配信者デビューの準備
ゆるくやっていきます
「よし、これでアバターの設定は...」
めぐりはパソコンの画面を見つめながら、マウスを動かす。StreamVerseのアバター作成画面には、銀色の長い髪を持つ狐耳の少女が表示されている。普段の自分よりも少しだけ背が高く、黒いスーツに身を包んだ姿。胸元には小さな狐の紋章のブローチ。
「商人っぽく、でも親しみやすく...」
アバターの表情設定を確認しながら、めぐりは異世界で出会ったインドラのことを思い出す。あの少女の、人を惹きつける不思議な魅力。それを自分なりに表現できたらいいのに。
スマートフォンには、担当編集さんからの新しいメッセージが届いている。
『企画書、まだかな?』
「ごめんなさい...でも、今度こそいいものができそうです!」
めぐりは返信を送り、机の上に広げたネームを見る。異世界での出来事を基に、設定を少し変えて描き始めている。主人公は現代の女子高生で、祖母の遺品の万年筆から不思議な力を得て...。
「リアルすぎる設定は避けないと」
手帳を見つめながら、めぐりは考える。この手帳の秘密は、まだ誰にも話せない。でも、創作として昇華させることはできる。それに、StreamVerseでの配信を通じて...。
「配信テストをしてみようかな」
めぐりは配信ソフトを起動する。画面には「キツネザカ・トレード」のアバターが表示される。声量のテスト。表情の確認。背景には、さっき描いたバザール区のラフスケッチを配置。
「こんにちは、キツネザカ・トレードです」
自分の声が、アバターの口の動きと連動する。少し緊張しながら、めぐりは練習を続ける。
「今日は、異世界商人になるまでの物語を...あ」
その時、手帳が微かに光る。開いてみると、新しい文字が浮かび上がっていく。
『商人見習い許可申請書』
その下には、先ほどまでなかった印鑑の跡。「商人ギルド東街道支部」の文字と共に、狐の紋章が刻まれている。
「これって...」
窓の外を見ると、小さな金色の月が、まるでウインクするように瞬いた気がした。
めぐりはスケッチブックを手に取る。漫画のネームに新しいページを追加しながら、心の中でつぶやく。
「次はいつ会えるかな、インドラ」
配信画面に目を戻すと、チャット欄に最初のコメントが。
『新人Vライバーさん?応援してます!』
アイコンは、黒猫のシルエット。
めぐりは深呼吸をして、マイクに向かって話し始める。
「はい、これから頑張ります! 異世界と現代を行き来する商人の物語、聞いてください!」
画面の向こうで、黒猫のアイコンが新しいコメントを投稿する。
『面白そうですね。商売の経験はありますか?』
「実は、まだこれからなんです。でも...」めぐりは手帳を握りしめる。「これから、たくさんの経験を積んでいきたいと思います」
『楽しみにしています。商売の極意、お教えしますよ』
その言葉に、めぐりは不思議な既視感を覚える。まるで、母の漫画に出てきた黒猫のように...。
「ありがとうございます! では、自己紹介から始めさせていただきます。私の名前は...」
そうして、めぐりの新しい物語が、静かに幕を開ける。
ここになに書けばいいのかわからん。
とりあえずトイレ行きたい。