mean.13
「あとはそうだな、ちょっと変化球で、ミラーリングを狙ってるとかかな」
「ミラーリング?」
「同調効果ってやつ。鏡のように相手の真似をすることで、相手に親近感を持たせるテクニック。
類似性の法則って言ってね、人は自分と似ている人に好意を持つ傾向があるから」
「そんなあ。姉ちゃんや信嗣さんみたいに心理学専攻ならともかく、あいつにそんな芸当できないっすよ」
「そう? いまはネットで調べれば何でも知識が手に入る時代だよ。ミラーリングって、コツさえつかめば誰でも簡単にできるんだ。
うーんと……あ、そうだ。この店入ってから俺が史佳のミラーリングしたの、気づいた?」
思わずギクッとした。当然俺はいつ何をされたのかなんて、一切自覚していない。
「え? ちょっと待ってくださいよ……!
いつですか? つーか、なんでそんなことするんすか?」
「ちなみに史帆はね、すぐにこう言うんだ。『今のミラーリング、まあまあね』とか。
俺の場合はテクニックとしてやってるんじゃなくて、つい史帆に同調してしまう結果から発生する自然的なミラーリングなんだよって、いつも弁解するのが大変でさ。
そもそもミラーリングっていうのは、親密な関係にあるもの同士が似てくる現象を指すものだから。
ほら、夫婦がだんだん似てくるのとか、恋人同士が……」
専門用語を並べているけど、ただのノロケだということは理解できた。俺は速攻で話をさえぎる。
「信嗣さん! いつミラーリングしてたんですか?
俺、全然気づいてないんすけど!」
「食べ物や飲み物で同じものを選んだりするのも、ミラーリングのひとつだよ。
史佳のドリンクのチョイスが普通にいいなって思って同じのにしたし、サーモン旨そうに食ってるなーって気になって食べたらホントに旨くて止まらなくなったってだけの話なんだけどさ」
信嗣さんに飲むもんや食うもん真似されても全然気にはならないけど。
でも……思い返すと、どんどん思い当たる出来事が出てくる出てくる……。
「……あいつ、そういえば学食でもよく食うもん一緒だ……うわ! こわっ!
え? じゃあ俺、寺西からずーっとミラーリング攻撃されまくってたってことっすか? なのにずーっと気づいてなかったってことっすか?
うわ! きもっ! 信嗣さんっ! 俺どうしてミラーリング攻撃されなきゃいけないんすか? ミラーリング攻撃するやつの心理って何なんすか?」
信嗣さんは笑いながら、俺にメニューのデザートのページを向ける。
「落ち着いて落ち着いて。
うんうん、たしかに信頼関係が十分に構築できていない相手からミラーリングを執拗にされるのは攻撃に等しいよね。史佳の不快な気持ち、すごくわかるよ」
信嗣さんになだめられ、俺は少しだけ落ち着いた。
そしてメニューの中から俺はプチケーキ盛り合わせを選ばせてもらう。飲み物は紅茶にした。
信嗣さんはレモンタルトにコーヒーだ。
なんとなく、俺がミラーリングに拒否反応を起こしたから、わざと違うの注文したのかな? なんてことが頭によぎった。
やっぱ信嗣さんって優しくて気遣いできる大人だ……。
そして俺は重大なことに気づいてしまった。
肉料理の皿が、いつの間にか空になっている――!
姉ちゃんの真似した人の話がショッキングすぎて、メインの肉料理をちゃんと味わうのを忘れてしまった。
話を真剣に聞くあまり、味覚に意識を集中するのを忘れてしまったらしい。
もったいない! 絶対においしかったに決まってるはずなのにっ! なんか柔らかかったかも、くらいしか記憶がないっ!
信嗣さんのアイコンタクトで、オーダーを取りに来た店員さんが手際よく皿を片付けていく。
俺は悲しい気持ちで遠ざかっていく皿たちを見送る。
ごめんよ、お肉……。
いつかバイト代貯めて、もう一度お前たちをおいしく食べに来てやるからな……。




