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3/9

3 天使のような見た目の魔王様はとんでもなく萌え声でした


 後ろ手を組んで小首をかしげる魔王様を目の前にして、俺は思わず叫んでしまった。


「ガキじゃねえか!!!」


 シーン。

 映画や小説の場面、あるいは光景という意味を持つ英単語sceneじゃない。失言を犯した人間が処刑されるまでの張り詰めた空気感を表現したオノマトペの「シーン」だ。


 やっちまった。

 真実だとしても口にしてはいけないことが世の中にはある。それくらい、大人の俺なら知っていたはずなのに。


 そうさ。

 たとえ畏怖の対象と恐れられるべき魔王様がゆるふわ系の美少女だったとしても、その真実に触れてはいけないのだ。


 だから俺は土下座の体勢をとり、


「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 全力謝罪。ヴィーガンの客に間違えて豚骨ラーメンチャーシュー特盛を提供してもここまでの土下座はしないだろう。


「この不届き者! 人間の分際でミャル様になんたる愚弄! 死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑!」

「わー! 落ち着いてリザ! 私は平気だから!」


 魔王様はアイスピックを指の数だけ取り出して取り乱すリザさんの両脇を抱えて収めてくれた。

 なにこの魔王様。貶されたのを意に返さず、逆に怒る部下を諫めるなんて。天使か?


 ……いや、どっからどう見ても天使だ。


 藍色のリボンで両サイドに小さくまとめた水色髪。好奇心旺盛な小動物のように大きな目。口角の上がった潤いのある唇。色白の肌に純白のワンピース。

 カードゲームなら確実に水か光属性に分類される容姿をしている。


 そしてなにより、


「大丈夫だよ人間さん。私は気にしてないからね。子供っぽいのは事実だしさ」


 俺の正面で屈んで笑顔を降り注ぐ少女。その声が魔王とは決定的に違った。


(めっちゃフニャフニャ声なんですけど!)


 腹筋が欠落しているのかと思うほどハリのない声だった。

 例えるなら甘え上手な妹。

 癒しはあっても威圧感はない。萌えはあっても迫力はない。恋愛シミュレーションゲームに需要はあっても、硬派な世紀末ファンタジーには場違い。

 よく言えば男心をくすぐる可愛い声、悪く言えば能天気ボイス。


 魔王と呼ばれる少女の声はそんな萌え声だった。

 魔王ってもっとこう、一声発するだけで場に緊張感が走るような厳格な声だよな。まあそれが俺の声なんだけど。


 容姿、性格、そして声。すべてにおいて天使。

 これが魔王の姿か?


「それより人間さんのお名前は?」

「えっと……肥丸英雄って言います」

「え?」


 素直に答えたら、魔王様はなぜか大きな目を丸めて驚いている。

 あれ? 失言した? 殺される?


「……すごいそっくりだよ。その声」


 ああ声の話ね。

 で、似てるって誰に?


「うん。これなら適任だね」


 俺が疑問を口にする前に魔王様は満足げに頷いて、


「リザ。一階の大広間にみんなを集めて」

「……気が早いのでは? ボイスルームで試運転してみるべきです。力量も分からないわけですし」


 ボイスルーム? 試運転? もう何が何やら。


「もう時間が無いよぉ。王位継承権は一週間以内に行使しないと放棄扱いになるじゃん。今日中にみんなに公表しないと。だ・か・ら! おねがーい! ね?」


 女神に祈るように両手を顎の前で組み、目を潤ませてきゅるきゅると小動物のような鳴き声を発した。

 受けてリザさん。「くっ! 可愛すぎる!」心臓を撃ち抜かれたように胸に手を添えてよろめく。クールなリザさんですら骨抜きにしてしまうあたり、この魔王の萌え力は本物だ。


「……わかりました。すぐに城内の配下に召集を掛けます」


 深々とお辞儀をしてから魔王の間を出ていった。

 残された俺は魔王様(萌)におずおずと尋ねる。


「あの。俺はこれからどうなるんですか?」

「なんか堅くない? これから相棒になるんだからため口でいいよ」

「相棒?」


 魔王様はニコリと笑って、


「キミにはこれから私の声勇者をやってもらいます」


 聞き慣れない単語を口にした。


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