにつく。オフィスのドアを開けたとき、社員の殆どはもう出社していた。気まずく立ち尽くしたが、社長がどうしてだか通りかかってしまった。君だけが遅刻している。社長はそう感じてしまったようだ。


「君、遅刻だろ。それだと一時間以上は遅刻していることになる。まあ、言い訳はいい。早く仕事に取りかかれ」君はまったくの平謝りを余儀なくされた。デスクにつき同僚と会話を交わした。朝早く五時ごろには通勤を始めたとか。君は頭を抱えてしまった。社長にきついお叱りを受ければ尚更だとも。私はそれを見ていて可哀相の気持ちになってしまった。「私も十五分も遅刻してしまったけど、社長は怒ってなかったです。そんなに落ち込まなくても平気ですよ」


 私がかけた言葉は、君に対して気休めだとしても―、それは―、今はまだ同情としよう。



 私はこの話を彼に持ちかけた。彼も同僚として気にかけていると頷いて云った。君の落ち込みよう、それこそそれは見ていられない。夜の街でお酒でも少し飲めば、君の損ねた機嫌ももとに戻ることになる。私の言葉が伝えた通りに、彼は上手く君を誘ってくれた。オフィスビルを出たところで、スマホアプリですぐにタクシーを摑まえた。私はタクシーがすぐに来るとは思っていなかった。まったくIT技術には驚かされる。君は最初に乗り込み、私は最後に乗った。私はスプリングコートのしシワに気がついてしまった。君もシワが気になったようで、スーツのシワに目を配って、どことなく恥ずかしそうにしていた。「私の安物のコートにシワが… 参ってしまいます」君は優しそうにタクシーの中で笑って、繁華街までの道のりを楽しむように閑談を始めた。


 タクシーは夜の繁華街の中に止まった。私は夜遊びはしない女性だけど、彼は大人の遊び方を知っていた。彼は飲食店に予約は入れない。それだけ遊べる飲食店をしっていると云うことだ。それが粋と云うものだ―、と気さくに笑って応えていた。彼はいきなり酒場に入った。それはBARと呼ばれていた。私は驚いてしまったが、きみもどこか驚いた表情に見えた。私は食事のつもりで君を誘っていたが、彼としては飲み会と思ったか―、この盛り場は馴染みで始めからここを選んでしまっていた。彼は左手を軽く上げ不意にカウンター腰をかけた。私も君もその横に並びカウンターに腰かけたが、その方が粋なのだろうか。彼はバーテンダーにそれも粋な挨拶だろうか、軽い会話を挟みそして云った。「シングルモルトのウイスキーを」君は少し悩んで「スコッチウイスキーの良いものを」と云った。それで私はどうすれば―、私は困ってしまい、メニューをずっと眺めてしまっていた。彼は気を利かせて云ってくれた。「シャンパンかスパークリンワインはどうだろうか。女性でも飲みやすいと思う」私は迷うことなくシャンパンと応じた。君はフルーツのオードブルを粋のある語り口調で、彼の真似をしてオーダーした。スコッチをロックで飲み、いつもとは違い軽く仕事の話しを気さくに話題にしていた。


 私はシャンパン。素晴らしい口当たりと、強めの酸味が利いていた。そしてこの(まろ)やかな味わい。ウイスキーをロックで飲むなんて信じられない。私は頭の中で繰り返した。ただ苦みがするだけのアルコールが、なぜか美味しいと口にする男性の多いこと… 私は黙って飲むことにしたが、君は二杯目のスコッチウイスキーをまたしてもロックで頼み、酔いに任せた語り口調に段々と陥ってしまっていた。その語り口は冗舌そのもので、彼はその話しに相槌を打っていたが、君の話しは愚痴めいた語り口になっていく。彼は困ってしまっていた。君の話しはもっとエスカレートして、ついには愚痴と云うよりも、まったくのそしりとしか云いようがない。


 そのそしり黙って聞いておくべき―、それとも頭の中にメモっておいて、そののち会議での私案にするべきなのか―、今は解らない。


 頭の中にメモ… メモ、メモリー、CPU、DX化、AI


 私の頭の中は混乱し冷静ではいられなくなった。「少し酔っていないかい」彼が気遣いの言葉をかけてくれる。私はお酒に強くない。そもれに稀にしか飲まない。シャンパン一杯で頭が混乱するほど酔ってしまっても不思議ではなかった。私はバーテンダーにチェイサーを頼んだ。そしてグラスの半分ほどを飲み干し、頭の熱くなった回路を冷そうと懸命になっていた。君もチェイサーを頼み、酔いに任せて語ってし待った言葉を水に流そうと、いつになく躍起になっているようにも見えた。彼はフルーツのオードブルを口にして、次はどこに行こうと云った。私はどこにもと首を振って応じた。彼はここにはパスタもある。パスタを食べて帰らないかと訊いた。私は頷いた。君も然り。パスタはカルボナーラ、ペペロンチーノ、ボンゴレの三種類あったが、三人とも違う種類のパスタを選ぶことになった。私はカルボナーラ。彼はペペロンチーノ。君は仕方なくボンゴレのパスタを選ぶしかなかった。そこに不満があるはずだ。ボンゴレに不満があるわけではない。選択肢がないことが不満なのだ。君はそれでも顔に出すような男ではない。そのまま出されたパスタに口をつけた。パスタの味は格別だった。味つけが酔払いにも合う工夫がなされてはいるが、まったくBARのパスタとしては信じられないほど美味しい。彼はまだ飲み足らなかったようで、ロゼのグラスワインを頼んだ。私はパスタスプーンを上手く使って食べていたが、君はフォークを巧みに使い得意顔で食べていた。「パスタスプーンはフォークをだけで上手く食べられない子供のための食べ方で、その食べ方は幼稚だって、どこかの誰かが云っていたよ」私には衝撃だった。これはイタリアのテーブルマナーだと思っていた。違うのか。そうなのか。私は動揺してしまったが、この場所でその結論を出す必要性など、ここでは微塵も感じはしない。冷静さを取り戻して、パスタスプーンをそのまま使い続けた。


 食事のあとは軽く閑談を交えた。私も楽しそうに語り合っていたが、その目は時計と向き合い明日のことを考えていた。夜遊びの時間は一瞬で過ぎ去る。もう零時に近づいていた。私が立ち上がろうとしたとき、君はバーテンダーに会計を唐突に頼むと云いだした。君はカバンから財布を取り出し、支払いの構えで請求額を待った。バーテンダーが提示した金額は五万二千円だった。君はその笑顔を失い、顔を歪めているようにも見えた。君にしてみれば、それは驚くような金額だったようだ。彼にはその動揺が伝わっていた。「彼女に―、経理の彼女に頼めば、経費で上手く落としてくれるよ」君は―、彼に真顔でそれは出来ないと云った。社長にまたそしりを受け嫌味を返されること、それも承知しなければならない。彼は云った。「経理の彼女に頼めば問題ない。彼女とは気の置けない関係だ」私も続けた。「私の方が上席です。ここは私に任せて欲しい」それでも君は―、それこそが不正だと云い張り、クレジットカードのサインを書き殴っていた。


 私の想いは―、正義を纏うその姿に美しくもあり感動を覚えたが、それも―、今はまだ同情としよう。



 私は会議での音声を書き起こしていた。この仕事はあまりにも詰まらない。音声を書式にオートメーションで書き起こすも、まだ精度は今ひとつで、宇宙人の書いたような文章と云ったところだ。これでは酷く滑稽だと呆れてしまいたくなるが、この宇宙人の文章に校正をいれていく。私の仕事は書き起こし。これで終了となった。君の番は次だ。書き起こし文を君に社内メールで送った。君はすぐにメールに気づき、書き起こし文を確認していた。これを議事録にしなければならない。それはすぐに解った。私は澄まし顔でディスクトップに視線を向けたたが、君は不服と表情を顰めてこちらを覗き込んできた。私は顔を背けトートバックを抱えて、すでにもう定時になったオフィスを去っていった。君はまたしても残業を押しつけられ、まったくだと項垂れていた。PCに向かいため息をつき、書式に従いタイピングしていく。書き起こし文と照らし合わせて、議事録の作成を進めていく。書き起こし文を読み進めるうちに、その手が止まってしまった。


 昨今、我社の内外で、特に酒の席で、社の失態を露呈する者、会社批判をくり返す者、社のイメージを損なう陰口を叩く輩が多く…


 君は書き起こし文を目の当りにして、冷や汗を掻き愕然としてしまっていた。壁に耳ありとはこのことか。だとしても―、君は与かり知らないところ。君はしかし議事録の改ざんを思いつく。これは不正。それは十分わかっているが、これではその輩の人々と―、まったく変わりないと認めざるを得ない。君の決意は固まったが、その文言についてどうすればいいのかを、ここから考え始めることになる。時計の針は刻々と時を刻む。ディスクトップの時計が十一時に近づいたころ、やっと適切で纏まった文言を思いついた。


 我社の評判、評価が低迷している。これを纏めた調査結果では、営業利益の低迷からくるものと報告をうけた。営業利益の低迷は、この不況、経済の低迷と金融不安に於いて…


 君は良くできた見栄えのする文言だと、自画自賛して、議事録の作成を徹夜で続けている。


 君は将に今となっては、後悔の念があるかもしれない。不正とは―、社会の潤滑剤であると共に、その失態を補うものとして、これを解釈するほかなく残念。私としてはこの世の中のしきたり。君はそれに迷っただけのこと。それも―、今はすでに同情としよう。



 彼女は休憩室に碁盤を広げ、碁石を一人で並べていた。私は昼食のパンをかじりながら、その姿を何となく遠目で眺めていた。君は自信満々の仕草で、彼女の前に座った。彼女は小中高と囲碁に熱中し、女流棋士を気取る強者。君は子供のころより、父親に指導されてきた腕前。君は黒を持ち、彼女は白を持った。君は星に打つ。彼女はケイマにかかった。君は一間にヒラキ、彼女はケイマにすべった。君は三々に打つ。三々は江戸時代には禁手されていたことも。彼女の記憶では詳しくは知らない。彼女は星にヒラキ、君は大ケイマでシメる。そして彼女は手抜き。これも互角。君はお茶を飲み、彼女はカフェラテをストローで啜っていた。この勝負は休憩時間内ではつかなかった。君との対決はまた後日と彼女はオフィスに戻って行った。君は碁盤を片づけ、彼女の腕前に感心していた。私は碁盤をずっと見ていたが、まったく解りはしない。囲碁と云う遊びがインテリの遊びだと云うことだけは、この私でも理解は出来ている。私は彼女とすれ違うとき、友達と先週だったか、ランチに行ったときの領収書を手渡した。彼女は囲碁のときとは違い、あの顔の強張りを緩めて云った。「インボイスがないけど…、いいわ。任せてちょうだい」私は胸を撫で下ろした。君は仕事に午後からも勤しむ。私はディスクトップ越しに君の姿を気にしながらも、いつも読み耽っている雑誌に夢中になっていた。今日の会議は十五時からとなっていた。私に期待されていることは、私案の提出と記録の作成だけだ。このところ気になる私案はないが、あまりに発言がないと仕事をしていないと見放される。これが会社員の詰まらない性質だとしても―、


 クビになればそのときとして

 どこかに拾う神があるものとして

 まったく臆することはない


 私はどこかに身軽さを覚え、名残惜しくも雑誌を畳み勤しんで会議に向かった。


 君はまた仕事が溜まってしまい、残業を強いられていた。この会社は残業と云っても、残業手当がつくわけでもなく、毎月の給料にみなし残業が僅かばかりつくだけだった。君はそれでも愚痴さえも溢すことなく、仕事に打ち込む真摯な態度を見せていた。そしてその評価は高いものではない。君でもどこかで気がついていた。私が会議を終えたころ、もう日暮れて外は薄暗くなっていた。君はそれでもどうしようもなく仕事をしていた。君はそして悲しそうな表情で呟いた。「もう四十歳が近くなってきましたけど、どうして結婚も出来ないのか解らない」君は何も解っていない。私はどう説明しどう伝えればいいのか悩んでしまったが、すぐに答えは出せず、君に思いついたようなことを云ってしまった。「私は―、君が仕事にかまけているからだと思います」君はいつになく不服そうに訴えてきた。「じゃあですよ。この仕事を放り投げて女性のように、定時ですみやかに帰宅すればいいですか」私は何かを返そうとしたが、何も云うことが出来なかった。君は私の存在を無視して、また仕事だけに打ち込んで行く。

 私にしてみれば君はあはれか… 君が仕事が出来ること―、それは誰もが認めるところかもしれない。そうだとしても仕事は程々にして欲しい。それは将に同情として、それとはもしかして―、コイゴコロなのか?そんなことは―、私の頭の中は混乱していた。私は君が仕事に打ち込む姿を、ずっと見詰めてしまった。そしてこれがコイなのかどうか、私の中で問い詰め始めていた。


 メモは…、メモ、メモリー、CPU、DX化、AI、繋がっていく。

 ではコイは…、コイ、恋愛、自虐、破局、連鎖―、また頭が混乱していく。


 私ではどうせ上手くいかない。私ごとき人々の儚さは―、同情としよう。んっ…、もしかして、私も同情されるべき人々の一人とも最初から解っていたと云うことか。私は額に汗をかき、心音が高鳴り動悸を感じた。しかしそれは運命。私は自宅に戻り缶ビールを飲み干し、その止まらない動悸を一人で寂しく鎮めていた。



 この日は嵐で記録的大雨のこと…、それは昨夜の天気予報で知っていた。真夏の暑さには打ってつけの大雨だとも云えたが、これでは通勤するのも楽ではない。朝の六時には通勤を開始して、オフィスには遅刻することなく出社した。社員の多くはもう出社していたが、この嵐で仕事は進んではいないようだった。この嵐の雷で都市に大停電をもたらした。案の定と云うべきか。オフィスは薄暗くとても仕事が出来る環境にはない。もちろんPCもシステムダウンしたままだ。社員の殆どが仕事は諦めて、休憩室で閑談していた。君はそこにいる彼に気づいて、真横に座り真剣に語り始めた。私のことが気になってしまって、もしかすれば好きになってしまったかもしれない―、と打明けた。彼は何も考えはしない。「それは彼女に尋ねて欲しい。そう云ったことには疎いからね」君は頷いて休憩室で彼女の姿を探した。どこにもいない。すぐにでも連絡をとスマホを握ったとき、彼女の方からちょうど休憩室に入ってきた。君は少し深刻な表情を見せて、彼女にもまた打明け話しを始めた。彼女は真剣にアドバイスをくれたが、最後には社長に訊いてみればいいと言葉を濁した。「社長はこの大雨で身動きが取れず、社長室に必ずいるハズです」君は軽く頷き、このときを逃すまいと意を決して社長室に向かって行った。社長はのんびり新聞を読んでいたが、少子化の記事に気を取られてしまった。昭和のころは子供は国の宝だと云われたが、その宝は今はどうしているのだろか。それはもう昔話と振り返った。社長が新聞を読み終えたとき、君はノックもしないで社長室に乗り込んできた。社長は驚きもせず、気のない声でどうしたと訊いた。君は想いを―、それは悩みとも云うべき。その想いが期待感だとしても、君ははっきり訊いてしまった。


 社長曰く、オフィスとは給金を授かり、そのすべてを演じる舞台でもある。そのセリフは私が考えてもいいが、そのセリフは君が考えるべきだ。社長は君にそう告げた。


 私はオフィスでずっと待っていた。君の姿が見えたとき、自然となぜか想いに耽ってしまった。


 真逆の発想。同情、労働、成就、陳謝―、そして私情となり、清き世界の始まりとしよう。


 ここに人は生まれ、そして枯れて逝くとする。生れてくる人の群れとは、人々の中に生れてくる魂。


 そして物語は始まりとして


 


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