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かげろうのシーマン  作者: 佐久間五十六


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58/100

ターニングポイント

 独身男のアパート暮らしが華はあるはずもなく、2ヶ月ぶりの麦酒を味わいながら、ニュースを見ていた。専らのニュースは、朝鮮事変とそれに関するものであった。

 流石の軍事音痴の日本人でも、多数の自衛隊部隊が出動しているとなると、無視は出来なかった。しかしながら、ニュースの内容は全て雅人の知る範囲のもので、日本のマスメディアのレベルの低さにショックを受けた。情報統制を日本政府はかけておらず、各マスメディアがそれぞれ自主規制をかけている状況であった。

 日本国民の関心の低さにもショックを受けた。寧ろ、雅人にとってはそっちの方がショックだった。その存在を否定するものではないが、くだらない番組やスポーツ番組に興じる、その裏で国防に就く自衛隊の隊員達がいる。国民にとっては、対岸の火事なのかもしれない。命をかけて守るに値しない国だと、雅人は怒った。

 その怒りは他の自衛官達にも共有されていた。

雅人は麦酒の空き缶を握り潰し、放り投げた。嗚呼、俺達自衛官はこの空き缶と同じで使い捨ての駒に過ぎないのだ。血の通った人間なのに…。

 だが、自衛官達は怒りを戦闘力に置換し、報われない戦いに身を投じていた。ただ、そんなに悲しい戦いを自衛官は強要されなければならないのか?と思うと、雅人は悔しくて涙が出て来る。とは言え、そんな事は、戦う前から分かっている事ではあった。結局日本人にとっては戦争とは、TVやパソコンの先にあるものであり、他人事なのである。被害がなければ我関せず。なのである。

 戦争には首を突っ込まない。それが自分の利益に繋がる事を知っている。だが、それは間違った安全保障観である。こればかりは、雅人の様な中堅幹部には、どうしようも出来ない事であった。ただ、自衛官が空き缶の様にポイ捨てされる存在ではあってはならないと、雅人は思っていた。

 しかし、この体験が後の雅人の活躍の原点となって行く事になる。ターニングポイントとも言えるだろう。しかしながら、雅人自身はまだその事に全く気付いていなかった。

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