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 皮膚に刺さるような沈黙に、焼酎のグラスの中で氷がジッと音を立てました。火照った頬の温度が下がり、俺のほうが目をそらしてしまいました。


「既婚だなんて知らなかったんだよ?」 


ーー軽蔑した?


 ため息と冗談で紛らわせても、あなたの声は俺の心に直接囁くんです。


ーーお願い、軽蔑しないで。


 テーブルに視線を落としたあなたの本音は、ちゃんと届いているんです。心臓まで響いているんです。

 あなたはボロボロに傷ついています。知らなかったと言っても、人はあなたを責めるのでしょう。

 でも俺は、あなたを絶対に見放したりはしません。


「いくらなんですか?」


 俺が訊ねると、あなたはポツリといいました。


「100」


 答えてからまた投げやりな笑みを浮かべます。


「わたしがまだ学生だから、まけてくれたんだって」


「どうするんですか」


 食い気味にきく俺に少し面食らってから、


「今のままじゃ学費が払えないのね。家賃も。親に言えるわけないし。でも、大学辞めたくないから、時給のいいバイトにかえるつもり。もっと夜までできる仕事」


 さみしそうに笑いました。


「バイト、やめるんですか?」


「やめたくないけど、仕方ない」


 それでは会えなくなってしまう。

 何も言えず、俺はほとんど水になった焼酎のグラスをあおりました。冷たい液体が喉を通り過ぎても言葉なんて出てきやしません。


「ごめん。リアクションしにくい話しちゃって」


「俺なんかに話してよかったんですか?」


「野田くんだから話したの」


「俺、だから?」


「野田くんといると安心する。年下なのにね」


「それって男として見てないってことですよね」


 あなたは小さく首を振ります。 


「わからない。でも、やめるって思ったとき、一緒に飲みたくなったのは野田くんだけ」


 口説き文句みたいな言葉なのに、浮かれることができませんでした。今夜、あなたの狡くて脆い一面を見た気がしたんです。


「会えなくなるのは寂しいな」


 あなたは店員を呼び、お会計を頼みました。


「そろそろ、出ようか」

 



 

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