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mean.4



 俺はシュークリームのクリームを吸いながら真剣に考えてみた。

 糖分をチャージしても、なかなか答えにたどりつかない。


 姉ちゃんが静かな声で助け舟を出してくれる。


「そのできごとがあった瞬間に思ったこととか、心の声みたいなものを思い出して、声に出してみたら?」


 できごとがあった瞬間――。


「……まるパクリしてんじゃねえよ……かな」


「なるほど。知ったかぶりではなく、まるパクリに対して怒りを感じたということね。

 つまりあなたは、友人にトムが好きだということをパクられたと感じたわけね」


「だってそうだろ? あいつは2日前にその話を俺から聞いたばっかりで……!」


 姉ちゃんが笑みを深めたので、俺は姉ちゃんへ会話の主導権を譲った。

 姉ちゃんには、もう答えが見えてるらしい。


「あなたがトム・ハンターのピアノを聴くようになったのは、私の真似から始まったのよ、かわいい弟。

 忘れもしないわ。あなたが6歳のとき、私がトムの no one(誰も) can take(奪えない) を聴いていたときに隣に来て『ねーちゃんそのピアノ好きなん?』って尋ねてきたのよ、覚えてる?

 私が好きよって答えたら『じゃあぼくもそれすきー』って……。

 もう……っ! なんて愛らしいの! 今も()の日のことを鮮明に想い起こせてしまうわ! 愛らしさは罪よ! 私の腕の中に禁固10年の刑を求刑するわ、罪な弟!」


 自分の体を抱きしめながら悶える姉ちゃんに、俺は冷めた声で呼びかけた。


「おーい姉ちゃーん、かえってこーい」


 姉ちゃんは時々暴走する。

 以前、姉のいる友人と話をしたことがあったが、他の家庭にいる姉という存在は、こういう姉ではないらしい。


 うちの姉ちゃん、普通の姉ちゃんではない説。


「ちなみに私がトムの曲を好きになったのは、亡くなった父が好きだったからよ。

 つまり私は父の趣味をパクったし、あなたは私の趣味をパクったことになるの。

 どう? 彼があなたをパクったのは許されないこと?」


「……じゃ……ない、と思う……」


 なんだろう。言いくるめられてしまった感はあるけど。

 俺が気にしすぎなんだろうか。


 ちょうどそのとき姉ちゃんのスマホが鳴った。


「残念だけど時間ね。信嗣(しんじ)と出かけてくるわ」


 信嗣というのは姉ちゃんの彼氏だ。

 姉ちゃんと同じ大学の卒業生で、姉ちゃんは大学院に進学、信嗣さんは社会人1年目、二人は同い年だ。

 俺が知った時点では、つきあって結構経ってる感があった。たぶん入学してすぐにつきあい始めたのかもしれない。


「ん、いってらっしゃい。ごゆっくりー。

 二人でどこかでおいしいの食べてきなよ」


 俺は気を利かせてそう言ったのだが、姉ちゃんはとてもショックを受けたような顔で言い返してきた。


「あなたと一緒に今日の夕食を食べてはいけないって言うの? なんて残酷な弟……!」


「そんなんじゃないって。信嗣さんがかわいそうだろ。

 ちゃんとデートしてきなって。姉ちゃんはいつも早く帰って来すぎ」


「仕方ないわね。あなたがそういうならそうするわ……姉の彼氏思いの優しい弟……」


 姉ちゃんはこれから彼氏とデートのはずなのに、さみしそうに肩を落として出かけていった。


 うちの姉ちゃんは普通の家庭にいる姉ちゃんでもないようだが、普通の彼氏がいる女性とも違うような気がする。


 うちの姉ちゃん、謎すぎる説。


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