出撃前夜
全体でのミーティングの後は、先発予定の部隊が集められて、詳しいブリーフィングが行われた。しかし決行日は明日であると言うのに、隊員達に緊張感はまるでなかった。それほど、突然の事であり、その為に緊張感を欠いていたという事だろう。全てのブリーフィングが終わる頃には辺りも暗くなっていた。それもそのはず、時刻は午後7時30分であった。
「おい、桐生?この後時間あるか?」
それは余りにも突然の誘いだった。
「特に何もありませんけど…。どうかしました?」
雅人は上司の突然の誘いに戸惑う。
「ちょっと付き合え。」
「はぁ…。はい。」
そういやぁ、横尾三佐とサシで飲むのは初めてだ。
「どうしたんすか?急に。」
「お前とサシで飲むのは初めてだよな?」
「はい。」
「しかし、制服組も強引だよな。」
「はい。総理も防衛大臣も了解するなんて、正気の沙汰とは思えません」
「俺にはこの作戦は中国を刺激するだけだと思う。」
「まぁ、自分達は言われた様にやるだけ。ですね?。」
「ああ、その通りだ。」
「軍人の悲しき宿命ですね。」
「難しい事はよく分からんが、雑念は横においておけ。」
「明日死ぬかもしれないのにですか?」
「死なない様に全力を尽くせ。」
「オライオン(P-3C)で出来る事なんてたかが知れてますよ?」
「先に攻撃を仕掛けたとしても、専守防衛の理念に変わりはない。領海に侵入している時点で、攻撃対象だ。」
「何故こんな作戦を上は…ってさっきも言いましたね。」
「桐生、何度も言うようだが雑念は捨てろ!」
「まだ自分は青二才なんですよ。」
「そうかも知れないな。でも大事だぜ、そう言うの。」
「えっ?」
「そう言う純粋な気持ち大切だよ、」
「海上自衛官なのに、船に乗らないなんておかしいと思わないか?」
「現状の海上自衛隊は航空海軍だと、航空学生時代に学びました。」
「まぁ、飲め。」
「横尾三佐もどうぞ。」
「おお、サンキュ。」
「明日のミッション、成功すると良いですね。」
「武運を祈る。」
雅人は、普段見る事の出来ない横尾三佐の一面を見れたような気がした。こうして、出撃前夜はふけて行った。自衛隊史上初の海外勢力への武力攻撃の火蓋が切られようとしていた。




