命名式と誕生日
1080年 2月19日 (氷華の日)
”私は産まれた”
「御生まれになりましたよ!奥様!!」
少しふくよかな女が言った
[可愛い女の子ですよ!]
母が死にそうな目に合ってまで産まれた私は女だった。
女が女を産むだなんて皮肉さ。
だって、女の成長を女が手助けするんだ
Jealousyやら何やら感じないのかね
「…………そう」
ほら見た事か?その一言しか言えない
「………立派な淑女にしなくては」
自身の身体から排出された
新たな生命を前にして言える言葉なのか?
「産声はっ?!」
突然、髭モジャの男が慌てたように乱暴に扉を開けてきた
そういえば、産声というものを赤ん坊はするが私はしたのか?
「旦那様、落ち着いてくだされ……」
赤ん坊は視力もほとんどないが私は見えている
「この子は……」
声のする先を見てみると
何やら手に数珠か何かを持った老婆が居た
「この子は特別やもしれませんな……」
私と老婆の視線が合った。
この老婆は何を知っている?
私の知らない私を知っているのではないか?
「……エヴァリス、わたくしの娘が特別だろうが
わたくしは”母”として立派な淑女に育て上げるだけです。
貴族に産まれたのですから……」
ふむ、私は貴族に産まれたのか……
貴族といっても階級によるし、パーティや教会への訪問で
自分たちが”金”というものを沢山持っているかの
アピールまでもしなければならない。
ステータスの開示というやつだ
この”金”があるだけで印象がかなり違う。
なぜならば
”金がある”ということは領地が潤っているという証拠だからだ。
領地を税金で圧迫させ、自分たちの贅沢のために金を振るうか?
それとも、領地への平等な税金で安定を築くのか?
そして、
領地へ課する税金を安くし自分たちは粛々と節約するのか。
この3つの選択肢をどう取るのかはそこの領主次第だ
領地を信用するのか?領地を搾り取るか?
それこそが裁量に任されるだろう
にしても、めんどくさい場所に産まれたなあ
「御言葉ではありますが、老い先の短い婆やにも……」
「…エヴァリス、執拗いのです。
聖教会に奉公に出すことはないでしょう」
こんなことを考えるのは後にしよう。眠い
「聖教会に奉公させるのは俺も許可はできん」
髭モジャの言ってることは聞き取らないまま私は寝た
1085年 2月19日(氷華の日 3時50分)
私は今、鏡の目の前でゆったりとした椅子に座りながら髪を結ってもらっている
容姿については今はいいだろう
「めいどちょう。」「どうなされましたか?お嬢様」
(さてはて、早5年。想像していたものとはやはり違った)
「あのね、わたくちのなまえがきょう、きまるのですよね?」
「えぇ、そうですよ。お嬢様」
(この5年でいくつかのことが分かった。
1つは私の危惧していた通りの事だ
この家の貴族は階級がべらぼうに高いブルーブラッドだ。しかも、その辺のブルーブラッドではない。
一般に公爵家と言えば位が高い貴族だがその公爵家の中でも特に母親は皇室から降りてきた元王女様
父親は辺境伯
どう考えても”やんごとなき一族”だ)
「どんなおなまえになるのかちらね」
「お嬢様、旦那様と奥様は既に考えてらっしゃいますよ。
私の口からは言えませんが、とても素敵なお名前です」
(2つ目、ここは異世界だということ
魔法と呼ばれるものもあるし、モンスターだっているみたいだ
まぁ、魔法は万能では無いはずだから色々と学ぶ必要性はある)
「今日は奥様のお母様とお父様がいらっしゃいますからね」
「あい」
(3つ目は私がこの家に初めて産まれた子供だということ
母親の体が特異体質のようでなかなか妊娠の兆しがなかった
と言われていたせいなのか、期待が押し寄せている。
そして、4つ目
この国では5歳になるまで名前は付けられない
なんでも、生まれる前から名前を決めておくんだそう
そして5年間は両親の魔力や神力で名前に力を込める
名前が護りになるからという説もあるし
一番、最初に貰う呪いが名前という説もある)
「めいどちょう、わたくちはりっぱなしゅくじょになれますか」
「なれますとも」
にっこりとメイド長が私に向かってそう言ったのはいいが……
現実的な面での不安が残っている
こういった命名式では”おともだち候補”というのがいるものだ
「さぁ、お嬢様。会場に行きましょう」
1085年2月19日(氷華の日:5時30分)
会場ではこれでもかと人が集まっていた
奥の方では両親や国王が居て、盛大な式である
冬とはいえ、まだ雪が積もっており寒い季節だ
それなのに室内は春の陽気のように心地よい温度を保っている
「……ではここに名を授けます」
母の声で私は席を立ち、母の前に行く
この世界では母というものが非常に強いようで子供に関する場面というのは、平民でも貴族でも関係なく母親が仕切る。
少し聞きかじった話では出産しているというのはそれだけ魔力や神力が強いから五体満足で生きられている証みたいなものだそう
「あなたの名は」
”ラルトス・レスティア・フィニーラ・サンティ”
(名前だけで3つあるのも不思議な気分だ)
「……ラルトスは氷の女神であるラルティシアから」
「レスティアは妻であるレスティアーナからだ!」
「……フィニーラは夫であるフィニックから」
「「サンティ家の大事な娘
ラルトス・レスティア・フィニーラ
あなたに祝福を望みます」」
父母が小さな銀で出来た鐘を鳴らすと同時に客人が立ち上がり
サンティ家の娘に対しての祝辞を発言する
「「おめでとうございます!サンティ家の娘に幸あれ!!」」
(……大層な命名式だな
まぁ、かと言って嫌な気持ちにはならないが)
(すこし、ポカポカとした気分ではあるが、
これから一生の付き合いとなる
”おともだち”を選出しなければ……
気を引き締めないといけないな)