自分の信じる正義の御旗
防衛大学校を卒業してからは、あっという間であった。幹部候補生過程を終え、現場を転々とする様になってからと言うもの、雅人は何か大切なものがこの日本には、忘れられている様な気がしていた。
仲間の死や諸外国との武力衝突の間で自分の立ち位置が分からなくなっていたとも言える。だが、その答えは直ぐに分かった。ある司令官の言葉がそれを気付かせてくれた。それは鹿屋基地を去る時に江川海将補から言われた言葉であった。
「今、世界は混沌の中にある。世論はそれに流されている。だがな、桐生君。君はそんな情報に惑わされてはいけないよ。どんな時でも大切なものは、この国を守り抜くと言う気持ちだ。無論、自衛官は上官の命令が絶対だ。己の気持ちとは裏腹の行動を取らなければならない事もあるだろう。それでも、自分の中にある絶対的な正義を曲げる必要は無い。自分の正義を曲げる事は、軍人として敗北するも同じ事。道に迷った時は、この言葉を思い出して欲しい。短い間であったがありがとう。」
自分の信じる正義…。そんなものは考えた事も無かった。だが、今ならその言葉の意味が分かる。それは自分の階級が上がったからとかそう言う事では無い。そもそも自衛官は正式な軍人ではなく、公務員である。とは言え、諸外国から見れば明らかな軍人と見なされている。自衛官のジレンマはこれだけではないが、えてして立ち位置が分かりにくくなってしまうのは、自衛隊の存在の曖昧さと不明確なせいでもある。
だが、国家の最後の砦である彼等自衛隊が、そんな不安定な状況であっては困る。江川海将補の言う様に、自分の信じる正義を貫く覚悟がないのだとすれば、自衛官の資質に欠けると言う事である。国家の為に死ぬ覚悟があるのと同じ様に、自分の正義の御旗だけは下ろしてはいけない。
シーマンが空を飛べる様になった世界は、まだ到来してから日が浅い。しかしながら今や日本の海を守る為にはかげろうのシーマンが必要不可欠である。人知れず今日も日本の空からパトロールしている彼等のお陰で、我々は安心して眠れるのである。かげろうのシーマンはいつでも日本人の味方なのである。




