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Heart  作者: 平瀬 明日
13/33


 鏡の前に立ち、化粧を直す

 リップクリームをすっと塗ると

 にこっと唇の端を引き上げてみせた

 笑顔の自分が映っていた


 鏡は聞いた

 無理してませんかと


 鏡の私の唇の端は

 どんどん下がり

 顔がゆがんでいった


 うそつきな自分に

 正直な鏡


 鏡の前でうな垂れた  

 顔を上げると   

 黒い涙がぼろぼろこぼれ落ち

 ぶさいくな自分が映っていた


 鏡は怒った

 甘ったれるなと


 鏡の私は歯をくいしばり

 腕で涙を拭い取った


 理想を追い求める自分に

 現実を映し出す鏡


 おはようと鏡の前に立ち、顔を洗った

 濡れたまま顔を上げると

 清々しい日の光がまぶしかった

 素の自分が映っていた


 鏡の私は眠そうだったが

 目はしっかり覚めていた


 鏡は言った

 今日もあなたは美しいと


 否定する自分に

 嘘はつけない鏡



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