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かげろうのシーマン  作者: 佐久間五十六


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交えなくて済むのなら

 雅人が本土に来た理由は、防衛省(市ヶ谷)での尖閣諸島沖事変(仮称)の状況報告をする為、であった。

 約1時間位であっただろうか。尖閣諸島周辺の戦況を根掘り葉掘り聞かれた。ゆっくりしている時間が無いとは言え、予定よりも早く終わった為、横尾三佐に3時間を貰った為、珍しくも何ともない東京観光をする事にした。数日前に日本領海の端っこで、中国の船舶を沈めていた事が嘘の様に感じられた。

 生きるか死ぬかの戦闘ではなかったが、自分の機体から投下された対艦爆弾が中国海監所属の船員の命を奪った事は確かである。もしかしたら、中国海軍が相手であれば、自分はここにはいなかったかも知れない。そう考えると少し背筋が凍った。自衛隊における対外作戦に従事出来た事で、喜びすら感じていた雅人だが、本土では想像通り盛り上がってはいなかった。

 いつもと変わらぬ風景がそこには広がっていた。スーツ姿のサラリーマンや学生や主婦がいたり、どこに行くとも知らぬ民間人(シビリアン)の人達の流れがそこにはあったのである。雅人は、何気ない日常を感じる事で、生きている実感を取り戻した。自分にとって大切な事は何か東京の地で彼は思い出したのである。時間に余裕を持たせてくれた横尾三佐(機長)に感謝した。

 自衛隊も、人員が充分にいると言う訳ではない。それは、尖閣諸島沖事変(仮称)が始まる前も、ほとぼりが冷めてからも同じではあったが、上官の何も言わない不器用さが、雅人には嬉しかった。強行軍ではあったものの、横尾機長の代理で行った防衛省(うえ)での戦況説明は終わった。無論、呼ばれたのは雅人の機体だけではなく、作戦に従事した全ての機体や艦の幹部自衛官が防衛省(市ヶ谷)に呼ばれていた。

 防衛省としても、書類を作成して、その後の対応を決めなくてはならない為、当然の措置と言えば、そうなのかもしれない。部隊が通常の体制に戻ったのは、尖閣諸島沖事変(仮称)から半月後の事であった。その頃には、南西諸島も静けさを取り戻していた。

 日中全面戦争に発展すると危惧していた雅人にとっては、少し予想外の展開ではあったが、戦火を交えなくて済むのなら、それに越した事はないだろう。日本側は軽微な物的被害の補償と金銭を支払う羽目になったが、死者38人と複数の行方不明者及び沈没した複数の中国海監の船舶と言う被害の大きさを考えれば、軽微な代償金であったと言える。日本と中国にとって、ここで戦火を交えなかった事が、良かったのは間違い無いが、日本の望む形に持っていけたのは、確かであった。

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