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戦う高校生シリーズ

男達、女性の髪型について揉める

作者: 一木 川臣

「ふぁ〜」


 学校について早々俺は大きな欠伸あくびをしてしまった。

 俺こと売木うるぎは男子高校生である為今日も元気よく学校に来ている。こんな朝早くから皆よく登校できるなぁ。ほんとすげえや。俺なんて身体が重たくて朝来るのに大変苦労したのになぁ……


 そんなダルダルな感じで俺は自分の席につき、荷物を下ろしていたところである。突然向こうから坊主頭の男二人が歩いて俺の席まで近づいてきた。


「おい、なんだとこの野郎!」

「やるかこの野郎!」


 何やら朝から口論を繰り広げているようで非常にやかましい。互いににらみ合っており物騒な雰囲気だ。

 ていうか、なんでこいつら俺の席まで来ているんだ!? 


「うっす売木、おはよう」

「よっす売木、おはよう」


 先程まで睨み合っていた男二人が一変し俺に対して挨拶をしてきた。似たような顔と頭と体格を持つ二人に同じような声によって挨拶を受けたため凄く戸惑ってしまったが……



 こ、こいつらは…… 俺のクラスメイトである双子の兄弟だ。


 右側に立っている坊主頭の男の名前は『たけし』。そこらにいるような平凡な高校男児であり、これといって特徴はねえだろうな。

 けれどもっとも厄介なのが左に立つ坊主頭の男の名前も『たけし』なのだ。お互い漢字が違うが読み方が一緒という、親もどんな気持ちでその名にしたのかとても謎な程にややこしい双子の兄弟である。


 俺は面倒なのでこいつらを適当に『たけしA』、『たけしB』と区別して呼んでいるがそれでも未だにどっちがどっちだか分からない程似ている兄弟だ。


「なんだお前ら。朝から似たような顔して俺のところまで来て。おやつが欲しいのかしらねえがお前らにあげるものなんてねえぞ」


 むしろ朝っぱらからこんなややこしい双子の兄弟を相手するということ自体疲れてくるから極力避けたいところである。俺がシッシと追い払う素振りを見せるとW(タブル)たけしが二人して俺の机に手を置いて


「「聞いてくれ売木!!」」


 と威嚇いかくしてきた。なんなんだこいつら……、二人して言うことじゃねえだろ。びっくりするだろーが。


「女の子はやっぱりツインテールだよなあ!」


 腕を組みながら唐突に主張してくるのはたけしA。そんな言葉を聞いたたけしBが「なにおう!?」と眉をひそめてたけしAに対して睨みをきかせる。


「いーや、ツーサイドアップだろ!」


 とこちらを主張するのはたけしB。こいつら…… 何を話し合っているんだ……?


 唖然としてしまう俺をよそに二人は「なんだとこの野郎、そんなわけねーだろ」「やるかこの野郎!?」とまたも口論を始めてしまった。


 どうやら何かで揉めているようである。

 まぁ、揉めるにしても俺の席前でやらんで欲しい。朝から教室内で変な注目を浴びるし何より疲労が貯まる。


「おい、何を言い合っているんだ二人は?」


 俺は事情が一切分からないのでとりあえず二人を落ち着かせて、話を聞いてみることにする。まぁ、口論の種が俺にあっちゃ不味いしな。

 俺の言葉を受けたたけしAが「実はな……」と前置きを据え話し始めた。



 昨日の夜、二人で仲良く深夜アニメを視聴していた時である。そのアニメの中にヒロインとして登場する女子高校生の双子の姉妹がいたそうだ。

 お互いとても顔が似ているが、性格が異なるというよくあるラブコメものの設定で、二人して男の主人公を取り合うといったお決まりな展開が始まったらしく俺の目の前にいる坊主野郎二人もその話にはとても心がときめいたと供述している。

 仲良し姉妹がそれぞれ違ったアプローチをほどこし主人公に迫るといったものはとても身が悶えちゃうほどに『萌え』を得たようで、昨日は興奮して夜も寝られなかったらしい。俺はそのアニメを知らねえけどそうらしい。


 特に顔が似ている双子という点は目の前にいる坊主野郎共にも凄く共感を得たみたいで、二人してこのヒロインを推していこうと誓ったのはいいものの……


 ところがだ。じゃあ、どっちのヒロインを推そうかと二人して話し合っていた時に事は勃発した。


 この双子のヒロイン、片方は黒髪ツインテールで片方が黒髪ツーサイドアップという髪型であった。この点において二人に大きな食い違いが起こり揉めに揉めたそうだ。そして……


「女の子はツインテールに決まっているだろう」

「はぁ? ツーサイドアップだろ、何言ってるんだ?」


 現在に至るとのことである。


 どうにも落とし所がつかなかったW(タブル)たけしはある妙案を思い付いたとのことで…… それが俺に「どっちが良いか」を決めてもらうという事であった。それで俺の元まで来たというワケで……


「なんで俺がお前らの好きな女の髪型を決めんといかんのだ!? 意味がわからん、どうしてその展開で俺の名前が出てくるんだよ!!」


 もうこれを聞いて俺は耐えることが出来なかった。なんで無関係な俺が二人のしょーもない争いにわざわざ首を突っ込まないといけないのか。巻き込まれる俺の気持ちにもなってみろ。それこそ美人な双子姉妹だったらドキドキかも知れねえけど、今日来たのはジャガイモみてえなムサ臭え双子兄弟だぞ。朝から萎えて当然な展開だろ。


「仕方ねえだろ売木。昨日から散々争ってるのにコイツがツインテールが至高ということを認めねえから悪いんだ。文句を言うなら横のコイツに言ってくれ」

「助けてくれよ売木。俺らだって永遠と骨肉の争いしたくないんだ。親の相続までこの件を引っ張って揉めていたら目も当てられねえだろ? だから俺達の戦いに終止符を打つと思って手を貸してくれよ」


 こんな争いが親の相続まで引っ張ることを想定していること自体おかしいだろ。懸念するなら今から遺言書いごんしょ書いてもらえ。


 そんな俺の一言程度で解決するような問題でいちいち争うなと思いたい。大体両方とも髪を二つに分けたような…… 言ってしまえば似たような髪型だろ。黒髪好きまで一致しているのならそのあたりで適当に折り合いつけて仲良くしろや。


 だが、この二人…… 妙に頑固なんだよな。お互いがお互いに譲らないから、昨日の様相もなんとなく察することができる。押しては引いての繰り返しだったんだろうな。


「で、話を整理すると、たけしAがツイン推しでたけしBがツーサイド推しであると。それで昨日の晩からずっと口論を続けていると……」


「「そうだよ」」


 ほんと、しょーもねえことで争ってんなコイツらは。他に悩み事とかねえのかよ。


「売木、女の子はやはりツインテールだよな!? あのツンとした生意気な雰囲気が堪らねえ! ちょっとやりすぎた時に分からせてあげたくなるぜ!」


「くぅ〜」っと、興奮混じりに語るのはツイン推しのたけしA。だが、これを見た横のたけしBはつまらなさそうな顔を浮かべ……


「はあ? 女の子はツーサイドアップ一択だろ。あの幼さを残しながらも大人振ろうとする雰囲気がいいんだよなあ。困った時に守ってあげたくなるぜ!」


 と持論を述べた。それを耳にしたたけしAは「は〜あ?」と声を上げて……またこれによって二人の視線が交差してしまうことに。しかしながら睨み合ううちにお互いのヒートが高まったのか……


「なんだとこの野郎!」

「やるかこの野郎!」


「「うおおおおお!!」」


 ついに取っ組み合いが始まってしまった。こんなんで喧嘩されちゃたまったもんじゃねえだろ。


「おい、俺の席の前で戦うな! 俺の机をぶっ壊す気かよ、やるんなら外でやってくれ!」


「すまねえ売木……」

「悪りい売木……」


 俺が注意するとたけしABはすぐさま手を解き俺に向かって頭を下げる。


「お前ら二人とも坊主頭のクセに髪型で争うなや。似たような顔と髪型しやがってよお、ヒロインの個性で揉めるならまず自分達の個性を身につけてからにしろや」


 W(タブル)たけしは似すぎていて区別がつかねえんだよ。こんな二人がヒロインの髪型程度で揉めるなんて滑稽こっけい極まりねえだろ。


「でもよ、ここにいるツーサイドアップ推しの馬鹿ほど俺は醜い顔はしてねえぞ、売木もそう思うだろ?」

「なんだと!? こんなツイン推しのおたんちんに言われたくねえなあ。売木もそう思うだろ?」


 知らねえよ。二人とも全く同じ顔にしか見えねえよ。声も仕草も一緒で、初めて出会った時はクローンかと思ったぞ。倫理的にマズい過程で産み出されたものかと勘違いしたぞ。


「売木も考えてみろよ。目の前にツインテールの女の子とツーサイドアップの女の子二人がいたら…… お前だってツインテールを選ぶだろ? ツインテールが好きなのは男の本能だから当然だよな」


 この発言を聞いたたけしBがAの胸を軽くどついた。


「いやいやいや、それだったら売木もツーサイドアップの方を選ぶだろ? ツーサイドアップに惹かれるのは男の特性だから当然だよな」


 どっちでもいいよ。大体俺の目の前にいるのは女の子じゃなくて野郎じゃねえかよ。こんな状況でそんな虚無に駆られるような妄想もしたくねえよ。


「はーあ? お前、さっきから言わせておけば!」

「やるかこの野郎!」


「「うおおおお!!」」


 んでもってまた二人が取っ組み合うことに…… なんでこんなに血気盛んなんだよ。


 でもお互い似たような体格をしているから取っ組み合いも拮抗したままで、そのままぐるぐると右左が入れ替わる形となってしまい…… あぁ、そんなことされたらどっちがどっちだか分からなくなるだろ!! せっかくさっきまでツイン推しのAとツーサイド推しのBとで判断がついていたのに……!


「おい、落ち着けたけしAB!!」


「「じゃあ売木はどっちが好きなんだ!?」」


 組み合ったままABが停止し俺に問い詰めてきた。

 やめろやそんな聞き方、絶対変な誤解をされるだろーが!! 


 なんかクラスもざわつき始めてるしなんだこれは、愛の告白かよ。


 しかしなあ…… そんなこと言われても分からねえよ。もうどっちがAでどっちがBかも分からねえし、まず質問内容がしょうもなさすぎて頭を働かせる気にもならねえ。

 マジで俺、どっちでもいいんだけど。


 でもなぁ…… コイツら争い始めたら決着つくまで永遠と繰り返すからなあ…… どうしたものか……




「お、俺は……」


 俺はふとしたことを思いつき、鞄の中から一枚のプロマイドを取り出した。先日『ゐをんシネマ』で公開されていた激甘恋愛映画『相思相愛アイ傘』を観に行った時にもらった特典ブロマイドだ。


 机の上に置くと二人は食い入るような視線で見つめ始めた。

 プロマイドには青空の下で白を基調とするセーラー服を着た女性が立っていた。長い黒髪を後ろで一つに束ねており、とても爽やかなイメージを抱くブロマイドだ。


「俺は、どちらかというとポニーテール推しだな」


「「ポニーテール!?」」


 ABが驚いたような表情を浮かべる。第三勢力『ポニーテール』の登場である。


「そう、やっぱりポニテが一番だろ。活発さを保たせながらも清楚な雰囲気をいだかせるポニーテールこそ至高。たけしABもそうは思わねえか?」


 こんなことを言えばどっちかのたけしが


「うお、この子めっちゃかわいい!」


 と目を輝かせる。もう一人のたけしも


「すっげえタイプなんだけどこの子……」


 とメロメロだ。どっちがツイン推しでどっちがツーサイド推しのたけしか分からなくなってしまったが、このブロマイドはとても気に入ってくれたようで何よりだ。


「やっぱ女の子はポニーテールだろ」


「「そうだな、売木!」」


 二人が一斉に頷いてくれて…… これにていさかい事は解決したようだ。単純だなあと思ったけれどこれにて一件落着、めでたしだろ。


「じゃあ、このブロマイドはたけし達にやるわ」


 どっちかのたけしが「ウヒョー」と猿みたいな奇声を上げ受け取り写真を天に掲げる。恥ずかしいからやめてくれって感じだ。


「うお、いいのか売木ありがとう! 後ろで留めるシュシュがまた趣があっていいんだよなあ」

「ポニーテールでチラッと見えるあでやかなうなじが堪らないぜ!」


 早速意気投合したようである。こんな写真一枚で解決されるなんて平和な野郎共だよな。


「だよなあ、やっぱポニテは華やかなシュシュで括るのが一番だよな」

「は? どうしてそんな柄ついたものを付けるのか意味が分からん。何もないゴム留めで縛るのが一番。シンプルイズベストなんだよなあ」


 ん? なんだかまた空気が怪しくなってきたぞ。

 静かに見つめ合う二人…… かなり眼光は険しいが……


「は? んなワケねえだろ!」

「やるかこの野郎!」


「「うおおおお!!」」



 また戦いが起きてしまった。歴史は繰り返すというものなのか、儚いなあ……



 知るか。もう勝手にやってろ。



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