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 玄関を開けたら二分でトラックが突っ込んでくる。

 そんな理不尽が人生にあるだろうか?


「まじかよ!」


 佐竹慎太郎は寝ぼけ眼を置いてけぼりにして、咄嗟(とっさ)に塀によじ登る。間一髪で四トントラックのタックルを躱したものの、ブロック塀をなぎ倒しながらそのまま電柱に衝突し、トラックは白煙を上げて止まった。


「おい、大丈夫か?」

「ああ、どうも。なんとか」


 タンクトップにハーフパンツといった姿で、おそらくはジョギングの最中なのだろう、スキンヘッドにしたサングラスのおじさんが声を掛けてくる。


「誰か警察と救急車、呼びました?」

「いや、これってあれだろ?」


 そのトラックの荷台部分には『イセダイ』というグロテスクなフォントのカタカナと共にドクロに天使か女神が口づけをしているマークが印刷されていた。


「ほら、先月から異世界転生をこっちの世界の人間に代行させようってのが世界閣議で決まったじゃねえか。あれの許可証だよ」

「え? でも俺んち、異世界召集令状来てませんよ」

「だからさ、令状なんかなくても異世界に飛ばしちまえるように代行業者に許可証与えたんだろ?」


 それは聞いていない。

 ただ令状がなくても異世界転生させられるとなると話が変わってくる。


「あの、おじさんさ、その右腕のところなんだけど」

「ああ、これか?」


 タンクトップに収まりきらない、はちきれそうなほど盛り上がった胸筋とその脇から伸びている上腕の逞しさに彩りを添えている、気になるものがあった。ドクロと女神のあれだ。入れ墨なのかシールなのか分からない。ただ佐竹の脳内アラームは激しく鳴り響いていた。


「悪いな、坊主。どうやらあっちでお前が必要なんだとさ」


 そう言うが早いか、おじさんはその凶悪な腕を振り回し、俺に襲いかかる。


「俺はまだあっちに行きたくねえよ!」


 咄嗟の判断だった。背中を向けるのではなく、俺は少し姿勢を低くし、それからおじさんにタックルした。構えていれば体重五十六キロの突進なんて屁でもないだろうが、まさか反撃されるとは思ってもいなかったのだろう。おじさんはバランスを崩して前のめりに倒れ、そのまま何度か回転して塀へと衝突した。

 ただその程度では堪えないだろう。

 俺は経過を見るまでもなく立ち上がると、鞄を手に駆け出す。

 しかしどこに向かえばいいというのだ。

 もし本当に自分が異世界召喚されることが決定されていたとして、以前は拒否権というものがあった。だが強制的に異世界召喚されるようになったのだとしたら、どうすればいいのだろう。


「警察か? 弁護士か? それとも」


 視界に入ってきたのは古くて前庭も雑草が生え放題になっている教会だ。


「神頼みか」


 佐竹はそう呟き、足を入口へと向けた。


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