後ろ盾
「青森の冬はとても寒いですね。沖縄とは全然違いますね。」
「自己紹介が遅れたな。第506飛行隊長木暮春雄三佐だ、よろしく。」
「第511飛行隊長桐生雅人三佐です。よろしくお願いします。」
「年齢は違うが同じ階級なんだ。もっとフランクに話してもらっても構わないよ。」
「しかし、年齢が違い過ぎます。いくら同じ階級とは言え、先任は木暮三佐です。それは出来かねます。」
「防衛大学校卒業のエリートはそんな所までしっかりと教育されてるんだな(笑)。」
「自分は防衛大学校卒業者ではありません。」
「その若さで三佐なのに防衛大学校卒業者ではないのか?」
「航空学生から、幹部候補生学校を卒業しました。」
「そうか。とても優秀なんだな。」
「木暮三佐は、もうすぐ定年退職ですか?」
「ああ、このままの階級ならあと2年で定年退職だ。長かった様であっという間だったな。」
「退職したらどうするんですか?」
「まだ考えていない。でもやりたい事はある。」
「やりたい事?」
「ボーイスカウトとか青少年教育には関心がある。」
「次の世代の道しるべになるんですね?凄いなぁ。」
「そんな大層な夢じゃねぇーよ。お前の様な若い出世頭が出てきたって事は、海上自衛隊も世代交代だな。」
「この制度では、どんどん若い士官が生まれますからね。」
「俺は若いうちから責任の重い事をさせるのには反対なんだ。」
「確かにこんなトントン拍子で昇進しているのは嬉しいですが、責任の重さを痛感しています。」
「だろ?少なくとも10年位は尉官で修業させてから佐官・将官にすべきだって昔から言っているんだけどな。まぁ、海幕も寝耳に水さ。」
「かなり具体的な昇進モデルですね。横並び作戦ですね。」
「能力がある奴はどんな制度でも上がって行くよ。」
「ノンキャリとキャリア組では昇進全然違いますもんね。」
「俺はノンキャリの航空学生でも今の地位にこれたぞ?桐生みたいに爆上がりはしてねーけどな。まぁ、航空学生もキャリア組みてーなもんだよ。」
「航空自衛隊の航空学生がエリート過ぎて、海上自衛隊の航空学生が二番手みたいになってるからですかね?」
「海上自衛隊の航空学生は、未来の海上自衛隊航空部隊の柱となる重要な要員である事に違いはない。」
「ちなみに、こないだの沖縄での中国戦でも、航空学生出身のヘリパイに引っ張られて、やっと攻略出来たんですから。」
「確かに実戦となると防衛大学校卒業者よりも航空学生の方が1枚上手かもな。」
「まぁ、大切なのはノンキャリ・キャリア組を超えた人事が出来るかだな。」
「そこなんだよ。闇雲に知識を詰め込むだけじゃあ駄目なんだよ。」
「話の分かるキャリア組なんてホンの僅かっすよ。」
「桐生も将官狙いならこんな、かげろうのシーマンなんて早く卒業して、自衛艦隊司令官にでもなるか、海上幕僚長くらいになるこったな。」
「持ち上げすぎっすよ。僕が自衛艦隊司令官?」
「ははは。そうだな。こんな大器が八戸にいるかよ。」
「とりあえずよろしくお願いいたします。」
「嗚呼、よろしくな若頭。気に入った。お前は俺が面倒見てやる。」
新米三佐である雅人にとってありがたい後ろ盾が出来た様である。




